ヤフー事件最高裁判決に係る最高裁調査官解説(ジュリスト2016.9) | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。

ヤフー事件最高裁判決に係る最高裁調査官解説(ジュリスト20169月号)が非常に興味深い内容でしたので、ポイントをまとめておきます。

 

(総論)

ü  立法当時の資料からうかがわれる立法趣旨に照らし、制度濫用基準を採用。

ü  最高裁が法132条の2の不当性要件の意義および判断枠踏みを明示的に示したもので、理論的にも実務的にも重要。

ふむふむ。

 

(経済合理性基準を採用しない理由)

ü  経済合理性基準を採用しないのは、組織再編成は売買契約や雇用契約などの典型契約と異なり、一般的な取引慣行や取引相場がなく、純経済人の自然かつ合理的な組織再編成とは何かという出発点からその審理判断が困難な場合もあるから。

同じような経済効果をもたらす組織再編成の手法やその組合せはいくつもあるわけで、どれが自然なのかという議論は確かに難しいと思う一方、結局、不自然性を考慮事情にしたわけで、どうなんでしょうね。

 

2つの考慮事情について)

ü  2つの考慮事情(行為・計算の不自然性とその合理的な理由となる事業目的等)は、制度濫用基準を基礎としつつ、実質的には経済合理席基準の通説的見解である「異常変則性・事業目的」(金子租税法)の考え方を組織再編成の場面に即して取り込んだもの。

ü  租税回避以外の事業目的は、「存在するか」ではなく、「不自然な行為・計算を行う合理性を説明するに足りる程度の事業目的等が存在するか」を考慮する。

ü  2つの考慮事情は、単なる考慮事情にとどまらず、実質的には不当性を肯定するために必要な要素。行為・計算に不自然性が全くない場合や、その合理的な理由となる事業目的等がある場合は、他の事情を考慮するまでもなく、不当性要件には該当しない。

事業目的がありさえすればいいわけではなく、不自然な行為・計算の合理性を正当化するほどの事業目的が必要と。まあそうでしょうね。一方で、この2つの考慮事情の両方を満たすことが実質的に必要条件と言い切られているのは重要です。

 

(制度の濫用について)

ü  制度濫用の判断基準として、租税回避の意図と趣旨目的からの逸脱をその要素としたのは、外税控除事件における最高裁判決の説示を参考にしたもの。

ü  租税回避の意図の要求は、それを不要とする法1321項の通説との関係で議論があるが、制度の濫用と評価するためには行為者の一定の主観的要素が必要という常識的な考えによるもの。

ü  但し、行為・計算が不自然で、租税回避以外に合理的な理由となる事業目的等が存在しない場合は、担当者の供述やメール等で直接立証されずとも、租税回避の意図の存在を推認し得るのが通常。

外税控除事件が濫用なのか課税減免規定の限定解釈なのか、というのはさておき、同族会社の行為計算否認と異なり租税回避の意図を要求したのは、濫用基準だから、と。ただ、この解説が「税負担減少の意図」ではなく「租税回避の意図」という文言を使っているのはやや違和感があります。また、外税控除事件では趣旨目的から「著しく」逸脱する態様で、とされていましたので、「著しく」という文言のない本判決と異なるところがあるのか、気になりました。明文の否認規定の有無というところに由来しているのかもしれませんが。

尚、税負担減少の意図を直接的に立証する証拠は不要なのですね。それを要求するのは税務執行サイドには酷かも知れませんし、推認されても仕方がないケースが大半な気はします。

 

(租税法律主義との関係)

ü  個別規定の文言から読み取ることのできない事情に基づいて不当性を判断することとした原判決については、納税者の予測可能性や法的安定性を害するとして租税法律主義違反を問題視する批判もあったが、本判決に基づく不当性要件の該当性は関係者において十分に予測可能であり、租税法律主義違反の問題を来すものではない。

はい、個人的には非常にバランスのいい判決だと思いますし、異存ありません。

 

最高裁調査官ということで、実際に最高裁で本判決に関与されていた方による解説だとすると、重みがありますね。

 

以前、最高裁判決が出たときのまとめはこちら。

ヤフー・IDCF事件完結篇 ~最高裁判決の法令解釈と高裁・地裁判決の違いとは~