~From.裕~ -109ページ目

帰郷~いいならづけ3~

ドアが開きひとりお客なのか入って来た

その足音は真っ直ぐに近づいて来る
そして

『ヒロ君、大丈夫?』

心配そうな顔の千里だった

12時迄に来ないと魔法は解けないで
妹のままだよ
伝えておいで

そんなメールあり駆け付けた店先で
彼氏と鉢合わせし
『来たね、良かった
千里ちゃんの気持ちが本気だって分かった…
きっと大丈夫だから
いい人で別れようと思ったんだけど
ごめん
君の大切な人
殴っちゃったよ

千里ちゃんに出会った事も
ヒロさんを殴った事も
後悔していないから

今までありがとう』

右手を撫でながら、頑張って笑顔の彼氏に何も言えずただ
『ありがとう…』
笑顔で言うのが精一杯だったと申し訳なさそうに話した

店を出ようとすると

『気付かせて貰ったんだ
その痛み忘れるなよ…
二人で笑ってまた食べに来い』
視線を合わす事なく話す店長に
ぎこちない笑顔で応え店を出た

何処に行く宛てがある訳ではないまま歩き出していた
今までに無いにぎこちない空気感に戸惑い言葉が出ない
何か話そうと口を開くと
『イテッ』
思わず声が
手で押さえながら
『明日、会議があるのに…まずいよな』
『痛そう…
そういえば、前にもあったよね大事な時に…
大学受験の前だ!リュウ君に殴られたんだよね?
理由は何だったの?』

そんな事があった
あの時も同じ位痛かったっけ
俺は…
2回とも千里絡みで殴られ…
理由は言えないな
隠し続けてくれたリュウの為にも

軽く聞き流すように答えると
俺の顔を覗き込み
『ふ~ん』
疑い深い顔で一言

一言だけというのがどこと無く怖さがあったりする

24時過ぎ
さすがに人が疎らだ
店のショーウィンドーの明かりが眩しいとりあえず24時間の店に入った

わりと居るもんで
色んな理由で居るのだろうが
何でわざわざここで…
と、思ったがその中の一人か

テーブルを間に千里と向き合い座った
何度もこんな風に座り話した事はあるのに…落ち着きがない
俺は中学生か

そんな俺の前に珈琲を置くと
特に変わる事が無いまま座る千里
女性(おとな)に見え妙な感じだった

『どうかした?
何か変だよ…
中学生の初デートみたいだよ
ヒロ君らしくないよ』

見透かされた

ごまかすようにどうにか話しをし始めたが
笑うのを我慢しているのが気になり話しを止めると
『ごめんなさい。
笑うつもりは無いんだけど
いつもと違って一生懸命に話すんだもん…
「なんか可愛いんだもん」』

調子が狂ってしまい
上手く話しが続けられない
どのくらいだろう静かに時間が過ぎ
ゆっくり千里が話し出した

『分かっていたんだよね
ヒロ君にとっては妹の粋を出ていないって
諦めなくちゃって思うたびに
思い出しちゃうんだよね
あの時の事…
ヒロ君は気付いていたんでしょ
私を止めることも
避けることも出来た
でも
しなかった
受け止めてくれたのかもって
都合のいい思いが甦って
また
甘えちゃったんだよね…

頑張ったんだよこれでも』

頑張って笑う千里

「千里なりに切り替える努力をしてきたはずだ
向き合って話して、解放してやれ」
タケ兄の言う通りだ
中途半端な俺の態度で迷わせていた
話さないとな
あいつが一番知りたいはずのあの頃の俺の気持ち

『「俺のマンションに来るか」
ヒロ君にそう言われた時ハッキリしたんだ
やっぱり妹なんだって
だから本気で
彼と付き合ったんだけど

ダメだったみたい
ヒロ君のことは忘れるとかそういうことじゃないみたい
ヒロ君の中でどうんな場所に居ようと
私の中では一人の男性(ひと)

