(日経より)
『回転ずし最大手のあきんどスシロー(大阪府吹田市)が株式再上場の準備に入ったことが7日わかった。現在は英投資ファンド、ペルミラの傘下だが、ペルミラが上場に向けた主幹事証券会社に野村証券を指名した。順調なら今年秋にも上場を申請し、2017年の前半にも上場する見通し。実現すれば09年に非上場となって以来8年ぶりの市場復帰となる。』
『16年9月期の決算期末以降に上場を申請する見通しだ。市場関係者の間では時価総額が1千億円を超えるとの見方が多く、外食産業の再上場として14年のすかいらーく(再上場時の時価総額は2330億円)以来の大型案件となりそうだ。』
『あきんどスシローは09年に投資ファンドのユニゾン・キャピタル傘下に入る形で非上場となった。その後、12年にペルミラがユニゾン・キャピタルから約800億円で買収していた。』
最近は外食の上場続きということもあり、もう少し見てみたいと思います。
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1.ペルミラ買収時の財務分析
日経記事の通り、スシローは2009年にユニゾンが買収して非上場化し、その後、2012年9月にペルミラが更に買収しています。
スシローの決算公告からペルミラの買収の影響を分析してみましょう。
スシロー2012/9末のBSを見ると、純資産110億円、総資産245億円、また、借入金・リース債務33億円に対して手元現金43億円という実質無借金経営でした。
これが、ペルミラによる買収(&合併)後の2013/3末では、総資産873億円(内、のれん686億円)、純資産370億円、借入金450億円(手元現金は69億円)となっています。
2013/3期が「第一期」となっていることからも、買収会社とスシローが合併し、LBOローンがスシローのBSに計上されたことがわかります。
また、親会社がCEILジャパン㈱からConsumer Equity Investment Ltd.という会社に変わっており、ペルミラの投資スキームが透けて見えますね。
この新スシローの払込資本(≒ペルミラの投資額)は408億円、LBOローンが450億円ですので、合計858億円が買収総額になります。(日経報道では800億円と)
一方、買収直前の純資産110億円とのれん686億円(20年償却で年間34億円の償却費。買収時の価額に戻すと約700億円)ですので、これが見合う形になります。
2012/9期のスシローの業績は売上高1,113億円、営業利益65億円です(営業利益率5.8%)。減価償却費を20億円と仮定すると、買収総額800~850億円でEV/EBITDA9.4~10.0倍くらいですかね。
ファンドによる買収として、決して安値とは言えなさそうです。
2.スシローの業績分析
ペルミラによる買収後、スシローのHPには決算公告が開示されなくなってしまいました(よくある話ですが。。)
一応、ググったら直近2015/9期の決算公告が出てきましたので、同業のくらコーポレーション(くら寿司)との比較も含め纏めてみました。
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160612/22/heuko/52/53/p/o0486033013671228666.png?caw=800)
スシローの2015/9期はこんな感じです。
総資産873億円
純資産361億円
売上高1350億円
営業利益44億円
経常利益22億円
税前利益18億円
税後利益▲1億円
色々と面白いですね。
まず、総資産が2013/3の958億円から85億円減少していますが、のれんの償却が2.5年分でちょうど86億円ですので、これで総資産の減少の説明ができます(その他の大きな異動なし)。
純資産は370億円とほぼ変わらず(やや減少)。
売上高は1350億円で2012/9期から増収。営業利益44億円はのれん償却前で78億円ですのでこちらも2012/9期から増益で、のれん償却前で営業利益率5.8%は変わらず。なかなかの収益力といえそうです。
営業外損益▲22億円の大部分はLBOローンの金利でしょう。残高400億円で金利20億円とすると、年利5%くらい?ちょっと高めかも知れませんね。
税前利益18億円に対して税後利益が▲1億円と赤字になるのは、のれん償却費の影響です。こののれんは会計上、合併時にスシロー単体財務諸表に反映されますが、税務上は親子間の適格合併と思われ、のれんは計上されません。従い、のれんの償却費は税前=税後になります(永久差異)。
ですので、税前利益18億円+のれん償却費34億円=53億円が課税所得、税率33%とすると▲18億円程度が法人税費用になります。
ということで、税後利益がほとんどない状態になるわけです。利益度外視で消費者のために安く提供している、というわけではありません。
ちなみに、くら寿司の2016/10期予想は上表の通りこんな感じです。
売上高1100億円
営業利益61億円
経常利益65億円
純利益42億円
確かにスシローが最大手とあって、スシローのほうが売上高は上です。営業利益率は5.5%ですので、こちらもわずかにスシローが上です。
くら寿司は昔のスシローと同様に無借金経営ですので、金利費用はなく、税前/税後利益も通常の関係性になっていますね。
3.再上場時の時価総額は?
