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Accounting, Tax and M&A

会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。

超久しぶりのブログ更新です。

ベルシステム24が再上場を果たしました。

上場に係る有価証券届出書を見ているとけっこう色々面白いので、ベインと伊藤忠の動きを中心に纏めてみます。
 
・・・

1. 再上場に至るまでの投資ストラクチャー変遷


ベインがベルシステム24(以下、ベル)を買収したのは2009年末ですが(買収の主体は香港のBain Capital Bellsystem Hong Kong Limited.以下、Bain HK)、その後、伊藤忠の出資参画、そして再上場を果たすまでに4回の合併を含むストラクチャー変更が行われています。

届出書でもある程度丁寧に記載がありますが、これを網羅して1枚の絵に纏めてみたのがこちらです。


 

全17ステップ。これ、かなりの力作です。

Bain HKが日本にSPCを設立し、そこにベルを保有する既存SPCの株式を売却することを何度か行っています。

おそらくこれは、株式譲渡に際してLBOローンをリファイナンスすることで、再度ベルのレバレッジを効かせ、ベインは一部投資回収を図っているものと思います。尚、Bain HKで生じるキャピタルゲイン課税(いわゆる事業譲渡類似株式の譲渡)は日香租税協定により免税になります。

ということで、この図からもわかる通り、今回上場した㈱ベルシステム24ホールディングスという会社は、ベインが2014/6に設立した㈱BCJ-15という法人のようですね。これは2014/10に伊藤忠に49.9%売却する際に設立されたビークルですが、この当りの詳細を見てみましょう。
 

2. ベインのリファイナンスと伊藤忠の出資参画ストラクチャー(2014/10)


伊藤忠は2014年10月に出資参画し、ベル持分の49.9%を取得し、持分法投資としています。

この際、ベインはリファイナンスによる投資回収を同時に行っていますので、この時の再編ストラクチャーを整理します。

先ほどの図から該当部分を抜き出してみました。



 
具体的には以下の通りです。

・2014/6、Bain HKがBCJ15を設立
・2014/6、BCJ15がBCJ16を設立
・2014/10、BCJ16がBCJ7(ベルの持株会社)を株式買収
・2014/10、伊藤忠が増資引受によりBCJ15に出資

尚、図では端折りましたが、2014/9にみずほ、MUFJ、SMBC等からリファイナンス資金の借入を行っています。借入主体は明示されていませんが、間違いなくBCJ16と思われます。

Bain HKと伊藤忠が拠出した資金は合計490億円(内、伊藤忠は49.9%で245億円)、また銀行借入が800億円なので、合計1,290億円の資金調達を行ったことになります。

この内、Bain HKのBCJ7株式譲渡対価として826億円、既存借入の返済に550億円程度が充てられています(足らず枚はおそらく手元現金を使用)。

ベルの連結財務諸表を見ると、この取引はBain HK支配下の取引として、簿価引継ぎの処理がなされています。従い、BCJ7株式譲渡対価の826億円は「支配株主への分配」として資本取引になっています。

ベインは、245億円を拠出する一方で826億円を回収しましたので、net580億円の投資回収ですね。

ここら辺をベルのBSをイメージして図解しました。


 
 
まさにリファイナンスによりDebtを膨らませ、株主資本からの回収に回したところがよくわかります。この過程で伊藤忠が出資参画したというわけです。

ちなみに資産サイドは、そのほとんどがのれん(Goodwill)です。 

具体的なBSの数値で見ると、上場前の2015/8末で、総資産1,309億円、その内、現金が72億円、のれんが971億円です。

前述のとおりこのリファイナンスは共通支配下の取引として簿価引継ぎされていますので、こののれんの金額は過年度から変わっていません。

ベルは上場に際してIFRSを適用しましたが、のれんの金額はIFRS初度適用時の日本基準における簿価をそのまま引継いでいるものと思われ、特に無形資産等は認識していないようです。

やや話がそれてしまいましたが、ついでに連結財務諸表の話題でいくと、2014/2末のベル連結財務諸表を見ると、資本金がゼロ円になっています。

これは、2014/2時点では現在の親会社であるBCJ15がまだ存在していなかったわけですが、あたかもBCJ15が存在していたかの如く連結財務諸表を作成している為です。

