マジすか学園3☆#9ー1☆
大阪ー
雑然とした雰囲気のなか、そこに住む人々は、とてもエネルギッシュで明るい。熱気に溢れた街。
その街を
ひとり歩く紺色のセーラー服の少女。髪型はストレートのショートボブ。一見、アイドルのような顔だちだが、つぶらな瞳の奥が暗い。
少女は、大通りに背を向け、人気のないほうへ、どんどん歩いていく。
明るい街も、
一歩、裏へまわれば変わるもの。
その区域では、盗み、恐喝、暴行といった犯罪が日常的に行われている。警察関係も手がまわらず、半ば容認せざるを得ない状態となっていた。
故に、一般人が足を踏み入れることは、ほとんどない。
日本のスラムともゴーストタウンとも呼ばれる地。
光と陰。光があれば陰がある。なまじ、光が強ければ強いほど、陰も暗く濃くなっていくもの。
セーラー服の少女は、その危険な陰に、足を踏み入れた。
廃墟のような高層ビルに囲まれ、午前中にもかかわらず、通りには光がほとんど射さない。
ビルの隙間から、野良犬が、顔を出し、表通りを横切る。何かに怯えるかのようにー。
すると、近くの路地裏から、入り乱れた罵声と怒声が、聞こえてきた。争っている雰囲気。
バタバタと、いくつかの足音が、表通りにいるセーラー服の少女の方に近づいてくる。
「待てや!コラァ!」「待たんかい!ワレェ!」
誰かを追っているような声。
とー
突然
路地裏から、
「ニャー!」
と、身軽さを発揮し、真っ白な制服の少女が、
セーラー服の少女の懐に飛び込んできた。まさしく、ネコのような少女だった。かわいらしい顔。長く黒い艶のある髪は血統書付きの毛並みの良さを思わせた。
真っ白な制服は、大阪でも有名な、お嬢様学校のものだった。
愛くるしい笑顔を見せる。
「助けてニャン」
「えっ!?」
戸惑うセーラー服の少女の周りを、素早く取り囲む追っ手たち。
「お前も仲間やな!?」「ディーヴァに逆らうんか?」「余所(よそ)モンに、ディーヴァの恐ろしさ教えたるわ!」
ディーヴァの特攻服を身につけた少女三人は、組織の構成員たちだった。好戦的。ターゲットを、セーラー服の少女に、変更する。
いつの間にか、ネコのような少女は、その場から、煙のように消えていたためだ。
セーラー服の少女は、か弱そうに見えるが、こういうことには慣れている様子で、物怖じすることなく、三人を眺めやった。
三人のうち、いちばん大柄なひとりが、余裕たっぷりに、セーラー服の少女に殴りかかる。
紙一重でかわされ、バランスを崩すディーヴァの隊員。
続いて
残りのふたりも、同時に殴りかかったが、風を相手にしているかのように、つかみどころのないセーラー服の少女に、翻弄され続けた。
「なんや、情けないなぁ、お前ら…、遊ばれとるやないか」
「あっ!上西さん!」
銀灰色(グレイ)の特攻服の少女が、路地裏から姿をあらわした。ディーヴァ十二将のひとりー
上西ケイ。大きな、くっきりとした瞳。
指にきらめく銀色のネイル。
上西は、セーラー服の少女を見て、驚く。
「こいつ…、あの…前田敦子やないか…」
髪を短くし、メガネをかけていなかったが、上西にはすぐにわかった。
セーラー服の少女が、あの前田敦子だということをー。
前田は、鋭い目つきで、睨み返す。
「キノハルを倒したらしいやないか…、他にも将軍やら隊員らを痛めつけてくれたそうやな…、それが、そっちからわざわざ来てくれるとはな…、手間が省けたわ!生きて、大阪から出れると思うなや!」
「ディーヴァの総帥は…、どこにいる?」
「知らんわ!
