一葉です。(。-人-。)
現代パラレル蓮キョのおまけ話、お届けいたします。
ちょっと長いですがお楽しみ頂けたら幸いです ☆
本編はこちら⇒その男、策士につき【1 ・2 ・3 ・4 】
その男、策士につき・おまけ
■ その男、相棒につき ■
11月の中旬頃だった。
妙に真剣な顔つきで蓮が俺の肩を叩いたのは。
「 社さん 」
「 …ん? 」
「 相談があるんです。いま時間取れませんか? 」
このひと月ほど前から蓮は億を超えた仕事にかかり切り。
大口契約は初めてではなかったはずだが、そもそも過去の事例をそっくりなぞる物件など一つとして存在しない。
入社6年を迎えたとはいえ大口案件を前に悩みの一つが出来たとしても決しておかしくないだろう。
いつにも増して引き締まった表情の蓮を席から見上げて俺はそれを察した。
「 いま? 別に平気だけど 」
「 良かった。実はさっき要談室を確保した所で…。いいですか? 」
「 いいぞ。特に急ぎの資料作成も無いしな 」
「 じゃあ、お手数ですがお願いします 」
促されるまま席を立ち、白板に行き先を明記して俺たちは要談室へ向かった。
ここは完全防音で、誰にも話を聞かれること無く打ち合わせができる。
蓮がドアを開いた所で扉横に設置されていた使用時間が目に入り、俺はいささかギョッとした。
いつもなら30分も使わないのに2時間も確保されている。
初めて見たその使用時間に一体どんな問題が起きたのか…と、俺は気を引き締めながら蓮の対面に腰を下ろした。
「 それで?どうしたんだ、蓮 」
「 社さん。いつも俺が言う以上のプレゼン資料を完璧に作成して下さる社さんにお願いがあるんです 」
「 なんだ、ずいぶん改まってるな。どうしたんだよ 」
「 もう俺、後がないんです。どうかお願いします… 」
「 だからどうした 」
テーブルの上できつく握られたコイツの手。緊張しているのか眉間に皺が寄っている。
こんな蓮は初めてだった。
意を決したのだろう、一呼吸おいて飛び出した蓮からのお願いは、完全に俺の意表を突きまくっていた。
「 実は俺、今年の営業部の忘年会、総務部と合同になるようにしたいんです! 」
「 ……は?なんで? 」
「 もう、余裕ぶっこいている場合じゃないからです 」
そこで押し黙った蓮を見てもちろん俺はピンと来た。
つい先日こんなことがあったのだ。
営業部の後輩が受付の子に告白してどうやら玉砕したらしい。
肩を落としたそいつを見て誰かが理由を聞いたのだろう。
最上キョーコちゃんにフられたんです…と聞こえた途端、俺との会話を止めた蓮の目が大きく見開き、同時に視線がそっちに動いた。
総務部と関係があるなら十中八九間違いない。
「 ……じゃ、総務の誰かに言えば?一緒にやろうって 」
「 ダメですよそんなの!理由を聞かれたら嫌ですし、誰かに邪魔されたくもありません! 」
なるほど。
「 けど蓮。たとえば店や日取りをリサーチして同じ店に予約出来たとしてもだな、ほぼ接触のない営業部と総務部じゃ合流できるはずもないだろう。それに関して何か具体的な策でもあるのか? 」
「 社さん、知らないんですか?営業部の松島主任と総務部の椹主任は同期なんですよ 」
「 同期?それは知らなかったな… 」
「 二人が顔を合わせれば必ず合同にしようって言うと思うんです。あの二人、仲いいらしいですから 」
「 ほー。それで?営業部と総務部じゃ所属社員数がまるで違うがそれはどうする? 」
「 ……俺、考えたんですけど、お店の人に協力してもらえばいいと思うんですよね 」
「 はぁ?何をどう言ってだよ。気になる子がいるので是非協力して下さいとでもお願いするのか? 」
「 ……っ?! 」
「 バレバレなんだよ、お前。最上キョーコちゃんのことが好きなんだろう?この前すごく焦っていたしな。
あのフられ話以降、営業部でもやたらと噂に上がっているし 」
「 ……です。だから俺、正直焦っていて… 」
「 お?認めた!?
なに?それで具体的にはどうしたいんだ?どうやって協力を仰ぐつもりだ? 」
この時もし蓮がうやむやな返事をしていたら、きっと俺はコイツに協力なんてしなかっただろうと思う。
けれど蓮は素直にそれを認めた。それを見て俺はなんて面白い奴だと思った。
だいたい、コイツと打ち合わせをする時の使用時間はいつも30分程度なのだ。いま俺がアシストしている億の案件でもそれは変わらなかった。
なのに、その4倍の時間をこいつは用意したのだ。
つまり億の案件より彼女を捕まえるための相談の方が蓮にとっては重要だという事だろう。
こんな恋愛百戦錬磨な顔をしている癖に、そのギャップがまた面白いと思った。
「 …社さん。万人が必ず人の恋路を応援するとは限らないじゃないですか。…で、俺、松島主任と椹主任を引き合いに出せばイケるかと考えたんですけど… 」
「 あの二人を?どうやって 」
「 偶然を装って忘年会をぶつけて、それを機に仲違いしている二人の上司を仲直りさせたい…と営業部で意見が一致して、だから二つの課の席を隣り合わせにしていただけるととても助かるのですけど…と、お願いすれば案外通るかと… 」
「 ぷっ!! 」
なんだ、それ、巧いな!!
