「変なヤクザに絡まれたって話で
はないか」。安部政権が言論弾圧
していたことを示す総務相の行政
文書には同省出身の山田真貴子首
相秘書官が同省局長に怒るシーン
が詳細に記述されていた。安部首
相の意向を受け、放送行政に露骨
な政治介入をしてきた礒崎陽輔首
相補佐官を「ヤクザ」呼ばわりし
て、わずかながらもまだ気骨を示
していた。当時の上司でこの文書
を「捏造」と決めつけた高市早苗
経済安保相は自分の部下の職務の
正当性を否定したことにもなる。
こんな「天に唾する」行為を悔い
ないしても悔いない閣僚は辞任と
は議員辞職を迫られても当然だろ
う。
この行政文書に記述されていた高
市発言は生々しい。「政治的公平
」をうたった放送法4条の解釈変
更を迫った礒崎首相補佐官からの
伝言を同省幹部から聞いた高市元
総務相は「そもそもテレビ朝日に
公平な番組なんてある」と問いか
け「官邸には『総務大臣は準備し
ておきます』と伝えてください」
と指示していた。
礒崎首相補佐官は総務省局長から
「菅義偉官房長官にも伝えておき
ます」と言われ、「局長ごときが
言う話ではない。この件は俺と総
理が2人で決める話」「俺の顔を
つぶすようなことになれば、ただ
じゃ済まないぞ。首が飛ぶぞ」と
恫喝していた。まさに「ヤクザま
がい」ではないか。この文書が明
るみになった後、礒崎氏は「言葉
が荒くなったかもしれない」とや
りとりを全否定しなかった。
総務省幹部との間に立った山田真
貴子首相秘書官に問いただせば、
すべて経過が明るみになるはずだ
。山田首相秘書官はその後、菅前
首相の長男の接待問題で供応をう
け、NTTによる供応でも高額な
会食に呼ばれていたことが発覚、
国会で追及される直前に辞職した
。その官僚人生は末期に泥にまみ
れた形だが、官邸の不当介入に当
時ささやかな抵抗していた姿はせ
めてもの救いか。
山田元補佐官が当時「政府がこん
なことをしてどうするつもりなの
か。どこのメディアも萎縮するだ
ろう。言論弾圧ではないか」と嘆
いた通りの展開になってしまった
。安倍政権に批判的だったTBS
、テレビ朝日の報道番組のキャス
ターやコメンテーターらは次々降
板させられたのである。
高市元総務相がいくらこの行政文
書を捏造と決めつけても、このや
りとりの後の参院総務委員会で「
一つの番組でも、極端な場合は政
治的公平を確保しているとは認め
られない」と答弁し、放送局の免
許を取り上げる停波まで口にして
いた。こうして「安部官邸」のも
くろみ通りに放送法の解釈が変更
されたのである。
高市元総務相がいくら抗弁しよう
と、文書が行政文書であることを
松本剛明総務相は認めた。一部だ
けを「捏造」と主張しても無理が
ある。もう潔く閣僚を辞任し議員
辞職したらどうか。岸田文雄首相
に政府ぐるみの「もみ消し」をあ
てにしていたとしたら、とんだ目
算違いだ。霞ヶ関全体の官僚をも
敵にした自己保身はあまりにも見
苦しい。
立憲民主など野党は、安倍政権に
よって報道の自由が根幹から揺る
がせられた経緯を明らかにするた
め調査委の設置を強く求める時だ。
放送業界は存立基盤まで脅かされ
、政治報道はまだ政府への忖度報
道を続けている。この期に及んで
もWBC野球一色の番組ばかりを
編成、政府の政治介入を真正面か
ら批判しようとせず、危機感がな
い。
米国の伝説のテレビキャスターの
ウォルター・クロンカイトはこう
言った。
「独裁政治台頭の最初の兆候は間
違いなく言論の自由に対する介入
という形で現われる」
まさにヤクザまがいの言論弾圧に
よって専横政治を進めた安部政権
の本性を露わにした今回の行政文
書である。
【2023・3・9】
(次回は3月15日に掲載予定)