グリーによるポケラボの会社分割/株式譲渡の会計・税務(無対価非適格分割の事例) | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。

GWに久し振りのブログ更新です。

グリーが2012年に買収したポケラボについて、会社分割と株式譲渡を行うことで株式評価損を税務上認容し、税効果の利益を計上するそうです。

本件は無対価の非適格分割のようで、税務的にもなかなか面白そうなので、開示資料から分析してみました。

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1. ポケラボ買収の会計処理

グリーは2012年10月にポケラボの株式を100%取得します。適時開示と有報を見ると、買収対価は122億円で、これに継続勤務に係る対価を含めると139億円とされています。

更に買収と同時に17億円の増資を引き受けているものと思われ(ポケラボの純資産や資本金の異動額から推定)、合計156億円の負担となっているようです。

尚、連結決算におけるPPA(買収対価の配分)では、買収価額122億円を前提にのれんが計上されており、継続勤務に係る対価(16億円)は発生時の費用として処理しているものと思われます。

ポケラボの2012/9末純資産とPPAの比較はこんな感じです(億円)。

                            純資産    PPA
流動資産                 -            9
固定資産                 -          21
のれん                     -          95
総資産                  10         125
流動負債                3             3
純資産                    7         122

この純資産は17億円の増資前の金額になっています。

こう見ると、いわゆる投資差額はのれん95億円と無形固定資産21億円に配分されたようです(無形資産見合いの税負債が認識されていないのは少々謎ですが)。

尚、単体決算での株式簿価は139億円とされています。これは買収価額122億円と増資引受17億円の合計で、継続勤務に係る対価16億円がどのように処理されたのか不明です。

また、グリーは連結納税を採用していませんので、この点で気にすべきところはなさそうです。


2.減損損失の計上

買収から約3年が経った2015年6月期決算において、グリーはポケラボののれん全額を減損しました。

減損額は94億円(内、のれん84億円)で、有報によればのれんは未償却残高の全額を減損したようです。これについては税務上はそもそも資産計上されていないことから永久差異になり、加えて、いわゆる投資の一時差異についても、連結決算上、税資産は認識していません。 

また、単体決算においても株式評価損131億円を計上しています。こちらは全て一時差異として税資産が計上されていますので(但し、評価性引当あり)税務上は有税の評価損になります。

減損後の連結/単体の簿価は一致しているはずですが、各々の累損を確認してみます(億円)。

(連結決算)
持分損失  ▲16(ポケラボ買収後の3期累計)
継続勤務  ▲16
暖簾減損  ▲95
無形減損  ▲20未償却残全額減損と仮定)
合計       ▲147

(単体決算)
株式評価損 ▲131
継続勤務       ▲16単体も費用認識と仮定)
合計             ▲147

こんな感じでしょうかね。

おそらく減損/評価損後の株式簿価は8.5億円で、これはポケラボの簿価純資産とほぼ一致しているものと思われます(2015/6末簿価純資産は8.6億円)。
 

3.会社分割/株式譲渡による損失認容

グリーは2016年5月に、以下の通りポケラボの会社分割と株式譲渡を行います。

①会社分割により、分割法人にはポケラボの主力2タイトルのみを残し、従業員を含むその他全てを承継法人に移転します。この承継法人はグリーが新設したSPCで、分割の対価は交付されません(無対価分割)。

②グリーが、分割法人(つまり主力2タイトルのみを保有する法人)の株式100%をマイネット社(グリーの出資比率は15.5%)に対価2.5億円で譲渡します。

これにより、税務上の株式評価損が認容され、連結決算上、51億円の税効果が認識されると発表しています。

これの税務上の取り扱いはどうなるのでしょうか。

(1)本件は無対価の非適格分割型分割

無対価の組織再編は2010年改正で手当てされたわけですが、改めて確認してみます。

法人税法2条の定義規定によれば、無対価の分割は以下のとおり分類されます。

・分割法人が分割承継法人の株式を一部でも保有していれば分社型(但し、分割承継法人が分割法人の株式を全て保有している場合を除く)