さあ、
こってりやられたいか、あっさりやられたいか、どっちか選べや!」
上西の爪が、きらめいた。
その刹那ー
「やめとき…、うちがやるわ…」
上西の後ろから、またしても、将軍格の銀灰色(グレイ)の特攻服の少女が姿を見せたかと思うと、いきなり、前田に襲いかかった。
虚を突かれた前田は、腹部に左拳をくらい、身体が折れ曲がったところに、さらに右の拳を顔面にくらい、後方に吹き飛ばされた。
なんとか、受け身をとり
左袖で、口許を拭い、殴った相手を見上げる前田。凛とした佇まいの少女が見下ろしている。能面のように表情を変えないその少女に、前田は、思わず目を瞠る。
「前田…、すぐに東京に帰るんや…、さもなくば、殺す」
その声はー
「どうして…?」
その姿はー
紛れもなく、前田のよく知る人物ー
同じ高校に通い、一緒に闘った仲間ー
関西弁の少女
山本サヤカに間違いなかった。
マジすか学園3☆#8ー10☆
アカリは攻勢に転じていた。
対して、受けにまわるミオリ。
「“型”が変わったな…」
あきらかに、闘い方の変わったアカリ。身のこなし、攻め方、闘気までもが別人のように変化していた。
アカリにとっては、どこか、前田と一緒に闘っているのにも似た気分だった。
数回、打ち合うと、防戦一方だったミオリの動きも、変化し始めた。
闘う相手のレベルにアジャストするかの如く。
再び、アカリの攻撃が当たらなくなり、ミオリの攻撃が当たり始める。
実力が違いすぎる。全く計り知れない。
(こいつ…、底なしか…)
闇を覗き込んでしまった恐怖を覚えるアカリ。
深い闇の底までは見えない。
アカリの足が止まる。悪魔に魅入られたかのようにー。
首が千切れ飛ばんばかりに、右へ、左へ、顔面だけを悪魔の拳によって打ちつけられる。
一発一発が、根こそぎ、意識を刈られるほど強烈な拳。
それでも、なんとか、意識を保とうとするアカリ。
「もういいよ!アカリ!死んじゃうよ!」
カナが、二人の間に飛び込むように、割って入った。
悪魔の拳が、カナを襲った。流れ弾に当たる。
「カナ!」
「大丈夫…、これくらい…、痛くないよ」
カナが、無理に笑う。
アカリは、それによって、少し、距離をとることが出来た。
(カナ…、ありがとう…、最後に、わたしにちからを貸して…、一撃だけでも…)
アカリが瞳を閉じ、祈る。
閉じた瞳を見開き、ミオリを射抜くように、見る。
そして、狙いを絞り、消えた。
アカリは
いままでで、一番の迅さ、
渾身のスピードで、ミオリの右下の死角に潜り込み、全身のバネを左拳に乗せ、思い切り突き上げた。
前田の得意技。
直後
にぶい衝撃音と、拳の砕ける音が、同時に辺りに響き渡った。続いてー
「ぐあああっ!」
アカリの苦しげな叫び。
砕けた左拳を右手でおさえ、呻く。
“龍神”を額で受け止めたミオリ。涼しい顔でー。
「アカリ!」
苦しむアカリに、無情にも、悪魔の拳が打ち下ろされた。目の前が一瞬で、真っ暗になる。
ゆっくりと、崩れゆくアカリ。
ミオリの身体をすべるようにー。
「カナ…、ごめん…」
(先に…、逝くよ…、でも…)
絶望の中に光をー。
(…こいつも、道連れだ!)
