ソフトバンクがARM買収資金の捻出の一環としてアリババ株式を売却しています。
既に2016年度1Qに売却済みとなっているわけですが、四半期報告書を見ると実効税率がやや歪な感じになっており、出資ストラクチャー含め、アリババ株売却の税務インパクトを検証してみました。
(結局、いろいろと謎が解けておらず、有報の税率差異分析等を待ちたいところですが、、)
1.アリババ株売却の概要
プレスリリースや四半期報告でもあまり詳細が開示されていませんが、推定も含め、ざっと表に纏めるとこんな感じです。
売却株数は開示されていませんが、売却価額や議決権比率の異動等からの推測です。
尚、ソフトバンクのアリババ株式の保有は直接保有と間接保有に別れており、整理するとこんな感じになります(単位:百万株)。今回の株式譲渡はソフトバンクグループ本社ではなく、在シンガポール子会社のSB China Holdingsになります。
第1四半期時点では、上記の①②が完了、③もこの7月に完了しています。(West Raptorは④Trust Securities発行の関連ですが、詳細は後ほど)
この①②について認識した売却益は2,029億円。売却価額は3,194億円ですので、譲渡原価を逆算すると1,165億円ということになります。
しかし、この譲渡原価には違和感があります。
譲渡原価の単価を計算すると、1株当たり約3,000円になります。
一方、16/3末のアリババ連結簿価は有報によると15,883億円で単価1,500円です。(しかも、この時は米ドルレートが113円でしたので、その後減少しているはずです。TAの検証まではしていませんが。)
また、16/1Q末で売却予定資産としている③アリババパートナーグループへ売却する株式の連結簿価は69億円、また、担保提供している④の連結簿価は1,100億円と開示されており、いずれも単価は約1,300円になります。
感覚的には、譲渡原価が倍くらい計上されているんですよね。
手数料等があるのかもしれませんが、金額も大きく、やや謎です。
尚、売却価額の3,194億円は、単価で約8,200円。株価80ドル程度になりますので、ほぼ市場価格並みのようです。
2.四半期業績における実効税率
四半期業績(PL)を並べてみます(単位:億円)。
16/1Qで目立つのは関連会社株式売却益ですが、ほとんどが先ほどの①②になります。
で、実効税率を見ると、40.4%。やや高めかな、というところですが、四半期報告書を見ると、アリババ株式売却益が計上されることにより、過去、評価制引当を計上していた繰延税金資産の回収可能性が高まったとして、PLで616億円の利益を認識したそうです。
この影響を除くと、法人所得税費用は2,057億円、実効税率57.7%になってしまいます。
いろんな事業が含まれているソフトバンクとはいえ、ちょっと高すぎです。
更に四半期報告では、法人所得税の増加理由が、「SB Chinaで発生したアリババ株式の売却益(子会社間売買含む)に対する将来課税 見込みについて、繰延税金費用を計上したことによるもの」と説明されています。
なるほど、アリババへの投資については、持分法投資損益にも株式売却益にも税効果を認識しているわけですが、ここで注目すべきは、「子会社間売買を含む」というところです。
おそらくこれは、④のTrust Securitiesの発行に関わるものと思われます。
これを解読する前に、ソフトバンクのアリババ投資に係る税務上の取扱いを確認しておきましょう。
3.アリババ投資に係る税務上の取扱い
上表の通り、ソフトバンクのアリババ株式保有は、本社が直接保有する部分と、SB China Holdings経由の間接保有とに分かれます。
(1) 直接保有分
直接保有分の出資比率は約19%になります。
配当を受けた場合、25%未満ですので、日本では通常の法人課税を受け(益金不算入にならない)、中国での源泉税10%(中国国内法も日中租税条約も同率)は外国税額控除の対象になります。
また、株式譲渡益が発生した場合も、中国では10%の源泉課税が生じた上で、日本での法人課税から税額控除を受ける形です。
つまり、投資収益にはいずれも日本の法人税率の負担が生じます。
(2) 間接保有分
一方、間接保有分の出資比率は約13%です。
SB Chinaが配当を受けるとどうでしょう。SB Chinaは在シンガポール子会社ですので、同国では配当は非課税ですが、中国では10%の源泉税が生じます(租税条約での減免5%の適用には出資比率25%以上が必要)。
更に、SB Chinaの法人税率は20%未満になるので、日本のタックスヘイブン税制の適用があります。SB Chinaは持株会社と思われ、おそらく統括会社の要件を満たしていないとすると(開示資料からはわかりませんが)、この配当は結局、日本で合算課税の対象になります。(直接保有分と合わせると25%以上の出資比率ですが、合算課税の計算上、非課税となるのは、あくまでSB Chinaが保有している株式での判定になると思われます)
株式譲渡益の場合も同様です。中国での源泉税の有無は難しいところですが(一応、租税条約上、中国の課税権は否定されているが、25%以上保有している事業譲渡類似のような場合は中国に課税権あり)、いずれにせよ日本での合算課税は避けられません。
従い、間接保有分の投資収益についても日本の法人税率の負担ということになります。
なので、連結決算上の投資の一時差異に係る税効果は、基本的に日本の税率で計上されているものと思われます。
尚、このアリババ株式をすべて本社から保有していれば、少なくとも本邦での配当益金不算入は享受できたはずですので、過去の経緯は承知していませんが、勿体ない感じがしますね。今更投資スキームを変更するにも税コストが嵩み過ぎて難しいのでしょうか。
4.Trust Securities発行に係る税負担
では、話題を戻します。
この④のトランザクションは、かなり複雑ですが、要するに、Trustに対し、ソフトバンクが将来的にアリババ株式を譲渡する先渡売買契約を締結し、Trustは、現時点で投資家に将来アリババ株式に強制的に転換される証券を発行するものです。
対象となる株式については、SB Chinaから米国の100%子会社であるWest Raptor Holdings LLC(WRH)に譲渡され、担保に提供されています。
WRHは売却対価として54億ドル(5,784)億円を前受けしていますが、売却益の計上は、アリババ株のグループ外への譲渡が行われる2019年以降となります。
アリババ株式にはフロア・キャップを設定するデリバティブ(カラー)も付けられており、会計処理も興味深いのですが、ここでは触れません。
税効果での問題は、SB ChinaからWRHへの株式譲渡です。
仮に100%子会社間であったとしても、課税の繰り延べはありませんので、この移管は時価ベースで譲渡されたものとして、現時点で課税対象になるものと思われます。従い、この税負担の引当が必要になります。
一方、時価で譲渡されても連結決算上は売却益は内部消去されますので、税務簿価>連結簿価の状態になりますが、この投資の一時差異に税資産を計上できるのでしょうか。
約2年後ですが、確実に解消が見込まれるという整理で税資産を計上するのか、あるいは、Trustはアリババ株に代えて現金で決済することも認められていますし、近い将来に解消するとはいえないのか、悩ましいです。
ただ、16/1Q決算が非常に高い実効税率となっており、その理由としてアリババ株式の子会社間売買が挙げられているところからすると、税資産を計上していない可能性があります。
この場合、売却益課税分のみがPLヒットしていることになります。
金額を計算すると、譲渡価額5,748億円に対し、売却原価を1株1,300円の簿価とすると1,114億円、差し引きで譲渡益は4,671億円になります。
法人税率30%とすると1,400億円です。
仮にこの金額を1Q決算の法人所得税が差し引くと、法人税は656億円で実効税率は18.4%になってしまい、逆に少なすぎになります。。
・・・
ということで、この税効果の謎はまだ解けておらず、今後の開示を待ちたいと思います。