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Accounting, Tax and M&A

会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。

ホテル椿山荘を運営する藤田観光が、連結子会社への貸倒引当に係る税務処理について、国税当局から否認されたと報道されています。

(朝日)http://www.asahi.com/articles/ASJ5061S0J50UTIL04P.html

(西日本新聞)http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/249140

ちょっと調べてみると意外と面白い事案なので、簡単に纏めておきます。


1.2014年度の税務処理と調査否認の事実関係

まずは事実関係の整理です。

藤田観光は関西エアポートワシントンホテル株式会社(以下、関西エアポート)の株式100%保有する親会社です。

関西エアポートは2014/12末で34億円の債務超過の状態にあり、藤田観光は同社への貸付金35億円について単体決算上、貸倒引当金を計上していました。

また、税務上は、貸倒引当金に係る平成23年税制改正の経過措置を踏まえ、従来認められていた個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の2/4(50%)に相当する17億円を損金算入しました(2014年3月31日までに開始する事業年度)。

しかし、この貸倒引当の損金算入について国税当局から否認され、2015/12期に過年度法人税等として8億円を費用計上しました。

同社の有価証券報告書における開示は以下の通りです。

「東京国税局による税務調査において、連結子会社に対する貸倒引当金などで指摘を受け、更正通知を受ける見込みとなったことから見積り計上しております。」

藤田観光は連結納税を採用しており、関西エアポートは連結子法人(国内100%子会社)です。

税法上、連結子法人に対する債権に係る貸倒引当の損金算入は認められませんので(法52⑨二)、単純にこの引当を損金算入していたのであれば、藤田観光側の税務処理誤りと言えそうです。

藤田観光は「見解の相違する部分もあった」としていますが、どうなんでしょうね。


2.有報の開示に基づく検証

上記処理について、藤田観光の有報の開示から検証してみます。



この表の通り、2014年度と2015年度の単体決算において、貸倒引当金の残高はほとんど変わっていません(注記を見ても、中身の入れ替わりなし)。従い、この大半は関西エアポート向け債権の引当になります。

一方、貸倒引当に対する繰延税金資産の金額は大きく増加しています。

この点、上表の通り、2014/12末においては、貸倒引当金から無税処理していた17億円を差し引いた残額に対して約33%の税率で税資産が計上されており、一方、2015/12末においては、貸倒引当金の全額に対して約33%の税率で税資産が計上されていることがわかります。

つまり、2014/12末において17億円を無税処理していたのが、2015/12末には一時差異になっているということで、調査否認されたという説明と整合しています。
 

3.第二会社方式の税務リスク

さて、本件の議論はこれだけでは終わりません。

藤田観光の有報を見ると、以下の事実が判明します。

関西エアポートは2016年1月1日、同じく藤田観光の100%子会社であるWHG関西株式会社(以下、WHG関西)に運営するホテルの事業を全て譲渡しました(事業譲渡)。関西エリアの複数の事業所・法人の統合を進めたそうです。

その後、2016年1月28日に解散を決議し、2016年3月に特別清算の開始決定がなされています。

つまり、この後、特別清算の過程において藤田観光は35億円の債権の放棄を余儀なくされ、その時点で損金算入することになります(貸倒引当と異なり、債権放棄損は合理的な理由があれば連結子法人向けであっても損金算入可能)。

これは2015/12末に貸倒引当金を一時差異と扱っていることからも明らかです。

しかし、本当に大丈夫でしょうか。

この事業譲渡は100%子会社同士で行われ、株主構成も全く変わっていない中、事業譲渡によって抜け殻にした会社に対する債権を放棄するということで、いわゆる第二会社方式と認定される税務リスクがあるように思われます。

もちろん、税務リスクも検証した上でのスキームだとは思うのですが、元々の処理誤りからすると、少々不安な気も。。

ということで、引き続き注目したいと思います。


GWに久し振りのブログ更新です。

グリーが2012年に買収したポケラボについて、会社分割と株式譲渡を行うことで株式評価損を税務上認容し、税効果の利益を計上するそうです。

本件は無対価の非適格分割のようで、税務的にもなかなか面白そうなので、開示資料から分析してみました。

・・・

1. ポケラボ買収の会計処理

グリーは2012年10月にポケラボの株式を100%取得します。適時開示と有報を見ると、買収対価は122億円で、これに継続勤務に係る対価を含めると139億円とされています。

