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Accounting, Tax and M&A

会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。

ヤフー事件最高裁判決に係る最高裁調査官解説(ジュリスト20169月号)が非常に興味深い内容でしたので、ポイントをまとめておきます。

 

(総論)

ü  立法当時の資料からうかがわれる立法趣旨に照らし、制度濫用基準を採用。

ü  最高裁が法132条の2の不当性要件の意義および判断枠踏みを明示的に示したもので、理論的にも実務的にも重要。

ふむふむ。

 

(経済合理性基準を採用しない理由)

ü  経済合理性基準を採用しないのは、組織再編成は売買契約や雇用契約などの典型契約と異なり、一般的な取引慣行や取引相場がなく、純経済人の自然かつ合理的な組織再編成とは何かという出発点からその審理判断が困難な場合もあるから。

同じような経済効果をもたらす組織再編成の手法やその組合せはいくつもあるわけで、どれが自然なのかという議論は確かに難しいと思う一方、結局、不自然性を考慮事情にしたわけで、どうなんでしょうね。

 

2つの考慮事情について)

ü  2つの考慮事情(行為・計算の不自然性とその合理的な理由となる事業目的等)は、制度濫用基準を基礎としつつ、実質的には経済合理席基準の通説的見解である「異常変則性・事業目的」(金子租税法)の考え方を組織再編成の場面に即して取り込んだもの。

ü  租税回避以外の事業目的は、「存在するか」ではなく、「不自然な行為・計算を行う合理性を説明するに足りる程度の事業目的等が存在するか」を考慮する。

ü  2つの考慮事情は、単なる考慮事情にとどまらず、実質的には不当性を肯定するために必要な要素。行為・計算に不自然性が全くない場合や、その合理的な理由となる事業目的等がある場合は、他の事情を考慮するまでもなく、不当性要件には該当しない。

事業目的がありさえすればいいわけではなく、不自然な行為・計算の合理性を正当化するほどの事業目的が必要と。まあそうでしょうね。一方で、この2つの考慮事情の両方を満たすことが実質的に必要条件と言い切られているのは重要です。

 

(制度の濫用について)

ü  制度濫用の判断基準として、租税回避の意図と趣旨目的からの逸脱をその要素としたのは、外税控除事件における最高裁判決の説示を参考にしたもの。

ü  租税回避の意図の要求は、それを不要とする法1321項の通説との関係で議論があるが、制度の濫用と評価するためには行為者の一定の主観的要素が必要という常識的な考えによるもの。

ü  但し、行為・計算が不自然で、租税回避以外に合理的な理由となる事業目的等が存在しない場合は、担当者の供述やメール等で直接立証されずとも、租税回避の意図の存在を推認し得るのが通常。

外税控除事件が濫用なのか課税減免規定の限定解釈なのか、というのはさておき、同族会社の行為計算否認と異なり租税回避の意図を要求したのは、濫用基準だから、と。ただ、この解説が「税負担減少の意図」ではなく「租税回避の意図」という文言を使っているのはやや違和感があります。また、外税控除事件では趣旨目的から「著しく」逸脱する態様で、とされていましたので、「著しく」という文言のない本判決と異なるところがあるのか、気になりました。明文の否認規定の有無というところに由来しているのかもしれませんが。

尚、税負担減少の意図を直接的に立証する証拠は不要なのですね。それを要求するのは税務執行サイドには酷かも知れませんし、推認されても仕方がないケースが大半な気はします。

 

(租税法律主義との関係)

ü  個別規定の文言から読み取ることのできない事情に基づいて不当性を判断することとした原判決については、納税者の予測可能性や法的安定性を害するとして租税法律主義違反を問題視する批判もあったが、本判決に基づく不当性要件の該当性は関係者において十分に予測可能であり、租税法律主義違反の問題を来すものではない。

はい、個人的には非常にバランスのいい判決だと思いますし、異存ありません。

 

最高裁調査官ということで、実際に最高裁で本判決に関与されていた方による解説だとすると、重みがありますね。

 

以前、最高裁判決が出たときのまとめはこちら。

ヤフー・IDCF事件完結篇 ~最高裁判決の法令解釈と高裁・地裁判決の違いとは~

 

 

タックスヘイブン対策税制(CFC税制)において、非課税のゲイン・ロスが生じた場合の「非課税所得」の取扱いついては、従来から国税庁の秋元氏の見解が実務上の標準になっているものと思いますが、先月の国際税務において青学の渡辺教授がこれと異なる見解を披露されていました。