もう隠さない
逃げない
彼が気づかせてくれた
本当の気持ち

私…ずーっと前から
ヒロ君のこと…』

『ちょっと待て』

真っ直ぐに見つめ話す千里
俺も同じ
千里の彼氏に
リュウ達に気づかせてもらった
千里にあの時のように言われたら
また同じになりそうで
慌てて止めた

あの時なぜ止めることも避けることもしなかったのは
俺の中に千里と同じ感情があったのかもしれない事
何より
千里の一言に気を取られていた事
その一言が思うよりも俺に影響をもたらし
悟られないようにしてた時
千里の彼氏騒ぎに
結構らしくないショック受けた事
自分の想いを封印する為に言った
「彼氏出来てよかったな…」
俺なりに精一杯話してみた

途中から千里の様子が変わった
何か疑問を抱えながら聞いているようだった

俺としてはちょっとした告白のような話しをしたはずなのに
反応が…
何に引っ掛かっているんだか
言い終った事と千里の反応にひと呼吸した

『あの時…ヒロ君に何か言ったの?』

飲みかけた珈琲を思わずこぼしたまま止まった
さりげなくそれを拭く千里
本当に覚えて無いのか確認するが、嘘ではないらしい
なぜなら
嘘をついている千里の瞳(め)を見つめると潤んでくるからだ
今は
しっかり見つめ返している

何を言ったのか思い出そうと
あの日を始めから辿る千里
聞いていると
瞳(め)を閉じ、音と感覚と空気感の記憶に
千里の姿が入り込み
あの時の鼓動が甦ってくるようだ

『やっぱりダメ…思い出せない…私、何を言ったの?
ねぇ教えてよ
ヒロ君を困らせるようなこと?』

あの言葉は本当に零れ落ちた千里の想いだったんだ
思い出し
ひとり噛み締め愛しくなった

教えないと諦めないだろう
でも
なぜか照れくさくて
迷っている俺を見ながら
『…もしかして
あの頃のヒロ君が困るようなことって
さっき言い掛けた言葉だったりする?…』

『…そうだと思う…』

千里の瞳が潤み出し
『ごめんね…』
言葉と一緒に零れ落ちた

『ば、ばか…何で泣くんだよ』
『だって…
告白しといて違う人と付き合ったんだよ…』
『噂だったんだろ?悪かったよな、確認もしないで』

首を大きく横に振る姿が
幼い子供の頃を思いださせた

『ずーっと勘違いしてたんだ…私
気付いていながら知らん顔
彼氏出来て良かったな、なんて言われてショック受けて
ヒロ君のばかって思い続けて来たけど
ごめんね…
知らん顔してたんじゃなかったんだね
困らせてたんだよね…』

あの頃こんな風に話していたら
避けることなく話していたら
リュウ達に言わせれば
犠牲者が出なくて済んだかもな

気持ちを整理しながら落ち着くのを待った

近過ぎて
側に居ることが当たり前で
気を使うことなく話せた
それなのに
肝心な自分の気持ちになると話せなくて

だから
話せなかった

気持ちをハッキリすることが出来た千里は落ち着きを取り戻し
スッキリした顔になっている
それに比べ俺は
気持ちの方向はハッキリした
だが
いきなり『彼女』として見ることも
その枠をはめることも
今は出来ずにいる

そんな顔で見つめないでくれ
ふと…視線を反らす

『年期が違うからね
私の中のヒロ君の居場所はずーっと変わらなかったから
いいよ今のままで
あの頃の事がスッキリしたから平気
今までと違ってヒロ君がちゃんと見えるから

いいよ』

さっきまでポロポロ零れ落ちていた顔とは思えないスッキリした笑顔

言葉も想いも
胸に詰まるようで
苦しさを感じた

新しい珈琲を入れて戻って来ると
たわいもない思い出話しを始めた
生まれた時からの付き合いの長さだ話しは尽きない
改めて振り返ると
本当に俺達は一緒だった
周りにはいつもあいつ等がいて
支えてくれていた
ここに運んでくれた

