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Accounting, Tax and M&A

会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。


東芝が不適切会計問題で揺れています。

まだ第三者委員会の報告書も出ていませんし、顛末は不明ですが、これがいわゆる粉飾決算(仮装経理)だった場合の法人税の取扱いを確認してみましょう。

・・・

1.法人税法における仮装経理の取扱い

まず制度の確認です。

通常、過年度の確定申告による所得/納税額が過大だった場合、納税者は更正の請求を行い、更正を受けることで過大に支払っていた法人税の還付を受けることが出来ます(又は繰越欠損金が増加)。

尚、更正の請求の期限は5年です。

ところが、仮装経理の場合は、いわゆる粉飾決算の防止等の観点から、主に以下2点の特例が定められています。

(1)税務署長の更正留保権
(法129①)

これは、納税者が仮装経理について修正の経理を行い、且つ、これに係る確定申告を提出するまで、税務署長に更正をしないことができる権限を与えるものです。

「修正の経理」というのは、過年度遡及会計基準に従い、過去の誤謬を修正する、又は重要性が低い場合は前期損益修正を当年度の損益として確定決算において受け入れることを指します。

これがなされない限り、納税者が更正の請求を行っても、税務署長は更正を留保(拒否)できるというわけです(一応、あくまで「できる」規定です)。

(2)過大納付額の還付制限及び繰越控除
(法135①②、法70)

これは、仮装経理による過年度の過大納税額の還付について更正された場合でも、すぐには還付を受けさせないという特例です。

この場合、還付を受けることのできる金額は更正の日の属する事業年度の前年度の法人税額の範囲に限定され、また、その後5年間は各事業年度の法人税額から未還付の過大納付額を控除することが認められます。

そして、5年経過時点でも未還付の過大納付額が残っている場合、その時点で残額が還付されることになります。

その他、清算された場合はその時点で還付を受けられる等の特例もありますが、要するに、仮装経理を行った場合は、修正の経理を行わないと更正が受けられない(かも知れない)、且つ、更正を受けても最大5年間は還付を受けられない(かも知れない)、ということになるようです。


2.東芝のタックスポジションと不適切経理の取扱い

さて、では東芝の場合はどうでしょう。

まだ不適切経理の詳細は不明ではありますが、現時点の報道からすると、1,700億円~2,000億円程度の不適切経理があり、その内容は経営陣が粉飾の指示に近いことを行っているとのことで、粉飾決算(仮装経理)に当たることになると思われます。

この金額が累積の利益剰余金への影響?なのかよくわかりませんが、いずれにせよ、金額規模からして過年度決算の修正を行うことになるでしょう。

その後、法人税について更正の請求を行うことになると思われます。

・・・

では、東芝のタックスポジションはどうなっているのでしょう。

この点、東芝の財務諸表(2014/3期時点)を見ると、連結/単体ともにかなりの金額の繰越欠損金を抱えているようです。

【2014/3期末の繰越欠損金に係る税資産】
連結決算:2,011億円(単純税前換算5,650億円)
単体決算:981億円(単純税前換算2,756億円)

同社は連結納税を採用しており、単純に税前に割り戻しても繰越欠損金の金額にはなりませんが(法人税と地方税で繰越欠損金額が異なる)、大凡の規模感は掴めます。

連結決算では東芝は米国会計基準を適用しており、法人税等の注記も充実していますが、連結決算ベースでは、法人税の繰越欠損金は4,641億円、地方税の繰越欠損金は6,791億円だそうです。もちろんこれには連結納税外の子会社や海外の子会社も含まれますが、上記の単純税前換算値と規模感は合っています。

そして、その半分くらいが東芝単体決算の繰越欠損金で、過去の決算を見ると2012/3期と2009/3期に発生した欠損金が大きいようです。

・・・

単体決算における法人税等(current tax)については、2013/3期、2014/3期で74億円、56億円の還付ポジションになっています。

一方、単体税前利益に、受取配当金及び交際費に係る永久差異項目の調整、及び、繰欠と有価証券評価差額を除く一時差異の増減を加味して単体の課税所得を試算すると、2013/3期、2014/3期で200億円、500億円程度になります。

