SF作家・菅浩江さんの2000年の作品。 星雲賞を受賞した上に、日本推理作家協会賞まで受賞していて、一度読んでみたいと思っていた作品です。

 

地球の衛星軌道上に浮かぶ巨大博物館"アフロディーテ"。 そこには全世界のありとあらゆる芸術品が収められ、データベース・コンピュータに直接接続した学芸員たちが、分析鑑定を通して美の追究に勤しんでいた。

 

総合管轄部署の田代孝弘は、日々搬入されるいわく付きの物品に対処するなかで、芸術にこめられた人びとの想いに触れていく…。 優しさと切なさの名手が描く、美をめぐる9つの物語。 日本推理作家協会賞受賞作。 (文庫裏紹介文)

 

オーストラリアほどの面積を持ち、マイクロブラックホール技術でもって重力が作られた人工惑星全体が、巨大な博物館になっています。 そこには絵画、彫刻、工芸品などの美術品が集積され、劇場では音楽や演劇が実演、動植物園まで備えています。

 

9つの連作短編は、この博物館に持ち込まれた芸術品に関する様々な依頼を、主人公の学芸員・田代孝弘が解決していくというもの。 舞台の壮大さに比べて、物語はむしろ芸術や美の追求という繊細で、人の感性に関わるものでした。

 

Ⅰ天上の調べ聞きうる者: 無価値だと切り捨てられそうになった絵画の秘密

Ⅱこの子はだあれ: 不思議な表情をした古い人形の名前を探す調査

Ⅲ夏衣の雪: 笛方の家元襲名公演の準備。 夏に雪を降らせる演出とは?

Ⅳ享ける形の手: かつて一世を風靡した天才ダンサーの公演

Ⅴ抱擁: データベースに直接接続する方法もバージョンアップが重なり・・・

Ⅵ永遠の森: 植物の成長で時間を示すバイオクロック。 その模倣品調査

Ⅶ嘘つきな人魚: 少年が実物を見たいと切望する、消えた人魚像の調査

Ⅷきらきら星: 小惑星帯で発見された異星人のものと思われる遺物の復元

Ⅸラヴ・ソング: それまでの短編で張られた伏線の見事な回収

 

作者の菅浩江さんは、幼い頃から日舞とピアノを習いどちらもプロ並みの腕前。 さらに日本の歴史文化が色濃い京都で生まれ育った経歴をお持ちです。

 

それだけに、多種多様な芸術の話を豊富な知識でしっかり支えている印象です。 それに加えて、各編での謎解き(日本推理作家協会賞です)と最終編では伏線回収があって、非常によく練られた作品でした。

 

ただ私的には、主人公を筆頭に登場人物たちのキャラ描写が浅いのと、SF側面での物足りなさがあって今ひとつでしたかねー。

 

「美とは何か?」「芸術とは何か?」というテーマを、SF的舞台とミステリ的手法で小説にした作品。 世間的評価は高いので、興味があれば読んでみてください。