帰郷~いいならづけ3~ | ~From.裕~

帰郷~いいならづけ3~

ドアが開きひとりお客なのか入って来た

その足音は真っ直ぐに近づいて来る
そして

『ヒロ君、大丈夫?』

心配そうな顔の千里だった

12時迄に来ないと魔法は解けないで
妹のままだよ
伝えておいで

そんなメールあり駆け付けた店先で
彼氏と鉢合わせし
『来たね、良かった
千里ちゃんの気持ちが本気だって分かった…
きっと大丈夫だから
いい人で別れようと思ったんだけど
ごめん
君の大切な人
殴っちゃったよ

千里ちゃんに出会った事も
ヒロさんを殴った事も
後悔していないから

今までありがとう』

右手を撫でながら、頑張って笑顔の彼氏に何も言えずただ
『ありがとう…』
笑顔で言うのが精一杯だったと申し訳なさそうに話した

店を出ようとすると

『気付かせて貰ったんだ
その痛み忘れるなよ…
二人で笑ってまた食べに来い』
視線を合わす事なく話す店長に
ぎこちない笑顔で応え店を出た

何処に行く宛てがある訳ではないまま歩き出していた
今までに無いにぎこちない空気感に戸惑い言葉が出ない
何か話そうと口を開くと
『イテッ』
思わず声が
手で押さえながら
『明日、会議があるのに…まずいよな』
『痛そう…
そういえば、前にもあったよね大事な時に…
大学受験の前だ!リュウ君に殴られたんだよね?
理由は何だったの?』

そんな事があった
あの時も同じ位痛かったっけ
俺は…
2回とも千里絡みで殴られ…
理由は言えないな
隠し続けてくれたリュウの為にも

軽く聞き流すように答えると
俺の顔を覗き込み
『ふ~ん』
疑い深い顔で一言

一言だけというのがどこと無く怖さがあったりする

24時過ぎ
さすがに人が疎らだ
店のショーウィンドーの明かりが眩しいとりあえず24時間の店に入った

わりと居るもんで
色んな理由で居るのだろうが
何でわざわざここで…
と、思ったがその中の一人か

テーブルを間に千里と向き合い座った
何度もこんな風に座り話した事はあるのに…落ち着きがない
俺は中学生か

そんな俺の前に珈琲を置くと
特に変わる事が無いまま座る千里
女性(おとな)に見え妙な感じだった

『どうかした?
何か変だよ…
中学生の初デートみたいだよ
ヒロ君らしくないよ』

見透かされた

ごまかすようにどうにか話しをし始めたが
笑うのを我慢しているのが気になり話しを止めると
『ごめんなさい。
笑うつもりは無いんだけど
いつもと違って一生懸命に話すんだもん…
「なんか可愛いんだもん」』

調子が狂ってしまい
上手く話しが続けられない
どのくらいだろう静かに時間が過ぎ
ゆっくり千里が話し出した

『分かっていたんだよね
ヒロ君にとっては妹の粋を出ていないって
諦めなくちゃって思うたびに
思い出しちゃうんだよね
あの時の事…
ヒロ君は気付いていたんでしょ
私を止めることも
避けることも出来た
でも
しなかった
受け止めてくれたのかもって
都合のいい思いが甦って
また
甘えちゃったんだよね…

頑張ったんだよこれでも』

頑張って笑う千里

「千里なりに切り替える努力をしてきたはずだ
向き合って話して、解放してやれ」
タケ兄の言う通りだ
中途半端な俺の態度で迷わせていた
話さないとな
あいつが一番知りたいはずのあの頃の俺の気持ち

『「俺のマンションに来るか」
ヒロ君にそう言われた時ハッキリしたんだ
やっぱり妹なんだって
だから本気で
彼と付き合ったんだけど

ダメだったみたい
ヒロ君のことは忘れるとかそういうことじゃないみたい
ヒロ君の中でどうんな場所に居ようと
私の中では一人の男性(ひと)

もう隠さない
逃げない
彼が気づかせてくれた
本当の気持ち

私…ずーっと前から
ヒロ君のこと…』

『ちょっと待て』

真っ直ぐに見つめ話す千里
俺も同じ
千里の彼氏に
リュウ達に気づかせてもらった
千里にあの時のように言われたら
また同じになりそうで
慌てて止めた

あの時なぜ止めることも避けることもしなかったのは
俺の中に千里と同じ感情があったのかもしれない事
何より
千里の一言に気を取られていた事
その一言が思うよりも俺に影響をもたらし
悟られないようにしてた時
千里の彼氏騒ぎに
結構らしくないショック受けた事
自分の想いを封印する為に言った
「彼氏出来てよかったな…」
俺なりに精一杯話してみた

