「専守防衛」の国是を大転換させ
る防衛費倍増予算が財源不足をめ
ぐって岸田政権が大揺れだ。使い
途が分かっていないのに、岸田首
相は来年度からの5年間の防衛予
算を5倍強の約43兆円に増やすこ
とを決め、不足財源を増税でまか
なうと表明したが、党内安倍派か
ら「新たな赤字国債を発行すべき
」という要求が強まった。さなが
ら「岸田おろし」の様相を呈して
いる。党内合意もとれない性急な
予算編成方針が自ら墓穴を掘るこ
とにつながるかもしれない。そも
そも想定する相手国から際限のな
い反撃を招きかねない。想像力に
欠ける対米追随予算は、やがてこ
の国を亡国の崖っぷちに追いやり
かねない。
今回の反撃能力保持と防衛予算倍
増は国会の審議を経てない。かつ
て安倍政権時代に、毎日放送の報
道番組で、安保法制の是非を論じ
たあった柳沢協二・元内閣官房副
長官補は強く今回の政策決定を批
判している。その警鐘に耳を傾け
たい。
「中国や北朝鮮は相当数のミサイ
ル施設があり、全て一気につぶせ
なければ、日本が報復される。…
…さらに相手国の国土をたたけば
、むしろ日本を攻撃する理由を与
え、ミサイルの応酬により国民に
甚大な被害が出る」(30日付け東
京新聞)
「専守防衛」については「国土防
衛に徹し、相手の本土に被害を与え
るような脅威にならないと伝え、
相手に日本を攻撃する口実を与え
ない防衛戦略だ。(先制攻撃能力)
を持てば専守防衛は完全に崩れ、
有名無実化する」と危惧する。
1500発もの核弾頭の保有を目
指す中国に、根拠が不明のまま仮
に先制攻撃した場合、かえって圧
倒的な武力行使によって、完膚な
きまでに反撃され、国土が蹂躙さ
れるのは必至である。現在でも彼
我の戦力の差を冷静に分析すれば
、外交によって攻撃させない道を
探ることこそ最重要ではないのか
。
柳沢氏の指摘は素人でも分かりや
すい分析で、大いに納得すできる
。政府方針は相手国が攻撃に着手
したことをどう認定するのかとい
う根本的な疑問が払拭できていな
い。今春、参院の公聴会に出席し
た名古屋大の松井芳郎名誉教授は
「政府は武力攻撃の発生時点につ
いて、具体的な定義をはっきりさ
せていません。自衛権を行使する
には相手国の武力攻撃が先行する
必要があるというのは、国際法、
または裁判所の判例でも一致して
認められていません」と政府の前
のめりの判断に疑念を投げかける
。
さらに「相手国の『着手』の判断
は客観的事実で裏付けられたもの
でなければなりません。『着手』
のあり方も多様で具体的に定める
のは大変難しいです」と解説する
。専門家でさえ、定義ができない
のが現実なのである。
一方昨日、衝撃的なスクープを月
刊文春が報じた。「日本の信者ら
から集めた統一教会のマネー45
00億円が北朝鮮のミサイル開発
資金に使われた可能性がある」と
米国国防総省の報告書が一部機密
解除されたという。事実なら岸田
政権が成立を急いだ被害者救済法
は、自民党の過去の教団との癒着
を目隠しする効果をもたらす。教
団の「底知れぬ闇」を白日にさら
さなければ、この国の浄化はでき
ない。
自民党の政策懇談会で、岸田首相
の増税表明に安倍派議員を中心に
「選挙に影響大」と赤字国債によ
って防衛費倍増の不足財源をまか
なうべきと強い反発がでたが「な
ぜ先に倍増ありき」か根拠が不明
のままだ。一基何百億もする長距
離ミサイルの保有やステルス戦闘
機の開発など次々、防衛利権がら
みの構想が表面化するが、インフ
レ脱却や賃金上昇政策などは何ら
具体政策がみえない。「亡国の予
算編成」を引き続き厳しく監視し
なければならない。
【2022・12・11】