その結果、資本金や資本剰余金の金額はゼロで、いわゆる払込資本については「その他の資本の構成要素」という勘定科目で535億円が計上されています。

面白いですねぇ。
 

3. ベル再上場のValuationと伊藤忠の投資採算

ここはあまり深追いしませんが、再上場に係る売出と新株発行はこんな感じです。


 
大半はベインが売り出しますが、伊藤忠も一部売却するようです。

おそらく売却しないと議決権比率が高く、過半はないとはいえIFRS上連結が必要になる可能性が高く、持分法を維持するためには議決権比率40%程度までは売却する必要があったのだと思われます。

ということで、上場後のベルの発行済み株式総数は75百万株、本日(12/10)の株価1,330円で計算すると時価総額993億円です。

ここにnet Debtを加算するとEV1,713億円、今期の調整後予想EBITDA129億円で割ると、EV/EBITDAで13.3倍。十分過ぎる評価でしょうかね。 

表に纏めてるとこんな感じです。



 
で、最後に伊藤忠に投資採算を見ておきましょう。 

この表の通りなのですが、出資額245億円に対し、上場時の売出での回収が72億円(単体売却益38億円)、そして継続保有持分の時価が399億円(含み益189億円)です。



投資から約1年で投資額がざっと2倍になった感じですね。

なかなかのリターンではないでしょうか。

・・・

ということで、今回はここまでです。

 


スズキと独フォルクスワーゲン(VW)の資本・業務提携の解消について、国際仲裁裁判所の判断が出たようです。

ということで、スズキとVWの会計・税務インパクトを簡単に見ておきましょう。

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1.VW

まずはVW側から見ていきます。

仲裁判断の結果、VWとの資本・業務提携の解消が確認され、VWの保有するスズキ株式はスズキが自己株取得するそうですね。

VWはスズキ株式を112百万株(19.9%)保有していますが、2010年1月に108百万株、2010年7月に4百万株取得しています。

当時の取得価額はそれぞれ2225億円(1株2061円)、64億円(1株1755円)で、合計2289億円相当です。当時の為替レートで換算するとざっくり17.7億ユーロになります。

これが、現状の株価4130円(8/31時点)だと4609億円(33.9億ユーロ)となり、VWの売却益が16.2億ユーロという計算になります。

株式投資としてみれば十分な成果でしょうか。

VWはIFRSを適用していますが、スズキ株は持分法ではなく、IAS39号に基づく売却可能有価証券として処理されており(IFRS9号は未適用)、売却時点でPL認識されるものと思われます。

また、株式譲渡益について、日本での源泉課税はなし(事業譲渡類似の株式譲渡には該当せず、また日独租税条約上もキャピタルゲインは免税)、ドイツにおいても株式譲渡益は95%非課税という扱いですので、VWにはほとんど課税は生じないものと思われます。

尚、スズキによる自己株取得はToSTtNeT3によって行われるとのことで、税務上、みなし配当も認識されないことになります。


2.スズキ

次にスズキを見てみます。

スズキはVWから自己株を取得するわけですが、現在の時価ベースで4609億円相当です。

スズキの単体BS(15/3末)を見ると、株主資本9375億円(資本金1380億円、資本準備金1444億円、利益剰余金5041億円)という状況で、4609億円の自己株を取得すると単体株主資本は半減、また、分配可能額はほとんど食いつぶされてしまう計算になります。

おそらく、自己株取得する前(正確にはその後期末を迎える前)に、資本金・資本準備金の資本剰余金への振替えを行い、可能な限り自己株式の償却は可能な限り資本剰余金に充当するのではないかと思われます。(当面、自己株式として保有することも考えられますが)

一方、連結BS(15/3末)を見ると、株主資本は1兆4821億円あり、自己株取得後も1兆円残ることになります。

ついでにnet Debtの状況を見てみると、長短の借入が5547億円程度ある一方、手元の現預金が4575億円、換金可能と思われる短期の有価証券が6856億円あり、5885億円の現金超過の状況です。

資金繰り的には手持ちの現金等で十分に賄えそうな印象ですね。

ちなみにスズキは時価総額2兆3165億円で、これに非支配持分2190億円を加え、現金超過を差し引いた事業価値で1兆9471億円。EBITDA約3000億円での倍率は6.4倍程度になります。