更に買収と同時に17億円の増資を引き受けているものと思われ(ポケラボの純資産や資本金の異動額から推定)、合計156億円の負担となっているようです。

尚、連結決算におけるPPA(買収対価の配分)では、買収価額122億円を前提にのれんが計上されており、継続勤務に係る対価(16億円)は発生時の費用として処理しているものと思われます。

ポケラボの2012/9末純資産とPPAの比較はこんな感じです(億円)。

                            純資産    PPA
流動資産                 -            9
固定資産                 -          21
のれん                     -          95
総資産                  10         125
流動負債                3             3
純資産                    7         122

この純資産は17億円の増資前の金額になっています。

こう見ると、いわゆる投資差額はのれん95億円と無形固定資産21億円に配分されたようです(無形資産見合いの税負債が認識されていないのは少々謎ですが)。

尚、単体決算での株式簿価は139億円とされています。これは買収価額122億円と増資引受17億円の合計で、継続勤務に係る対価16億円がどのように処理されたのか不明です。

また、グリーは連結納税を採用していませんので、この点で気にすべきところはなさそうです。


2.減損損失の計上

買収から約3年が経った2015年6月期決算において、グリーはポケラボののれん全額を減損しました。

減損額は94億円(内、のれん84億円)で、有報によればのれんは未償却残高の全額を減損したようです。これについては税務上はそもそも資産計上されていないことから永久差異になり、加えて、いわゆる投資の一時差異についても、連結決算上、税資産は認識していません。 

また、単体決算においても株式評価損131億円を計上しています。こちらは全て一時差異として税資産が計上されていますので(但し、評価性引当あり)税務上は有税の評価損になります。

減損後の連結/単体の簿価は一致しているはずですが、各々の累損を確認してみます(億円)。

(連結決算)
持分損失  ▲16(ポケラボ買収後の3期累計)
継続勤務  ▲16
暖簾減損  ▲95
無形減損  ▲20未償却残全額減損と仮定)
合計       ▲147

(単体決算)
株式評価損 ▲131
継続勤務       ▲16単体も費用認識と仮定)
合計             ▲147

こんな感じでしょうかね。

おそらく減損/評価損後の株式簿価は8.5億円で、これはポケラボの簿価純資産とほぼ一致しているものと思われます(2015/6末簿価純資産は8.6億円)。
 

3.会社分割/株式譲渡による損失認容

グリーは2016年5月に、以下の通りポケラボの会社分割と株式譲渡を行います。

①会社分割により、分割法人にはポケラボの主力2タイトルのみを残し、従業員を含むその他全てを承継法人に移転します。この承継法人はグリーが新設したSPCで、分割の対価は交付されません(無対価分割)。

②グリーが、分割法人(つまり主力2タイトルのみを保有する法人)の株式100%をマイネット社(グリーの出資比率は15.5%)に対価2.5億円で譲渡します。

これにより、税務上の株式評価損が認容され、連結決算上、51億円の税効果が認識されると発表しています。

これの税務上の取り扱いはどうなるのでしょうか。

(1)本件は無対価の非適格分割型分割

無対価の組織再編は2010年改正で手当てされたわけですが、改めて確認してみます。

法人税法2条の定義規定によれば、無対価の分割は以下のとおり分類されます。

・分割法人が分割承継法人の株式を一部でも保有していれば分社型(但し、分割承継法人が分割法人の株式を全て保有している場合を除く)

・その他は分割型

本件は、分割法人、承継法人ともにグリーの100%子会社ですので、分割型分割になります。

また、分割の適格要件という意味では、この分割は同一の者(グリー)による完全支配関係の下で行われる分割ですが、分割法人の株式譲渡が予定されている為、グループ内の再編としての適格要件を満たすことはできません。また、承継法人が新設SPCであることから、共同事業要件も満たせません。

以上より、本分割は、無対価の非適格分割型分割になります。

尚、そもそも分割法人も承継法人もグリーの100%子会社ですので、「無対価」であること自体は経済行為として何ら問題ないものと考えられます(省略することが経済的に不自然ではない)。

(2)分割法人(ポケラボ)/承継法人の課税関係

本件は非適格分割ですので、分割法人は資産・負債の時価譲渡、承継法人は時価取得という扱いになります。(グループ内なので譲渡損益の繰り延べもありますが、その後に株式譲渡が行われますので、すぐに実現することになります)

但し、ポケラボは簿価純資産≒時価の状態になっていますので、実質的に譲渡益は発生せず、承継法人においても税務上ののれん(資産調整勘定)は認識されないものと思われます。