至近距離、いや、ゼロの距離からの、発勁。
崩れ落ちる寸前、右の掌から、全身の“気”を放出する業を放つ。気功。
アンダーガールズの木本カノンの得意技。カノン砲。
しかし、それすらも見切られ、
衝撃波は、ミオリの脇腹をすり抜け、背中へと、むなしく消えた。
不発。
その瞬間、ふいに、ミオリを襲う拳。
アカリの砕けた左拳が、ミオリの顔面に見事に決まっていた。完璧な伏線だった。
全身全霊をかけたアカリは、薄く微笑んで、地面に沈んだ。
それを、ただ、見下ろすミオリ。ダメージはなかった。悪魔を倒すちからは、もう、アカリには残ってはいなかった。
「勝ったような顔をしているな…」
清々しい表情のアカリを見て、ミオリがつぶやく。
そうだよ。と、カナが泣きながら言う。
「アカリは勝ったんだよ…、昔の自分に…、だって…、だって、アカリは…、最後の最後まで、あきらめなかったんだから!」
「くだらない…」
数分後ー
変わり果て
血まみれで倒れ臥す二人の少女の傍には、黄色いレモンがひとつだけ、転がっていた。
#8 『“未来へ”風は吹いている』 終
対して、受けにまわるミオリ。
「“型”が変わったな…」
あきらかに、闘い方の変わったアカリ。身のこなし、攻め方、闘気までもが別人のように変化していた。
アカリにとっては、どこか、前田と一緒に闘っているのにも似た気分だった。
数回、打ち合うと、防戦一方だったミオリの動きも、変化し始めた。
闘う相手のレベルにアジャストするかの如く。
再び、アカリの攻撃が当たらなくなり、ミオリの攻撃が当たり始める。
実力が違いすぎる。全く計り知れない。
(こいつ…、底なしか…)
闇を覗き込んでしまった恐怖を覚えるアカリ。
深い闇の底までは見えない。
アカリの足が止まる。悪魔に魅入られたかのようにー。
首が千切れ飛ばんばかりに、右へ、左へ、顔面だけを悪魔の拳によって打ちつけられる。
一発一発が、根こそぎ、意識を刈られるほど強烈な拳。
それでも、なんとか、意識を保とうとするアカリ。
「もういいよ!アカリ!死んじゃうよ!」
カナが、二人の間に飛び込むように、割って入った。
悪魔の拳が、カナを襲った。流れ弾に当たる。
「カナ!」
「大丈夫…、これくらい…、痛くないよ」
カナが、無理に笑う。
アカリは、それによって、少し、距離をとることが出来た。
(カナ…、ありがとう…、最後に、わたしにちからを貸して…、一撃だけでも…)
アカリが瞳を閉じ、祈る。
閉じた瞳を見開き、ミオリを射抜くように、見る。
そして、狙いを絞り、消えた。
アカリは
いままでで、一番の迅さ、
渾身のスピードで、ミオリの右下の死角に潜り込み、全身のバネを左拳に乗せ、思い切り突き上げた。
前田の得意技。
直後
にぶい衝撃音と、拳の砕ける音が、同時に辺りに響き渡った。続いてー
「ぐあああっ!」
アカリの苦しげな叫び。
砕けた左拳を右手でおさえ、呻く。
“龍神”を額で受け止めたミオリ。涼しい顔でー。
「アカリ!」
苦しむアカリに、無情にも、悪魔の拳が打ち下ろされた。目の前が一瞬で、真っ暗になる。
ゆっくりと、崩れゆくアカリ。
ミオリの身体をすべるようにー。
「カナ…、ごめん…」
(先に…、逝くよ…、でも…)
絶望の中に光をー。
(…こいつも、道連れだ!)