・その他は分割型

本件は、分割法人、承継法人ともにグリーの100%子会社ですので、分割型分割になります。

また、分割の適格要件という意味では、この分割は同一の者(グリー)による完全支配関係の下で行われる分割ですが、分割法人の株式譲渡が予定されている為、グループ内の再編としての適格要件を満たすことはできません。また、承継法人が新設SPCであることから、共同事業要件も満たせません。

以上より、本分割は、無対価の非適格分割型分割になります。

尚、そもそも分割法人も承継法人もグリーの100%子会社ですので、「無対価」であること自体は経済行為として何ら問題ないものと考えられます(省略することが経済的に不自然ではない)。

(2)分割法人(ポケラボ)/承継法人の課税関係

本件は非適格分割ですので、分割法人は資産・負債の時価譲渡、承継法人は時価取得という扱いになります。(グループ内なので譲渡損益の繰り延べもありますが、その後に株式譲渡が行われますので、すぐに実現することになります)

但し、ポケラボは簿価純資産≒時価の状態になっていますので、実質的に譲渡益は発生せず、承継法人においても税務上ののれん(資産調整勘定)は認識されないものと思われます。

尚、ポケラボの繰越欠損金は譲渡される分割法人に残る形になります(譲渡益による消化は見込まれない)。

悩ましいのは、寄附金/受贈益です。

ポケラボ(分割法人)は無償で資産・負債を移転しますので、その移転資産の時価(=簿価)相当について、分割法人で寄附金、承継法人で受贈益を認識することになると思われます。

その金額は、純資産8.5億円から分割法人の時価2.5億円を差し引いた6億円程度でしょうか。

とはいえ、これはグループ内の寄附金/受贈益ですので、それ自体は損金不算入、益金不算入で税務上のデメリットはありません。

(3)株主(グリー)の課税関係

株主であるグリーにおける処理はどうでしょうか。

通常、分割型分割の株主においては、純資産按分による投資簿価の付け替え計算と非適格の場合はみなし配当、株式以外の対価がある場合は譲渡損益となるわけですが、無対価だとそうでもないようです。

このあたり、やや自信ありませんが、対価の交付がないため、文理上、分割型分割による簿価付け替え計算の規定や株式譲渡益課税の規定は適用されず、またみなし配当も認識されないものと思われます。

一方、100%グループ内の寄附金/受贈益に相当する6億円について、分割法人の株式簿価を減額し、承継法人の株式簿価に加算するものと思います(寄附修正)。

結果、株式簿価139億円のほぼ全額(133億円)が分割法人株式の簿価として残ることになります。

そして、この株式を2.5億円で譲渡しますので、株式譲渡損130.5億円が認識され、加えて継続勤務の対価16億円も損金になるとすると合計146.5億円、税率33%とすると49億円の税効果になります。開示資料とも近い感じです。

(4)税務上の論点

以上を踏まえると、一応気になるのは、会社分割を利用して税務上の損失計上を狙ったというような認定が行われるリスクです。

例えば、本件は無対価分割ですが、承継法人の株式を交付していれば、非適格であることは変わりませんが、株主(グリー)における株式簿価の付け替え計算はかなり異なっていた(承継法人の簿価に寄り、株式譲渡損失は小さかった)ものと思われます。

もし、主力2タイトルのみを承継させる分割であれば(分割法人と承継法人を逆にする)、株式簿価のほとんどは有税評価損のままだったでしょう。

あるいは、そもそも本件では主力2タイトルを外部に譲渡しただけですので、会社分割を利用せずとも、他のシンプルな手法も考えられなくはないとも思われます。

とはいえ、本件では経済実質的にわざわざ対価として株を交付する意義に乏しく(無対価であることは不自然ではない)、主力2タイトルの譲渡方法としてもそこまで迂遠で不自然なことをやっている印象もありません。

そういう意味では、とりあえず現時点では、税務上の効果もある程度考えた(意図した)上でのスキームだろうとは思うものの、税務上否認されるべきような取引ではないのかな、と感じました。

この点はもう少し考えてみたいと思います。

しかし、税務上の取り扱いに不透明さの残る無対価分割をわざわざ選択したのは不思議な気もしますね。譲渡損を取るにしても、他にもやりようはありそうですが。

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 ということで、今回はここまでです。また何か気づいたら追記します。