にも拘わらず法人税が還付ポジションになっているのは、連結納税子法人の所得も加味した結果、国に対する納付(欠損金控除制限80%)よりも、子法人所得による繰越欠損金消化(=子法人から受け取る法人税)の方が大きい、ということでしょうか。

いずれにせよ、東芝連結納税グループとしての法人税の納付額はさほど大きくないように思われます。連結決算での法人税の納付額は、CF計算書にて2013/3期、2014/3期で487億円、510億円と記載されていますが、これはおそらく連結納税グループ外の法人による納付額が大半と思われます。

なので、過年度の修正の経理を行った上で更正の請求をしても、その大半は繰越欠損金の増加、ということになりそうです。

多少なりとも法人税を納付していた部分については、前期(今回の場合は2015/3期でしょうか)納付額の範囲で還付を受けるとともに、今後5年の繰越控除の対象になると思われる一方、繰越欠損金が増加する部分は、(それによってその後の欠損金の控除が増加していた場合(いわゆる反射的更正)を除き)更正が留保されることもなく、通常の繰越欠損金としての扱いを受けるものと思われます。

・・・

ということで、今回はここまです。

仮装経理の取扱いは実務で触れたことがなく、ちょっと調べてみた程度なので、間違っていたらすいません(ご指摘下さい。。)


苦境に陥っているシャープですが、2015/3期の有価証券報告書をベースに、同社のタックスポジションを少々覗いてみました。

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1.最近の業績推移

まず、最近の業績ですが、過去4年の連結純利益の推移は、12/3期▲3,761億円、13/3期▲5,453億円、14/3期116億円、15/3期▲2,223億円と、14/3期の僅かな黒字を除き巨額の損失が続いています。

11/3期末に1兆円あった連結純資産は15/3末には僅か302億円まで減少。単体純資産は▲60億円の債務超過という状況になっています。

一応、この後、銀行団及びファンドに対する第三者割当増資による資本増強を予定しているということで、GC注記については、「継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在しているが」、「継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められない」ということになっています。

(ちなみにこの優先株の発行条件も面白そうなのですが、取り敢えず今回はパスします。)


2.繰越欠損金の状況

次に、繰越欠損金です。

2015/3末のシャープの繰越欠損金に係る税資産は、連結で2,911億円、単体で2,874億円となっており、ほぼ全ての繰越欠損金がシャープ単体に帰属するものとなっています。

シャープは長らく連結納税を採用しているので、単純に実効税率で割り戻しても繰越欠損金の金額にはなりませんが(正確には法人税と地方税で欠損金額が異なる)、この辺はさておき、ざっくり実効税率で割り戻してみます。

税資産2,874億円÷32.0%(15/3末の長期税率)=8,981億円。1兆円目前です。

ちなみに14/3期末は2,737億円÷35.5%(14/3末の長期税率)=7,710億円でしたので、15/3期の欠損は約1,200億円だったようです。

15/3期は会計上の税前利益が2,023億円の赤字で、更に大半が非課税と思われる受取配当金が300億円程度あると思われる一方、減損損失に起因する建物等の有税残高の増加が630億円、買付契約評価引当547億円等が加算留保となり、課税所得ベースで1,200億円の欠損というのは妥当なレベルと思われます。

(買付契約評価引当というのは、時価よりも高い価格で買い取る義務を負っている不利な契約についての引当だそうです。)

尚、過去の欠損の推移を見てみると、欠損が発生したのが09/3期でざっくり2,000億円程度です。その後、12/3期に1,500億円、13/3期に3,000億円、14/3期に1,000億円、そして15/3期に1,200億円程度、欠損金が積み上がってきたという感じのようです。

最初の09/3期の分は、2011年税制改正でギリギリ繰越期間の9年への延長に含まれましたが(2008/3期分以前は7年)、それでも残り3年、という状況です。

何とか復活を果たして、繰越欠損金もしっかり消化して欲しいですが。。


3.その他の有税残高

シャープが2015/3末に計上している繰延税金資産(引当前)は、連結で5,171億円、単体で4,431億円です。連結には単体で未認識の退職給付負債に税資産が274億円含まれていますので、これを除くと、約9割が単体分ということになります。

