2017年に日本SF大賞と山本周五郎賞をW受賞した作品。 読むべきかなと思ったのですが、下記の紹介文にはSF的要素がなく、読むのを躊躇していました。
しかし、先月読んだ同作者の「嘘と正典」がとても面白かったので、文庫上下巻850ページの大長編を手に取ってみました。
サロト・サル――後にポル・ポトと呼ばれたクメール・ルージュ首魁の隠し子、ソリヤ。 貧村ロベーブレソンに生まれた、天賦の「識(ヴィンニャン)」を持つ神童のムイタック。 運命と偶然に導かれたふたりは、軍靴と砲声に震える1975年のカンボジア、バタンバンで邂逅した。
秘密警察、恐怖政治、テロ、強制労働、虐殺――百万人以上の生命を奪い去ったあらゆる不条理の物語は、少女と少年を見つめながら粛々と進行する・・・・まるで、ゲームのように。 (文庫上巻裏紹介文)
上巻は1950年代から1970年代まで、カンボジアの歴史を軸にした群像劇が描かれます。
フランスから独立後のカンボジアは、シアヌーク政権下では汚職が横行、政治は腐敗しきっていて、都合の悪い人間は秘密警察が無実の罪で逮捕・処刑していました。
そんな社会をひっくり返し、共産主義を理想に掲げた「クメール・ルージュ」を率いるポル・ポトは革命を果たします。 しかしその政策は極端で、農民以外の知識層はすべて粛清し、その結果全人口の4分の1が死亡したと言われています。
後で調べましたが、これは史実です。 恐ろしい!
そんな中、秘密警察に父母を殺された少女・ソリアは、貧村に生まれた神童・ムイタックが出会います。 群像劇の中の主人公2人です。
下巻では、2000年代になり、不条理なカンボジアの世の中を変えようとするソリアとソリアに対抗するムイタックが中心となります。
「ゲームの王国」というタイトル通り、様々な場面でゲームの概念が登場。
カンボジアの世の中はゲームのルールを権力者が変えられる不条理な世界であり、それを覆し平等な世の中を作るためには自らが権力者になるしかないのです。
権力者を目指す過程で、罪を犯すことも辞さないソリアと、ソリアに勝つために脳波を利用したゲームを開発するムイタック。 彼らが辿る運命は・・・という物語です。
SF大賞を取っていますが、SF要素は脳波による記憶の改竄という部分だけで、それも物語の中の1つの道具立てにすぎません。また、長大な物語の中で回収されない伏線もあるし、ラストも少し唐突で、決して完成度は高くないと思います。
それでも、怒涛の歴史物語と、政治とは?記憶とは?など知的好奇心を刺激する様々な考察を交えたストーリーに、上下巻850ページを読まされてしまいました。
輪ゴムで未来を予知する人物、泥と会話できる人物、不正を見つけると勃起する人物など突拍子もない人物の設定(マジックリアリズムというのかな)も物語に推進力を与えているようです。
今回は、いつもより長い感想を書きましたが、どうもこの小説の魅力を伝えきれていない気がします。 読んでみてくださいと言うしかないのかな(^^;)