至近距離、いや、ゼロの距離からの、発勁。
崩れ落ちる寸前、右の掌から、全身の“気”を放出する業を放つ。気功。
アンダーガールズの木本カノンの得意技。カノン砲。
しかし、それすらも見切られ、
衝撃波は、ミオリの脇腹をすり抜け、背中へと、むなしく消えた。
不発。
その瞬間、ふいに、ミオリを襲う拳。
アカリの砕けた左拳が、ミオリの顔面に見事に決まっていた。完璧な伏線だった。
全身全霊をかけたアカリは、薄く微笑んで、地面に沈んだ。
それを、ただ、見下ろすミオリ。ダメージはなかった。悪魔を倒すちからは、もう、アカリには残ってはいなかった。
「勝ったような顔をしているな…」
清々しい表情のアカリを見て、ミオリがつぶやく。
そうだよ。と、カナが泣きながら言う。
「アカリは勝ったんだよ…、昔の自分に…、だって…、だって、アカリは…、最後の最後まで、あきらめなかったんだから!」
「くだらない…」
数分後ー
変わり果て
血まみれで倒れ臥す二人の少女の傍には、黄色いレモンがひとつだけ、転がっていた。
#8 『“未来へ”風は吹いている』 終
マジすか学園3☆#8ー9☆
ラッパッパ部室ー
「おい、お前ら!こんなとこでホルモン食ってる場合じゃねーぞ!」
学ランが慌ただしく、ホルモン中の部室に足を踏み込んできた。
「いや、おれたちからホルモン取ったら、何も残らねーし」
ヲタが、どうしたんだ?という感じで、きり返した。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねー!敦子が…、敦子が、校長に“退学届”を出したらしい」
「は?なんだよ…今日は四月一日だっけか?」
「ドッキリのつもりか?つまんねーんだけど…」
ウナギもアキチャも、まともに受け取ろうとしない。
「ドッキリでも、エイプリルフールでもねー!
マジだ…」
「どういうことだ?」
バンジーが話を進めようと、促す。
ホルモン中の輪に加わり
説明を始める学ラン。
校長室での校長とクウキとの話をたまたま聞いていた生徒がいて、前田が今朝早く、退学届を出したらしいというだった。校長に詳しい話を聞こうとしたが、何も答えてはくれなかった。
「そういうことか…、これは“何か”ありそうだな…、ラッパッパを受け継いだばかりだってのに…、前田がそんなに無責任だとは思えない」
バンジーがきっぱりと言い切る。信頼関係は厚い。皆もうなずく。
「敦子ほど、この学校、好きなやつもいないだろ」
「だよな…、考えられるケースは…ひとつだ。
どうしようもない事情があって、学校やおれたちに迷惑をかけたくない…と」
「それだな…それしか考えられねぇ…どうしようもない事情が何かまではわからねーけど…、あいつ…、また無茶するつもりじゃないだろうな!?」
アキチャの推測にウナギも同意をしめしつつ、不安が沸き起こる。
「事情なんか、どうだっていい!おれはいまから敦子を捜しに行くぜ!このままじゃ、納得いかねー!」
学ランが立ち上がる。
「みんなに声かけて、手分けして捜そうぜ!この街、いや、東京中、しらみつぶしにだ!」
バンジーも続いて立ち上がる。
「わたしも行く!」
黙って聞いていたムクチが、最後に口を開いた。
都立K第二高校の通学路ー
長い上り坂を
紺色のスカートに白シャツの高校生二人が歩いていた。
それを、坂の下から見つめる灰色の制服の少女。
「目標捕捉…、排除する!」
少女はー
その美しい少女は、人間の熱が感じられない機械仕掛けの人形の如き声を発し、
