再び年寄再雇用制度について | 星ヶ嶺、斬られて候

再び年寄再雇用制度について

大相撲で65歳の停年後に希望すれば70歳まで再雇用される、いわゆる「年寄再雇用制度」が導入されてより今年で丸10年。

この問題に関しましては制度の導入時(2014年)にすでに弊ブログでも問題点を指摘しているのですが、改めてこの制度の抱える問題について取り上げたいと思います。

 

まずこの制度に関して、2021年の高年齢者雇用安定法の改正に伴い政府や厚労省が各企業に対し70歳までの雇用の機会確保を求めている点から鑑みて、先駆的な制度の導入であったと評価できる点があるのは間違いないでせう。

一方で制度の導入10年を迎え、弊害が目立ってきたのもまた事実と言えます。

とりわけ問題となっているのが空き名跡の不足によって現役力士が引退しても親方として残るのが難しい状況が続いている点で、2024年7月現在、参与の肩書で再雇用されている親方は8人にのぼり、全体の1割近くを占める事態となっています。

 

実は制度が導入された2014年当時は空き名跡がそれなりにあった時期で、再雇用に伴う影響は暫くは大きくはないと見なされた時期でもありました。

ただ、この時期に空き名跡が少なからずあったのは理由があり、八百長問題などによって本来であれば協会に親方として残っていたであろう力士等が相当数、退職や引退した上に外国籍の力士が多く、この頃はまだ日本に帰化して協会に残る事例が少なかったという事情があります。

ところがこの10年ほどの間にトレンドも変化しており、再雇用の親方が増加する一方で外国出身の力士が帰化して親方となるケースが増えており、今や三役経験者はおろか、横綱・大関であってもすんなりと名跡を取得できない事例が出てくるようになってしまいました。

 

もう一点の問題は部屋の継承に関わることで、まずは再雇用の親方は嘱託職員という任期付きの雇用である故に部屋を経営することが出来ません。

以前であれば師匠の停年と同時に後継者となる力士が引退して即、部屋を継承出来ていたものが、まず後継者たるべき者は事前に年寄名跡を確保する必要性が高まったのです(荒汐部屋などの例外はあるが)。

例えば横綱特権で現役名のまま5年という期限付きで親方となっていた白鵬なども中々空き名跡がなく、危うく名門の宮城野部屋が消滅しようかという所、某親方の不祥事があって間垣の名跡を確保し、先代の停年に間に合わせることが出来ました(結局は閉鎖に追い込まれたが)。

 

このような事態に対し世間の論調としては停年後の元親方に関しては年寄名跡とは切り離し、再雇用後は四股名、もしくは本名で業務に当たればよいという意見があります。

私も基本的にはこの意見に賛成で、そもそも再雇用後の親方は正規雇用ではないわけですから年寄名跡が必要であるとは思いません(理事候補選挙での投票権も撤廃)。

昨今では余りに名跡が不足しているがために参与の親方に70を待たずして退職してもらって名跡を工面する事例も増えていますが、これでは70歳まで雇用を確保するという趣旨に反している上に現役力士への負担が高くなってしまい、解決法としては評価できるものではありません。

 

さらに近年では本来であれば親方として相撲協会に残るべき三役を経験したような面々が協会を離れてしまう例も多く、年寄名跡を取得する負担ほどの魅力を見出せていないのも事実でせう。

相撲協会に残ることに対して不当に高いハードルがある現状は結果として人材の流出を招き、とりわけ他の道を切り開くくらいのポテンシャルのある力士ほど協会を去ってゆく傾向すら見出せます(この点に関しては年寄株の価値が将来的にどのように変動するか見通せないという問題もある)。

 

しかるに再雇用後の親方を年寄名跡より切り離せば本人の意志によって70歳までの雇用が維持されるわけですから、現状において老齢の親方衆にとっても悪い話ではなさそうですが、おそらく相撲協会としては人件費の負担増を懸念しているのでせう。

尤も人件費の増加は制度の導入によってあらかじめ予想しうるものであるし、さらにいえばこの段階で負担増を嘆いていては親方以外~すなわち行司や呼出しといった裏方から協会職員に至るまで~の再雇用を進めることは到底かないません。

 

協会員の増加分の仕事の捻出も課題ながら、例えば協会職員などは労基署から是正勧告が出るほどに超過勤務が多い職場となっており、こうした負担を減らす効果は期待できるし、負担が減ればその分を他方へ振り向ける余地も生まれようというもの。

また、行司や呼出しなどは主に若手の指導を行う他、現役時代とは異なる分野の仕事を任せてもよろしいかと思います。

 

勿論、再雇用は任意ですから体力に不安があったり、業務の内容に齟齬があれば身を引くのは本人の自由。

あくまで希望すれば親方衆に限らず、行司、呼出し、床山、若者頭、世話人、協会職員のいずれもが70歳となるその日まで相撲協会の雇用を受けられることこそ理想の姿であるはずです。

同時にそのことが後進の負担となるのではなく、むしろそれを支えるための制度であるべきであり、相撲協会の正規職員の枠(例えば親方ならば105の名跡)とは別枠にて任用されるのが望ましいでしょう。

そのための第一歩として、まずは親方の再雇用組を速やかに年寄名跡より切り離し、現役から親方へ移行する門戸を現状よりもう少し広く開放されんことが求められているのです。