けっこう太々しくかわいげのない子どもだったわたしにも,ちょっと子どもらしいエピソードがある。

 

 

おじいちゃんとおばあちゃんが買ってくれたのか,春になるとおひなさまが飾られた。

 

 

田舎だったせいか3月3日ではなく,4月3日がお雛祭りだった。

 

 

桃の節句のはずだが,その頃には桜が満開だ。

 

 

それはどうでも良いのだが,

問題は,わたしがおひなさまを異様に怖がったことだ。

 

 

特に震えるほど怖かったのは、右大臣と左大臣。

 

 

あの白いひげをたたえた爺さんたちだ。

 

 

小さな家で,部屋数も少ないのに,一番メインの部屋にドンと置かれたおひなさまたち。

 

 

ご丁寧に家付だった。

 

 

屏風だけで十分なのに‥

 

 

わたしは,おひなさまの部屋に入ると怖くて泣いた。

 

 

怖いと言うより,怯えていたと思う。

 

 

恐ろしかった記憶がはっきりとある。

 

 

ひなあられを食べるどころではない。

 

 

ただ,ただ,おひなさまをどこかへやってほしかった。

 

 

 

そんなわけで,わたしは娘のためにフェルトでおひなさまを作った。

 

 

わたしのような怖い思いはさせたくなかった。

 

 

ちなみに今思い出したのだが、五人囃子の笛や太鼓を父が作ってくれた。

 

 

わたしが頼んだのか,父が勝手に作ってくれたのか覚えていないが,その小道具たちをわたしは気に入っていた。

 

 

父からはいつも怒られてばかりいたが、わたしが小さいときにも,庭のぶどうの木のあたりにブランコを作ってくれたり,裏庭に鉄棒を作ってくれた。

 

 

父の口から出てくる言葉たちは嫌なことばかりだったが、してくれた数々のことは優しさに満ちていた。

 

 

その後もわたしの成長に欠かせないすばらしいことを、父はたくさんしてくれた。