先日、同じ作者の「ゲームの王国」という大長編を読んで圧倒されたばかり。 カンボジアの歴史物語という、ほとんど馴染みのなかった内容を一気呵成に読まされてしまいました。

 

今度は、満洲国をテーマにした「地図と拳」です。 直木賞まで受賞して、これは読むしかないでしょう!

 

「君は満洲という白紙の地図に、夢を書きこむ」日本からの密偵に帯同し、通訳として満洲に渡った細川。 ロシアの鉄道網拡大のために派遣された神父クラスニコフ。 叔父にだまされ不毛の土地へと移住した孫悟空。 地図に描かれた存在しない島を探し、海を渡った須野・・・・。

 

奉天の東にある“李家鎮”へと呼び寄せられた男たち。「燃える土」をめぐり、殺戮の半世紀を生きる。第168回直木賞、第13回山田風太郎賞受賞作。 (BOOKデータベースより)

 

日清戦争後の1899年から、日露戦争、1932年の満洲国建国、支那事変、太平洋戦争を経て戦後の1955年まで、半世紀以上にわたる物語です。

 

舞台は、中国の東北部にある李家鎮という架空の村。 ここが満洲国建国にともなって

都市計画され、栄え、そして日本の敗戦とともに廃墟となるストーリーです。

 

こう書くと単純な物語のようですが、巻末の膨大な参考文献が示すように、圧倒的な情報量が、ハードカバー620ページ、視点人物10名以上の群像劇の中に昇華されています。

 

日本軍人、通訳、気象学者、中国の抗日ゲリラ、ロシア人宣教師、日本の学生たち、それぞれの立場で懸命に生きる人々が否応なく戦争に巻き込まれていきます。 登場人物の中、最も優秀ですべてを見通すような細川ですら、抗うことができません。

 

国家とは? 戦争とは? 地図とは? 建築とは? 「ゲームの王国」と同様に、ストーリーの中に埋め込まれた様々な考察が知的好奇心を喚起し、物語に厚みを与えています。

 

本作は、ロシアのウクライナ侵攻前に執筆されていますが、ストーリーの中の支那事変の描写、「当初は三日で終わるとされていた戦争は、一年たっても終わる兆しが見えなかった」「米国や英国の支援物資が際限なく届くようになって・・・」などは、まったく同じ構図で驚かされました。

 

現実には存在しない青龍島が、何故地図に描かれていたか? という謎が解明するラストも非常によくて、ラストが少し唐突だった「ゲームの王国」よりも完成度は上だと思います。

 

圧倒的情報量で読者を選ぶかな? いや、読書好きなら読むべき小説でしょう。

お勧め!