国会では防衛費倍増と少子化対策
ばかりに焦点が当たっているが、
その裏で高齢者を痛めつける看過
しがたい法案がこっそり閣議決定
されようとしている。自民党政権
の広報紙化している読売新聞が「
75歳以上の高齢者を負担増にさせ
る医療制度改正案が提出される」
と報じたのである。この目的は出
産時に支払われる「出産一時金」
を50万円に増額させるための財源
確保のためという。何のことはな
い、高齢者が支払ったか医療保険
料を政権の人気取りのために転用
させるだけだ。試算では年間1万
円以上も保険料が増額になるケー
スもある。高齢者はもっと怒りの
声を上げるべきではないのか。
歴代の首相や官房長官が毎月のよ
うに読売新聞本社を訪れ、渡邉恒
雄主筆ら幹部と会食をすることは
メディア界ではよく知られる。最
高部数を誇っているとはいえ、部
数減が激しい新聞界で、今なお渡
邉氏が政界に隠然たる力を保持し
ていることに驚かされるが、真正
面から政権批判をしない読売と自
民党がお互いに利権を享受しあっ
ているとみれば、双方が発信する
政策やニュースは一体化していて
もおかしくない。特に読売の政治
報道は政権中枢からリークされた
内容を世論の動向を探る観測球の
ように流されることがある。
先週末の4日、読売は「健康保険
法などの改正案の全容が判明した」
と報じた。「全容判明」という文
言にはスクープ気取りがにじんで
へきへきさせられるが、法案策定
者に近い政治家らからリークして
もらったであろう情報の中身は事
実と思わせる具体性があった。
記事を要約した前文には、「公的
医療保険から支払われる出産育児
一時金を50万円にするための財源
確保のため」とある。そのために
は「現役世代の負担軽減のため後
期高齢者医療制度を見直すのが柱
」とあり、そこに負担増を強いら
れる側の痛みへの共感はみじんも
もなく、立案側と一体となった酷
薄なスタンスがうかがわれる。
負担増を強いられる後期高齢者の
年金収入が153万円を超える人
の4割が対象になるという。試算
では年収400万円の人は年間1
万4000円もの増額になるとい
う。
岸田政権はこんな高齢者を痛めつ
けるような健保改正案を昨年、一
昨年の衆参院選挙で一切公約に掲
げておらず、だまし討ちのような
改悪案ではないか。出産一時金が
増えるとだけ聞けば、若い現役は
喜ぶかもしれないが、「老骨に鞭
打つ」ような中身を知れば、反発
を招く可能性もある。最も見逃せ
ないのは、人気取りの目玉政策の
ために世代間で「分断」を招くや
り方だ。
そもそも防衛費倍増に伴う増税の
目くらましのための出産一時金増
額でもある。一方で防衛費増税に
ついては、全容を明らかにしてい
ないが、復興税やたばこ税の転用
だけはしっかり決めてしまった。
こちらも「弱い者いじめ」で分断
を図る狡猾さである。財務官僚の
入れ知恵をそのまま受け入れた岸
田首相のだらしない姿がはっきり
浮き彫りになったともいえそうだ
。
世界に目を移せば、フランスでは
マクロン政権が年金支給年齢を62
歳から64歳に引き上げる改悪法案
がを打ち出し、2月に入って全土
で約127万人がデモに参加し「
NON]の声をあげた。
また10%以上の記録的なインフレ
が続く英国ではわずか2%増の賃
上げしか実現できなかったスナク
政権に対し、交通、医療など公共
部門のストライキが拡大している
。1日には過去数十年で最大にな
る約50万人ものストも起きた。ス
ナク首相の支持率は17%台に落ち
込んだという。
これに比べて、日本は政治の劣化
に世論の反発が高まらない。見方
を変えれば、自らの生活に打撃や
痛みしかももたらさない政権を変
える好機でもある。日々、政治を
しっかり監視するため、情報をク
ロスし政権に都合の良いのプロパ
ガンダ情報を排除したい。
【2023・2・6】