ヤフー・IDCF事件完結篇 ~最高裁判決の法令解釈と高裁・地裁判決の違いとは~ | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


さて、ヤフー事件及びIDCF事件の最高裁判決が出ました。しかも閏年の2月29日です。

先日のIBM事件のような上告不受理ではなく、132条の2(組織再編に係る行為計算否認)について、ちゃんと最高裁が見解を示したことになります。

結論はヤフー敗訴で変わらないものの、けっこう、高裁判決とはトーンが違う印象を受けましたので、早速整理してみました。

(尚、本件の事案整理、地裁判決、高裁判決、関連各社の会計処理についてはこれまでのエントリーをご参照下さい)

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1.132条の2の法令解釈

一番重要な部分ですが、132条の2の不当性要件の法令解釈が最高裁判決ではっきり示されましたので、全文引用しておきます。

『法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり,その濫用の有無の判断に当たっては,①当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり,実態とは乖離した形式を作出したりするなど,不自然なものであるかどうか,②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で,当該行為又は計算が,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。』

何か、すっきり頭に入ってきませんが、整理するとこういうことです。
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■132条の2の「不当」とは、租税回避の手段としての組織再編税制の「濫用」を指す。

■「濫用」とは、「組織再編を利用した税負担の減少を意図し、本来の規定の趣旨・目的から逸脱した態様で組織再編税制の適用を受ける(又は免れる)もの」と解するのが相当。

■その判断に当り、以下二点を考慮する。
①法人の行為・計算が不自然かどうか(通常は想定されない再編の手順や方法、実態と乖離した形式の作出等)
②税負担の減少以外に合理的な理由、事業目的があるか
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要するに、組織再編税制を濫用して税負担を軽減した場合は否認されるわけですが、けっこう地裁判決や高裁判決とは印象が違いませんか?

なぜなら、地裁判決や高裁判決は、i)経済的取引として不自然・不合理な場合のみならず、ii)組織再編税制の趣旨・目的に反する場合も「不当」と解釈していたのに対し、最高裁は、i)とii)の『or条件』としていないからです。

更に、事業目的(ビジネスリーズン)や租税回避の意図もちゃんと重視してます。

極めて真っ当な組織再編を行ったとしても、ただ組織再編税制の趣旨・目的に反するということだけで否認されるような怖さが地裁判決・高裁判決にはあったところ、これが最高裁判決ではかなり中和されたというか、いいバランスのような印象を持ったわけですが、実際のところどうなんでしょうかね。

(追記:上記法令解釈の引用で、「本来の趣旨及び目的に反する態様でその適用を受ける又は免れるものと認められるか否か」までが②に含まれると読むべきな気もしてきました。。

とすると、上記の整理とはやや違ってくるのですが、それでも②は組織再編税制の趣旨・目的に反するというだけでなく、租税回避の意図との組み合わせになってますので、組織再編税制の趣旨・目的に反するだけで不当とされた原審とはトーンが違う印象ではあります。

この追記は勘違いだったので削除します。元々の理解で合ってました。twitterにてご教示頂いた先生方に感謝。)


2.I氏の副社長就任に係るあてはめ

この部分については、あまり目新しいものはなさそうです。

改めて重要なのは、やはり最高裁でも担当者のメール(「税務ストラクチャー上の理由」で役員を派遣)が重視されている点でしょうか。今時の税務調査というか、怖いですねぇ、これは。

それから、特定役員について、「経営の中枢を継続的かつ実質的に担ってきた者」という多少新しい表現も見受けられますが、実際の経営への関与が希薄で、期間も短いという話ですから、特に新しい論点はなさそうですかね。

尚、高裁判決では、132条の2を『仮に』経済的行動として不自然・不合理で、仮装的又は名目的な場合に限られるという見解を採用したとしても、本件の副社長就任は経済的行動として不自然・不合理で名目的なものだからアウト!というような判示をしていましたが、最高裁はこの点をスルーしています。

まあ、余計な判示だったということでしょう、、


3.行為計算否認の対象となる「その法人」の範囲

この点はほぼ地裁と同じ内容でしょうか。

平成19年の改正の趣旨にも照らし、「その法人の行為又は計算」とは、「更正を受ける法人」の行為又は計算には限られないという結論です。やや文理上苦しい印象は否めませんが、まあ妥当な内容でしょうね。

尚、この点でも、高裁判決は更に、「本件副社長就任はヤフーの行為とも認められる」という趣旨で踏み込んだ認定も行ったわけですが、ここも最高裁はスルーしています。


4.IDCF事件について

こちらもヤフー事件と同時に最高裁判決が出ています。

ちなみに裁判長はヤフー事件では山浦善樹氏でしたが(IBMの上告不受理も同様)、IDCF事件では小貫芳信氏です。ただ、132条の2の法令解釈は両者とも全く同じです。

ただ、やはりこちらはヤフー事件よりも若干すっきりしない印象はあります。

最高裁判決でも「本件の一連の組織再編成を全体としてみれば、b社(IDCS)による移転資産等の支配は本件分割後も継続しているといえるのであって、本件分割は適格分割としての実質を有すると評価し得る」とされています。

この移転資産に対する支配の継続という実質判断で適格/非適格を判定するのは無理があります。

これを最も端的に示す事例は、A社がB社を現金対価で買収して合併する場合に、i)A社がB社株式を現金対価で取得し、A社がB社を親子間で合併(=適格合併)した場合と、ii)A社がB社を現金対価で合併(=非適格合併)した場合とで、経済実態は全く同一であるにも拘わらず、適格/非適格の判定が異なるというものです。

要するに、移転資産に対する支配の継続をどのレベルで見るかによって何とでも言えてしまう(場合もある)わけで、IDCF事件ではどう考えても不自然・不合理な行為が伴っているので結論として違和感はないものの、何か気持ち悪さが残るんですよね。。

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といことで、今回はここまでです。

この事案が世の中に公表されてからかなりの年月が経ちましたが、ちゃんと132条の2の解釈が最高裁から示される形で決着しましたね。

伝統的な租税回避概念より拡張したということで批判的な学者の先生方も多いようですが、ま、これはこれでよかったんじゃないでしょうか。

個人的にも非常に面白い事案で楽しませて貰いましたし、ヤフーに感謝です(というか、もう少し巧くやれよ、、という気もしたり??)。


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