あまり市場の評価が高いとは言えない感じがしますし、手元の余剰キャッシュをこれで吐き出せば、株価にプラスなのかな?という気もしました。

尚、資本提携の解消という話ですが、実はスズキもVW株を保有しています。

13/3末時点で4.4百万株で、おそらく取得原価は500億円程度ではないかと想像します。(過去の有報から、株数や期末時価は確認できるものの、正確な取得原価は不明)

14/3期、15/3期でも投資有価証券を売却した形跡がほとんどなく、現在もそのまま保有しているものと思われます。

現在、VWの株価は169ユーロなので、円貨ベースで総額1011億円になります。

とすると、こちらも取得原価の約2倍になっており、もし売却すればかなりの売却益になりますね。課税されますが。

・・・

ということで、今回はここまでです。




マクドナルドが食の安全問題に端を発して苦境に喘いでいます。

月次セールスレポートを見てもショッキングな数字が並んでいるわけですが、せっかくなので業績・タックスポジション等を少し分析してみました。

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1.売上高・営業利益推移と回帰分析

まずは日本マクドナルドの売上高と営業利益の推移を見てみます。

売上高については、PL上の売上高ではなく直営店とフランチャイズ店の売上高を合計した全店売上高(システムワイドセールス)をベースとし、2012年の第1四半期から2015年第2四半期までの四半期毎の推移をグラフにしてみました。



2013年の下期当りから売上高の減少傾向が顕著になり、1300億円前後をキープしていたのが、直近2四半期では800億円台になりました。営業利益も直近4四半期連続で赤字です。

このグラフを見ると、全店売上と営業利益の相関がかなり強そうなので、回帰分析をしてみました。

ちなみに日本マクドナルドは米国マクドナルドにロイヤリティ(ブランド使用料)として全店売上高の3%を支払っていましたが、2014年7月以降、1.5%に減免しているようです。なので一旦、ロイヤリティを3%として再計算した上での分析にしました。

すると、こんな感じです。



つまり、日本マクドナルドは限界利益率35%、固定費409億円ということです(ロイヤリティを1.5%にすると限界利益率は36.5%)。

そして、決定係数が0.92とかなり強い相関になっています。これって、マクドナルド以外も外食業界だとこんな感じなんでしょうかね?

ここからすると、損益分岐売上高(BES)は1,170億円(ロイヤリティ見直し後1,120億円)ということになります。直近の売上高900億円程度だと約80億円の営業赤字という計算です。


2.タックスポジションと株主資本

さて、次にタックスポジションです。

日本マクドナルドは2014年度(2014/12期)で▲218億円の当期純損失を計上しました。営業赤字▲67億円に、減損損失▲78億円、上海関連損失▲23億円等により税前赤字▲185億円、そして繰延税金資産の取崩し等により法人税費用も▲36億円という状況でした。減価償却費104億円で、EBITDAはかろうじて黒字というところです。

税効果の注記を見ると、過年度にはなかった繰越欠損金に係る税資産が40億円、次いで減損損失が35億円となっています。これらを税前に割り戻すと、繰越欠損金111億円、減損による一時差異97億円となります。

そして2015年度第2四半期(2015/6期)では、営業赤字で▲183億円。減損損失▲35億円等もあり、▲262億円の当期純損失になりました。もちろんEBITDAも赤字です。

これにより、おそらく繰越欠損金は200億円程度増加して約320億円、更に減損による一時差異も膨らんでそうです。

尚、税資産のほとんど全額の評価性引当金を計上しています。

これだけの損失を計上していますが、2015/6末時点で日本マクドナルドの株主資本はまだ1,172億円残っています(内、利益剰余金537億円)。前期末からは300億円減少していますが。

有利子負債については、前期末時点ではほとんど借入はなくリース債務を差し引いても233億円の現金超過でしたが、2015/6末では約219億円の長期借入を行っており、net有利子負債10億円という状況になりました。

まさに純損失≒FCF分、現金が流出したということでしょうか。

BS的にはまだまだ余裕ありますが、仮に今の業績が続くと3年くらいで債務超過です。

回復の兆しも見えませんし、そろそろGC注記についても意識し始めないと?


