一葉ですо(ж>▽<)y ☆
現代パラレル蓮キョの続きをお届け致します。会話が多いのでちょっと長いですよ。
お楽しみ頂けたら幸いです。
前話こちら⇒その男、策士につき【1・2】
■ その男、策士につき ◇3 ■
肩に肌寒さを感じた。
後ろの窓辺から冷気が漂ってきている。
続いて実感したのは柔らかい枕の感触。それから訴えるような喉の渇き。
ベッドで右向きに寝ている自分の背中側が深く沈み込んだとき、私はなんとなく瞼を開いた。
「 ………?…… 」
そこは見知らぬ家の中。
オレンジ色の間接照明の明かりが静まり返った部屋の片隅を照らしている。
ぼんやりとした頭は鉛みたいに重く、どうしてこんな所に居るのだろう…なんて基本的な疑問が浮かぶ前に寝返りを打った私の顔を大きな影が覗き込んだ。
それで全てがわかった気がした。
ベッドが深く沈んだのは、敦賀さんがそこに腰を下ろしたからだったのだ。
「 …っっっ!!敦賀さん。あ、痛っ!! 」
「 最上さん、起きちゃったんだ。頭痛い? 」
「 うぅぅぅ~~~~。ちょっと…いえ、かなり痛いです 」
「 うん、明らかに二日酔いだね。さっきちょうど翌日になったばかりだよ 」
「 う… 」
「 無理しないで寝ていていいよ。お水、飲みたいなら、はい 」
差し出されたペットボトルを素直に受け取る私。水が身体に染み入る。
「 ……ありがとうございます 」
「 どういたしまして 」
一体、どうしてこんなことに…。
うかがえる部屋の様子とかなりラフな格好の敦賀さんから察するに、ここは敦賀さんの自宅に違いない。
酔っていたとはいえ人様のプライベート空間に侵入してしまうなんて、なんて迷惑をかけてしまったのだろう、私は。
「 敦賀さん、ご迷惑をお掛けして申し訳ありません。私… 」
「 ちっともご迷惑じゃないよ。君の家が判らないって理由で君を俺の家に連れて来たのは俺だし 」
「 でも… 」
「 うん、けど、俺が寝ちゃう前に一度起きてくれて助かったかもしれない。俺、いま君の隣で寝ようとしていた所だったんだ 」
「 へ? 」
「 ごめんね。この家、ベッド一つしかないから。隣で寝させて? 」
「 はいぃぃぃぃっ???? 」
ことの重大性に気付き、私はベッドから降りようと慌てて飛び起きた。
そんな私を敦賀さんも慌てた様子で引き止める。
「 だっ…ダメです、そんな破廉恥な真似!!私はいますぐお暇しますのでその後で寝て下さい!! 」
「 ダメだよ、最上さん。日付が変わったって言っただろう。もう電車は動いてない 」
「 歩いて帰ります 」
「 ここが何処だかも判ってないのに?ダメだって!こんな夜中に寒空の下に出て行かせる訳にはいかない。加えて言うなら君、その恰好じゃ帰れないだろう。落ち着いて! 」
左手首を握られ、背中側から右腕でお腹を抱きしめられて彼の温もりに包まれる。
プチパニックに陥りながら自分の腹部に視線を落とした私は自分が大きなトレーナーを着ていたことに気付いた。
「 え?あれ?どうして… 」
「 どうしてって…。ここに着いた途端、最上さん少しリバースしちゃったんだよ。覚えてない? 」
「 う……頭いた 」
お…覚えているかも…。
お気に入りのフレアスカートに戻しちゃって、涙目になっちゃった私を敦賀さん、慰めてくれたのだもの。
大丈夫。洗えばまた着られるよ…って。
「 夜中に洗濯機を回す訳にはいかないから君の服はまだ水に漬けたままなんだ。だからまだ帰れないよ 」
あああぁぁぁっ!!!信じられない、なんて最悪っっ!!!
