第1 設問1(条文は全て刑事訴訟法)
1 本件警察官作成書面を証拠として採用するには、かかる書面に証拠能力が認められなければならない(317条)。
2 ここで、かかる書面は、裁判所の面前での反対尋問(憲法37条2項前段参照)を経ない供述証拠であり、伝聞法則が適用され、証拠能力は否定されるのが原則である(320条1項)。
もっとも、検察官は「証明力を争うために」かかる書面を提出していることから328条により証拠能力が認められないか。本件では、Bの「供述の証明力を争うために、Cの供述を内容とする上記書面を用いていることから328条の「証拠」にあたるか問題となる。
(1)ここで、伝聞法則により証拠能力が否定されるのは、供述証拠は知覚・記憶・表現の過程で誤りが入るおそれ があるため、反対尋問によって誤りをチェックする必要があるからである。ゆえに、伝聞法則の適否は要証事実との関係で相対的に決せられ、供述内容の真実性が問題となる場合に適用されると解する。
そして、328条は同一人の不一致供述を弾劾証拠として用いる場合は、その不一致供述の存在自体を証明すれば証明力が減殺することから内容の真実性は問題とならず、伝聞法則の適用がない旨を注意的に規定する趣旨と解される。
よって、328条の「証拠」とは、同一人の不一致供述に限られると解する。
(2)本件ではBの証言の証明力を争うために、Cの供述を録取した書面を用いようとしているところ、CとBは別人であって、Cの供述を内容とする書面は328条の「証拠」にはあたらない。
(3)よって、328条により証拠能力は認められない。
3 もっとも、上記書面は、Cという「被告人以外の者」の「供述を録取した書面」で、Cの「署名」「押印」があるから、「前2号に掲げる書面以外の書面」(同3号)として、同号の要件を満たす場合には伝聞例外として証拠能力が認められる。
第2 設問2
1 本問でも、警察官作成の捜査報告書に証拠能力が認められれば、証拠として採用できる。
2 本件報告書も裁判所の面前での反対尋問を経ない供述証拠である。
もっとも、設問1と異なり公判での「Aが自分で勝手に躓いて転倒した」旨のB証言と「甲がAを背後 から手で突き飛ばし、Aが転倒した」旨の報告書におけるB供述は同一人の不一致供述にあたる。
そうすると、328条の「証拠」として証拠能力が認められるとも思える。
しかし、328条の趣旨は前述の通りであるから、328条により伝聞性が払拭されるのは供述者の供述の伝聞性のみについてであり、不一致供述の存在自体は別途厳格な証明を要するところ、報告書にはBの署名押印はない。
ここで、321条1項等は、「署名」「押印」により録取面の伝聞性を払拭する趣旨と解される。とすれば、供述者が真実そのような供述をしそれが録取されたという録取面の伝聞性は、供述者の署名押印によりはじめて払拭され、厳格な証明がなされたものと解すべきである。
3 本件では、報告書にはBの署名押印はなく、警察官の録取面についての伝聞性が残るため、Bの供述の存在自体について厳格な証明がなされていない。
4 よって、本件報告書は320条1項により証拠能力が否定され、証拠とすることはできない。
第3 設問3
1 本問録音テープにも証拠能力が認められれば証拠として採用できる。
2 本問テープの内容は設問2同様に、Bという同一人の不一致供述である。
よって、Bの供述自体の伝聞性は328条によって払拭される。
もっとも、録音テープに署名押印がないことから設問2同様に録音面の伝聞性が残り、320条1項により証拠能力が否定されないか。
(1)まず、録音テープ自体は、音声が機械的に正確に録音されるものであるから非供述証拠と考える。
また、かかる供述をしたのが真実Bであるかという点についてはBの署名押印がなくとも、録音された声とBの声を比較して確認できる。
(2)よって、Bの署名押印がなくとも本問録音テープには設問2と異なり録取過程の伝聞性に問題はない。
3 以上から、録音テープは328条により証拠能力が認められ証拠として採用できる。
以上
本問のポイント
1 弾劾証拠が同一人の不一致供述に限られるか。
2 録取の点について厳格な証明が必要か。
3 書面と録音テープの差異。
※設問2において、警察官の「供述書」として(Bの「供述を録取した書面」としてではない。)321条1項3号により証拠能力が認められる余地はある。もっとも、出題意図からして問いたいのはそこではないと思われるから、合格答案の要件としてそこまでの検討は不要と思われる.