アメリカやロシアが、世界の片隅で戦争をやっている。
それをまるで世界中、戦争だらけのように騒ぎ立てる人々がいるが、マスコミの悪い癖だなと思っている。
21世紀ほど平和な時代は、人類史上かつてなかった。
それはまちがいないし、おそらく多くの人々が同意する。
なんなら20世紀だって2番目に平和だった、とまで言うと否定的な人が増えるだろう。
二度の世界大戦を含め、20世紀は戦争の世紀と言われることもあるくらいだ──が、じつは平和の世紀でもあったことはあまり知られていない。
武器が高度化して一度に大量に死ぬようになった点は別として、戦争被害は明確に古代や中世のほうがひどかった点、銘記しておかねばならない。
そもそも人間は、つねに野蛮だった。
古代については、あまり確定的なことは言えない。
個人的には、秦による統一戦争の被害がとても大きいように思える。
ペロポネソス戦争やポエニ戦争も大きかったが、有名なのは古代ギリシャや古代ローマという「文明圏」のほうだろう。
これらが偉大であったことに議論の余地はない……が、問題は、その光が強いほど闇も濃くなることだ。
彼ら古代人は、たしかに偉大だったかもしれないが、それ以上に野蛮だった。
なぜなら彼らは、周辺の同じくらい偉大な文明を滅ぼすことによって、世界史にその名を轟かせたともいえるからだ。
中世になると、モンゴル帝国の征服戦争が頭ひとつ抜けている。
かの「世界史上最大の陸上帝国」は、数千万規模の破局的な死者を出したとされる。
特筆すべきは、国家そのものをいくつも地上から抹消したことだろう。
西夏、ホラズム・シャー朝、アッバース朝カリフ国、南宋、キエフ・ルーシ……。
現代とは比較にならないほど徹底的に、国や文化が破壊された。
われわれはその事実をよく知らない、なぜならそれらはほんとうにこの世から「消滅」してしまったからだ。
古代や中世に「消滅」した国々について、ここで詳述はできない。
ただ、そのたびに大虐殺が行なわれ、おそらくポルポトなどよりも徹底的に、無数の文明人が消し去られたことはたしかだ。
敗戦国に人道的に接するなどという発想には、あまり期待しないほうがいい。
古代や中世とは、そのような「啓蒙」以前の時代であった。
いっぽう、われわれは先人の肩に立って、高みから過去を見下ろすことができる。
20世紀、たしかに二度の世界大戦や各国での内戦、権力闘争は、近代兵器という道具を得て熾烈を極めたかもしれない。
しかし大幅な「地図」の更新、たとえばヨーロッパ諸国の各植民地からの撤退や、ソビエト連邦の崩壊という圧倒的に巨大な勢力の消滅に際して、それほど大規模な闘争が行なわれただろうか?
否。
もはや人類は、かつて世界史の表舞台で騒がれたような、大規模な侵攻や統一というダイナミクスとは、別の次元に立っている。
どこの国家も、独裁者も、せいぜい自分の地位の保全を求める程度で、他国を軍事的に侵略しようなどと考えるお花畑な脳の持ち主は、ほとんどいなくなった。
紛争レベルの衝突は、しばしば起こる。
それによって何百万の難民が発生したりはするだろう。
だが、戦争はもう「あたりまえ」の出来事ではなくなった。
むしろ支配者は、世界に扉を開いて戦いを挑むような行為に敢然と背を向け、自分の手が届く限られた世界だけを守ろうとしている。
ロシアやアメリカが「戦争らしきもの」をしたがるのは、ぎりぎりそこに「手が届」いたからにすぎない。
言い換えれば、せいぜい互いの「箱庭を壊し合う」ことに血道をあげる時代なのだ。
火薬庫と言われる中東すら、あくまでも小競り合いだ。
若干の国境紛争、武力介入、内戦レベルの暴動、おびただしい数の武力事案が起こってはいても、それは中世までの国が消え去るような「戦争」ではない。
ここで戦争の「目的」を、あらためて明確にしておこう。
現在も同様ではあるが、それは基本的に「土地」だ。
かつては得られた「領土」から、さまざまなものを奪い取ることができた。
畑、家畜、奴隷、金などは重要な産品であり、それを略奪することは自ら生み出すよりも手っ取り早く、要するに「金持ち」になれた。
あるいは植民を行なうことで、無限の価値を見出せるように思われた時期もある。
先進諸国の多くが利益をむさぼったが、いまやそれは「負の遺産」となって啓蒙の素材となった。
現在、「富」を形作っているのは、ほとんどが人的資源とテクノロジー、そして膨大な金融資産である。
これを戦争で奪い取ることは、できない。
かつてカリフォルニアの富を築いた金鉱は、いまやシリコンと情報に置き換わった。
どんなに銃を振り回したところで奪い取れない代物だ。
たとえ百万の強襲揚陸隊をもってサンフランシスコの海岸に突撃しても、そこにある富を捕獲はできないのだ。
いくばくかのデータや技師を捕えることはできるだろうが、それは失われるものに比して微々たるものでしかない。
ただし「戦争ごっこ」なら、それなりには儲かる。
ガス抜きのようにある程度までは許容されてもいるが、下手に規模を拡大すればお金持ちたちが黙ってはいない。
トランプ大統領の行動を見ていれば、なんとなく察せられるだろう。
最短時間で片づけろ、下手に拡大するな、そういう市場の要請を世界最強のアメリカ大統領さえ無視できない。
そう、もはや「全面戦争」などという事態は、けっして引き起こされない平和な時代となってしまったのだ。
戦争など起こしたら、自分たちのお金の価値が大きく棄損される。
一部の武器商人が儲けるために、その他大部分の大金持ちが、自分の富を差し出すだろうか?
ありえない。
かつて戦争という甘い汁を吸って生きてきた悪魔にとって、現状は都合がわるくなった。
だが平和な時代には平和な時代なりのやり方で、搾取を行なう余地はある。
最新の悪魔なら、どう行動するか?
そういう想像力をもって、物語を書いている。
悪魔のやり口を理解し、対応すること。
それさえできれば、どんな時代にも負けずに生きていけるだろう。