一葉です。(。-人-。) 後編お届けいたします。
ちなみに前編より長くなっております。ご了承ください。
お愉しみ頂けたら嬉しいです。
前のお話はこちら↓
その男、策士につき【1 ・2 ・3 ・4】
その男、策士につき・その後のふたり
■ その二人、相愛につき ◇後編 ■
確かに違和を感じていたかもしれない。
「 ……っ…………イッ…… 」
「 ……? 」
いつからだったか定かではないけれど
本当に小さく喉をつまらせ
この行為の最中に、彼女が歯を食いしばっている時があるような気がしていた。
「 最上さん、大丈夫? 」
「 ……っ……どうして?平気よ……大丈夫 」
でもあの子はいつも俺を見上げて大丈夫って笑うから
不穏の種をねじ伏せようとするように
吹き飛ばそうとするように、俺は懸命に彼女を抱いていたと思う。
いつ引っ越せる?って聞くたびに、彼女は困ったように眉をしかめる。
ごめんね、いまは仕事が忙しいからって、そう言われてしまえば俺としてはそれを受け入れざるを得ない。
もしかしたら後悔しているのかな。
俺の知らない間にこの子が誰かにいじめられたりしたら嫌だから、俺を自慢してくれなくなったことは許してあげるよってこのまえ言ったけど、本当は俺への気持ちが冷めて来たんじゃないのかって少し不安になっていた。
聞けば良かったのに。
だけど聞くのが怖かった。
別れたいって言われたら嫌だから。
俺から離れていったら嫌だから。
この翌日、外営業を終えて戻った社内がなんとなく朝と違う雰囲気な気がした。
どこが…という訳ではないけれど、どこか落ち着かない感じがある。
なんだろう?
そう思いながら受付に視線を投げると、光…という名前だったかあの子の先輩が同じ部署の女性と二人でそこに立っていて、今日の最上さんは事務勤なのかなって考えながらエレベーターに乗り込み、足早に営業部に戻った俺の肩を社さんが叩いた。
「 蓮、お帰り。大変だったな 」
「 朝一番で呼び出されちゃいましたからね。でもその甲斐あって社さんが用意して下さったこの資料、判り易くてすごくいいって褒められましたよ 」
「 そりゃよかった。それより蓮。ちこう寄れ 」
「 は? 」
「 いいから耳を貸せって言ってんだよ! 」
これでもかと耳たぶを握られギューッと引っ張られた俺は、何なんだと思いながら暢気に腰をかがめたのだが。
社さんから囁かれたそれに俺は眉をひそめた。
「 午前中の、かなり早い時間に総務部の誰かが救急車で運ばれたぞ 」
「 は? 」
「 決算期ってこともあって最近クソが付くほど総務部は忙しかったらしいからな。誰かがぶっ倒れたんじゃないかって話だけど、誰が運ばれたのかの情報は流れてない 」
「 ……っ!!!確認してきます! 」
「 行ってら 」
倒れた?誰が。
もしかしたら最上さんが?
エレベーターを待たずに階段を駆け上がる。
だがワンフロア上のそこは、総務部以外の人間は立入禁止となっていた。
「 立入禁止って… 」
用事がある人はベルを押して下さいとあったけど、人を呼び出した所で誰が倒れたのかは教えてもらえず。最上さんをお願いしますと言っても今は忙しいのでと断られた。
念のためにあの子の携帯に電話をしてもLINEを入れても全く反応がなく嫌な予感が拡がる。
俺は嵐のようなスピードで一階受付に駆け込んで、半ば強引に彼女の先輩を引っ張った。
「 ちょっ……ちょおっと!どこに連れて行くつもりだよ! 」
「 屋上より外の方が早いかと思って… 」
「 いいけど!なに?なんか用?! 」
その言い方と、俺に向かって腕組みした姿勢がもう、自分は喋る気は無いからなって態度だった。
だから絶対この人は何か知ってるなって思った。
「 いえ、いつも俺の彼女がお世話になっているようなので改めてご挨拶しようかなと思って 」
「 は?今さらか。横からかっさらって行ったくせに! 」
「 俺が言ったのはそっちじゃなくて今日のことです。彼女がご迷惑をかけたんでしょう? 」
「 …っ?! 」
あの子の部署の先輩が俺の言葉にちゃんと反応したのをもちろん俺は見逃さなかった。
「 なに……。なんのこと? 」
「 とぼけなくてもいいですよ。さっき最上さんから連絡があって、取り敢えずお礼を言っておいて欲しいってことだったので 」
「 お礼を?本当に?! 」
「 ええ。仕事が忙しい時なのに本当にすみませんでしたって… 」
「 なっ…!気にしなくていいってあれほど言ったのに。それに、なんでだよ。入院になっちゃったことはコイツにも絶対内緒にしてくれって言ったのはキョーコちゃんなのに! 」
「 ……っ!? 」
――――――― 入院!?