 

影響力の強い方々なので、実務家としては統一見解にして頂きたいなぁというところではありますが、興味深いところですので、両者の見解を比較・整理してみます。

 

1.非課税所得とは

 

CFC税制における非課税所得とは、外国関係会社の租税負担割合の計算上(分子=法人税、分母=所得)、分母に加算することとされている「その本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額(措令3914②一イ)」を指します。

 

つまり、外国現地で課税されない所得があれば、これを分母に加算することにより外国関係会社の実効税率が低下し、軽課税か否かを判定するトリガー税率(20%未満)にヒットしやすくなるわけです。

 

また、特定外国子会社の適用対象金額(合算所得)を本店所在地国法令に基づいて算定する場合も、「その本店所在地国の法令により当該各事業年度の法人所得税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額(措令3915②一)」を加算することとされており、租税負担割合の計算における非課税所得と同様の取扱いになります。

 

この非課税所得の定義は必ずしもはっきりしないわけですが、今回のポイントは、現地で非課税となるキャピタルゲインを上回る非課税のキャピタルロスが発生した場合、つまり非課税所得がネットでマイナスの金額となった場合にどう取り扱うのか、という点です。

 

 

2.国税庁/秋元氏の見解

 

おそらく現在の実務上の通説となっていると思われるのが、国税庁/秋元氏の見解です。

 

この見解によれば、非課税のキャピタルゲインとロスを通算した結果、プラスの金額が残る場合はその金額を非課税所得として加算する一方、マイナスの金額が残る場合は分母(所得)から減算(マイナス)はしない、ということになります。つまり、マイナスの非課税所得は認めない立場です。

 

同氏が国際税務の記事(20143月号)において示した根拠は以下の通りです。

  • 非課税所得にマイナスの概念も含まれると解すると、外国の表面税率が20%未満でもあっても実効税率が20%以上となる場合があり、本制度が予定している軽課税国の枠組みと異なる。
  • 租税負担割合の分母である「所得の金額がない場合又は欠損の金額となる場合には(措令3914②四)」外国の表面税率で判定することが認められているが、この規定の仕方からすると、所得はプラスの概念のみを定めていると解される。
  • 各事業年度の所得の金額は「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額」と定義され(法法22①)、控除した金額にはマイナスの概念がない(ゼロが限度である)ことから、所得の金額は原則としてプラスの概念である。

 

3.青学/渡辺教授の見解

 

一方、渡辺教授の見解では、非課税所得は非課税のゲインとロスを通算した金額で、マイナスの場合は分母(所得)から減算する(マイナスの金額を加算する)としています。

 

この根拠は同じく国際税務(20168月号)で以下の通り示されています。

  • 法人税法上、「所得の金額」は全ての益金の額から全ての損金の額を控除した残額という包括的な差額概念として規定されており(法法22①)、別段の定めがない限り、プラスの差額だけではなくマイナスの差額も含まれる。
  • これは「所得の金額が…欠損の金額となる場合には(措令3914②四)」という規定振りにも表れている。
  • 実効税率を我が国税法上の課税所得レベルに引き直した所得金額を基礎にして行うという規定の趣旨からしても至極当然のことである。
  • この趣旨に反してマイナスの所得の金額の加算を認めないのであれば、明文をもって規定すべきであるし、損金の額が益金の額を超える場合はわざわざ「欠損金額」として定義付けられていることから立法技術的にも比較的容易なはずであるが、敢えてそのような規定は設けられていない。

 

4.まとめ

 

ということで、非課税所得を解釈するに当たって同じ根拠条文を参照しているにも拘らず、真逆の結論になっているのですね。

 

個人的には、所得はプラスの概念、マイナスの場合は欠損金額、と単純に理解していたので、秋元氏の説に違和感を覚えたことがありませんでしたが、租税法学者の方々の見解も聞いてみたいなと思う次第です。

 

実務上は悩ましいのかも知れませんが、そもそも例外的なケースに限られるので、あまり影響はないのでしょうかね。

 

ということで、今回はここまでです。


ソフトバンクがARM買収資金の捻出の一環としてアリババ株式を売却しています。

既に2016年度1Qに売却済みとなっているわけですが、四半期報告書を見ると実効税率がやや歪な感じになっており、出資ストラクチャー含め、アリババ株売却の税務インパクトを検証してみました。

(結局、いろいろと謎が解けておらず、有報の税率差異分析等を待ちたいところですが、、)