よりにもよって自分が好きな人の前でこんな醜態をさらしちゃうなんてっ!!!
唯一の救いは黒タイツを穿いたままだってことかも知れない。
トレーナーの下はまんま下着姿だった。
「 ちなみにそれ、俺が着替えさせたんじゃなくて君が自分で着替えたんだよ。…それは?覚えてる? 」
「 なんとなく…どっちも何となく覚えています。すみません、多大なご迷惑をお掛けして… 」
「 だから、ご迷惑じゃないって… 」
軽い調子でクスリ…と笑った敦賀さんは、私からそっと手を離すとさらに私に近づき私の顔を覗き込んだ。
「 最上さん 」
「 はい 」
「 君にお願いがあるんだけど 」
「 はい? 」
「 俺を君の隣で寝させて? 」
「 ……私、お部屋の片隅で平気です。それだって敦賀さん、本当はすごく凄く困るでしょう?だって、こんなことがもし会社の人に知れたら… 」
「 困るって、俺が君をお持ち帰りしたこと? 」
「 おもっ… 」
「 俺、誰に知られても困らないよ。むしろ公表したいぐらい。…同じ気にするならその理由を察して? 」
「 え?……あの… 」
「 それと、君が俺を知ってくれていたことと、俺の気落ちに気付いてくれていた事。本当に嬉しかった。ありがとう 」
「 …っ!!やっぱり敦賀さん、落ち込まれていたんですか?一体何が…… 」
不意に強い力で抱き締められて息が止まった。
アワアワしてしまったけれど、それも束の間。
私は気付いてしまったのだ。私を抱きしめた敦賀さんの大きな体が小刻みに震えていたことに。
まるで縋るように敦賀さんが私の肩に頭を乗せたから、私の首元に触れた彼の柔らかな髪の毛先がほんの少しだけくすぐったかった。
「 ……敦賀さん?あの…なにがあったんですかって、聞いてもいいですか? 」
「 笑うよ、きっと… 」
「 どうして…。どうして気落ちしている人の理由を聞いて笑えるって言うんですか 」
「 ……クス 」
営業部のエースである敦賀さんは、かなり遣り手の営業さんと噂で、彼にかかれば獲れない契約なんて無いとまで言われていた。
つい最近もかなり大きな契約を取って来たばかりのはず。
だけどどんな人であっても努力なしで得られる業績などないだろうし、どんなに完璧に見える人でもやっぱり落ち込むことはあるのだろうと思う。
だって人だもの。
敦賀さんだって一人の男の人だもの。
それが、妙に愛しいと思った。
敦賀さんは少しの間をあけてからポツリとこぼした。
「 ……あのね、リックが死んだんだ 」
「 リック??? 」
「 犬だよ。子犬の頃からずっと一緒だった。……判ってるんだ。どんなに悲しんだところで旅立ってしまった命は戻って来ないって。でも…… 」
「 ……っ… 」
そうだったんだって思った。
可愛がっていたのならなおさら哀しみは深いはず。だけどこういうことは第三者に吐露しにくい。
敦賀さんが味わっている哀しみとその喪失の大きさを想像して私の目に涙が滲んだ。
大きな背中に手を回し、出来る限り力強く彼をギュッと抱きしめる。
それぐらいしか自分がしてあげられることは無かった。
「 敦賀さん…。それは悲しかったですねぇぇ。泣いても良いんですよ? 」
「 君の方が涙目になってるよ。笑わないの?いい年した男がたかがペットぐらいでって… 」
「 どうしてですか。そんなのちっとも笑えない。
大好きなものを失って悲しまない人なんてこの世にいません。だから、泣いていいですよ?私、誰にも内緒にしますから… 」
「 ……ありがとう 」
私を抱きしめる力が一段と強くなって、正直苦しかったけれど
それ以上の哀しみをいまこの人は背負っているのだろうと思うとそんなのは幾らでも我慢できた。
「 ……最上さん 」
「 はい? 」
「 俺、君のこと知っていたよ。混み合うエレベーターで偶然、君と一緒になった 」
「 ……え? 」
「 その日は新入社員が部署配属された初日だったと思う。見慣れない顔だったからそれだってすぐわかった。
君、エレベーターの中で鼻をクンクンさせていただろう。リックみたいでかわいいって思ったんだ 」
「 ……っ!! 」
ウソっ!たった一回の小さな偶然。あれを敦賀さんも覚えていたの?