尚、ポケラボの繰越欠損金は譲渡される分割法人に残る形になります(譲渡益による消化は見込まれない)。

悩ましいのは、寄附金/受贈益です。

ポケラボ(分割法人)は無償で資産・負債を移転しますので、その移転資産の時価(=簿価)相当について、分割法人で寄附金、承継法人で受贈益を認識することになると思われます。

その金額は、純資産8.5億円から分割法人の時価2.5億円を差し引いた6億円程度でしょうか。

とはいえ、これはグループ内の寄附金/受贈益ですので、それ自体は損金不算入、益金不算入で税務上のデメリットはありません。

(3)株主(グリー)の課税関係

株主であるグリーにおける処理はどうでしょうか。

通常、分割型分割の株主においては、純資産按分による投資簿価の付け替え計算と非適格の場合はみなし配当、株式以外の対価がある場合は譲渡損益となるわけですが、無対価だとそうでもないようです。

このあたり、やや自信ありませんが、対価の交付がないため、文理上、分割型分割による簿価付け替え計算の規定や株式譲渡益課税の規定は適用されず、またみなし配当も認識されないものと思われます。

一方、100%グループ内の寄附金/受贈益に相当する6億円について、分割法人の株式簿価を減額し、承継法人の株式簿価に加算するものと思います(寄附修正)。

結果、株式簿価139億円のほぼ全額(133億円)が分割法人株式の簿価として残ることになります。

そして、この株式を2.5億円で譲渡しますので、株式譲渡損130.5億円が認識され、加えて継続勤務の対価16億円も損金になるとすると合計146.5億円、税率33%とすると49億円の税効果になります。開示資料とも近い感じです。

(4)税務上の論点

以上を踏まえると、一応気になるのは、会社分割を利用して税務上の損失計上を狙ったというような認定が行われるリスクです。

例えば、本件は無対価分割ですが、承継法人の株式を交付していれば、非適格であることは変わりませんが、株主(グリー)における株式簿価の付け替え計算はかなり異なっていた(承継法人の簿価に寄り、株式譲渡損失は小さかった)ものと思われます。

もし、主力2タイトルのみを承継させる分割であれば(分割法人と承継法人を逆にする)、株式簿価のほとんどは有税評価損のままだったでしょう。

あるいは、そもそも本件では主力2タイトルを外部に譲渡しただけですので、会社分割を利用せずとも、他のシンプルな手法も考えられなくはないとも思われます。

とはいえ、本件では経済実質的にわざわざ対価として株を交付する意義に乏しく(無対価であることは不自然ではない)、主力2タイトルの譲渡方法としてもそこまで迂遠で不自然なことをやっている印象もありません。

そういう意味では、とりあえず現時点では、税務上の効果もある程度考えた(意図した)上でのスキームだろうとは思うものの、税務上否認されるべきような取引ではないのかな、と感じました。

この点はもう少し考えてみたいと思います。

しかし、税務上の取り扱いに不透明さの残る無対価分割をわざわざ選択したのは不思議な気もしますね。譲渡損を取るにしても、他にもやりようはありそうですが。

・・・

 ということで、今回はここまでです。また何か気づいたら追記します。



東芝がキヤノンに東芝メディカルシステムズを売却するようですが、トリッキーなスキームが話題ですね。

twitterでも色々な議論を拝見させて頂いたのと、連結納税絡みの話も面白いので、ちょっと纏めておきます。

・・・

1.開示資料から読み解く売却スキーム

基本的なスキームは、東芝が100%子会社である東芝メディカルシステムズ(東芝メディカル)の全株式をキヤノンに譲渡、但し、キヤノンが各国での独禁法のクリアランスを取得できるまでは独立第三者のSPCであるMSホールディング(MS)が議決権を保有する、というものです。

このSPCに一旦議決権を保有させるトリッキーなスキームは、東芝が何とか今年度に売却益をPL計上できるよう、東芝とキヤノンのリーガルアドバイザーが編み出したようです。但し、売却益計上できるかどうかは依然精査中とのことです。

面白いですね。

売却対価は6,655億円で、東芝の売却益は連結・税前で約5,900億円とのこと。単体ベースですが、東芝メディカルの純資産が700億円程度なので、そんな感じですね(のれんはほとんどなし)。

両社の開示資料から何点か気になる記載を確認します。

「東芝は対価を受領済み」
もちろん、前払いしてもらったからといって売却益が計上できるわけではありませんが、決済は完了しているそうです。

「議決権はMSが保有」
MSが保有しているのは議決権であり、株式とは書いていませんね。MSの事業目的は「株式の保有及び運用」とのことですが。ちなみにMSは個人3名が取締役兼株主で、資本金は3万円です。