1.アリババ株売却の概要

プレスリリースや四半期報告でもあまり詳細が開示されていませんが、推定も含め、ざっと表に纏めるとこんな感じです。



売却株数は開示されていませんが、売却価額や議決権比率の異動等からの推測です。

尚、ソフトバンクのアリババ株式の保有は直接保有と間接保有に別れており、整理するとこんな感じになります(単位:百万株)。今回の株式譲渡はソフトバンクグループ本社ではなく、在シンガポール子会社のSB China Holdingsになります。



第1四半期時点では、上記の①②が完了、③もこの7月に完了しています。(West Raptorは④Trust Securities発行の関連ですが、詳細は後ほど)

この①②について認識した売却益は2,029億円。売却価額は3,194億円ですので、譲渡原価を逆算すると1,165億円ということになります。

しかし、この譲渡原価には違和感があります。

譲渡原価の単価を計算すると、1株当たり約3,000円になります。

一方、16/3末のアリババ連結簿価は有報によると15,883億円で単価1,500円です。(しかも、この時は米ドルレートが113円でしたので、その後減少しているはずです。TAの検証まではしていませんが。)

また、16/1Q末で売却予定資産としている③アリババパートナーグループへ売却する株式の連結簿価は69億円、また、担保提供している④の連結簿価は1,100億円と開示されており、いずれも単価は約1,300円になります。

感覚的には、譲渡原価が倍くらい計上されているんですよね。

手数料等があるのかもしれませんが、金額も大きく、やや謎です。

尚、売却価額の3,194億円は、単価で約8,200円。株価80ドル程度になりますので、ほぼ市場価格並みのようです。


2.四半期業績における実効税率

四半期業績(PL)を並べてみます(単位:億円)。



16/1Qで目立つのは関連会社株式売却益ですが、ほとんどが先ほどの①②になります。

で、実効税率を見ると、40.4%。やや高めかな、というところですが、四半期報告書を見ると、アリババ株式売却益が計上されることにより、過去、評価制引当を計上していた繰延税金資産の回収可能性が高まったとして、PLで616億円の利益を認識したそうです。

この影響を除くと、法人所得税費用は2,057億円、実効税率57.7%になってしまいます。

いろんな事業が含まれているソフトバンクとはいえ、ちょっと高すぎです。

更に四半期報告では、法人所得税の増加理由が、「SB Chinaで発生したアリババ株式の売却益(子会社間売買含む)に対する将来課税 見込みについて、繰延税金費用を計上したことによるもの」と説明されています。

なるほど、アリババへの投資については、持分法投資損益にも株式売却益にも税効果を認識しているわけですが、ここで注目すべきは、「子会社間売買を含む」というところです。

おそらくこれは、④のTrust Securitiesの発行に関わるものと思われます。

これを解読する前に、ソフトバンクのアリババ投資に係る税務上の取扱いを確認しておきましょう。


3.アリババ投資に係る税務上の取扱い

上表の通り、ソフトバンクのアリババ株式保有は、本社が直接保有する部分と、SB China Holdings経由の間接保有とに分かれます。

(1) 直接保有分

直接保有分の出資比率は約19%になります。

配当を受けた場合、25%未満ですので、日本では通常の法人課税を受け(益金不算入にならない)、中国での源泉税10%(中国国内法も日中租税条約も同率)は外国税額控除の対象になります。

また、株式譲渡益が発生した場合も、中国では10%の源泉課税が生じた上で、日本での法人課税から税額控除を受ける形です。

つまり、投資収益にはいずれも日本の法人税率の負担が生じます。

(2) 間接保有分

一方、間接保有分の出資比率は約13%です。

SB Chinaが配当を受けるとどうでしょう。SB Chinaは在シンガポール子会社ですので、同国では配当は非課税ですが、中国では10%の源泉税が生じます(租税条約での減免5%の適用には出資比率25%以上が必要)。

更に、SB Chinaの法人税率は20%未満になるので、日本のタックスヘイブン税制の適用があります。SB Chinaは持株会社と思われ、おそらく統括会社の要件を満たしていないとすると(開示資料からはわかりませんが)、この配当は結局、日本で合算課税の対象になります。(直接保有分と合わせると25%以上の出資比率ですが、合算課税の計算上、非課税となるのは、あくまでSB Chinaが保有している株式での判定になると思われます)

株式譲渡益の場合も同様です。中国での源泉税の有無は難しいところですが(一応、租税条約上、中国の課税権は否定されているが、25%以上保有している事業譲渡類似のような場合は中国に課税権あり)、いずれにせよ日本での合算課税は避けられません。

