「必勝しゃもじ」を贈る浅薄さ | 平野幸夫のブログ

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ギリシャ語を語源とする「クロニクル」という
言葉があります。年代記、編年史とも訳されま
す。2014年からの独自の編年記として綴りま
す。

「すべてはG7の議長国の面子の

ため」。隠密を気取ってウクライ

ナを訪問した岸田文雄首相の心情

が透けてみえる。帰国後の国会で

は「必勝」の字が書かれたしゃも

じをゼレンスキー大統領に贈った

ことが「戦場に行って、あまりに

も不適切だ」と追及された。首相

本人か側近か誰が指示したのか、

その浅薄な思いつきに言葉を失う

ほどだ。欧州訪問時の首相長男の

観光に続き、弛緩した思考による

振る舞いが絶えない。根底には「

G7議長国」の立場を最大限利用

し政権浮揚を図る目論見がある。

参院で「必勝しゃもじ」の適切性

を問われた岸田首相は「祖国や自

由を守るために戦っている努力に

敬意を表したい」と答弁になって

ない理由を述べた。「敵を召し捕

る」との意味がある地元広島の縁

起物が土産にふさわしかったのか

疑問だらけだ。何より、日本が戦

争相手でもないロシアを「敵」と

見なせば、改めて不必要な緊張を

呼び起こす。常に生死の境目にあ

るウクライナの兵士や市民にも「

だじゃれ」が込められた土産は不

謹慎極まる。側近の誰も止められ

なかった官邸。その機能不全ぶり

がさらけ出された格好だ。

今回のウクライナ訪問は首相が演

出した「電撃」ではなかった。す

でに2月時点で、インド訪問直後

にウクライナに向かう可能性があ

ることが一部の夕刊紙などで報じ

られていた。公然となっても「電

撃」を演出し、ウクライナ訪問を

強行したのは、G7トップでただ

一人現地に足を運んでいなかった

焦りからだった。

その舞台裏を昨日の朝日新聞が詳

報していた。それによると、バイ

デン米国大統領とイタリアのメロ

ーニ首相が訪問した2月20日ごろ

、岸田首相は外務省幹部に強い口

調でこう指示したという。


「安全と保秘を徹底した上でキー

ウにいけるよう調整してくれ。そ

れができなければ、外務省なんて

いらねえ」

外務省幹部の顔がこわばったとい

うが、自分の都合を優先させ、思

い通りに動かそうとする独善ぶり

が「いらねえ」という言葉ににじ

んでいる。

岸田首相は地元広島で開いた新春

の後援会でG7広島サミットの公

式ロゴを入れた、自身の似顔絵入

りの饅頭を配っていた。首相は外

務省から承認を得たというが、度

を超えたG7の政治利用も問題視

されている。外務省は政治活動を

目的としたサミットのロゴ使用は

認めないと規定している。首相は

サミット機運醸成のためと弁明し

ているが、後援会参加者に配布し

たのは明らかに政治の私物化であ

る。安倍元首相の「桜を見る会」

を思い出す。「安部背後霊政権」

と呼ばれるのは、政治家としての

発想や体質が同じからだろう。ま

さに「真実は細部に表れる」であ

る。

「G7饅頭」といい、「必勝しゃ

もじ」といい、首相周辺に迷いも

なく実際に贈った経緯からは、サ

ミット開催の意義や和平に導く意

思などはみじんも伝わってこない

。国会で連日野党が追及する放送

法文書や統一教会問題など民主主

義の根幹を揺るがす政治課題につ

いて、岸田首相は何ら政治決断を

示さないままだ。総務省から「文

書捏造」を否定された高市早苗総

務相は依然居座り続けているが、

岸田首相は「更迭は論理の飛躍」

とかばい立てる。春なのに、嘆息

ばかりの日々だ。首相に政治の要

諦を説いたは中国の古典「春秋左

氏伝」にある警句を贈りたい。

「衆怒は犯し難く、専欲は成り難

し」


大勢の人の怒りを招くと、それに

対抗するのは難しく、自分一人の

欲望を満たそうとしても成功しな

いという意味だ。


    【2023・3・25】