ということで、引き続き単体で見ていきましょう。

繰越欠損金を除く税資産は1,557億円あります。

主な内訳を見てみると、

棚卸資産で416億円、短期税率32.8%で割り戻すと1,299億円の有税評価損を計上しているようです。単体BSの棚卸資産が1,840億円程度ですが、時価の下落率は相当な感じですね。

建物等の有形固定資産で334億円、長期税率32.0%で割り戻すと1,044億円です。主に減損により生じているものでしょう。

そして買付契約評価引当による179億円。これは税前が547億円で、短期税率32.8%が適用されいているようですので、おそらく2016/3期に実現するのでしょうかね。

ちなみに有税になる賞与引当金は、14/3末151億円から15/3末83億円に減少しています。これもツライ状況です。

尚、繰延税金資産にはほぼ全額評価性引当を計上しています。過去連続して重要な欠損が発生している状況ということで、いわゆる66号の監査区分は5と思われます。


4.税務上の準備金

最後に税務上の準備金に着目してみましょう。

こちらは連結ベースで行きますが、税務上の準備金に係る繰延税金負債は09/3期に199億円ありました。税前換算すると500億円程度です。

これが11/3期には618億円、税前換算で1,500億円程に増加しています。その分、準備金の組み入れで損金算入したということです。

これが、12/3期、13/3期と取り崩され、現在では税負債23億円しか残っていません。何とか益出しを試みたというタックスプランニングの痕跡が見えますね。

・・・

ということで、今回はここまでです。

ちなみに、シャープは税前赤字が続いているせいで、法廷実効税率と会計上の税率の差異についての開示がほとんどなされておらず、なかなか分析し難いです、、

約1か月ぶりのブログ更新です。

今回は、最近見た興味深い2つの資本取引について、会計・税務上の取扱いを検討してみます。

・・・

1. KDDIのKDDI財団への有利発行増資(1株1円増資)

(1)概要

KDDIは、公益財団法人であるKDDI財団に対し、社会貢献活動を支援する為の寄附を目的として、KDDI株式1,125,000株を1株1円で発行するようです(正確には自己株処分)。

本日のKDDIの株価は2966円ですので、ざっと33億円相当になります。

平成26年度のKDDIからの寄附金は2千万円だったそうですから、これに比べてもかなりの規模ですね。

当然、有利発行に当たるということで、株主総会の特別決議を経て実施されることになります。

(2)税務上の取扱い

さて、本件の税務上の取扱いです。

まずKDDIにおいてはあくまで自己株式の処分という資本取引ですので、これによって益金/損金が認識されることはないと思われます。

一方で問題なのは、株主の取扱いです。

つまり、既存株主から有利発行を受ける株主(KDDI財団)への間接的な経済価値の移転について、寄附金/受贈益が認定される可能性があるということです。

この点、KDDI財団は公益財団法人なので、受贈益認定により法人税が課される、ということはないものと思われます(寄附を受けるのと同じですね)。

では、既存株主はどうでしょうか。

有名なオウブンシャホールディング事件の最高裁判決では、有利発行によって間接的に経済価値を移転させることを企図した既存株主である日本法人に対し、これが「無償の資産の譲渡」に当たるとして課税することが是認されています。

これはいわゆる租税回避防止規定(行為計算否認)の適用事例ではありませんので、同族会社にしか適用されないわけではありません。

また、オウブンシャが「意図的に」行ったという点は最高裁でも認定されているものの、それが「無償の資産の譲渡」として課税する上での「必要条件」なのかどうかは定かではないと言われています。

つまり、本判決の射程はまだまだ未知数ということのようです。

とすると、KDDIの有利発行決議に賛成した株主は、経済価値を間接的に無償でKDDI財団に譲渡したと認定される可能性がゼロではない、ということかも知れません。

まあ、可能性は低いと思いますが、、

(3)会計上の取扱い

KDDIは本年度からIFRSを適用するそうですね。

IFRS上も、通常、株主との資本取引によっては損益は認識されませんが、本件の場合はどうでしょうか。

増資そのものが資本取引であることは疑義がありませんが、この極端な有利発行が特定の第三者のみに対して行われているのは、通常の資本取引とは性質が異なるように思われます。