途中から千里の様子が変わった
何か疑問を抱えながら聞いているようだった

俺としてはちょっとした告白のような話しをしたはずなのに
反応が…
何に引っ掛かっているんだか
言い終った事と千里の反応にひと呼吸した

『あの時…ヒロ君に何か言ったの?』

飲みかけた珈琲を思わずこぼしたまま止まった
さりげなくそれを拭く千里
本当に覚えて無いのか確認するが、嘘ではないらしい
なぜなら
嘘をついている千里の瞳(め)を見つめると潤んでくるからだ
今は
しっかり見つめ返している

何を言ったのか思い出そうと
あの日を始めから辿る千里
聞いていると
瞳(め)を閉じ、音と感覚と空気感の記憶に
千里の姿が入り込み
あの時の鼓動が甦ってくるようだ

『やっぱりダメ…思い出せない…私、何を言ったの?
ねぇ教えてよ
ヒロ君を困らせるようなこと?』

あの言葉は本当に零れ落ちた千里の想いだったんだ
思い出し
ひとり噛み締め愛しくなった

教えないと諦めないだろう
でも
なぜか照れくさくて
迷っている俺を見ながら
『…もしかして
あの頃のヒロ君が困るようなことって
さっき言い掛けた言葉だったりする?…』

『…そうだと思う…』

千里の瞳が潤み出し
『ごめんね…』
言葉と一緒に零れ落ちた

『ば、ばか…何で泣くんだよ』
『だって…
告白しといて違う人と付き合ったんだよ…』
『噂だったんだろ?悪かったよな、確認もしないで』

首を大きく横に振る姿が
幼い子供の頃を思いださせた

『ずーっと勘違いしてたんだ…私
気付いていながら知らん顔
彼氏出来て良かったな、なんて言われてショック受けて
ヒロ君のばかって思い続けて来たけど
ごめんね…
知らん顔してたんじゃなかったんだね
困らせてたんだよね…』

あの頃こんな風に話していたら
避けることなく話していたら
リュウ達に言わせれば
犠牲者が出なくて済んだかもな

気持ちを整理しながら落ち着くのを待った

近過ぎて
側に居ることが当たり前で
気を使うことなく話せた
それなのに
肝心な自分の気持ちになると話せなくて

だから
話せなかった

気持ちをハッキリすることが出来た千里は落ち着きを取り戻し
スッキリした顔になっている
それに比べ俺は
気持ちの方向はハッキリした
だが
いきなり『彼女』として見ることも
その枠をはめることも
今は出来ずにいる

そんな顔で見つめないでくれ
ふと…視線を反らす

『年期が違うからね
私の中のヒロ君の居場所はずーっと変わらなかったから
いいよ今のままで
あの頃の事がスッキリしたから平気
今までと違ってヒロ君がちゃんと見えるから

いいよ』

さっきまでポロポロ零れ落ちていた顔とは思えないスッキリした笑顔

言葉も想いも
胸に詰まるようで
苦しさを感じた

新しい珈琲を入れて戻って来ると
たわいもない思い出話しを始めた
生まれた時からの付き合いの長さだ話しは尽きない
改めて振り返ると
本当に俺達は一緒だった
周りにはいつもあいつ等がいて
支えてくれていた
ここに運んでくれた

気付くと外はうっすらと明るくなっていた
一気に現実が押し寄せて来た
仕事だ
会議だ
しっかり切り替えろ
両手で軽く顔をパンパンと叩いた

二人で外に出ると
大きく背伸びをするように両手を広げ深呼吸をした

一呼吸おき歩き出した

澄んだ空気と鳥の声に癒される思いで空を見上げた

いきなり背中に体当たりするような千里に思わず身体が支えきれず
何歩か踏み出した

腰に回した腕に力が入る
そんな手に視線を落とした

『いいんだよね
側に居て…
ヒロ君を好きでいて
いいんだよね…』

しがみつく千里に気を向け
軽く笑いながら
『ば~か…
「いいならづけ」なんだろ
俺達は』
『う…ん』
声にならないような声で
頷くのを感じた


慌ただしく数日が過ぎ
千里が報告しながら帰郷した
どんな風に話すのか心配はあるし
どう受け取るのかかなり心配だ

そして
留守電が入っていた
『もう、泣かせんじゃねぇぞ』
『ヒロ君、絶対幸せになってよ』
『もう、世話やかせんなよな』
『ヒロ君、千里をよろしくね』
『今度は二人で帰って来い』
『私は千里ちゃんの味方だからね』
『男は覚悟したら迷うな』

それぞれの言葉を聞いているうち
もしかして全て仕組まれていた?
じいちゃんの留守電から
俺が居た三日間の事全て…

勝ち誇ったような顔が浮かんできた
やりかねない
そう思った時

『ヒロ君…だぁ~い好き』