日経の報道では、再上場時の時価総額1,000億円超えだそうですが。
おそらく最近のすかいらーくやコメダと同様、スシローもIFRSの任意適用によりのれんを非償却にした上で上場するものと思われます。一応、この前提で簡単にくら寿司の株価を比較してみましょうか。
くら寿司の株価は6/10時点で5,740円(前日終値5,400円からはねましたが)。
この前提で、株式時価総額は1,133億円です。ここから現金超過76億円(2016/4末)を差し引くと事業価値で1,058億円。
EBITDAは2016/10予想ベースの営業利益61億円に前期並みの減価償却費として32億円を加算すると93億円。従い、EV/EBITDAで11.3倍になります。
一方、純利益予想42億円からPERを計算すると27.2倍です。
けっこう、高い評価を得ているのですね。
では、スシローはどうでしょうか。
スシローのEBITDAを予想すると、営業利益44億円+減価償却費20億円(こちらは開示がないので、くら寿司との総資産比較で試算)+のれん償却34億円=98億円。
EV/EBITDA11.3倍とすると事業価値で1,115億円。くら寿司を上回ります。
そして、ここからnet Debt(直近の実績が不明ですが、2013/3末から100億円程度返済が進んでいると仮定して)300億円を差し引くと、株式価値で815億円になります。
ここからすると、時価総額1,000億円超えというのは、どうでしょうかね。
ちなみに、PERで計算すると、のれん非償却の前提で税後利益33億円、PER27.2倍で時価総額907億円です。
Debtの影響が直接考慮されないため、EV/EBITDAより高めになりますが、それでも1,000億円には届きませんでした。
ただ、もしかするとペルミラは再上場の前に再度リファイナンスする可能性もあると思っており、もっとレバレッジを高める(借入を増やす)ことで、PERによる株式評価の引き上げを狙う可能性もありそうです。金利ももう少し下げられるでしょうし。
個人的には、Debtが過小評価(株式価値が過大評価)されてしまうことから、特にLBO銘柄のような巨額の「のれん/借入」両建て型BSの会社はPERで評価すべきではないと思いますが、どんな株価になりますかね。
とはいえ、ペルミラは投資額408億円に対して時価総額800億円でも十分リターンと言えそうです。
ペルミラの買収時から増収・増益とはいえ、営業利益率が改善したわけでもなく、これだけのリターンが得られるのは釈然としない感じもありますが、まあタイミングも含め、さすがですね。
尚、実際に上場するのは2015/10に設立された親会社スシローグローバルホールディングスとのこと。スキームは不明ですが、株式移転等で設立したんですかね。
こういうのって、上場の際の開示の簡素化という効果もあるんでしょうけど、どうなんでしょ。
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ということで、今回はここまでです。
ちなみにスシローの年間販売数量は約12億皿と言われています。のれん償却費が年間34億円ですから、1皿食べる毎に約3円ののれんを償却している計算になります。
そう思いながらスシローで食べるのもまたオツですね。IFRS採用で償却が止まってしまう前に是非味わいましょう。