従い、間接保有分の投資収益についても日本の法人税率の負担ということになります。

なので、連結決算上の投資の一時差異に係る税効果は、基本的に日本の税率で計上されているものと思われます。

尚、このアリババ株式をすべて本社から保有していれば、少なくとも本邦での配当益金不算入は享受できたはずですので、過去の経緯は承知していませんが、勿体ない感じがしますね。今更投資スキームを変更するにも税コストが嵩み過ぎて難しいのでしょうか。


4.Trust Securities発行に係る税負担

では、話題を戻します。

この④のトランザクションは、かなり複雑ですが、要するに、Trustに対し、ソフトバンクが将来的にアリババ株式を譲渡する先渡売買契約を締結し、Trustは、現時点で投資家に将来アリババ株式に強制的に転換される証券を発行するものです。

対象となる株式については、SB Chinaから米国の100%子会社であるWest Raptor Holdings LLC(WRH)に譲渡され、担保に提供されています。

WRHは売却対価として54億ドル(5,784)億円を前受けしていますが、売却益の計上は、アリババ株のグループ外への譲渡が行われる2019年以降となります。

アリババ株式にはフロア・キャップを設定するデリバティブ(カラー)も付けられており、会計処理も興味深いのですが、ここでは触れません。

税効果での問題は、SB ChinaからWRHへの株式譲渡です。

仮に100%子会社間であったとしても、課税の繰り延べはありませんので、この移管は時価ベースで譲渡されたものとして、現時点で課税対象になるものと思われます。従い、この税負担の引当が必要になります。

一方、時価で譲渡されても連結決算上は売却益は内部消去されますので、税務簿価>連結簿価の状態になりますが、この投資の一時差異に税資産を計上できるのでしょうか。

約2年後ですが、確実に解消が見込まれるという整理で税資産を計上するのか、あるいは、Trustはアリババ株に代えて現金で決済することも認められていますし、近い将来に解消するとはいえないのか、悩ましいです。

ただ、16/1Q決算が非常に高い実効税率となっており、その理由としてアリババ株式の子会社間売買が挙げられているところからすると、税資産を計上していない可能性があります。

この場合、売却益課税分のみがPLヒットしていることになります。

金額を計算すると、譲渡価額5,748億円に対し、売却原価を1株1,300円の簿価とすると1,114億円、差し引きで譲渡益は4,671億円になります。

法人税率30%とすると1,400億円です。

仮にこの金額を1Q決算の法人所得税が差し引くと、法人税は656億円で実効税率は18.4%になってしまい、逆に少なすぎになります。。

・・・

ということで、この税効果の謎はまだ解けておらず、今後の開示を待ちたいと思います。


TPR(旧:帝国ピストンリング)が子会社の吸収合併による繰越欠損金の引継ぎについて否認されたという報道がでています。

おそらくヤフー事件に続いて組織再編に係る行為計算否認規定(132条の2)が適用された事案と思われ、興味深いですので、現状わかる範囲で分析します。

とりあえず、毎日新聞記事(8/30)を全文抜粋しておきます(日経等、他では報道されていないんですよね、、)。
http://mainichi.jp/articles/20160830/k00/00e/020/205000c
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東証1部自動車部品大手「租税回避の意図はない」
 東証1部上場の自動車用エンジン部品製造大手「TPR」(東京都千代田区)が東京国税局の税務調査を受け、吸収合併した連結子会社から引き継いだ赤字を損金算入したことが租税回避に当たるとして、申告漏れを指摘されていたことが関係者への取材で分かった。追徴課税額は過少申告加算税と地方税を合わせて計約5億円とみられる。
 TPRは2014年3月期までの5年間について税務調査を受けた。TPRは納税を済ませた上、処分を不服として国税不服審判所に異議を申し立てたという。関係者によると、TPRは子会社だったアルミホイール製造の「テーピアルテック」(岡山県津山市)を10年3月に「アルミ商品事業の強化とグループ経営の効率化」を目的に吸収合併した後、テーピ社が抱えていた繰越欠損金約12億円を2年間にわたり損金に算入し、利益と相殺していた。
 一方で吸収合併直前の10年2月、欠損金を切り離す形で同じ名前の子会社を新たに設立した。その子会社の社名を「TPRアルテック」に変更し、本店所在地も、合併によって解散したテーピ社があった場所に移した。TPRアルテック社は社屋や設備などをTPRから借りて、テーピ社の事業を継続した。
 こうした一連の経緯について、東京国税局は「企業再編の実態を伴っておらず、納税額を不当に圧縮させるのが目的だった」などと判断したとみられる。
 企業再編の際は企業側が国税当局に税制上の問題が生じないかどうか事前照会するケースが多いが、TPRは照会していなかったとみられる。TPR側は取材に対し「租税回避の意図はない」としている。【松浦吉剛】
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1.本事案の概要と有報に基づく検証