IFRS上、資本取引の定義は明確ではありませんが、取引が株主の立場で(capacity as shareholder)で行われているかどうかがポイントになります。例えば、子会社が親会社から無償で資産の拠出を受けた場合、株式が発行されていなくとも、資本取引として会計処理されます(capital contribution)。

この点、IFRIC17号は株主への非金銭資産の分配を取り扱った解釈指針ですが、株主を平等に取り扱わない場合は本指針の対象外とされています。その背景は、特定の株主のみに資産を分配する取引は、無償の分配(≒配当)ではない交換取引であるのが通常だからと説明されています。

本件は、交換取引ではなく、無償(つまり有利発行の対価として、KDDI財団はKDDIに対して何らかの資産を提供する義務を負わない)の取引ではありますが、それは、本取引が本質的に寄附を意図したものだからであり、株主との取引だからではありません。

また、株主以外の第三者からの無償の資産の贈与を受けた場合は、基本的にその時点で利益認識するとされており、逆に無償で資産を譲渡した場合は費用認識するのが通常でしょう。

この取引は、株主であるが故の資本取引ではなく、第三者への寄附というのが当事者の意図且つ経済的実質でしょうから、33億円をPL上費用として処理するのが妥当ではないかと考えます。

仕訳としてはこんな感じです(自己株の入り繰りは省略)。

(借)寄附金費用 33億円
(貸)資本剰余金 33億円

さて、まあ当然のように資本取引だけでPL認識はしない、ということなのかも知れませんけどね。。


2. トヨタのAA型種類株式

(1)概要

次はトヨタのAA型種類株式です。

こちらは大きな話題になりましたね。ざっくり整理すると、こんな感じです。

①議決権あり
②優先配当は年間0.5%~2.5%(初年度0.5%、以降毎期0.5%上乗せで上限2.5%)で累積型、通常配当への参加権なし
③5年間は譲渡制限あり(非上場)
④5年後以降、元本+累積未払優先配当額での取得請求権(保有者側)及び取得条項(会社側)あり
⑤5年後以降、普通株1株への転換権(保有者側)あり
⑥発行価額は普通株時価の120%以上

一言で纏めると、「議決権付きの転換社債(譲渡制限あり)」、という感じでしょうか。

尚、発行総数は1億5千万株を上限にするそうです。トヨタの株価は8400円程度なので、AA種類株の発行価額を1株1万円とすると、総額1.5兆円相当になります。

とはいえ、これでも発行済株式総数の5%程度ということで、さすが時価総額30兆円規模のトヨタ、という感じですね。

トヨタの信用力を思えば、0.5%~2.5%の利息が付いて、且つ、5年後に株価が20%以上上昇していたら普通株への転換による利益も享受できるという魅力的な商品かも知れません。

尚、トヨタは、AA型種類株の発行と同時に、同数程度の自己株取得を行うということで、既存株主の希薄化に配慮しています。逆に言えば、資金調達としての意味はあまりなく、会社側説明の通り、長期視点の株主を獲得したい、ということなのかも知れません。

ただ、既存株主からすると、自己株取得に応じたとしても、必ずしもAA型種類株の割当を受けられるわけではないでしょうから、、まあ、どうなんでしょうね。

(2)税務上の取扱い

AA型種類株の発行は、税務上は単純に資本取引で、払込額が(種類)資本金になると思われます(普通株の自己株取得もその通りの処理)。

また、優先配当の支払いも損金算入は認められないでしょうから、実質的には社債の利息のようなものではありますが、トヨタにとっては、0.5%~2.5%の配当による節税効果はないことになります。

(3)会計上の取扱い

もしIFRSなら、このAA型種類株式は保有者に取得請求権がありますので、金融負債になります。その場合、自己株取得によって資本が減少し、AA型種類株によって負債が増加、そして今後の優先配当の支払いもPL上、金融費用となっていたと思われます(そして税効果なし)。

しかし、トヨタは米国会計基準を採用しています。

どうやら、米国会計基準では、保有者に取得請求権のある株式(但し、強制償還条項はない)の場合、負債と資本の中間区分(mezzanine / temporary equity)に表示されるようです(SEC登録会社の場合)。