「普通株式取得日は未定」
キヤノンが東芝メディカルの普通株式を取得する日は未定となっています。少なくとも「普通株式」はまだキヤノンは保有していないことになります。但し、キヤノンの取得する株式数は134,980,000株、議決権の個数は134,980,000個とあるので、無議決権株等を利用しているわけではなさそうです。

「キヤノンと東芝が締結したのは株式等譲渡契約」
譲渡されるのは必ずしも株式だけではないようにも読み取れます。株式を信託受益権化して、受益権を売却しているようなことも考えられそうです。

「クリアランス取得まで子会社にしない」
キヤノンは実質的に対価を支払い済みですが、独禁法のクリアランスを取得してから子会社にするとされています。

「東芝メディカルの株式が確定的に譲渡された」
東芝の開示で、「確定的に」という文言が2回出てきます。確定的に当社の子会社ではなくなる、株式が確定的に譲渡された、という感じなのですが、それが事象として既に生じたのか読み取り難い記載です。ただ、この「確定的」という文言には強い意志が感じられます。もしかすると、クリアランスが得られないような事態に陥っても、買戻義務は負っていないというようなメッセージなのかもと勘繰りました。ただ、キヤノンがそんなリスクを取れるのか、という気もしますが。

これらを踏まえると、想定されるパターンとしてはこんな感じでしょうか。

①株式はMS、経済的持分はキヤノン
②株式はMS、経済的持分は東芝
③株式は東芝、議決権のみMS、経済的持分はキヤノン
④株式は東芝、議決権のみMS
⑤株式はキヤノン、議決権のみMS

議決権行使の権利のみを付与する契約、信託受益権化、種類株等を利用すれば、いずれも実現可能と思われます。

でも、⑤は普通株をキヤノンが保有していることになってしまうので、開示と矛盾しますかね。独禁法上も、キヤノンが議決権付きの株式を保有することになるので、契約によってMSに議決権を移転させているとしても、よりグレーさが高まる印象もあります。

すると①②③④当りなのでしょうか。

尚、少なくとも取得対価の出元はキヤノンでしょうから、①②の場合は、一旦MSへの融資(無利息?)を経由しての取得なのかも知れません。東芝はMSとの資本関係や取引関係はないと開示していますが、キヤノンは開示していないんですよね。(キヤノンから)独立している、とは書かれていますが。


(3/27追記)
またtwitterでも色々ご指摘頂きましたので追記します。

やはり個人的には③説が有力だと思いますが、具体的にはこんな感じです。

東芝メディカル株式を信託譲渡し(委託者:東芝、受託者:信託銀行)、受益権をキヤノンに譲渡。議決権は東芝がMSに付与する契約。そして、クリアランスの取得を信託の解除事由としつつ、同時に株式譲渡の停止条件にする、という感じです。

「株式等譲渡契約」の「等」は信託受益権を指すと。

これなら、キヤノンが開示資料でMSについて全く触れていないこととも整合的ですし、MSが資金フローに入る必要もありません。独禁法のグレー度合いもまだ薄めかなぁと。

(追記終了)



2.東芝メディカルを連結するのはどっち?

このままクリアランスが得られずに期末を迎えたら、両社はどのように会計処理するのでしょうか。

ちなみに、両社はいずれも米国会計基準を採用しています。

あまり得意分野ではありませんが、米国基準での連結判定というと、議決権モデルとVIEモデルですね。

契約関係がわからないのでほとんど想像ベースですが、東芝メディカルは議決権と経済利益の持分がイレギュラーになっていますので、おそらくVIE(Variable Interest Entity:変動持分事業体)として連結判定を行うものと思われます。

つまり、議決権を保有しているMSではなく、東芝かキヤノンのいずれかがPB(Primary Beneficiary:主たる受益者)としてVIEを連結する可能性が高いものと想像します(もちろん、いずれもPBではないという可能性もありますが)。

議決権は形式的にMSが保有しているとしても、MSはPBのagentとして行動するとみなされるということです。

ただ、経済的持分を有しているのはどちらなのかはわかりません。

対価は支払い済みですが、ただの前払いの可能性もあるので、経済的持分(受益権)がキヤノンに移転しているのかははっきりしません。とはいえ、東芝の売却益計上の意図からすると、移転済みにしているような気がします。(スキームの①③ですね)

