「まさか、かつての身内が背くは
ずがない」と高をくくっていたら
、後ろから撃たれてしまった。放
送法の政治的公平をめぐる総務省
の行政文書を「捏造」と主張して
いた高市早苗元総務相はそんな胸
の内ではないか。1昨日の参院予
算委員会で、総務省幹部は記述さ
れていた「高市氏へのレク(説明)
」が「あった可能性が高い」と答
弁し、局面は一挙に高市氏に不利
になった。それでも当事者である
放送メディアは、政府批判を控え
る及び腰姿勢が際立つ。まるで「
安部政権の背後霊」におびえて、
政府への「自発的隷属」を続け、
視聴者に恥じる気配もない。
さすがに文書の「捏造」を明快に
否定した1昨日の国会は詳報され
るだろうと予想していたが、昨日
の朝の情報番組の中で、これを十
分に報じた局は見当たらず、どこ
も相変わらず試合もないのにWB
C野球に過剰なまでに時間をさい
ていた。それは、放送法をめぐる
文書報道が政府を刺激したくない
と慮っているような扱い方だった
。高市氏は次々と当初の強弁を軌
道修正している。「悪意をもって
捏造」から「内容は不正確」に変
わり、「紙に書かれていることは
不正確」などところころ釈明内容
を変えた。
笑ってしまうほどお粗末な答弁だ。
「テレビ朝日に公平な番組なんて
あると書かれているが、テレビ朝
日をディスるはずもない。羽鳥ア
ナウンサーの大ファンなので」
言うに事欠き、閣僚にふさわしく
ない場当たり的な国会答弁に、身
内の予算委員長に「答弁は簡潔に
」と注意されたほどだ。それでも
「今まで我慢してきた」と言い張
り、与野党の議員から眉をひそめ
られた。もう閣僚に踏みとどまる
限界を超えたように見える。
今回の審議の最重要なテーマは「
放送の自由が守られているか」で
ある。今回明るみになった行政文
書はそれを疑わせる安倍政権時代
の政府方針に至る詳細な経過であ
る。岸田文雄首相は当時の外相で
あり、政権の言論弾圧に加担した
閣僚の一人である。「(放送法の
)解釈変更でなく、補充的な説明
をしたとの考え方を維持している
」との首相答弁は、この文書が「
検閲は、これをしてはならない」
と定めた憲法21条に抵触すること
を危惧しているからこその逃げに
見える。
それほど、この文書は民主主義国
家の根幹を揺るがせる「報道規制」
の深刻さをはらんでいる。201
5年、高市氏が国会で「一つの番
組のみでも、極端な場合には政治
的公平さを確保しているとは認め
られない」との見解を示した。こ
の国の放送メディアが顕著に萎縮
し始めたのは、この恫喝まがいの
見解後だったのは、多くのメディ
ア研究者の一致した見方だ。
立憲など野党は高市氏の「閣僚辞
任・議員辞職」だけに照準をあて
ず、改めて報道の自由を取り戻す
契機にする覚悟が重要だ。放送法
3条は「何人からも干渉され、規
律されない」と定めている。安倍
政権以降、この文書の政府見解を
踏襲しながら放送局の番組に政治
介入し世論操作してきた実態を、
放送業界内部からも呼応して明る
みに出す機会であろう。
それができず、押し黙ったまま見
過ごすと、一段と政府の政治介入
を強めることにつながる。放送局
経営者や幹部が政府からの距離感
を保てず、政府要人らと会食を重
ねるなどは「自発的隷属」体質に
どっぷりと染まった表われである。
放送業界全体の「報道の自由が毀
損されている」という自覚なしに
ジャーナリズムの再生はない。
【2023・3・15】