IFRSは、負債を定義し、残余を資本とすることで、中間区分は認めない考え方ですので、かなり会計基準差があるのですね。

一方、優先配当の支払いについては、PLには計上されず、あくまで配当として表示されるようです。従い、トヨタの当期純利益が毀損することはありません。

但し、EPS(1株当り純利益)の算定においては、普通株主に帰属する純利益を分子にしますので、ここでは優先配当は控除して計算されることになるようです。

・・・

ということで、今回はここまでです。







サントリー食品がJTの自販機事業子会社株式と「桃の天然水」「Roots」ブランドを取得するようです。

取得総額は1,500億円。JTは売却により純利益1,000億円を計上するとのことです。これとJBの決算公告等を手掛かりに、本ディールの詳細を予想してみたいと思います(有報等での開示を見て、全然結果が違ったらすいません)。

・・・

1.ディールの概要

サントリー食品が買収する対象は以下の通りです。

①JTの自販機事業子会社3社の株式

主要な事業会社はジャパンビバレッジホールディングス(JB)で、JT持分は70.5%を全て譲渡します。その他2社は、決算公告を見ても純資産10億円未満、純利益50百万円未満と小粒ですので、今回は無視します。

②「桃の天然水」「Roots」ブランド

商標登録を見てみると、これらのブランドはJTが直接保有しているようですので、開示資料の通り、JTがこの商標を売却するということかと思います。

これらの対価の合計が1,500億円ということですが、内訳は公表されていません。

尚、記者会見でブランドの取得価額を聞かれた鳥居社長は、ブランドだけの評価は出来ないと回答されていましたが、少なくとも会計上は、ブランドだけの時価評価も必要になります。


2.JTの会計処理

JTの開示資料によれば、JTは純利益(税後)が1,000億円程度になるようです。

譲渡対価1,500億円で税後利益1,000億円て、どういうバランスなのでしょう??

JBの決算公告を見ると、2014/12末で純資産は585億円です。JTの持分簿価は不明ですが、仮に純資産ベース(暖簾なし)と仮定すると、70.5%分で412億円程度となります。また、取得原価については、2013/3期の有価証券報告書で単体簿価が480億円でしたので、これを採用します。

また、ブランドについては、基本的に簿価ゼロと仮定しましょう。

すると、税前の売却益は1,088億円(1500億円-412億円)、売却益課税▲336億円(1500億円-480億円×税率33%)で税後利益750億円ほどにしかなりません。

1,000億円とはかなり遠いです。

このカラクリは、おそらくJBのバランスシートにありそうです。

JBのBSには400億円の短期貸付金があり、関連当事者取引の開示によれば、親会社JTへの貸付けのようです。余剰資金のグループ内預託のようなものでしょうか。

おそらくこの400億円は株式売却前に配当するのではないかと想像します。JBは資本剰余金454億円、利益剰余金125億円ですので、分配可能額としては十分です。

なので、仮にこれらの剰余金から400億円を事前に配当すると仮定しましょう。

400億円の配当の内、JTの受取は282億円です(従い、JTのキャッシュ回収総額は282億円+1,500億円で1,782億円)。また、資本金等と利益剰余金のバランスから、受取配当金の内、60億円程度は税務上みなし配当になるものと想定できます。

すると、税務上の譲渡益は、1,782億円からみなし配当60億円と株式簿価480億円を控除して1240億円、法人税等は410億円になります。

結果、会計上の税後利益は、譲渡対価総額1,782億円-会計簿価412億円-譲渡益課税410億円=960億円。

それなりに1,000億円に近い水準になりました。


3.サントリーの取得価額の内訳

サントリーの取得するJBは、純資産585億円から400億円配当し、185億円の純資産になりますが、バリュエーションはどんな感じでしょう。

JBの業績は2014/3期で営業利益28億円、純利益16億円、2014/12期(9ヶ月決算)で営業利益25億円、純利益14億円です。成長はしているようですが、飲料事業で1月~3月はあまり利益出ないでしょうから、年間ベースの仮定値として、営業利益30億円、純利益18億円としましょう。

純利益18億円にPBR20~25倍で360億円~450億円程度。

営業利益にEV/EBIT 12~14倍で360億円~420億円程度。Net有利子負債は配当後でもあまりありませんので(実際にはリース債務がけっこうありますが)、そのまま株式価値としましょう。

これのJT持分は70.5%ですから、ざっくり300億円程度がJBの取得価額と考えられます。

すると、「桃の天然水」と「Roots」のブランド取得価額は1,200億円?

