例年通り1年間の読書記事から私的ベスト10作品を選びました。

 

今年読んだ本は154作品。 ブログ開設以来、最高でした。

 

今年で退職しフリーになったので当然なんですけど、今年は家族も含め病気が多かった。 まあ、病気になっても本は読んでたということかな(^^;)

 

それでは今年読んだ本の中からベスト10を。

 

第1位: ホリー・ジャクソン 「卒業生には向かない真実」

高校生探偵・ピップを主人公としたミステリ三部作。 「自由研究には向かない殺人」「優等生は探偵に向かない」に続く最終作です。 明るく前向きで正義感の強い女子高生探偵・ピップのキャラクターと、緻密で王道のミステリが味わえる三部作なのですが、ラストの本作でのストーリー展開には思わず息をのみました。 「ミステリ史上最も衝撃的な三部作」という売り文句も納得です。

 

第2位: 小川哲 「地図と拳」

満洲国をテーマに、日清戦争後の1899年から、太平洋戦争を経て戦後の1955年まで、半世紀以上にわたる歴史を、視点人物10名以上の群像劇として圧倒的情報量で描き尽くします。 国家とは? 戦争とは? 地図とは? ストーリーの中に埋め込まれた様々な考察が知的好奇心を喚起し、物語に厚みを与えていました。 「ゲームの王国」とどちらにしようか迷いましたが、完成度ではこちらが上だと思います。

 

第3位: 町田そのこ 「ぎょらん」

”ぎょらん”とは、人が死ぬ瞬間の想いが遺す小さな赤い珠。 本作は”ぎょらん”をモチーフとした6編の連作短編です。 それぞれ異なる主人公が大切な人と死に別れた話を中心として、切実な想いや感動的なエピソードが描かれていました。 大切な人の死、その間際の想い、そして遺された者の慟哭と、いつもながら町田作品には本当に心が揺さぶられます。

 

第4位: 西澤保彦 「七回死んだ男」

同じ1日を9回繰り返す「反復落とし穴」に嵌まった主人公・久太郎が、その日に起きた祖父の殺人事件を阻止するために奮闘する物語です。 最近流行りの”特殊設定ミステリ”ですが、本作が書かれたのは40年近く前です。 それでいて、意外性満点の謎解きと、数多くの伏線がロジカルにピタリピタリと回収される快感は、最近数多く執筆されている特殊設定ミステリを軽く凌駕しています。

 

第5位: 浅倉秋成 「六人の嘘つきな大学生」

あるIT企業の新入社員最終選考。 グループディスカッションが進む中、「〇〇は人殺し」という告発文が見つかって・・・・という物語。 とにかくストーリーの起伏が大きく、どんでん返しに次ぐどんでん返しで、二度三度四度と翻弄されてしまいました。 後で考えると色々と無理やりな部分もあるのですが、とにかく状況変化にスピード感があるので一気読みさせられます。

 

第6位: 東野圭吾 「あなたが誰かを殺した」

閑静な別荘地で起きた6人が殺傷されるという連続殺人事件。 犯人が名乗り出ることによって終結に至りますが、犯人は事件の詳細を語らないため、残された家族で「検証会」が開催されます。 そこに招待されたのが、休暇中だった刑事・加賀恭一郎。 ロジックの積み重ねで意外な犯人を指摘し、残された疑問点からラストでもうひと捻り。 加賀恭一郎の鮮やかな推理の冴えを味わえます。

 

第7位: 宇佐美まこと 「展望塔のラプンツェル」

児童相談所の職員として虐待から子供を守る松本悠一、フィリピン人の母親を持つ少年・カイと虐待から逃げてきた少女・ナギサ、不妊治療を続けている郁美という3つのストーリーが並行します。 虐待、ネグレクト、貧困、性暴力、不妊治療などなど、あまりに過酷なストーリー。 宇佐美さんがミステリ作家であることも忘れて読んでいましたが、ラストで判明する仕掛けに「やられた!」と思ってしまいました。

 

第8位: 砂原浩太朗 「黛家の兄弟」

今年のベスト10唯一の時代小説です。 藤沢周平の後継者とも言われる砂原浩太朗さん。 簡潔で端正な文章や四季こもごもの自然描写は、確かに藤沢周平を思わせます。 「高瀬庄左衛門御留書」も良かったですが、神山藩の政争を描いた本作では、終盤の逆転に次ぐ逆転が緊迫感満点! 伏線回収も数多く、一層ミステリ/エンタメ寄りの時代小説として楽しめました。

 

第9位: 一穂ミチ 「スモールワールズ」

それぞれ小さな家族のドラマ、人生の機微、そして喜怒哀楽を綴った6篇の珠玉の短編集です。 『花うた』は「アルジャーノンに花束を」を思わせるし、『愛を適量』のサスペンスからの温かさ、とりわけ『魔王の帰還』は、主人公の高校生・鉄二のユーモア溢れる語り口、そして何と言っても姉・真央のキャラクターが強烈です。 笑えて感動して、最後の真央=魔王の姿のカッコよさ! 一番好きな一編でした。

 

第10位: 逢坂冬馬 「同志少女よ、敵を撃て」

1942年、独ソ戦のさなか、ドイツ軍に村を全滅させられ、ただ一人生き残った少女・セラフィマが、女性狙撃兵訓練学校に入り、厳しい訓練を耐え抜いて一人前の狙撃兵となり、数々の戦場を戦い抜く物語です。 セラフィマは何と戦ってきたのか? 最後に何によって救われたのか? 完成度の高いエンタメであると同時に、考えさせる内容も含んだ素晴らしい小説でした。

 

次点: 辻堂ゆめ 「あの日の交換日記」

SNS全盛のこの時代に交換日記?という疑問が湧きましたが、これが素晴らしい連作短編集でした。  それぞれの短編で登場人物が異なり、交換日記を推奨する小学校の先生の姿が見え隠れします。 そして、ラストの短編『夫と妻』ですべてがつながった時、何とも言えない温かい気持ちにさせてくれました。 加納朋子さんの名作「ななつのこ」にも通じるものがあります。

 

上記の作家以外では、青山美智子さん「赤と青とエスキース」、伊吹亜門さん「刀と傘」、城山真一さん「看守の流儀」、櫻田智也さん「蝉かえる」、佐藤究さん「テスカトリポカ」、杉井光さん「世界でいちばん透きとおった物語」、瀬尾まいこさん「傑作はまだ」、月村了衛さん「機龍警察 狼眼殺手」、中島京子さん「やさしい猫」、野沢尚さん「リミット」、望月諒子さん「蟻の棲み家」などが印象に残りました。

 

あと、大山淳子さんの「猫弁シリーズ」(第1シーズン)を3月に連続して読めたのも良かったですね。 たっぷり猫弁ワールドに浸れました(^-^)

 

今年も一年間読んでいただき、コメントや”いいね!”をありがとうございました。

 

それでは、よい年をお迎えください。