気付くと外はうっすらと明るくなっていた
一気に現実が押し寄せて来た
仕事だ
会議だ
しっかり切り替えろ
両手で軽く顔をパンパンと叩いた

二人で外に出ると
大きく背伸びをするように両手を広げ深呼吸をした

一呼吸おき歩き出した

澄んだ空気と鳥の声に癒される思いで空を見上げた

いきなり背中に体当たりするような千里に思わず身体が支えきれず
何歩か踏み出した

腰に回した腕に力が入る
そんな手に視線を落とした

『いいんだよね
側に居て…
ヒロ君を好きでいて
いいんだよね…』

しがみつく千里に気を向け
軽く笑いながら
『ば~か…
「いいならづけ」なんだろ
俺達は』
『う…ん』
声にならないような声で
頷くのを感じた


慌ただしく数日が過ぎ
千里が報告しながら帰郷した
どんな風に話すのか心配はあるし
どう受け取るのかかなり心配だ

そして
留守電が入っていた
『もう、泣かせんじゃねぇぞ』
『ヒロ君、絶対幸せになってよ』
『もう、世話やかせんなよな』
『ヒロ君、千里をよろしくね』
『今度は二人で帰って来い』
『私は千里ちゃんの味方だからね』
『男は覚悟したら迷うな』

それぞれの言葉を聞いているうち
もしかして全て仕組まれていた?
じいちゃんの留守電から
俺が居た三日間の事全て…

勝ち誇ったような顔が浮かんできた
やりかねない
そう思った時

『ヒロ君…だぁ~い好き』

帰郷~いいならづけ~2

目覚ましの音で起こされた
二日酔いするほど飲んだ訳じゃないのに頭が、身体が重い
やっと立ち上がりカーテンを開けた
朝陽が目覚めていない俺を照らす
眩しさに片目閉じたまま窓を開けた
まだ暖まっていない空気と小枝を揺する風が気持ちいい
深い深呼吸と背伸びをしてどうにか目覚めた

それでもまだ、長い夢を見ていたような…それにしてはリアル過ぎる疲れだ
そんなあやふやな思いでテーブルの携帯電話を見ると
着信ランプが点滅していた

『無事に帰って来たか?
お前が羨ましいがるような土産話が山ほどあるから、連絡しろよな
待ってるぞー!』

近くではしゃぐ仲間の声
そうだよな
俺はあいつ達の約束を断ってまでして帰ったんだ

三日間の出来事が凄い速さで頭の中をかけていく
そして
最後まで話していたリュウと和音の所でストップした

仕事は順調で忙しいく
友達の土産話しを聞きに会いにも行けそうになく
連絡を入れた

家に帰ると自然に思い出していた
開けてしまったパンドラの箱によって思い出してしまった想い
知らされた事実

俺もたいしたことねぇな
それなりに隠してたはずなのに
千里に気付かれていたとは…
そのあとの日々はリュウに
あの日々はなんだったんだ

『何であんな事を言ったの』
和音の言葉がふと、浮かんだ
噂だけで確かめなかったのはまずかったかな…
だけど
あの時の俺にはきつかった
何であんな一言を言ったんだ
俺が千里に言いたい

『好、き、』

千里に言った訳じゃなかったのかもしれない
あの時をパンドラの箱に詰めて

『彼氏出来たんだってな
良かったな…』

鍵を掛けたのかもしれない

だから
千里が一人暮らしをすることでもめた時
普通に
本当に極普通に
家族のひとりのように

『俺のマンションに来るか?
でも千里、荷物多そうだからな
狭くて無理だよな』

俺の中の居場所か

いつどんな風に感じとろうが
今はあいつは歩き出してる
俺だってそれなりに

なんで今更
あの頃の想いを辿ってどうしろって言うんだよ

ビールを飲み干し
そのままソファーの上で仰向けに倒れた

『想いを残したまま通り過ぎると、いつまでも引きずり
本当にふっ切ったことにはなんねぇぞ
忘れる為に閉じ込めたんじゃなく
忘れたくないからからじゃねぇのか
お前の事見て来ていた事に安心してるんじゃねぇのか
格好付けてる場合じゃねぇだろう』

タケ兄が最後に言っていた事

『なんで分かんないんだろう
ヒロ君が何かに頑張っている時が一番格好いいのに…
連絡とかしなくなって
会う時間も作らなくなるヒロ君はちょっと酷いけど
同時進行出来ない不器用なんだもんね
好きな人が一生懸命になっていることの話しをなんで楽しんで聞けないんだろうね
見かけだけで無く不器用なとこも好きになってくれる人が現れるよ…きっと…たぶん…
ドンマイ!ヒロ君』