地面を滑るように、K第二高生の古川アイリと向田マナツの二人の背後に迫った。
「あぶねー!」
アイリが、マナツを突き飛ばす。
究極ともいえる美少女ー
矢場久根死天王、オメガは、アイリとマナツの間を通り過ぎ、正面にまわった。消していた気を開放する。
「すごい殺気…、矢場久根ですか…、やるしかなさそうですね」
「ククク…、退屈しねーな、朝っぱらから」
構えをとる二人。
マナツもアイリも、突発的な事態に対し、順応性は高かった。
矢場久根が因縁をつけてくる理由は、マジ女絡みとしか思えない。
「楽しみは、最後にとっておく…、まず手始めに…お前たちを…、滅ぼす…」
オメガの
無機質な宣戦布告は二度目の春の嵐の到来を予感させた。
私立S高校付近ー
野次馬を避け、人目のつかないところに移動した三人。
喧嘩はすでに、始まっていた。
かつて
アンダーガールズにおいて、動きの速さでは、一、二を争っていた須田アカリが、市川ミオリによって確実に動きを見切られ、捉えられる。
「ただ迅いだけか…つまらん」
侮蔑をこめたミオリの呟き。
「くっ!当たらない」
懸命に拳を振るうアカリ。
「いくら、動きが迅くとも、近づかなくては攻撃できない。そして、そのときのお前の闘気に満ち満ちた全身は、見切ってくれと言わんばかりだ」
逆に、ミオリの慈悲の欠片もない拳が、アカリを襲う。かわせない。的確に顔面にきまる。何発も、何発も。ミオリの拳は顔面しか襲わない、にもかかわらず。
アカリは必死の思いで、悪魔の拳をかいくぐり、
ミオリの背後を取った。
右の拳を思い切り振り抜く。
ミオリは、瞬時に身体を沈め、かわし、振り向きざまに、アカリの顎に右アッパーを打ち上げた。
傷だらけの顔が跳ね上がる。
口から吐きでた血が放物線を描き、後ろに吹き飛び、倒れこむアカリ。
「アカリ!」
カナが駆け寄る。
「…、だ…大丈夫だよ…、カナカナ…、下がってて…」
これくらいでは沈まない。憧れの少女に教わった“マジ”を体現するアカリ。ふらつく頭をささえ、立ち上がる。
「わたしは、前田に教わったんだ…、あきらめない心…、未来(あす)を信じ抜く…、勇気を…、“マジ”を…」
その言葉に
苦笑するミオリ。
「“マジ”…だと?
くだらないな…、ありもしない幻想を抱いて…、眠れ…」
黒々とした瘴気が、ミオリの拳、さらには、全身から立ち上ぼる。
「ちっ!」
重圧に押し潰されそうになるアカリ。
ゆっくりと近づくミオリ。とどめをさすためにー。
アカリは、構えを変えた。左半身を後ろに引き、左拳を強く握る。
「ん?雰囲気が変わったか…」
ミオリは、不用意に近づくのをやめた。
アカリの特殊能力が発動する。一度、闘った相手になりきる能力。
憧れの少女になりきり、
そして、叫ぶ。
「『世の中…、マジしかねーんだよ!』」
「おい、お前ら!こんなとこでホルモン食ってる場合じゃねーぞ!」
学ランが慌ただしく、ホルモン中の部室に足を踏み込んできた。
「いや、おれたちからホルモン取ったら、何も残らねーし」
ヲタが、どうしたんだ?という感じで、きり返した。
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねー!敦子が…、敦子が、校長に“退学届”を出したらしい」
「は?なんだよ…今日は四月一日だっけか?」
「ドッキリのつもりか?つまんねーんだけど…」
ウナギもアキチャも、まともに受け取ろうとしない。
「ドッキリでも、エイプリルフールでもねー!
