六富士の時代~幷に七若と七琴(後編) | 星ヶ嶺、斬られて候

六富士の時代~幷に七若と七琴(後編)

前編では直近の伊勢ケ濱部屋と武蔵川部屋の事例を見てまいりましたが、それ以前はどうでしょうか。

まずは時計の針を昭和30年へと巻き戻してみてみませう。

昭和30年代といえば土俵の上では栃若から柏鵬へと時代が変革を迎える時期。

時は昭和36年9月場所、その若乃花の所属する花籠部屋から7人が幕内に顔を揃えました。

その顔触れは御大の横綱・若乃花にベテランの若ノ海、若手の若三杉、若秩父、若乃國と続いて、この場所、新入幕の若天龍、若駒。

いわゆる‘七若‘であり、この体制は37年1月までの3場所続きました。

実はこの場所数は若駒の幕内在位場所数とイコールであり、若駒の十両陥落によって体制が崩れると5月には若乃花が引退し、時代の終焉を迎えました。

花籠部屋ではその後、52年1月場所にも6人の幕内力士が居並ぶ第2次黄金期を迎えましたが、輪島、魁傑、荒勢、大豪、大ノ海、若ノ海と四股名はまちまちでした。

 

ところで昭和36年9月の番付をよく見ると出羽海部屋も7人の幕内を揃えています。

ただ、出羽海といえばかつては片屋の一方を占めるほどの大部屋であり、同様に時津風や立浪といった一門の総帥クラスの部屋も多数の関取が犇めいていた時期が少なからずありました。

昭和34年以前ですと幕内力士が50人以上とあって特定の部屋の幕内力士が多数いる例はなお多くの事例が見られます。

 

同一部屋での幕内力士が多いと有利となる状況が生まれるのは何といっても部屋別総当たり制であればこそ。

それまでの一門・系統別よりなお対戦相手が絞り込まれる状態であり、その恩恵は無視できぬものでした、

そこで部屋別総当たり制へ移行した昭和40年1月場所以降を見てみるとその当初においては出羽海、時津風、立浪といった部屋が6人以上の幕内力士を揃えていることがありましたが、42年3月場所に幕内の定員が40人から34人に削減されると、以後、しばらくは6人以上の幕内を並べる部屋はありませんでした。

 

昭和50年5月場所、久しぶりにその一線を越えたのがかつての横綱・若乃花率いる二子山部屋(貴ノ花、若三杉、大旺、二子岳、若獅子、隆ノ里)。

次いで前述のとおり52年の花籠部屋を挟んで、56年7月、11月~57年3月にも二子山部屋が6人以上の幕内力士を揃えて阿佐谷勢の春を謳歌しています。

56年~の二子山部屋の顔触れは横綱・若乃花(2代目)を筆頭に隆ノ里、大寿山(後の太寿山)、若島津(後の若嶋津)、飛騨乃花、隆三杉、若獅子で、56年7月のみが7人、他の3場所は6人の布陣でした。

 

平成に入ってからは元年3月で井筒部屋が達成したのが最初の例。

逆鉾、寺尾、陣岳、霧島、薩洲洋、貴ノ嶺と、四股名に共通性はないものの鹿児島県出身者5人を含む全員が九州出身といふのも特筆されます。

 

平成4年5月場所には藤島部屋から6人の幕内が並ぶ若貴ブームの真っ盛り。

貴乃花、若乃花、貴ノ浪、安芸乃島、貴闘力、豊ノ海に加え、5年3月からは師匠が停年となる二子山部屋を引き受けてシン・二子山部屋となって三杉里、隆三杉、若翔洋、浪之花が合流、ここに幕内に実に10人の力士を擁する事態となりました。

以降、二子山部屋は9年3月まで常に6人以上の幕内力士を擁し、かつその内実たるや横綱2人、大関1人、関脇3人、小結3人の充実ぶりで、とりわけ幕内上位にあって同部屋のメリットを最大限、享受したと言えさうです。

 

一方、この二子山部屋の有力な対抗馬として名乗りを上げたのが佐渡ヶ嶽部屋。

平成3年7月場所にて琴錦、琴ケ梅、琴ノ若、琴富士、琴稲妻、琴椿と6人の幕内を揃えましたが、いずれも四股名に‘琴‘がついて‘六琴‘。

4年11月、5年1月にはここに琴別府が加わる‘七琴‘となり、なお合併以前の藤島部屋を上回る勢威を示しました。

七琴体制は2場所のみながら六琴は6年9月まで断続的に続いており、こちらも4関脇、1小結と全盛期に違いはあれ上位に躍進する力士が多く、同部屋力士が多数であることによるボトムアップがあったと言えるかもしれません。

 

これに続いたのが前編で取り上げた武蔵川部屋であり、さらに今回の伊勢ヶ濱部屋の‘六富士‘までの間には境川、追手風、木瀬などが多くの幕内力士を擁した時期がありましたが、6人揃えることもできなかったし、四股名に統一性があった訳でもありません(追手風部屋は翔が多いが・・・)。

最も惜しい事例が九重部屋で、幕内にコンスタントに3、4人を揃えた上に四股名も千代~。

令和2年11月場所及び3年1月場所には十両も含めると7人が轡を並べる‘七千代‘体制が整いつつありましたが、幕内の壁に阻まれました(幕内=千代の国、千代大龍、千代翔馬、十両=千代ノ皇、千代丸、千代鳳、千代ノ海)。

 

以上、同一部屋による6人以上の同時幕内在位について四股名をからめてご紹介いたしました。

今後の展望から七若、七琴、六富士に続きさうな部屋を探してみると、追手風(翔)、佐渡ヶ嶽(琴)、九重(千代)、高砂(朝)あたりは力士数も多く、四股名の同一性が高いので期待できそうです。