そんなことを言われたことがあったな

世話を掛けやがって…
そう思っていたけど

いつでも傍にいて
助けを求めに来て
俺の事を分かっているような生意気な事を言う

俺は
安心してたのか…

今更どうする
俺の想いの整理の為に
歩き出した千里を迷わせるような事
タケ兄も
リュウ達も
それをしてどうしろって言うんだよ

自分に向き合い
あの時の思い出と想い
今までの思い出と想い
気付いて良かったのか

目をふさぐように両腕を交差させ
全てを隠し握り絞めた



携帯電話のメール受信ランプが点滅した

『話したい事があります
日にちと時間は合わせます。
連絡を下さい』

千里の彼氏からだった

タイミング良すぎだろ
気付くとスケジュールを確認して
三日後21時と、連絡していた

約束の日迄
何があったのか
そういえば最近千里から連絡が無い
嫁に出した父親ってこんな感じなのだろうか
そんなことをふと、思った

やっぱり千里は
家族の枠の中なのだろうか

思ったより
俺は優柔不断らしい


約束の日
仕事が押して遅くなった22時過ぎた街中は
平日ということもあり人は疎ら
ご機嫌なお父さん達を何人か避けながら店に急いだ

千里も一緒に何度か来た待ち合わせの焼鳥屋に着いた
年期の入って色が黒ずんだ赤提灯
見た目と違い綺麗になっている暖簾
引き戸を開けると
いつもと違い空席が目立つ中
変わらない威勢のいい店員の掛け声に軽く応え
待ち人を探すと
店の隅でジョッキを見つめていた
注文してからテーブルに向かい
遅くなったことの挨拶をして上着を脱ぎ座るのと同時にビールが届いた

ほとんど反応が無く
想い詰めたような顔で相変わらずジョッキを見つめている
重い空気に
袖口のボタンを外しまくりあげ
第一ボタンを外しネクタイを緩め、一息吐き気にしながらも一気に半分ほど飲みジョッキを置いた

違った意味でまた一息吐き
向き合った顔は思い詰めているようで、会話のキッカケを探した

『一ヶ月位前、千里ちゃんのマンションに居た時に和音ちゃんが来たんです…
いつもなら一緒に食事したり話すのに
その日は…
立ち聞きするつもりなんか無かったけど
ヒロさん田舎に帰ったんですね
何があったのかは知りませんが
「ヒロ君にみんな話しちゃった
ゴメン…」
話さないんですよ
それから一言も
ヤキモチやくほどヒロさんの名前聞いていたのに
俺が名前出しても軽く流して
笑うんです
哀しいほどさりげなく笑うんです』

真っ直ぐに俺を見て話す
今までとは違う空気と真剣な想いが
俺をゆっくり押さえ付けるようで
テーブルに置いたジョッキから手を離すことすら出来なかった

温まってしまったであろうジョッキを手に取ると、残っていたビールを一気に飲み干し覚悟を決めたような顔でジョッキを置いた

『ヒロさんを紹介された時に気付いていたような気がします
こうなるだろうって
でも、どこかで期待してしまった、千里ちゃんの優しさに
出会う順番が違っていたら良かったのに
ヒロさんの彼女として会っていたら
このままでもいられたのに…
好きな人の為に身を引くなんてことありえないと思ってました
でも
彼女に出会って
好きになって
本気で好きになって
わかってんです
好きな人が本当の笑顔じゃ無いって辛いもんですよ
自分で気付いていない事が一番辛いんです
後悔はしていません
こんな想いを知りること出来たし
ヒロさんとも出会えたし
本気で女性(ひと)を好きになれたし
ただ
ヒロさんが遊び気分だったり
人として最低だったら
俺だって…』