否認対象となった合併のTPRのプレスリリースです(2009年12月)。
http://www.tpr.co.jp/ir/pdf/news/091221kogaisya.pdf

(リリース概要)
・TPRが100%子会社のテーピアルテックを2010年3月に無対価吸収合併
・目的はアルミ商品事業の更なる強化とグループ経営の効率化
・合併に併せ、現アルミ製品生産を委託する新会社を設立

新聞記事と整合しています。

合併で引き継いだ繰欠は12億円、追徴税額は加算税込で5億円とのことですが、有報で確認しました。

(2010/3期)
税効果の税率差異に係る注記にて、合併に伴う子会社からの繰越欠損金の引継ぎの影響が記載されています。

連結決算では、税前利益26億円×税率差異17.9%=税効果4.7億円です(単体決算でも、税前利益8億円×税率差異60.8%=税効果4.7億円)。当時の実効税率39.8%で割り戻すと12億円の繰欠になります。

尚、連結決算でも合併による繰欠引継ぎによる税資産計上が利益認識されています。つまり、合併前は税資産を計上していなかった(評価性引当を積んでいた)ということです。

また、合併で引き継いだ繰欠に係る税資産の残高は2.6億円ですので、差し引きの2.1億円分は2010/3期中のTPRの所得で控除したということになります。

(2016/3期)
PL上に過年度法人税が計上されています(連結5.5億円、単体5.1億円)。連単の金額差はよくわかりませんが、どうやら第1四半期に更正処分を受けたようです。過少申告加算税が10%/15%、延滞税が4%くらいですので、その分、2010/3期の税効果より大きい金額になっています。


2.合併による繰欠引継ぎ要件

本題の税務ですが、まずは繰越欠損金の引継ぎ要件について。

2010年3月の合併は、100%親子間の合併なので適格合併になります。但し、グループ内適格合併なので、繰越欠損金の引継ぎには租税回避防止の観点から追加の要件が課されるわけですが、支配関係発生後5年を経過している場合、欠損金引継ぎの制限は生じません(5年経過要件)。

では、TPRがテーピアルテックを子会社化したのはいつでしょうか。

TPRの有報で沿革を見ると、2002年2月にテーピアルテックを子会社化したとあります。

更にググったところ、こんなニュースが出てきました。
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2002年03月04日
帝国ピストンリング(久富眞志社長)は2月9日付で、アルミ鋳造メーカー清音金属工業(大阪府東大阪市、中西章三社長)の子会社であるキヨアルテックス(岡山県勝田郡、資本金6,000万円、中西章三社長)の株式67%を取得、子会社化した。同時に社名も「テーピアルテック株式会社」に変更。社長には帝国ピストンリングの小口憲吾氏が就任した。従業員数は21名。
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従い、合併時点で5年超経過しているので、親子間合併で繰越欠損金の引継ぎが認められる形式要件を満たしていると思われます。とすると、この欠損金の引継ぎを否認するとせば、組織再編の行為計算否認(132条の2)の発動が必要ということになります。

※【9/5追記あり】


3.組織再編の行為計算否認規定の解釈と5年経過要件の趣旨

ヤフー事件の最高裁判決における132条の2の不当性要件の解釈をおさらいしましょう。
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・不当=組織再編税制の各規定を「濫用」した法人税の減少
・濫用の判断基準は、①税負担を減少させる意図と②本来の趣旨及び目的から逸脱する態様での組織再編税制の各規定の適用/不適用
・判断に当たって考慮する事情は、①不自然かどうか(通常想定されない手順や方法、実態から乖離した形式の作出)、②合理的な事業目的の存在
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では、5年経過要件の規定の本来の趣旨って何でしょう。

適格合併であれば原則として繰越欠損金の引継ぎが認められるところ、グループ内合併の場合は繰越欠損金や含み損資産の移転による租税回避に容易に利用されるので、個別の租税回避防止規定として、5年経過要件やみなし共同事業要件が設けられています。