しかもそんな記憶の仕方で…。
だって、あのとき凄くいい香りがしていたからつい…。
「 営業部に来ればいいのになってちょっと期待したんだ。けれど君は俺と同じフロアで降りなかった。
営業部の上にあるのは総務部のみ。ガッカリしたんだよ 」
それからずっと気になって、探すようになっていた。
営業部と総務部は接点がほぼ無いから、もどかしくて仕方なかった。
「 最上さん。頭、撫でていい? 」
「 はい? 」
「 そのエレベーターの中で気付いた。君の髪、リックの毛触りに似ているんだ。ふわっとしていて、それでいて温かくて… 」
敦賀さんに撫でられるなんてちょっと…。
いえ、実際にはかなり嬉し恥ずかしいと思ったけれど、それでこの人が少しでも慰められるなら良いと思った。
「 あの、はい、いいですよ。どうぞお好きなだけ…… 」
「 ありがとう。嬉しい…… 」
敦賀さんはベッドの上で私を引き寄せ、足の間に座らせた。
優しく撫ぜる手の動きと、愛おしそうに私を見つめる視線の先には愛犬リックがいるのだろう。
そうと判っていてもやっぱり鼓動は高まった。
時々見かけた彼の笑顔は仕事時のものなのか
いつも以上に優しい表情にドキマギする。
だいたい、ここは敦賀さんのプライベート空間なのだ。
しかもベッドの上で、いま私は彼と二人きり。
ドキドキしない方がどうかしている。
「 最上さん 」
「 はい? 」
「 俺、リックの肌触りを実感しながら眠りたいんだ。君とならそれが出来るから。
忘年会が終わったあと、君、俺に言ってくれただろう。我慢しなくていいって。覚えているよね? 」
そうか、判った。
敦賀さんが私をお持ち帰りした理由は、愛犬リックを思い出せるからなんだ。
それが少し嬉しくて、けれどだいぶ悔しかった。
だって私は人間で、あなたを好きな女なのに…。
「 ……覚えています。けど… 」
「 君を抱きしめて眠りたい。させてくれる? 」
「 でも、さすがにそれはちょっと… 」
私がそう言うと敦賀さんはあからさまにショックを受けた顔をしてシュン…と肩を落とした。
そんな敦賀さんを見て私は身震いしそうになる。
なんて卑怯な手を使うの、この人!!
なんですか、そのあからさまにガッカリしましたって感じは!
そんなんじゃあなたの方が犬みたい。
そのうなだれた感じ…。
だめよ、信じられないほど可愛すぎる……。
「 ……最上さん。……ダメ?本当に…? 」
「 うっ…… 」
悔しい!!
犬の変わりなんて絶対に嫌。だって私は女よ?!
だけど……。
そんなに愛していたのかな、と想像すると心がぐらつく。
そんなに大切だったんですか?私を身代わりにしたいと思うぐらい?
だったらもう一晩ぐらいいいかも知れない。
それで自分がこの人を笑顔にすることが出来るなら。
こんなシチュエーションに遭遇したら、きっと誰もが同じ答えを出すわよね?
「 判りました。いいですよ。私で良ければ…… 」
気付いたらそう告げていた。
敦賀さんは物凄く眩しい笑顔になって、嬉しい…と言ってからもう一度私のことを抱きしめた。
⇒◇4へ続く
最近、二人が一緒のベッドで寝ようとするの、普通の感覚になってきた気がします(笑)
予告通り次がラストです♡
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