「その気が無いのに相手をさせられた奴がいい迷惑だよな
自分で気付いてないのが質が悪い」
言われたことを思い出した
じんわりと締め付けられるように苦しくなった

『千里ちゃんのこと幸せにしてあげて下さい
ヒロさんなら仕方ないですからね』

軽く頭を下げ立ち上がった
思いも付かなかった展開に戸惑いながら
整理仕立ての自分の気持ちを思い出し
精一杯の想いに応えなければ
巻き込んでしまったことにに対してもきちんと応えなければ
焦るだけで言葉が出ないまま
一緒に立ち上がった

『ヒロさん…一つだけお願いがあるんですが』

申し訳なさそうに言い出した

『…千里ちゃんに気付か無かったことに…
俺の…未練を断ち切る為に…
ヒロさん…殴らせてもらいます』

真剣な瞳は潤んでいた
言葉になったかどうか一言告げ覚悟すると

バシッ!
椅子に倒れ込んだ
その様子と物音に店の中は一瞬騒がしくなった
痛かった
あいつの想いが
胸にも痛かった
千里を幸せにしろと全身で訴えるように店を出て行った

立ち上がり椅子を起こし整え
騒がした事をみんなに謝っていると
『使えっ』
店長がおしぼりを投げて来た
ちょっとこわおもてだがどことなく、タケ兄に似ている
だからこの店が居心地良かったのかもしれない

切れた口元を拭くと
『イテッ!』

帰郷~いいならづけ~1

『千里は、ヒロ君のお嫁さんになる!』
『千里は、ヒロがそんなに好きか?』
『うん!だぁ~い好き』
『そうか…じゃーヒロのお嫁さんになって、じいちゃんの本当の孫になるか』
『うん!千里はおじいちゃんもだぁ~好き!』
『そうかそうか…
千里はヒロの許婚(いいなずけ)になるか
千里をお嫁さんにします
ヒロのお嫁さんになります
そう決めた人のことだ』
『うん!なる!
いいな、いいなら…
いいならづけ-!』

15年前

正確に言えないような
アニメヒーローに憧れる
5歳の少女と
じいちゃんとの約束

俺の知らないとこで交わされた
単なる子供の頃の
(ままごと)の延長のような
成長と共に薄れて
忘れ去られるはずの
                約束のはずだった

大人達は
子供の千里に合わせていただけだったんだろ

俺だけだったのか

部屋にこもる祖父
車庫で道具の手入れをする父親
片付けの後もキッチンに居る母親
気まずい空気

だからって
どうにか出来る事じゃない
ドアノブに手をかけたけど
じいちゃんの顔見るのが切なく

『ごめんな…じいちゃん…』

言葉が続かなかった
手を離しドアに背を向けた

『ヒロ…気にするな
いつでも帰って来い…』
『わかってるよ…俺の家だからな』

ドアを挟みお互いに背中合わせの一言が
じんわりと背中に伝わり
気まずい空気が和らいだように感じ、軽く笑顔になった



夜遅くに地元の友達から連絡があり家をでた

昼間からカラオケ…

学生時代から集まる時はここだった
何処で何をしていてもばれる
まあ、ここも親達の手の中だが
部屋の中では唯一自由だった
だから
好きな女の子の話しとかも…

そんなことを思い出しながら気付くと着いていた
懐かしい建物

変わってない…
て、いうか少しは新しくしたほうがいいんじゃないかと思うほど、あの頃のまま

ドアを開けると
四人の友達とオーナーのタケ兄(にい)が話し込んでいた
タケ兄は10歳上でちょっとヤンチャだった。けど、俺達にはいつでも味方してくれる優しい兄貴のような…

一気に戻った

声をかける間もなく
懐かしい言葉と一緒に手荒い歓迎を受けた

部屋に移る前にアルコールを頼む俺達をしみじみと見て
『お前達が堂々と飲むようになったか』
溜め息をつくようなタケ兄

五人共同じ事を思い出していた

10年位前…俺達が中ニの春休み
隠してたって飲めばバレるのに
この部屋だった
缶ビール一本ずつ開け勢いで飲んだ時             いつもなら来ないのに

『何こそこそしてるかと思えば』

やばい!
全員下を向き覚悟をした

『何覚悟決めたような顔してんだよ…殴られるとでも思ったか?』

一瞬、気が抜けた…

『何言ったて、好奇心あおるだけだからな…止めろって言って止めるようなら隠れてしやしねぇだろ?
止めやしねぇよ…
で…どうだ旨かったか?
旨いって顔じゃあねぇな…
酒もタバコも飲みたけりゃ飲めばいい
だけどな
そんなもんは大人になれば自然と嫌でも飲むようになる
飲まずには要られないような事が山ほどある