マジだ…」
「どういうことだ?」
バンジーが話を進めようと、促す。
ホルモン中の輪に加わり
説明を始める学ラン。
校長室での校長とクウキとの話をたまたま聞いていた生徒がいて、前田が今朝早く、退学届を出したらしいというだった。校長に詳しい話を聞こうとしたが、何も答えてはくれなかった。
「そういうことか…、これは“何か”ありそうだな…、ラッパッパを受け継いだばかりだってのに…、前田がそんなに無責任だとは思えない」
バンジーがきっぱりと言い切る。信頼関係は厚い。皆もうなずく。
「敦子ほど、この学校、好きなやつもいないだろ」
「だよな…、考えられるケースは…ひとつだ。
どうしようもない事情があって、学校やおれたちに迷惑をかけたくない…と」
「それだな…それしか考えられねぇ…どうしようもない事情が何かまではわからねーけど…、あいつ…、また無茶するつもりじゃないだろうな!?」
アキチャの推測にウナギも同意をしめしつつ、不安が沸き起こる。
「事情なんか、どうだっていい!おれはいまから敦子を捜しに行くぜ!このままじゃ、納得いかねー!」
学ランが立ち上がる。
「みんなに声かけて、手分けして捜そうぜ!この街、いや、東京中、しらみつぶしにだ!」
バンジーも続いて立ち上がる。
「わたしも行く!」
黙って聞いていたムクチが、最後に口を開いた。
都立K第二高校の通学路ー
長い上り坂を
紺色のスカートに白シャツの高校生二人が歩いていた。
それを、坂の下から見つめる灰色の制服の少女。
「目標捕捉…、排除する!」
少女はー
その美しい少女は、人間の熱が感じられない機械仕掛けの人形の如き声を発し、
地面を滑るように、K第二高生の古川アイリと向田マナツの二人の背後に迫った。
「あぶねー!」
アイリが、マナツを突き飛ばす。
究極ともいえる美少女ー
矢場久根死天王、オメガは、アイリとマナツの間を通り過ぎ、正面にまわった。消していた気を開放する。
「すごい殺気…、矢場久根ですか…、やるしかなさそうですね」
「ククク…、退屈しねーな、朝っぱらから」
構えをとる二人。
マナツもアイリも、突発的な事態に対し、順応性は高かった。
矢場久根が因縁をつけてくる理由は、マジ女絡みとしか思えない。
「楽しみは、最後にとっておく…、まず手始めに…お前たちを…、滅ぼす…」
オメガの
無機質な宣戦布告は二度目の春の嵐の到来を予感させた。
私立S高校付近ー
野次馬を避け、人目のつかないところに移動した三人。
喧嘩はすでに、始まっていた。
かつて
アンダーガールズにおいて、動きの速さでは、一、二を争っていた須田アカリが、市川ミオリによって確実に動きを見切られ、捉えられる。
「ただ迅いだけか…つまらん」
侮蔑をこめたミオリの呟き。
「くっ!当たらない」
懸命に拳を振るうアカリ。
「いくら、動きが迅くとも、近づかなくては攻撃できない。そして、そのときのお前の闘気に満ち満ちた全身は、見切ってくれと言わんばかりだ」
逆に、ミオリの慈悲の欠片もない拳が、アカリを襲う。かわせない。的確に顔面にきまる。何発も、何発も。ミオリの拳は顔面しか襲わない、にもかかわらず。
アカリは必死の思いで、悪魔の拳をかいくぐり、
ミオリの背後を取った。
右の拳を思い切り振り抜く。
ミオリは、瞬時に身体を沈め、かわし、振り向きざまに、アカリの顎に右アッパーを打ち上げた。
傷だらけの顔が跳ね上がる。
口から吐きでた血が放物線を描き、後ろに吹き飛び、倒れこむアカリ。
「アカリ!」
カナが駆け寄る。
「…、だ…大丈夫だよ…、カナカナ…、下がってて…」
これくらいでは沈まない。憧れの少女に教わった“マジ”を体現するアカリ。ふらつく頭をささえ、立ち上がる。
「わたしは、前田に教わったんだ…、あきらめない心…、未来(あす)を信じ抜く…、勇気を…、“マジ”を…」
その言葉に
苦笑するミオリ。
「“マジ”…だと?
くだらないな…、ありもしない幻想を抱いて…、眠れ…」
黒々とした瘴気が、ミオリの拳、さらには、全身から立ち上ぼる。
「ちっ!」
重圧に押し潰されそうになるアカリ。
ゆっくりと近づくミオリ。とどめをさすためにー。
アカリは、構えを変えた。左半身を後ろに引き、左拳を強く握る。
「ん?雰囲気が変わったか…」
ミオリは、不用意に近づくのをやめた。
アカリの特殊能力が発動する。一度、闘った相手になりきる能力。
憧れの少女になりきり、
そして、叫ぶ。
「『世の中…、マジしかねーんだよ!』」