設問1
1 AB間の甲建物の2階部分の賃貸借契約(民法601条)は、残りの契約期間4ヶ月分につき、Aの甲建物を使用収益させる債務とBの賃料支払い債務とが双方未履行の双務契約である。
双方未履行の双務契約は、破産手続きの円滑・迅速な処理を図るべく破産管財人に履行又は解除の選択権が与えられている(破産法(以下、法名略す。)53条1項)。
もっとも、対抗力を備えた賃借人の権利まで一方的な解除により奪うのは不当であるため、賃借権が対効力を備えている場合には53条1項は適用されない(56条1項)。
本件で、BはAから賃借して現に甲建物を使用しているため、「引渡し」(借地借家法31条1項)という対抗要件を備えている。
よって、53条1項により破産管財人が解除して即時の退去を求めることはできない。
2 また、破産管財人がAの破産を「正当の事由」(借地借家法28条)として解約の申入れをすることもできないと考える。
なぜなら、これを認めると、56条1項の趣旨が没却され妥当でないからである。
3 また、本件では、Bは賃料の支払いを怠ったことはなく、AB間に信頼関係の破壊もないため、民法541条による解除もできない。
設問2
1 敷金返還請求権は、賃貸借契約終了後に賃借人が建物を明渡すことにより発生する停止条件付債権である。
そのため、Bは敷金返還請求権を自働債権として相殺することはできない(67条2項前段参照)。
もっとも、債務者の財産状況が悪化している倒産段階においては相殺の担保的機能に対する期待を保護する必要性が高い。そのため、敷金返還請求権者は、賃料を支払う際に、将来の相殺のために寄託請求をすることができる(70条後段)。
2 本件では、Bは残りの賃料(合計200万円)支払いの際、賃料の寄託を請求することができる。そして、後にBが建物を明渡し敷金返還請求権が現実化した場合には、寄託した賃料200万円の範囲で敷金返還請求権との相殺をすることにより実質的な敷金返還請求権の回収を図れる。
また、この相殺により回収できない100万円分については、後述のように破産債権として届出て(111条1項)、配当(193条以下)を受けることにより回収しうる。
設問3
1 まず、敷金契約は、賃貸借契約とは別個の契約であるから56条2項により財団債権とはならない。
2 敷金返還請求権は、敷金契約という破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であるため破産債権である(2条5項)。そして、前述の通り敷金返還請求権は停止条件付債権であるため、Bは103条4項により破産手続上、破産債権者としてこれを行使することができる。
具体的には、届出・調査・確定(111条以下)の手続きを経て、配当を受ける(195条以下)。
3 もっとも、敷金返還請求権は停止条件付債権であるから最後配当の除斥期間内に条件が成就しなければBは配当を受けることができない(198条2項、打切主義)。
そして、停止条件付債権は中間配当がある場合には、配当額が寄託される(214条1項4号)。この寄託金は、Bが最後配当に参加できない場合には他の破産債権者に配当される(214条3項)が、最後配当に参加できる場合にはこの寄託額の支払いを後に受けることができる。
設問4
1 Bが賃料債務を4か月分計200万円を支払うとすると、200万円分についての敷金返還請求権は、民事再生法(以下、民再とする)92条3項により共益債権となる。
これは、民事再生手続では再生計画を早期に作成するため相殺の期間が制限されているが、相殺の担保的機能を保護すべく、賃料の6カ月分を限度として敷金返還請求権を共益債権として手厚く保護する趣旨である。
よって、200万円分については、Bは、共益債権として再生手続外で再生債権に先立って行使することができる(民再121条1項2項)。
2 他方、100万円分については、敷金契約という再生手続開始前の原因に基づいて発生する財産上の請求権であるため、再生債権となる(民再84条1項)。そのため、個別執行が禁止され(民再85条1項)、民事再生手続で届出・調査・確定を経て行使することになる(民再94条以下)。
以上