今のお前等にしか出来ねぇ事、味わえねぇ物があんだろ
過ぎてからじゃ取り戻せねぇんだからよ…

見た目だけ真似て格好つけていい気になってるような奴等にはなるな
本物になれ
お前等のおやじさん達みてぇにな

横道にズレた俺からの忠告だ』

やっていいと言われると気持ちが薄れるもの
あのほろ苦さはタケ兄の言葉と一緒に今も残っている
裏切れない…そんな気持ちが俺達の中にお互いが感じ
そのお陰なのかどうか
真っ直ぐ突っ走って来た気がする

思い出話しは尽きなかった

突然なんの前触れも無く

『俺、今年の秋、結婚するは』

『なにぃ~』
言葉に詰まった後
無茶くちゃ手荒い祝福でまた一盛り上がりした

そう
もうそんな歳なんだ…と、
4人を見ていると
言い出した本人がまた妙なひと言

『結婚するのヒロが一番早いと思ってたけどな』

また突然どっからでた発想なんだと、思ったのは俺だけらしく
何なんだもっともらしいその顔つきは…

中でも一番気が合い何かとライバルで、ぶつかり合ったリュウ
千里が親友だという和音(かずね)の兄貴でもあり
4人の情報はそれなりに行き交い、間に上手く入り合いながらいい関係だ

そんなリュウまでが

『いいならずけ…じゃなかったのか?』
本気であのままごと約束を信じて…たって訳じゃないよな
妙な笑顔だ

『そんな約束の事より…
お前達を見てた奴なら、いつハッキリするんだって思うだろうな
気にしてなかった訳じゃないだろ』

そんなことを言われても
気にするとかしないとか
俺の中では何なのか分からない
それに
俺にも千里にもは付き合った奴もいるし
まあ、長くはもたなかったけど
確かにいた
訴えてはみたが

『いい迷惑だったろうな、相手した奴』
『その気があった訳じゃないのに』
『そこに気づかないでいるから、質が悪いよなお前達二人は』
『本当に自分の気持ちに気付いてないのかね』

ちょっと待て
何でお前達にそんなことを言われなければならない

リュウがここでは聞かないでおこうと思ったけど、と前置きしてから千里の事を話した
和音に聞いたのだろう
昨夜家族に話した事を話すと

『それでいいのか』

ハモるなよ
じいちゃんと同じ反応すんなよ
そのあと
まるで万引きか何かして事務所で取り調べされているように

しばらくの間
色んな事を聞かれ答え
俺の中で複雑な想いが広がっていくような気がしていた

そんな俺の想いを察してか
まあ
話し尽くすというか
自分達が思っていたように俺達が思っていないことが分かったのか
少し不満げな雰囲気で俺は解放された

ただ一人を残して

急な集まりで良く分からないまま
懐かしい話しはそれなりにできたが
俺の為か
まだまだ解散には早過ぎる時間に別れた
秋に結婚式で会うことを楽しみに

リュウと二人になると
『千里のこと幸せにしねぇと許さねぇからな
あいつは誰よりお前を分かってたんじゃないのか
あいつなりに切り替える努力はしたんだろうからな
いい加減向き合ってやれ
それでもお前の中で女として見られないなら
ちゃんと話してやれ
男としてのケジメをつけて
千里をお前から解放してやれ』