5年という年数は、元々は欠損金の繰越期間の5年に合わせていたわけですが、その後、繰越期限が7年、9年と延長されても、5年経過要件は据え置かれています。

いずれにせよ、5年間という長期に亘って支配関係にあるグループ会社同士の合併であれば、なかばセーフハーバー的な形式基準として、欠損金の引継ぎ制限を課さないことにしたわけです。

更に、ヤフー事件の東京地裁判決では以下のように判示されています。
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法57条3項が定める5年の要件など、未処理欠損金額の引継ぎを認めるか否かについての基本的な条件となるものであって、当該要件に形式的に該当する行為又は事実がある場合にはそのとおりに適用することが当該既定の趣旨・目的に適うことから、包括的否認規定の適用が想定し難いものも存在することは否定できない
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5年経過要件は、形式的にそのまま適用するのがこの規定の趣旨・目的に適い、包括否認(行為計算否認)の適用は想定し難いと言っています。

それにも拘わらずTPRが否認されたのは何故でしょうか。


4.本事案は組織再編税制の濫用か

合併時にプレスリリースでも少々触れられており、新聞記事にも記載がありますが、テーピアルテックの合併と同時に、同じ名前の子会社を設立し、テーピアルテックの事業は新設子会社で引き続き行われているようです。

新設子会社の設立スキームは不明ですが、例えば合併直前にテーピアルテックが新設分社型分割で子会社(瞬間的にはTPRの孫会社)を新設するようなことが想定されます。これでも形式的には適格要件、繰欠引継ぎ要件を満たすことができます。

しかし、例えば下記図1のように新設子会社にテーピアルテックの全ての資産・負債、従業員等が引き継がれていれば、組織再編前後で経済実態に全く変化がなく、繰欠の移転のみを目的とした事業目的のない不自然な組織再編としか考えられません。

(図1)


このようなケースであれば、最高裁判決に照らしても明らかに「濫用」ということになるでしょう。

一方、新聞記事によれば、「TPRアルテック社は社屋や設備などをTPRから借りて、テーピ社の事業を継続」したとあります(TPRアルテックはテーピアルテックが2011年10月に社名変更したもの)。

ここからわかる通り、旧テーピアルテックの資産・負債の全てを新設子会社に移転させたわけではなく、少なくとも社屋や設備といった資産は親会社に移転させています(図2参照)。

(図2)


つまり、再編前後で一定程度の経済実態の変化はあったわけです。それがTPRが事業目的があったと主張する根拠でしょうし、ちゃんと考えた上での再編ではあったんでしょうね。

そうすると、後は、その経済実態の変化の「程度感」、合理的な事業目的があったといえるほどなのか、という難しい判断の勝負になりそうです。国税当局は「企業再編の実態を伴っていない」と指摘しているわけですし。

租税回避の意図についてTPRは否定していますが、税負担の減少の意図すら全くなかったとは思えませんし、なかなか立証が難しいですね。ヤフー事件のように「ヤバい」メールとかが税務調査で押さえられてたりするとどうしようもないですが。

ということで、国税不服審判所や裁判所がどういう判断を下すのか、具体的なスキームが判明することも含め、非常に楽しみな事案です。(新聞では異議申し立てとありますが、審査請求でしょうかね)


5.その他の論点

新聞記事によればTPRは国税当局に事前照会をしていなかったようですが、そりゃそうだろうと思います。

適格要件や5年経過要件等の法令解釈については何ら疑義はありませんし、行為計算否認の対象になりますか?と聞いても、調査での事実認定次第としか回答は得られませんので。

それと、個人的には、この否認が社外流出否認なのか、期ズレなのか、とても気になります。PLインパクトが出ていますし、実際問題繰欠は使用できなかったのだと思いますが、組織再編がなかったものとしてテーピアルテックに繰欠を戻した上で期限切れになったのか、繰欠を切り捨てたのか、というのは結構大事かな、と。

非適格合併という認定にはなりませんし、切り捨てとなるとやり過ぎな感じはしますが、どうなんでしょう。これも裁決や判決が出れば確認できますかね。

ということで、今回はここまでです。



【9/5追記】

一点、重要な勘違いをしていましたので、訂正含め追記します。

グループ内適格合併に際して引継ぎ制限が生じるのは支配関係発生前に生じた繰越欠損金ですが(法57③一)、もしTPRのテーピアルテックに対する支配関係が最後に発生したのが2002年2月であれば、その前の事業年度の繰越欠損金は合併日の属する2010年3月期においては既に期限切れになっているはずです。