もう1つ気になるのは、クリアランスを得られなかった場合の買戻条項の有無・内容です。買戻条項があると、経済的利益はまだ移転しておらず、東芝がPBとなる可能性が高いように思います。ただ、クリアランスが得られない蓋然性が極めて低い、或いは、買戻条項は努力義務のみとなっている、又は、買戻しはその時の時価で行う、等であれば、リスク・リターンはキヤノンに移転しているという主張も可能かも知れません。

なにせ「確定的」ですから。

しかし、これで東芝がPBでないとすると、キヤノンがクリアランス取得後に子会社にするという開示と齟齬が出てしまいます。独禁法を盾にして、MSの議決権行使に対して本当に何ら影響を与えられず、MSはagentではないとの主張なのでしょうか。

うーん、難しいですね。



3.連結納税における取扱い

さて、もう1つの話題は税務上の取扱いです。

東芝、キヤノンともに連結納税を採用しており、東芝メディカルは現在、東芝の連結子法人と思われます(全株式を東芝が保有)。

東芝メディカルは資本金と資本準備金で240億円程度、純資産で700億円程度なので、連結納税における投資簿価修正を考慮した上での株式簿価もこの間のどこかくらいと思われます。

なので、単純に東芝が株式売却した場合の課税所得は6,000億円程度と思われます。

かなりの繰越欠損金(及び場合によっては当期も欠損?)を抱えているとはいえ、相当な課税インパクトですね。繰越欠損金は今期でも65%、来期だと60%分しか控除できませんし。

税務上の株式譲渡益の認識タイミングは約定日基準ですが、今回はいつになるのでしょうかね。

一方で、キヤノンが全株式を取得した場合、東芝メディカルは今度はキヤノンの連結子法人になります。

連結納税の離脱と加入が同時に起きる珍しい事例です。

連結納税に加入する際、東芝メディカルでは保有資産の時価評価が必要です。純資産700億円に対して時価6,655億円ですから、場合によっては何千億円という巨額の「営業権」の含み益に対する課税が生じることになりかねません。

しかも、東芝メディカルの税前利益は200~300億円程度ですから、もし何千億円もの営業権が計上されたら、その償却費を消化することすら難しいことになります。(もちろん、連結納税の法人税ではキヤノングループの所得と通算することは可能ですが)

これって、東芝連結納税グループとして、東芝の株式売却益と二重課税じゃないの?という印象もあります。課税所得の源泉は同じ東芝メディカルの事業の価値ですから。

ただ、ここで面白いのが、もし東芝からキヤノンに直接株式譲渡される場合、東芝メディカルの資産の時価評価課税はキヤノン連結納税グループ加入の前日に行われます。そして、その前日は、東芝メディカルが東芝連結納税グループから離脱するみなし事業年度になります。

すると、東芝メディカルにおける時価評価益が、東芝の保有する東芝メディカル株式の投資簿価修正に跳ね返り、その分だけ二重課税のインパクトが相殺されることになりそうです。ただ、投資簿価修正は東芝メディカルにおける評価益の税引後相当分だけですので(利益積立金の異動分)、完全に相殺されることにはなりません。

しかも、株式の引渡しが4月1日(=その前日である3月31日が事業年度末日)とならない限り、東芝メディカルの時価評価益は東芝連結納税グループの所得や繰越欠損金との通算が出来ませんので、かなり不利な扱いになってしまいます。

一方で、もし株式譲渡が一旦MSに対して行われるとすると、時価評価益が投資簿価修正に含まれることはあり得ませんので、二重課税が発生することになります。

ま、キヤノンは東芝メディカル株式の一部を第三者か海外法人に保有させて、連結納税グループには加入させないのかも知れませんけど、この営業権の時価評価課税の規定はホント問題だと思います。。


・・・

ということで、今回はここまでです。

ちなみにキヤノンと争った富士フィルムは「このようなことが認められるならば、競争法が形骸化するのではないかと懸念する。オープン・フェア・クリアな企業行動方針をもつ我々にとっては、考えられないやり方だ」とこのスキームを非難しているようです。

このまま案件が成立するのか、会計処理がどうなるのか、まだまだ楽しめそうですね。


(関連ツイート)

東芝メディカル売却スキームと会計処理関係メモ

さて、ヤフー事件及びIDCF事件の最高裁判決が出ました。しかも閏年の2月29日です。

先日のIBM事件のような上告不受理ではなく、132条の2(組織再編に係る行為計算否認)について、ちゃんと最高裁が見解を示したことになります。

結論はヤフー敗訴で変わらないものの、けっこう、高裁判決とはトーンが違う印象を受けましたので、早速整理してみました。

(尚、本件の事案整理、地裁判決、高裁判決、関連各社の会計処理についてはこれまでのエントリーをご参照下さい)