一発殴られるんじゃないかと思うほどの真剣な目に
言葉の意味を理解することも
身動きも出来ず
視線すら反らすことが出来ず返事をしていた…と、思う

まるで
怖いお兄さんに絡まれているようにしか見えなかっただろう

俺の様子を察してかどうか
リュウが断ち切るように話しだし助かったように思ったのは一瞬だった

忘れようとしていた
あの頃の想いを閉じ込めた
俺にとってはパンドラの箱を開けることになった

『ヒロ、お前さ高二の秋頃
千里のこと妙な意識の仕方してたよな』
こいつは何か知っているのか
気付かれていた
存在さえ忘れていた箱を見つけ動揺する自分を感じていた

そしてついに
『千里のFirst Kissだったんだよ』

帰った仲間に俺の居場所を聞き突然現れた和音
なぜか一緒に戻って来た三人も含め、いい大人の男六人が久しぶりに聞く言葉に照れるように視線が定まらなかった

『ヒロ君、気付いてたんでしょ?なぜ8月20日だったのかってことと、千里がKissしたこと』

俺のパンドラの箱は開けられた

そう
高二の8月20日
千里が中一
夏休みの課題の追い込みに集中力が切れベットに横になった
どれくらいたったのか
微かに名前を呼ばれたような気がした
部屋に入る気配に
「千里?」
俺の中だけでの問い掛けだったのか返事はなく
洗いたてのシャンプーの匂いと、微かに肌の温もりを感じた
まだどこかで現実なのかハッキリしなく目を開けられなかった
そして意識がハッキリし始めると同時に
鼓動が早くなるのを感じ
悟られないないよう気にしている俺がいた
近づく鼓動と重なった時
微かに聞こえた言葉に気を引かれた俺の唇に
ほんのり甘い香りと一緒に柔らかな唇の感触が

部屋を出たのを気配で感じ
ベットに座り
零れる落ちたような
『好き』の一言と
甘い香りと柔らかな唇の感触
現実だったのかハッキリしないまま
窓に近づくと
『英語教えてくれる約束だったのに、寝てるなよな…ヒロ君に貸し一つ高くつくから覚えておいてね』

リュウの言う通り
俺の中で何かが変わった
戸惑っている自分を隠すことを気にしてたな

だけど
それも半年後には
そんな出来事もそんな想いも
閉じ込めることになった

千里に彼氏が出来たことで…


思い出から戻ると
それぞれのFirst Kissの話しで盛り上がり
和音が呆れる顔で聞いていた
ふと、一人と目が合うと
『ヒロのFirst』Kissは有名だったよな』
『なんせうちの中学のマドンナとだもんな』
『二つ年上のマドンナに…上手くやりやがったよな』
『マドンナに奪われ、卒業後はさよならで
千里ちゃんのは奪っておいて、知らん顔
罪な男だねヒロは』

言いたいことを言いやがって
言っておくが奪った覚えは無いからな
『気付いていたんだろ?止める事も避けることもしなかったんだ…奪ったようなもんだろ』

リュウ…もしかして今も千里のこと
前からそんな気がしていた、というか見え見えだったんだけど

いい加減イラツき出した和音の言葉を止めるように
『分かった!8月20日はヒロがマドンナにFirst Kissを奪われた日だ』
『そうです
5歳と10歳は子供だけど
中三と中ニは大人のKissだって兄貴達が言ったんだからね
だから千里…
一大決心だったんだよ

鼓動が…
苦しくなるくらいの鼓動がね
ヒロ君の鼓動と調和した時
気付いたんだって
ヒロ君は目が覚めている気付いている
そうしたら別の緊張も出来たけど
知らんふりしてくれているヒロ君と
一緒に打っている鼓動で落ち着けたんだって』

和音は千里のことを淡々と話してくれた
半年後の彼氏騒動は誤解

『私も千里も兄貴とヒロ君のおかげで、男友達は多く気軽に遊びに行っていた
そんな調子で顔見知りになった他中のあいつと一度遊んだだけ
なのに噂は広まった
だけどどう言っても言い訳になるからほっといてたら

千里のした事に気付いていて、止めなかったのに
何であんな事を言ったの
どうでもよかったの
どうして千里を一人にするの』

思わず熱くなる和音をリュウが止めながら

『一人暮らしのことでもめてた時、
お前、千里に何を言ったか覚えてるよな?
「ヒロ君の中で自分が何処に居るのかが分かったような気がする」
そう言って頑張って笑っててたの知ってたか
それで本当の千里として歩いているなら
それでいい…
だけど、違うだろ』