3.株価の状況

こんな苦境の日本マクドナルドですが、株式時価総額は本日時点で3,521億円もあります(株価2,648円)。

5年間の株価推移を見てみます。



特に2013年以降、大きく下げている感じはありません。

株主優待に支えられた株価という話はよく聞きますが、この業績でもまだ3,521億円の時価総額とは、恐れ入りました。。

しかし、有報の開示を見ると、株主優待費用といっても年間10億円です。この程度の優待でこの株価、、、なんですね。

ちなみに、日経平均株価の動きと比較してみると、さすがに2014年中頃からかなりパフォーマンスに差はついているようでした。



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ということで、今回はここまでです。

個人的には、アイコンチキンのソルト&レモンの復活が鍵だと思っています、社長。


石油業界大手の出光興産(出光)が昭和シェル石油(昭シェル)の株式33.3%を取得し、経営統合に向けて協議していくそうです。

再編スキームとしてはあまり面白みはなさそうですが、会計・税務を中心に見てみました。

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1.出光・昭シェルの財務比較

まずは業績と時価総額等の簡単な纏め表です。前期は両社ともに石油価格の下落により赤字だったことから、PLについては当期予想値を置いています。



なかなか面白いです。

時価総額では昭シェルが出光を上回りますが、EVベースでは、多額の有利子負債を抱える出光(1兆3000億)が昭シェル(6500億)の2倍くらいの規模になります。

EV/EBITDAは両社ともに8.0倍である一方、PER/PBRでは昭シェルの評価が出光の3倍くらいになっています。出光は投下資本効率が悪いということなんですかね。(以前見たユニーとファミマの関係に似てます)

ちなみに税効果の注記によれば、単体において、出光は1,350億円、昭シェルは450億円程度の繰越欠損金を抱えているようです。前期の赤字によって増加したようです。


2.出光による株式取得

今回、出光が昭シェルの筆頭株主である英蘭ロイヤルダッチシェルより株式33.3%を相対取得します。

買取の相手先は英国のThe Shell Petroleum Company Limitedです。これにより英蘭シェルの持分は1.8%まで低下することになります。

取得単価は1,350円で公表直前の株価1,170円に15%のプレミアムが乗っています。

取得総額は1,691億円。昭シェルの取得純資産持分が812億円なので、暖簾等の投資差額が879億円ということになります。20年で償却しても年間44億円。純利益の持分が当期予想で90億円ですから、暖簾の償却インパクトもなかなかです。

尚、本件は上場株式の相対取得ですが、取得する議決権がギリギリ1/3以下ですので、TOB規制の対象にはなりません。ということで、英蘭シェルに1.8%が残ることになったのでしょう。

一方、株式数ベースでも1/3以下ですので、税務上、出光は関連法人株式からの配当としての受取配当金益金不算入を享受することが出来ず、配当の50%は課税されることになります。昨年度の税制改正の影響ですね。

株式取得の時期は2016年の上半期だそうです。

尚、英欄シェルのHPも覗いてみましたが、本件についての開示やニュースリリースは見当たりませんでした。

同社にとっては小粒なんですかね。

ちなみに株式売却の主体であるSPCO社ではキャピタルゲインが出ても、英国では非課税になると思われます(SSEという投資免税制度あり)。また、日英租税条約により日本での源泉地課税(事業譲渡類似の株式譲渡)も免税になりますので、英欄シェルには課税はないと思われます。


3.将来の経営統合

その後の経営統合についてはまだこれからの検討ですが、基本的には対等の精神での統合だそうです。

昭シェルが出光の子会社になるわけではないと報道されていますので、例えば合併による統合でしょうか。

但し、その場合でも会計上は、出光が昭シェルを取得したとの扱いになると思われます。それによって暖簾も増加しますね。(もし逆なら、出光はPBRが0.6しかなく、かなりの負の暖簾が出るところでした)

税務上はどうでしょう。

両社には支配関係がありませんが、両社の規模も概ね5倍以内ですし、その他の要件を勘案しても、共同で事業を営むための合併として適格要件を満たすのは容易と思われます。グループ外の適格合併なら両社の繰越欠損金も引継ぎが可能です。

ちなみに、今回の出光による株式取得はTOB規制に掛からないギリギリのところだったわけですが、その後両社が経営統合することが前提だとすると、実質的には英蘭シェルからの自己株取得のようなものとも言えます。

その場合に、一般株主に応募の機会を与えることなく、市場株価に対してプレミアムを付けて取得しているわけで、少数株主保護の観点から、やや疑問かなぁという印象もあります。