「 ちょっと!それ、どこの病院?! 」
「 は?知ってるんじゃないのか?って、まさか、カマかけたのか?! 」
「 そんなことはどうでもいいから早く教えろ!! 」
「 あ~~~っ!!なんだよ、くっそ!! 」
その後はもちろんドタバタで
速攻で仕事を片付け気もそぞろなまま病院へ向かった。
急いだつもりでいたけど時刻は17時を回ってしまった。
俺より先に別の男が知っていたことは悔しくはあったけど、仕事中の出来事ならそれは仕方ないこと。
それより今はあの子の元に駆けつける方が先決だった。
聞いた通り大部屋のそこには彼女の名前がかかっていて、中から最上さんの声が聞こえて来た瞬間、俺は転がり込むように病室へ駆け込んだ。
「 最上さん!! 」
「 にゃあっっっ?!……敦賀さん?どうしてここに… 」
「 あら、この人が噂の敦賀さん?いやだ、本当にイイ男だよ~ 」
「 本当だ!午前中にいた光ちゃんとはまた全然違うタイプじゃないか。男前ね~ 」
俺の予想を覆し病室内は何やらホンワカした雰囲気で
多少面喰いながらも窓際のベッドの上で座った姿勢の最上さんに近づいた。
「 最上さん。なんで?どうして俺に何も言わない? 」
「 だっ……だって敦賀さん、また大きな案件が始まったって言っていたし…。それに、心配も迷惑もかけたくなくて… 」
「 なんでだよ!君は俺のことをちっとも判ってない!
他の男から君が入院したことを聞かされる俺の身にもなってくれ! 」
「 ……ごめんなさい 」
「 具合は?どのぐらい入院するの? 」
「 もう何とも…。取り敢えず今日、検査をしたんですけど、念のため明日まで入院ってことになって… 」
「 じゃあ明後日が退院だね?そのときは俺が来る。そのままこっちに越してくればいい。もう待たない 」
「 え?いえ、でも私、荷物とかまだ全然…… 」
「 俺がやる。場合によっては社さんに声をかけてお願いするかもだけど 」
「 いえ、そんなご迷惑をかける訳には… 」
「 どうしてご迷惑?俺に甘えればいいだろう。君のことを他の男に任せなきゃならない状況の方が俺にとってはよっぽど迷惑だよ。
俺が最上さんの全てを背負えない男だとでも君は思っているのか 」
「 違う!そんなこと…ない。ただ私は…… 」
「 まあまあ、そんな熱くならないで。怒んないであげなさいよ。そりゃ、怒る気持ちも分かるけどさ 」
「 んだよね~。ヤキモチだよ、キョーコちゃん。愛されているね 」
「 すみません、病室なのについ…。皆さんもいるのに声を張り上げて… 」
「 やぁだ、振り返ってもいい男だよ。キョーコちゃんが自慢する訳だね。話通りの美男子だよ 」
「 ……え? 」
「 敦賀さんはカッコいい人なんです…って、さっきからずっと自慢されちゃっててさ~ 」
「 しかも営業としても凄腕なんだって?将来有望じゃないか 」
「 そんなイイ男ならご尊顔拝みたいよね~って話していた所だったんだよ 」
「 そうそう。いいタイミングで現れたよ、あんた 」
「 ねぇ、キョーコちゃん。間違いなくアンタの彼、イイ男だよ! 」
「 えへへ。そうでしょう?あ……あはは…… 」
照れくさそうに頭を掻く彼女を見て、何となく毒気が抜かれた。
「 最上さん……俺の話をしていたの? 」
「 …うっと、あの…だって、会社では……自慢出来ないので……。ここならいいかなって思って。聞きたいって皆さんも言って下さったし、だから… 」
しどろもどろに言い訳する最上さんを見下ろしながら、俺の口元はだいぶフヨフヨと泳いでいた。
自慢したいって…?本当は思ってくれていたんだ?
それを知れただけでもう…だいぶ嬉しいかも。
「 ふっ…。自慢、してくれたんだ。俺のこと 」
単純だよな、俺は。
でも!!