・・・

1.132条の2の法令解釈

一番重要な部分ですが、132条の2の不当性要件の法令解釈が最高裁判決ではっきり示されましたので、全文引用しておきます。

『法人の行為又は計算が組織再編成に関する税制(以下「組織再編税制」という。)に係る各規定を租税回避の手段として濫用することにより法人税の負担を減少させるものであることをいうと解すべきであり,その濫用の有無の判断に当たっては,①当該法人の行為又は計算が,通常は想定されない組織再編成の手順や方法に基づいたり,実態とは乖離した形式を作出したりするなど,不自然なものであるかどうか,②税負担の減少以外にそのような行為又は計算を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮した上で,当該行為又は計算が,組織再編成を利用して税負担を減少させることを意図したものであって,組織再編税制に係る各規定の本来の趣旨及び目的から逸脱する態様でその適用を受けるもの又は免れるものと認められるか否かという観点から判断するのが相当である。』

何か、すっきり頭に入ってきませんが、整理するとこういうことです。
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■132条の2の「不当」とは、租税回避の手段としての組織再編税制の「濫用」を指す。

■「濫用」とは、「組織再編を利用した税負担の減少を意図し、本来の規定の趣旨・目的から逸脱した態様で組織再編税制の適用を受ける(又は免れる)もの」と解するのが相当。

■その判断に当り、以下二点を考慮する。
①法人の行為・計算が不自然かどうか(通常は想定されない再編の手順や方法、実態と乖離した形式の作出等)
②税負担の減少以外に合理的な理由、事業目的があるか
------------

要するに、組織再編税制を濫用して税負担を軽減した場合は否認されるわけですが、けっこう地裁判決や高裁判決とは印象が違いませんか?

なぜなら、地裁判決や高裁判決は、i)経済的取引として不自然・不合理な場合のみならず、ii)組織再編税制の趣旨・目的に反する場合も「不当」と解釈していたのに対し、最高裁は、i)とii)の『or条件』としていないからです。

更に、事業目的(ビジネスリーズン)や租税回避の意図もちゃんと重視してます。

極めて真っ当な組織再編を行ったとしても、ただ組織再編税制の趣旨・目的に反するということだけで否認されるような怖さが地裁判決・高裁判決にはあったところ、これが最高裁判決ではかなり中和されたというか、いいバランスのような印象を持ったわけですが、実際のところどうなんでしょうかね。

(追記:上記法令解釈の引用で、「本来の趣旨及び目的に反する態様でその適用を受ける又は免れるものと認められるか否か」までが②に含まれると読むべきな気もしてきました。。

とすると、上記の整理とはやや違ってくるのですが、それでも②は組織再編税制の趣旨・目的に反するというだけでなく、租税回避の意図との組み合わせになってますので、組織再編税制の趣旨・目的に反するだけで不当とされた原審とはトーンが違う印象ではあります。

この追記は勘違いだったので削除します。元々の理解で合ってました。twitterにてご教示頂いた先生方に感謝。)


2.I氏の副社長就任に係るあてはめ

この部分については、あまり目新しいものはなさそうです。

改めて重要なのは、やはり最高裁でも担当者のメール(「税務ストラクチャー上の理由」で役員を派遣)が重視されている点でしょうか。今時の税務調査というか、怖いですねぇ、これは。

それから、特定役員について、「経営の中枢を継続的かつ実質的に担ってきた者」という多少新しい表現も見受けられますが、実際の経営への関与が希薄で、期間も短いという話ですから、特に新しい論点はなさそうですかね。

尚、高裁判決では、132条の2を『仮に』経済的行動として不自然・不合理で、仮装的又は名目的な場合に限られるという見解を採用したとしても、本件の副社長就任は経済的行動として不自然・不合理で名目的なものだからアウト!というような判示をしていましたが、最高裁はこの点をスルーしています。

まあ、余計な判示だったということでしょう、、


3.行為計算否認の対象となる「その法人」の範囲

この点はほぼ地裁と同じ内容でしょうか。

平成19年の改正の趣旨にも照らし、「その法人の行為又は計算」とは、「更正を受ける法人」の行為又は計算には限られないという結論です。やや文理上苦しい印象は否めませんが、まあ妥当な内容でしょうね。