もちろん経営統合がなされる保証もないわけですが。。

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ということで、今回はここまでです。





先日、デラウェアLPS法人該当性について最高裁判決が出ましたね。

この判決自体も非常に興味深いのですが、これに加え、ケイマンのパートナーシップ関係で巨額の否認を受けている塩野義製薬事件への影響はどうだろう、ということで纏めてみました。

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1.デラウェアLPSの法人該当性に係る最高裁判決

米国デラウェア州のLimited Partnership(デラウェアLPS)の法人該当性については、東京、大阪、名古屋で訴訟となっていました。

地裁段階では納税者が2勝(東京、名古屋)1敗(大阪)、高裁段階では納税者が1勝(名古屋)2敗(東京、大阪)だったわけですが、今回、2015年7月17日に名古屋の事案で初めて最高裁の判決が出ました。

デラウェアLPSは日本の租税法上、法人に該当するという結論で、納税者敗訴です。

ということで、まずは最高裁の見解を纏めておきます(意訳しますが)。

『外国事業体が日本の租税法上の法人に該当するときは、当該事業体に所得が帰属するものとして課税上取り扱われる(そうでないときは構成員課税)。従い、所得の帰属の判断は、デラウェアLPSが日本の租税法上の法人に該当するかが問題になる』

これまでの判決と同様ですが、LPSが組合に当るかではなく、法人に当るかを見ていく(当たらなければ組合)、という順序です。そして日本の租税法上「法人」の定義規定はないので、具体的な判断基準として次の(1)(2)を挙げています。((1)が優先。(1)で判断できない場合は(2))

(1)『(諸外国の法人制度や国際的な調和の要請を踏まえ)外国事業体の設立根拠法令の文言や仕組みから、日本の法人に相当する法的地位の有無が疑義がない程度に明白である場合には、それに従って判断する』

(2)『これが出来ない場合は、権利義務の帰属主体となることが日本の法人の最も本質的な属性であることから、外国事業体が権利義務の帰属主体であるか(即ち、設立根拠法令から、当該事業体が法律行為の当事者となり、且つ、その法律効果が当該事業体に帰属するか)で判断する』

(1)については、州LPS法上、LPSはseparate legal entityとされているものの、米国でいわゆる法人を意味するbody corporateという文言は用いられておらず、日本の法人に相当するか明白ではない、と判示しています。

そして(2)に進み、州法LPS法上、LPSは①合法的な事業、目的、活動を実施することができ、②同法及び契約に基づく権利を保有・行使することができることから、LPSが法律行為を行い、その効果がLPSに帰属することが前提となっているとしています。更に、③(構成員の保有する)LPS持分自体が財産権の一類型とされ、構成員が「特定の」LPS財産に対する持分を有さないことも、これと整合するとしています。

尚、LPSの契約上、構成員がLPS財産について出資割合に応じた持分を有すると定めているものの、これは個々の財産に対する具体的持分ではなく、LPS財産全体に対する抽象的な権利であり、州法と齟齬はない、と判示しています。

そして、結論として、デラウェアLPSは権利義務の帰属主体であることから、日本においては法人に該当するということです。

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ちなみに、納税者が勝訴していた東京地裁や名古屋高裁等では、国側が、上記(2)の②③のような特徴や④訴訟当事者能力の有無で法人該当性を判断すべきと主張したのに対し、裁判所は、これらの要素は法人の必要条件であったとしても十分条件とは言えず、このような属性で法人と組合(或いは人格なき社団等)を明確に区分することは出来ないという立場でした。

それゆえ、そのような属性ではなく、「損益の帰属主体」となることが予定されている事業体かどうかで法人該当性を判断すべきであり、その結果デラウェアLPSは法人ではなく組合という結論だったわけですが、この点について、今回の最高裁判決では触れられていません。

ということで、東京、大阪についての最高裁判決も今後出てくるのだと思いますが、本件と同じ内容になるんでしょうかねぇ。。


2.塩野義製薬事件への影響

さて、一応これで外国事業体の法人該当性の判断基準について最高裁の見解が確定したものとして、これが塩野義製薬事件に与える影響が気になります。

塩野義製薬事件については、以前本ブログ でも纏めた通りなので詳細は端折りますが、要するに、塩野義製薬が英国Shionogi Ltd.(100%子会社)に対して行ったケイマン特例Limited Partnership(ケイマンELP)の持分50%の現物出資が、大阪国税局への事前照会で適格現物出資に当たるとの回答を得ていたにも拘わらず、非適格現物出資に当たるとして否認されたものです。