「 けどそれとこれとは別! 」
「 はい!心配かけてごめんなさい!! 」
「 許さない。もう二度とこんな事がないように表札は敦賀だけにする。いいね?! 」
「 え? 」
「 だから、今後はもう最上キョーコだと名乗らせないって言ってるんだ。何かあったら一番に俺のところに連絡が来るようにしておかないと不安でしょうがない。あらゆる意味で 」
「 え……えっと、それ……は……?? 」
「 キョーコちゃん!!呆けてる場合じゃないよ! 」
「 そうだよ!彼氏からプロポーズされてんだよ!返事!ほら、返事!! 」
「 敦賀さんだっけ?いいね、カッコいいね。ほら、キョーコちゃん。おばさん達、見守っているから返事!! 」
「「「 ほらぁ、キョーコちゃん!! 」」」
「 最上さん 」
「 はいっ 」
「 敦賀キョーコになってくれる? 」
「 う……う……あの……はいっ!!どうぞよろしくお願いします!!こんな私でいいなら喜んで 」
「 いいに決まってるよ。君のことを最初に心配するのは俺で、君のことを一番に知っていなきゃいけないのも俺だよ。俺以外の誰にもそれをさせる気はないから、俺は 」
人目をはばかることなくベッドの上の彼女を自分へと抱き寄せると、俺の肩にコツンと額を寄せた最上さんが小さな声で、嬉しいです…と言ったのが聞こえた。
嬉しいのは俺の方だ。
ごめんね、少しでも君の気持ちを疑ったりして。
退院の日、約束通り最上さんは俺と同じ家へ帰ってくれた。
E N D
籍、速攻入れたんだろうな…とか脇道妄想(笑)
■ 重要なおまけ ■
最上さんに何かあった時の為にと病院には俺の連絡先を知らせておいた。
だからだろう。最上さんが退院する時間より少し前に来るように…と俺は病院から呼び出しを受けていた。
通されたのは小さな部屋で、恐らく医師と患者、もしくは患者の家族などと話すための部屋だろう。
軽く挨拶を交わすとその男性医師は柔らかく口を開いた。
「 ちなみにですが、今回どうして最上さんが入院することになったのかをあなたはご存知ですか? 」
医師からそう問いかけられ、そう言えば病名を聞いていなかった事を俺は初めて認識。
「 彼女が無事だったことが判って安堵してしまってそれを聞くのを忘れていました。あの、なんだったんでしょう? 」
「 うん… 」
うん、と言って俺からテーブルに視線を落とした医師の顔はどこか笑っている風に見える。その意味不明な態度に俺は眉をしかめたのだが……。
「 今回、最上さんは強烈な腹痛を訴えたんですよ。で、検査の結果、膣に裂傷が見られました 」
「 え? 」
「 つまり、ヤリ過ぎってことです 」
「 は? 」
「 たとえばいくら目玉がゴロゴロ動くって言ったって、目玉の代わりに指で瞼の裏をこすったら痛いだろうなって想像はつくでしょう?
内性器というのは受け入れない限りは一切触れない部位ですから、いくらそういう機能だって言ってもやはり過剰な摩擦を与え過ぎれば苦痛を覚えることもある。これは濡れてる、濡れていないにかかわらず…ですよ。ちなみに今は痛み止めで抑えていますからね。
病室であなたが最上さんにプロポーズをしたって噂が飛び交っていますがね、そこまで彼女を愛しているのなら、ただ求めるだけじゃなくて、どうかより一層彼女の体調に気を配ってあげてください 」
「 ……っっっ!!!……わか…り、ました…… 」
正直に言う。
今まで生きて来た人生の中で、この時が一番恥ずかしかった!!
まさか俺が原因だったなんて思ってもいなかった。
俺が彼女を愛し過ぎたがゆえに彼女に傷を負わせていたなんて想像すらしていなかった。
「 生体的に女性の体内…膣内は乳酸桿菌で酸性に保たれているので通常は病原菌が繁殖出来ないようになっています。けれど体調がすぐれないときはその限りではありません。
女性に触れる時は出来るだけ清潔にして。それから男性の爪が長いまま膣内で暴れたりするとそれで膣壁に傷がつく場合もあります。今回、そういうのは見受けられませんでした…が、いい機会だと考えて、今後はどうか細心の注意を払って愛してあげてくださいね 」
「 はい、必ずそうします…… 」
恥ずかしかったけれど、でも今までのように何も知らないまま過ごすより遙かにマシだと思った。
謝らなきゃ。最上さんに。
我慢して俺を受けて入れてくれていたに違いないのに。
なのに俺はその異変に気付いておきながら、その微かな違いをもしかしたら、俺を受け入れるのが嫌になって来たんじゃないか…なんて疑いを持っていたのだから。
俺が部屋を出る前に退院おめでとうございますと言ってくれた医師に向けて、俺は深く、深く頭を下げた。
~END~
※どうでもいいかも知れない知識⇒AV女優さんなど、受け入れ過ぎで膣に裂傷が出来る事があるらしいです。
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