尚、この点でも、高裁判決は更に、「本件副社長就任はヤフーの行為とも認められる」という趣旨で踏み込んだ認定も行ったわけですが、ここも最高裁はスルーしています。


4.IDCF事件について

こちらもヤフー事件と同時に最高裁判決が出ています。

ちなみに裁判長はヤフー事件では山浦善樹氏でしたが(IBMの上告不受理も同様)、IDCF事件では小貫芳信氏です。ただ、132条の2の法令解釈は両者とも全く同じです。

ただ、やはりこちらはヤフー事件よりも若干すっきりしない印象はあります。

最高裁判決でも「本件の一連の組織再編成を全体としてみれば、b社(IDCS)による移転資産等の支配は本件分割後も継続しているといえるのであって、本件分割は適格分割としての実質を有すると評価し得る」とされています。

この移転資産に対する支配の継続という実質判断で適格/非適格を判定するのは無理があります。

これを最も端的に示す事例は、A社がB社を現金対価で買収して合併する場合に、i)A社がB社株式を現金対価で取得し、A社がB社を親子間で合併(=適格合併)した場合と、ii)A社がB社を現金対価で合併(=非適格合併)した場合とで、経済実態は全く同一であるにも拘わらず、適格/非適格の判定が異なるというものです。

要するに、移転資産に対する支配の継続をどのレベルで見るかによって何とでも言えてしまう(場合もある)わけで、IDCF事件ではどう考えても不自然・不合理な行為が伴っているので結論として違和感はないものの、何か気持ち悪さが残るんですよね。。

・・・

といことで、今回はここまでです。

この事案が世の中に公表されてからかなりの年月が経ちましたが、ちゃんと132条の2の解釈が最高裁から示される形で決着しましたね。

伝統的な租税回避概念より拡張したということで批判的な学者の先生方も多いようですが、ま、これはこれでよかったんじゃないでしょうか。

個人的にも非常に面白い事案で楽しませて貰いましたし、ヤフーに感謝です(というか、もう少し巧くやれよ、、という気もしたり??)。


(関連ツイート)
【企業取引と税務否認の実務】読後感想&追加情報
トヨタ自動車(トヨタ)がダイハツ工業(ダイハツ)を完全子会社化するそうですね。

けっこうなビッグディールということで、久しぶりに会計・税務の取扱いを分析してみました。

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1. 再編の概要

ストラクチャーは非常にシンプルで、トヨタがダイハツを株式交換で100%子会社化するのみです。トヨタは既にダイハツの株式51.3%を保有する親会社ですが、残りの非支配持分を取得して完全子会社化することになります。

対価はトヨタ株式のみで、ダイハツ株との交換比率はトヨタ株1:ダイハツ株0.26です。

ダイハツの発行済株式総数(自己株除く)は426百万株で、その内トヨタが保有する219百万株を除く208百万株に対し、トヨタ株54百万株が交付されることになります。

日経朝刊のリーク記事が出た1/27の前日である1/26終値ベースで、ダイハツ株価は1,481円、時価総額6,316億円、非支配株主持分相当で3,078億円分になりますが、再編後の旧ダイハツ株主のトヨタ持分は僅か1.7%にしかなりません。

そうですよね、トヨタは同じ1/26終値で時価総額20兆円超ですから。


2. 買収プレミアムの怪

上述の通り、トヨタ株とダイハツ株の交換比率は0.26です。

一方、日経報道前日の1/26終値ベースでの両社の株価の割合は0.223でした(トヨタ株6,629円、ダイハツ株1,481円)。つまり、今回の株式交換はダイハツ株に16.4%のプレミアムを乗せた形になります(0.26÷0.223)。

買収プレミアムとしてはあまり高い水準ではありませんが、元々支配権を有している子会社ですから、そこまで多額のプレミアムを払う必要もないでしょうし、株式交換というディールの特性からも、あまりプレミアムを乗せなくても目立たないのかも知れません。

ただ、謎なのは、その後の株価推移です。

1/27の日経朝刊のリーク記事では、トヨタが株式交換によりダイハツを完全子会社化、3000億円規模と報じられたわけですが、株式交換比率については記載がありませんでした。