確かに人の恋路なんて知ったこっちゃねぇ…って思う奴はいるだろうけど、会社の人間関係を円滑にしたくて画策する部下…の話なんて聞いたら誰もが協力してやろうかって思うかもしれない。
「 どうでしょうか? 」
「 ……っ……っ!! 蓮、お前、面白いな。よし、協力してやる!! 」
「 本当ですか?ありがとうございます!恩に着ます!! 」
「 いや、恩には着てくれなくていい。これでも俺、お前には感謝しているから。喜んで胸と知恵を貸してやるよ 」
株式会社LMEの営業部には、営業メインで動くやつと資料等を揃えるアシスタントと二つの役職が存在している。
新人営業を指導するのはアシスタントが担う仕事で
6年前、入社して来た蓮を担当したのは俺だった。
大抵の企業では、営業につくアシスタントは専属という形をとっていると思うのだが、LMEの営業形態は少々異なる。
アシスタントは特定の営業社員と組む方式ではなく、各営業が複数いるアシスタントから一人を選び、依頼する…という形を取っているのだ。
もともとアシスタントの給料は、営業が取って来た契約の何割かが歩合という形でアシスト側にも入る仕組みで、その場合、誰もが契約を取って来る営業と組みたいと考える。
その不公平感をなくすための措置だったらしいのだが、これは逆のことも言えると俺は思う。
たとえば、アシスタントの資料作成がイマイチで、なかなか契約をモノにできない営業の立場で物を考えればやはり有能なアシスタントを下に置きたいと思うのが道理だろう。
営業から依頼される仕事が増えるということは、アシスタント側からすれば収入アップの可能性が高まるということだ。ならば当然、各個人は営業に選ばれたいがための工夫や努力をし続けるし、また営業もアシスタントからそっぽを向かれないよう、努力と能力が求められる。
つまり現状のLMEのシステムは、会社としても非常に効率が良いということになる。
だが正直なことを言えば、蓮が入社する前の俺はダメなアシスタントの部類だった。
俺が作る資料はマニアックで複雑過ぎると評されることが多く、これを活かしてくれる営業など存在していなかったのだ。
なのに蓮が入社して以降、俺の収入は一気に伸びた。
失いかけていた仕事に対するやりがいを、俺は蓮のおかげで再び見出すことが出来たのだ。
その感謝の気持ちを言葉にしたことは今まで一度も無かったが、それが俺の本心だった。
「 じゃあ今年の幹事、俺がやろう。ちなみに蓮、いい店知ってたりするか? 」
「 実はいくつかピックアップ済みです 」
「 よし。そこ全部教えろ。検討する必要があるし、総務部を誘導するのに多少の情報操作と時間が必要だからな 」
「 はい。まず…… 」
以降、俺たちはこの件について何度も打ち合わせを重ねていた。
しかしすでに焦りを見せていた蓮は日が経つにつれて我慢が利かなくなったらしい。
合同忘年会に向けての手筈が全て整い、あとは当日を待つばかりだった3日前の昼休み。蓮は屋上に足を運んだらしいが、それが空振りに終わったとずいぶん意気消沈して戻って来て、その姿を見たときはまるで出来の悪い弟を見ている気分になった。
もう失敗は出来ないと意気込んだ蓮が空振らないよう、最終的な確認をしておこうと考えたのは俺だった。
「 蓮。仮にうまく彼女と隣り合わせになったとして、具体的にはどうするつもりでいるんだ? 」
「 一番理想なのは酔ってツブれてくれることなんですけど… 」
「 それ!もし彼女が飲めない子だったら? 」
「 いえ、程度はともかく飲めるはずです。最上さんと同じ部署の人がそういう話をしていたのを聞いた事があります 」
この、蓮が言った、彼女と同じ部署の人…というのが石橋光という人物であったことを俺は合同忘年会当日に知ることとなる。
「 なるほど。じゃ、ザルだったら? 」
「 その場合は時間を気にせず飲まないかって言って俺の家に誘うつもりです 」
「 はぁ? 初めて会った男の家に女の子が一人、のこのこ付いていくと思うのか? 」
「 …じゃあ、別の場所で飲もうって言って、終電過ぎまでそこで過ごして俺の家に泊めるとか? 」
「 ん。まぁ、悪い手じゃないと思うけど、でもタクシーで帰るって言われる可能性もあるぞ? 」
「 社さん。金曜の夜ですよ?まずその心配は要らないかと 」
「 それもそうか。じゃ、二次会に参加するって言ったら? 」
「 俺も二次会に参加して、あとは同じです。ツブれたら俺が送って行くって言いますし、ツブれなかったら飲みに誘ってみます 」
「 了解した。…で、もし邪魔が入ったら? 」
「 それは社さんが協力してくれると信じてますので一切心配していません 」
「 ふっ。都合のいいことを…。じゃあ、アレだな。忘年会でツブれてくれるのが一番理想的な流れってことだな 」