ちなみに、2001年3月までに発生した繰越欠損金の期限は5年、2002年3月期であれば7年ですが、いずれにせよ2010年3期には使用できません。

従い、上記前提であれば、そもそもTPRが引き継いだ繰越欠損金は、テーピアルテック買収後(=グループ関係発生後)に生じたものになります。

繰越欠損金の引継ぎに係る個別否認規定が支配関係発生前(買収前)の繰越欠損金に限定しているのは、繰越欠損金を抱えた法人を外部から買収して合併するといった租税回避行為を防止する趣旨です。逆に言えば、買収後に発生した繰越欠損金は、悪用されるリスクが低いということで、意図的に規制の対象にしなかったということです。

従い、通常であれば、この繰越欠損金の引継ぎに対して行為計算否認を行うことは想定されないと思います。

しかし、上述の通り、そもそも合併前後でほとんど経済実態に変化がないような事案であれば、繰欠の移転による税負担の減少のみを目的とした取引として行為計算否認を適用することも十分考えられます。

ということで、本事案に対する考え方の整理は変わりません。

(※尚、レアケースながら、支配関係発生後、特定資産の譲渡等損失が発生した繰越欠損金の引継ぎが否認対象になっていることも考えられます。この場合であれば5年経過要件が課されますので、元々の記載と同じ整理になります)



スシローが再上場するとの報道がありました。

(日経より)

『回転ずし最大手のあきんどスシロー(大阪府吹田市)が株式再上場の準備に入ったことが7日わかった。現在は英投資ファンド、ペルミラの傘下だが、ペルミラが上場に向けた主幹事証券会社に野村証券を指名した。順調なら今年秋にも上場を申請し、2017年の前半にも上場する見通し。実現すれば09年に非上場となって以来8年ぶりの市場復帰となる。』

『16年9月期の決算期末以降に上場を申請する見通しだ。市場関係者の間では時価総額が1千億円を超えるとの見方が多く、外食産業の再上場として14年のすかいらーく(再上場時の時価総額は2330億円)以来の大型案件となりそうだ。』

『あきんどスシローは09年に投資ファンドのユニゾン・キャピタル傘下に入る形で非上場となった。その後、12年にペルミラがユニゾン・キャピタルから約800億円で買収していた。』

最近は外食の上場続きということもあり、もう少し見てみたいと思います。

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1.ペルミラ買収時の財務分析

日経記事の通り、スシローは2009年にユニゾンが買収して非上場化し、その後、2012年9月にペルミラが更に買収しています。

スシローの決算公告からペルミラの買収の影響を分析してみましょう。

スシロー2012/9末のBSを見ると、純資産110億円、総資産245億円、また、借入金・リース債務33億円に対して手元現金43億円という実質無借金経営でした。

これが、ペルミラによる買収(&合併)後の2013/3末では、総資産873億円(内、のれん686億円)、純資産370億円、借入金450億円(手元現金は69億円)となっています。

2013/3期が「第一期」となっていることからも、買収会社とスシローが合併し、LBOローンがスシローのBSに計上されたことがわかります。

また、親会社がCEILジャパン㈱からConsumer Equity Investment Ltd.という会社に変わっており、ペルミラの投資スキームが透けて見えますね。

この新スシローの払込資本(≒ペルミラの投資額)は408億円、LBOローンが450億円ですので、合計858億円が買収総額になります。(日経報道では800億円と)

一方、買収直前の純資産110億円とのれん686億円(20年償却で年間34億円の償却費。買収時の価額に戻すと約700億円)ですので、これが見合う形になります。

2012/9期のスシローの業績は売上高1,113億円、営業利益65億円です(営業利益率5.8%)。減価償却費を20億円と仮定すると、買収総額800~850億円でEV/EBITDA9.4~10.0倍くらいですかね。
 
ファンドによる買収として、決して安値とは言えなさそうです。


2.スシローの業績分析

ペルミラによる買収後、スシローのHPには決算公告が開示されなくなってしまいました(よくある話ですが。。)

一応、ググったら直近2015/9期の決算公告が出てきましたので、同業のくらコーポレーション(くら寿司)との比較も含め纏めてみました。



スシローの2015/9期はこんな感じです。

総資産873億円
純資産361億円

売上高1350億円
営業利益44億円
経常利益22億円
税前利益18億円
税後利益▲1億円

色々と面白いですね。

まず、総資産が2013/3の958億円から85億円減少していますが、のれんの償却が2.5年分でちょうど86億円ですので、これで総資産の減少の説明ができます(その他の大きな異動なし)。