否認金額は所得ベースで405億円と巨額です。

含み益のある資産を英国に課税繰延べで移管し、英国にて非課税でキャピタルゲインを実現させたという点が問題視されたのではないかと想像する一方、否認ロジックとしては、ケイマンELPを組合と認定した上で、現物出資された資産(組合財産である「抗HIV薬の日本での販売権」)が国内の事業所に帰属する資産であるとして適格要件を満たさないと認定したものと想像しています。(100%子会社への現物出資は原則として適格になりますが、外国法人に対して国内資産を拠出する場合は非適格になります)

但し、25%以上保有している外国法人の株式等は国内資産に当たらないとされていますので、もしケイマンELPが法人扱いとなれば、本件は適格という結論になるわけです。

(尚、同社のプレスリリースによれば、2014年9月に異議申立を行っているようですが、その後の状況については確認できておらず、争点の詳細も不明ですので、上記はあくまで予想ベースです。)

・・・

しかしながら、塩野義製薬事件はケイマンELPの話ですので、最高裁判決の出たデラウェアLPSとはもちろん異なります。

ケイマンELPの日本での取扱いについては、過去に最高裁不受理(2008/3)という形で組合扱い(法人ではない)が確定した裁判例があります。

しかし、当該裁判例では、ケイマンELPが日本の租税法上の法人に該当するかは直接の争点ではなく、組合に該当(類似)しているか、という点が争われました。つまり、今回の最高裁判決とは判断の枠組み/アプローチが全く異なるわけです。

また最近では、ケイマンELPと類似していると言われるバミューダLPSについて、「損益の帰属主体」となることが予定されているかという判断基準に基づいて法人に該当しないとされた高裁判決(2014/2)がありますが(おそらく現在国側が最高裁に上告中)、これも今回の最高裁が採用しなかった「損益の帰属主体」が判断基準となっているので、最高裁でどうなるかわからない状況と思われます。

では、今回の最高裁判決に沿ってケイマンELPの法人該当性を検討した場合、どうなるのでしょう。

経産省の委託事業でTMIが纏めた報告書を参考に図表に纏めてみました。



はい、非常に玉虫色な結論で申し訳ありません。

まず(1)の設立根拠法令上、日本の法人に相当することが明白かどうかですが、ケイマンELPについては特段の規定がなく、法人を表すbody corporateという規定はもちろん、デラウェアLPSのようなseparate legal entityという規定もありません。これをもって、法人でないことが明白といえるのか、どうなんでしょう?(明白じゃないから訴訟になっている、という気もしますが)

では(2)に進んだ場合はどうでしょう。

デラウェアLPSとの大きな違いは、PS財産について、デラウェアLPSでは構成員が特定のPS財産に対する持分を有さない(日本の組合の合有概念と類似?)のに対し、ケイマンELPでは構成員がPS財産を保有・使用するとされている点です。

つまりケイマンELPとして契約締結ができる(法律行為が行える)ものの、その法律効果がケイマンELPには帰属しないと考えれば法人には該当しないという結論もあり得そうですかね。

とはいえ、PS財産という文言/概念はあるようですし、これが構成員から一定程度独立した財産を意味しているのか、更に突っ込んだ検討が必要なのかも知れません。

ということで、ここを詰めた上で、「ケイマンELPは法人だからこの現物出資は適格だ」と主張されてはどうでしょう、塩野義さん。

・・・

ということで今回はここまでです。

ちなみに国税庁が2006年1月に公表した任意組合等の税務上の取扱いについての通達とその解説には、任意組合等に含まれる「外国におけるこれらに類するもの」について、米国のGPSやLPSで共同事業性及び財産の共同所有性を有するものが該当すると明記されているんですよね。(共同事業性や共同所有性というのは組合の性質の議論ですので、法人該当性とは違う話です。)

こんなガイダンスを出しておきながら(今も国税庁HPに掲載されています)、米国LPSをLPS法に基づいて法人扱いにするなんて、ちょっと酷いよねぇ、、という気もしますが、さて。