2025年上期の直木賞は、候補となった6作(下記)がすべて広義のミステリということで注目していましたが、残念ながら選考委員の票が分かれて受賞作なしという結果に終わりました。

 

逢坂冬馬 『ブレイクショットの軌跡』

青柳碧人 『乱歩と千畝 RAMPOとSEMPO』

芦沢央 『噓と隣人』

塩田武士 『踊りつかれて』

夏木志朋 『Nの逸脱』

柚月裕子 『逃亡者は北へ向かう』

 

そんな中、デビュー2作目という新人作家・夏木志朋さんの本作は、選評結果を見ると最も受賞に近かったようで、読みたいと思っていました。

 

何気なく開けてしまった隣人の扉、「フツウ」の奥に隠されていたものは―。 爬虫類のペットショップでアルバイトをする金本篤は、売れ残ったフトアゴヒゲトカゲが処分されそうになるのを見て、店長に譲ってくれと頼む。

 

だが、提示された金額はあまりに高額で、「ある男」を強請って金を得ようと一計を案じるのだが…。 自ら仕掛けた罠が思いがけぬ結末を呼び込む「場違いな客」など、町の「隣人」たちが繰りひろげる3つの物語。 (出版社紹介文)

 

短編2作、中編2作が収録された作品です。

 

「場違いな客」

ペットショップで働く金本篤は、オーナーから「爬虫類飼いでもないのに紫外線ライトを買いに来る客は、大麻を育てているかもしれない」と言われていた。  ある日、そんな客が現れて・・・

 

「スタンドプレイ」

高校教師の西智子は、授業中に一部の生徒から罵詈雑言を浴びせられ、耐える毎日を送っていた。 そんなある日、帰宅途中の混雑した電車の中でスマホに夢中で奥に詰めようとしない女性がいて・・・

 

「占い師B」

霊感はないけれど、洞察力と知識・経験によって一流の占い師として活動している坂東イリス。 霊感はあるけれど、それ以外の部分はポンコツな女性・秋津。 占い師になりたいとイリスに弟子入りした秋津ですが・・・

 

『Nの逸脱』というタイトル通り、普通に生活している主人公がある日、非日常へと逸脱していく物語でした。 Nは日常のN? いやNormalのNかな?

 

「場違いな客」と「スタンドプレイ」は、理不尽な目にあった主人公の鬱屈した心理表現と、ささいなきっかけから逸脱していくストーリーが上手いですね。 新人作家とは思えません。

 

「占い師B」は中編です。 イリスと秋津という2人の人物の心の中には逸脱した部分があるのでしょう。 それがいきなり表出する面白さ。 先が読めない展開では一番かな。 最後に前の2編とのリンクがさりげなく示されていました。

 

面白かったです。 先の読めないサスペンスで「このミス」のリストにも載ってる作品ですが、なんとなく夏木志朋さんという作家はミステリ志向では無いような気がしました。

 

次はどんな作品を書いてくれるのか楽しみな作家です。 お勧め。