純資産は370億円とほぼ変わらず(やや減少)。

売上高は1350億円で2012/9期から増収。営業利益44億円はのれん償却前で78億円ですのでこちらも2012/9期から増益で、のれん償却前で営業利益率5.8%は変わらず。なかなかの収益力といえそうです。

営業外損益▲22億円の大部分はLBOローンの金利でしょう。残高400億円で金利20億円とすると、年利5%くらい?ちょっと高めかも知れませんね。

税前利益18億円に対して税後利益が▲1億円と赤字になるのは、のれん償却費の影響です。こののれんは会計上、合併時にスシロー単体財務諸表に反映されますが、税務上は親子間の適格合併と思われ、のれんは計上されません。従い、のれんの償却費は税前=税後になります(永久差異)。

ですので、税前利益18億円+のれん償却費34億円=53億円が課税所得、税率33%とすると▲18億円程度が法人税費用になります。

ということで、税後利益がほとんどない状態になるわけです。利益度外視で消費者のために安く提供している、というわけではありません。

ちなみに、くら寿司の2016/10期予想は上表の通りこんな感じです。

売上高1100億円
営業利益61億円
経常利益65億円
純利益42億円

確かにスシローが最大手とあって、スシローのほうが売上高は上です。営業利益率は5.5%ですので、こちらもわずかにスシローが上です。

くら寿司は昔のスシローと同様に無借金経営ですので、金利費用はなく、税前/税後利益も通常の関係性になっていますね。
 

3.再上場時の時価総額は?

日経の報道では、再上場時の時価総額1,000億円超えだそうですが。

おそらく最近のすかいらーくやコメダと同様、スシローもIFRSの任意適用によりのれんを非償却にした上で上場するものと思われます。一応、この前提で簡単にくら寿司の株価を比較してみましょうか。

くら寿司の株価は6/10時点で5,740円(前日終値5,400円からはねましたが)。

この前提で、株式時価総額は1,133億円です。ここから現金超過76億円(2016/4末)を差し引くと事業価値で1,058億円。

EBITDAは2016/10予想ベースの営業利益61億円に前期並みの減価償却費として32億円を加算すると93億円。従い、EV/EBITDAで11.3倍になります。

一方、純利益予想42億円からPERを計算すると27.2倍です。

けっこう、高い評価を得ているのですね。

では、スシローはどうでしょうか。

スシローのEBITDAを予想すると、営業利益44億円+減価償却費20億円(こちらは開示がないので、くら寿司との総資産比較で試算)+のれん償却34億円=98億円。

EV/EBITDA11.3倍とすると事業価値で1,115億円。くら寿司を上回ります。

そして、ここからnet Debt(直近の実績が不明ですが、2013/3末から100億円程度返済が進んでいると仮定して)300億円を差し引くと、株式価値で815億円になります。

ここからすると、時価総額1,000億円超えというのは、どうでしょうかね。

ちなみに、PERで計算すると、のれん非償却の前提で税後利益33億円、PER27.2倍で時価総額907億円です。

Debtの影響が直接考慮されないため、EV/EBITDAより高めになりますが、それでも1,000億円には届きませんでした。

ただ、もしかするとペルミラは再上場の前に再度リファイナンスする可能性もあると思っており、もっとレバレッジを高める(借入を増やす)ことで、PERによる株式評価の引き上げを狙う可能性もありそうです。金利ももう少し下げられるでしょうし。

個人的には、Debtが過小評価(株式価値が過大評価)されてしまうことから、特にLBO銘柄のような巨額の「のれん/借入」両建て型BSの会社はPERで評価すべきではないと思いますが、どんな株価になりますかね。

とはいえ、ペルミラは投資額408億円に対して時価総額800億円でも十分リターンと言えそうです。

ペルミラの買収時から増収・増益とはいえ、営業利益率が改善したわけでもなく、これだけのリターンが得られるのは釈然としない感じもありますが、まあタイミングも含め、さすがですね。

尚、実際に上場するのは2015/10に設立された親会社スシローグローバルホールディングスとのこと。スキームは不明ですが、株式移転等で設立したんですかね。

こういうのって、上場の際の開示の簡素化という効果もあるんでしょうけど、どうなんでしょ。

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ということで、今回はここまでです。

ちなみにスシローの年間販売数量は約12億皿と言われています。のれん償却費が年間34億円ですから、1皿食べる毎に約3円ののれんを償却している計算になります。

そう思いながらスシローで食べるのもまたオツですね。IFRS採用で償却が止まってしまう前に是非味わいましょう。