「 そうですね。二次会の途中で腰を上げるのも難しいでしょうし… 」
忘年会当日。
蓮の思惑通り、偶然隣り合わせになった営業部と総務部は合同忘年会となり、また蓮が一番理想とした現実が訪れてくれたことは素直に良かったと思う。
そして翌営業日。
出社して来た蓮の顔を一目見て、俺は、俺達が画策した努力がすべて報われたことを一瞬で理解した。
「 おはようございます、社さん!!聞いて下さい! 」
「 おはよ、蓮。いや、何も言わなくても判る。まぁ、今日の昼飯ぐらいは奢ってくれ 」
「 もちろんです!本当にありがとうございました 」
「 ふ…。良かったな、本当に。可愛い彼女をゲット出来て 」
「 はいっ!!!社さんのおかげです! 」
輝かしいほど眩しい笑み。
過去、どれほど大型の契約を取って来ても見ることのなかった笑顔がここにある。
あまりにおかしすぎて俺が吹き出しそうになったとき、松島主任から声がかかった。
「 社。それと敦賀 」
「「 はい?? 」」
「 二人揃ってこっちに来い! 」
「「 はい 」」
なにごとかと俺は思ったのだが、蓮は予想がついていたらしい。
俺の肩をポンと叩いた蓮は、感謝の気持ちなんで…と呟いた。
「 敦賀。この前お前が取って来たこの億の契約。提出された書類にある歩合報酬数値が営業とアシスタントで逆転している気がするんだが…。これは間違いか? 」
「 間違いではありません。その契約が取れたのは社さんが尽力して下さったお陰です。その功績の大きさを数字に反映させただけです 」
「 ……うーん。しかしなぁ………社 」
「 はい? 」
「 まさかと思うがお前、先輩の立場をカサに… 」
「 松島主任!!社さんはパワハラをするような人ではありません。その契約が取れたのは社さんの功績が大きかったのでそれを評価に入れただけです。そのまま受理して頂けませんか? 」
「 いや、でも通例では… 」
「 それに!それ以外でも社さんには色々とお世話になったんです。本当に、感謝してもしきれないぐらい。ですからそのまま受理願います!! 」
そう言って蓮は深く頭を下げたあと、顔を上げて俺に視線を移し、ふにゃりと頬を緩めた。
「 ……ね。社さん、そうですよね。色々と本当に感謝しています 」
「 俺こそ。お前のアシスタントをする時が一番やりがいを感じてる。それにお前、面白いしな… 」
俺達が顔を見合わせて互いにクスリ…と目を細めると、さすがに松島主任も納得してくれたらしい。
ふぅ…と大きなため息が聞こえた。
「 ……分かった。だったらいい。この先も頑張れ、二人とも 」
「「 はい、もちろんです 」」
二人揃って廊下に出ると、俺たちはもう一度顔を見合わせ、互いの利き腕を持ち上げた。
軽く握った拳をその場でコツンと突き合わせる。
「 蓮。お前な… 」
「 だって、先に伝えたりしたら社さん、絶対にダメだって言ったでしょう? 」
「 当たり前だろ!道理と常識ってもんがあるだろうが 」
「 そんなのは取るに足らない枠ですよ。
それに俺、これからも社さんにアシスト依頼するつもりでいるんです。これからもよろしく料だと思って下さい 」
「 なんだそれ。面白いなお前は。
OK。お前優先で幾らでも引き受けてやる 」
「 言いましたね。約束ですよ? 」
「 ああ… 」
それもいい。
これより先、俺がコイツにとって最高の相棒でありたいと思った。
E N D
原作では松島主任は蓮呼びですが、これはパラレルですので。
一般常識的に見てもやはり名字呼びだろうと考え、そうしました。お付き合い頂きましてありがとうございました。
ちなみに一葉、営業事務の経験は2社のみですが、実務経験は合計で8年ほどでしょうか…。
最初の会社で担当した営業が全くダメダメな人で、その会社自体、2年でつぶれてしまいました。
そのあと就職できた会社で担当した人もいまいちで、仕事が全然面白くなく、辞めてやろうかと思っていた矢先に東京営業所に移動する辞令が降りたのです。最初は埼玉営業所だった。
一人から一気に6人の営業さんを担当させていただいたのですが、とにかく仕事が面白くて!
全営業さん合計10億に達する契約を、一度のミスも出さずに一年間、配送手配をやり切った事がありまして、営業本部長を始めとする配送部長、資材部長からもお褒めの言葉を頂き、営業事務員としては過去最高額のボーナスを叩き出したことがあります♡(〃∇〃)
今となっては大変いい思い出なのですが、その後この業界はかなりの不景気に見舞われ、実績に拘わらずボーナスがカットされたと残った事務員から聞き及びました。一葉はそのとき既に退職していたのでナイス引き際だったな、と今でも時々思います(笑)
ちなみにそのお金で栄養士専門学校に進学しました。
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