藤田観光の連結子会社向け貸倒引当に係る税務否認の全容解明 | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。

ホテル椿山荘を運営する藤田観光が、連結子会社への貸倒引当に係る税務処理について、国税当局から否認されたと報道されています。

(朝日)http://www.asahi.com/articles/ASJ5061S0J50UTIL04P.html

(西日本新聞)http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/249140

ちょっと調べてみると意外と面白い事案なので、簡単に纏めておきます。


1.2014年度の税務処理と調査否認の事実関係

まずは事実関係の整理です。

藤田観光は関西エアポートワシントンホテル株式会社(以下、関西エアポート)の株式100%保有する親会社です。

関西エアポートは2014/12末で34億円の債務超過の状態にあり、藤田観光は同社への貸付金35億円について単体決算上、貸倒引当金を計上していました。

また、税務上は、貸倒引当金に係る平成23年税制改正の経過措置を踏まえ、従来認められていた個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の2/4(50%)に相当する17億円を損金算入しました(2014年3月31日までに開始する事業年度)。

しかし、この貸倒引当の損金算入について国税当局から否認され、2015/12期に過年度法人税等として8億円を費用計上しました。

同社の有価証券報告書における開示は以下の通りです。

「東京国税局による税務調査において、連結子会社に対する貸倒引当金などで指摘を受け、更正通知を受ける見込みとなったことから見積り計上しております。」

藤田観光は連結納税を採用しており、関西エアポートは連結子法人(国内100%子会社)です。

税法上、連結子法人に対する債権に係る貸倒引当の損金算入は認められませんので(法52⑨二)、単純にこの引当を損金算入していたのであれば、藤田観光側の税務処理誤りと言えそうです。

藤田観光は「見解の相違する部分もあった」としていますが、どうなんでしょうね。


2.有報の開示に基づく検証

上記処理について、藤田観光の有報の開示から検証してみます。



この表の通り、2014年度と2015年度の単体決算において、貸倒引当金の残高はほとんど変わっていません(注記を見ても、中身の入れ替わりなし)。従い、この大半は関西エアポート向け債権の引当になります。

一方、貸倒引当に対する繰延税金資産の金額は大きく増加しています。

この点、上表の通り、2014/12末においては、貸倒引当金から無税処理していた17億円を差し引いた残額に対して約33%の税率で税資産が計上されており、一方、2015/12末においては、貸倒引当金の全額に対して約33%の税率で税資産が計上されていることがわかります。

つまり、2014/12末において17億円を無税処理していたのが、2015/12末には一時差異になっているということで、調査否認されたという説明と整合しています。
 

3.第二会社方式の税務リスク

さて、本件の議論はこれだけでは終わりません。

藤田観光の有報を見ると、以下の事実が判明します。

関西エアポートは2016年1月1日、同じく藤田観光の100%子会社であるWHG関西株式会社(以下、WHG関西)に運営するホテルの事業を全て譲渡しました(事業譲渡)。関西エリアの複数の事業所・法人の統合を進めたそうです。

その後、2016年1月28日に解散を決議し、2016年3月に特別清算の開始決定がなされています。

つまり、この後、特別清算の過程において藤田観光は35億円の債権の放棄を余儀なくされ、その時点で損金算入することになります(貸倒引当と異なり、債権放棄損は合理的な理由があれば連結子法人向けであっても損金算入可能)。

これは2015/12末に貸倒引当金を一時差異と扱っていることからも明らかです。

しかし、本当に大丈夫でしょうか。

この事業譲渡は100%子会社同士で行われ、株主構成も全く変わっていない中、事業譲渡によって抜け殻にした会社に対する債権を放棄するということで、いわゆる第二会社方式と認定される税務リスクがあるように思われます。

もちろん、税務リスクも検証した上でのスキームだとは思うのですが、元々の処理誤りからすると、少々不安な気も。。

ということで、引き続き注目したいと思います。