ところが、その後の両社の株価推移と株価比率を見ると、こんな感じです。

1/27:6,881円/1,724円=0.251
1/28:6,883円/1,797円=0.261
1/29:7,200円/1,860円=0.258

株式交換比率0.26が公表されたのは1/29なのですが、その前から、何故かほぼ0.26に張り付いています。

投資家は色んな思惑でダイハツ株を買ったのでしょうけど、こんなにうまく比率が合うのは偶然でしょうか?ちょっと変な感じがしますねぇ。


3. トヨタの連結会計処理

トヨタは米国会計基準を採用していますが、既存子会社の持分の追加取得は資本取引として処理されます。

ダイハツは日本基準採用なので、トヨタ連結決算上の簿価とは一致しない可能性はありますが、ダイハツの株主資本は2015/12末で6,082億円なので、トヨタ連結BSにおける非支配持分は2,964億円(6,082億円×48.7%)です。(米国基準は非支配持分も含めた全部暖簾方式ですが、過去からの子会社についてはおそらく非支配持分に係る暖簾は認識していないと思われます(そのような経過措置もなし))

取得対価はトヨタ株式54百万株で、2/1時点の株価7,339円ベースだと3,966億円相当になので、実質1,000億円程度の暖簾を付けた買収ではありますが、資本取引なので暖簾は認識されません。

また、このトヨタ株式は新株発行ではなく自己株式の処分になります。2015/8以降、トヨタはかなりの自己株取得を進めており、正確には計算できませんが、ざっくり自己株式の取得単価は加重平均で5,500円くらいと思われます。すると、株式交換で処分する自己株式の簿価は2,972億円程度となります。

この前提だと、連結仕訳はこんな感じですかね。

(借)非支配持分 2,964億円
   資本剰余金   8億円
(貸)自己株式  2,972億円

まさに資本取引です。


4. 自己株式の取得とCF上の取扱い


上述の通りトヨタは2015/8から自己株取得を進めていますが、もう少し詳しく見てみます。

2015/8~2015/10にかけては、例のAA種類株式発行に伴う普通株の希薄化を抑える目的で、合計47.1百万株を3,482億円で取得しました。

また、その後、株主還元と機動的な資本政策を目的とし、2016/3末までに63百万株を取得する計画で、この内、2015/11~12でに26.1百万株を2,000億円で取得済みです。

ちなみに、トヨタの記者会見によると、この買収話を持ちかけたのは昨年(=2015年)秋とのことで、また、ダイハツの第三者委員会の第一回会合が開催されたのは2015年11月でした。

おそらく、トヨタの2015/11以降の自己株取得は、多分にダイハツとの株式交換を意識したものであると思われ、2015/11~2016/3に取得する自己株式でダイハツ株主に交付する株数を丁度賄う規模になります。もちろん、トヨタはこの自己株取得を行わなくても、株式交換をするのに十分な自己株式を元々保有してはいますが、equity financeによる買収と見られるのを避けたいとの思いもあるのでしょうかね。

そういう意味では、この自己株取得による支出はCF計算書上、財務活動によるCash outですが、実質的には、投資活動によるCash outに近い性質ですね。



5. 税務上の取扱い

さて、最後に税務上の取扱いです。

この株式交換は支配関係のあるグループ内の株式交換ですので、①株式対価、②支配関係継続見込み、③従業者引継ぎ見込み、④主要事業継続見込みを満たせば適格になります。

おそらくいずれも問題なさそうなので、適格株式交換でしょう。


ちなみに、1/27の日経リーク記事では、完全子会社化後、ダイハツ株の一部を外部に保有してもらう可能性もあるとの記載がありました(プレスリリースには記載なし)。しかし、グループ内株式交換の場合、「完全」支配関係の継続は適格要件にはありませんので、仮に一部売却を予定したとしても適格要件には抵触しないものと思われます。

また、この株式交換によりダイハツはトヨタの連結納税グループに加入することになります。

但し、適格株式交換による連結加入なので、ダイハツにおける時価評価課税はありません。また、トヨタの取得するダイハツ株式は、ダイハツの純資産簿価引継ぎになるものと思われます。

ちなみに平成28年度の税制改正で、適格株式交換で旧株主が50人以上の場合の純資産による投資簿価引継ぎの規定の改正が予定されています。これまでは株式交換直前の純資産とされていましたが、期中の純資産を把握する実務負担を考慮し、前期末純資産(±資本取引)に変更されるものです。

これは本件の株式交換を意識した改正なのか?とも思いましたが、いずれにせよ連結納税加入の為に株式交換の前日でみなし事業年度が区切られますので、どうやら関係なさそうです。(連結加入させないかも?とも思いましたが、トヨタ自身の保有株以外にはトヨタ株を割り当てる模様、且つ、株式交換被が8/1なので7月末に即連結加入、ということで、そういうわけでもなさそうです)

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ということで、今回はここまでです。