タックスヘイブン対策税制における非課税のゲイン・ロスの取扱いに係る2つの見解 | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。

 

タックスヘイブン対策税制(CFC税制)において、非課税のゲイン・ロスが生じた場合の「非課税所得」の取扱いついては、従来から国税庁の秋元氏の見解が実務上の標準になっているものと思いますが、先月の国際税務において青学の渡辺教授がこれと異なる見解を披露されていました。

 

影響力の強い方々なので、実務家としては統一見解にして頂きたいなぁというところではありますが、興味深いところですので、両者の見解を比較・整理してみます。

 

1.非課税所得とは

 

CFC税制における非課税所得とは、外国関係会社の租税負担割合の計算上(分子=法人税、分母=所得)、分母に加算することとされている「その本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額(措令3914②一イ)」を指します。

 

つまり、外国現地で課税されない所得があれば、これを分母に加算することにより外国関係会社の実効税率が低下し、軽課税か否かを判定するトリガー税率(20%未満)にヒットしやすくなるわけです。

 

また、特定外国子会社の適用対象金額(合算所得)を本店所在地国法令に基づいて算定する場合も、「その本店所在地国の法令により当該各事業年度の法人所得税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額(措令3915②一)」を加算することとされており、租税負担割合の計算における非課税所得と同様の取扱いになります。

 

この非課税所得の定義は必ずしもはっきりしないわけですが、今回のポイントは、現地で非課税となるキャピタルゲインを上回る非課税のキャピタルロスが発生した場合、つまり非課税所得がネットでマイナスの金額となった場合にどう取り扱うのか、という点です。

 

 

2.国税庁/秋元氏の見解

 

おそらく現在の実務上の通説となっていると思われるのが、国税庁/秋元氏の見解です。

 

この見解によれば、非課税のキャピタルゲインとロスを通算した結果、プラスの金額が残る場合はその金額を非課税所得として加算する一方、マイナスの金額が残る場合は分母(所得)から減算(マイナス)はしない、ということになります。つまり、マイナスの非課税所得は認めない立場です。

 

同氏が国際税務の記事(20143月号)において示した根拠は以下の通りです。

  • 非課税所得にマイナスの概念も含まれると解すると、外国の表面税率が20%未満でもあっても実効税率が20%以上となる場合があり、本制度が予定している軽課税国の枠組みと異なる。
  • 租税負担割合の分母である「所得の金額がない場合又は欠損の金額となる場合には(措令3914②四)」外国の表面税率で判定することが認められているが、この規定の仕方からすると、所得はプラスの概念のみを定めていると解される。
  • 各事業年度の所得の金額は「当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額」と定義され(法法22①)、控除した金額にはマイナスの概念がない(ゼロが限度である)ことから、所得の金額は原則としてプラスの概念である。

 

3.青学/渡辺教授の見解

 

一方、渡辺教授の見解では、非課税所得は非課税のゲインとロスを通算した金額で、マイナスの場合は分母(所得)から減算する(マイナスの金額を加算する)としています。

 

この根拠は同じく国際税務(20168月号)で以下の通り示されています。

  • 法人税法上、「所得の金額」は全ての益金の額から全ての損金の額を控除した残額という包括的な差額概念として規定されており(法法22①)、別段の定めがない限り、プラスの差額だけではなくマイナスの差額も含まれる。
  • これは「所得の金額が…欠損の金額となる場合には(措令3914②四)」という規定振りにも表れている。
  • 実効税率を我が国税法上の課税所得レベルに引き直した所得金額を基礎にして行うという規定の趣旨からしても至極当然のことである。
  • この趣旨に反してマイナスの所得の金額の加算を認めないのであれば、明文をもって規定すべきであるし、損金の額が益金の額を超える場合はわざわざ「欠損金額」として定義付けられていることから立法技術的にも比較的容易なはずであるが、敢えてそのような規定は設けられていない。

 

4.まとめ

 

ということで、非課税所得を解釈するに当たって同じ根拠条文を参照しているにも拘らず、真逆の結論になっているのですね。

 

個人的には、所得はプラスの概念、マイナスの場合は欠損金額、と単純に理解していたので、秋元氏の説に違和感を覚えたことがありませんでしたが、租税法学者の方々の見解も聞いてみたいなと思う次第です。

 

実務上は悩ましいのかも知れませんが、そもそも例外的なケースに限られるので、あまり影響はないのでしょうかね。

 

ということで、今回はここまでです。