かなり高い感じがしますね。。

JTの飲料製造販売事業撤退のプレスリリースでは、これらの売上収益は500億円とされていました。全てがこの2ブランドではありませんが、仮に全てこのブランドだとしても、売上高500億円で取得価額が1200億円ですか。。

かなり高いロイヤルティレートにしないとこんな評価にはなりませんが、正直よくわかりません。

ちなみに、親会社サントリーホールディングスのビーム買収では、ビームの売上高4,600億円に対し、PPAにおける商標権の時価評価は9,800億円でした。売上高の2倍以上の評価です。

とすると、あながち「桃の天然水」「Roots」で1,000億円超というの、あり得なくはないのかも知れません。

ちなみに、サントリーの採用する日本基準において、これらの商標権がどのように処理されるのか、注目しています。

というのも、日本基準において非償却無形資産というものが認められるのか、明確ではのいからです。

ビームの商標権は、海外で非償却無形資産とされたものを日本基準でもそのまま受け入れてますが、本件は純粋な日本基準の話になります。

・・・

ということで、今回はここまでです。

これについてはその内で有報等で答えが出てしまうでしょうから、如何にこの予想が適当だったかがバレるかも知れません。。(汗)


Z会の増進会出版社(増進会)が栄光ゼミナールの栄光ホールディングス(栄光HD)を買収するようです。

自己株TOBと通常のTOBを組み合わせた買収に、会社法改正によるキャッシュアウト制度の活用等、非常に面白いストラクチャーですので、会計・税務中心に確認します。


1.栄光HDの2015/3末の財務状況

まずは買収対象となる栄光HDの2015/3末の財務状況を見てみます。

株主資本(NCI除く)156億円、net有利子負債▲30億円(現金超過)、EBITDA 47億円、時価総額238億円(本件公表直前の5/18終値1,110円ベース)です。

時価ベースの事業価値は208億円、EBITDAマルチプルで4.4倍という状況です。低い評価です。

発行済株式総数(自己株除く)は21.4百万株で、筆頭株主の進学会(正確には上場会社である㈱進学会の100%子会社の㈲進学会ホールディングス)が6.6百万株(持分30.8%)、第二位株主の増進会が6.4百万株(持分30.0%)を保有しており、栄光HDは両社の関連会社になります。

どうでもいいですが、「ホールディングス」の方が子会社なんですね。


2.増進会による買収ストラクチャーと会計・税務上の取扱い

(1)買収ストラクチャー

上述の通り、今回のストラクチャーは2段階TOBです。

まず1stステップとして、栄光HDが自己株TOB(単価1,450円)により進学会の保有株を取得します(応募契約締結済み)。

そして2ndステップとして、増進会の設立したSPC(ZEホールディングス)が残りの全株(増進会保有株を除く)をTOB(単価1,550円)で取得した後、スクイーズアウトにより完全子会社化(栄光HDは上場廃止)します。

ということで、各ステップの詳細及び会計・税務的なところを見てみましょう。


(2)栄光HD自己株TOB

まず1stステップです。

この自己株TOBは単価1,450円、買付株数は上限7.2百万株(総額105億円)です。資金調達としては三井住友銀行から100億円の借入を予定しているようです。

栄光HDの14/3末の単体BSでは分配可能額が111億円(15/3期の単体は未開示)ですので、分配可能額のほぼ全額を自己株取得に充てる模様です。

進学会は全株応募しますが、プレスリリースによれば、自己株TOBの場合はみなし配当が発生して税務上有利となることから、買収単価の高い増進会のTOBではなく、自己株TOBの方に応募するようです。(尚、一般株主でも同様に自己株TOBを希望するケースもあり得ることから、取得株数の上限は進学会保有株+0.7百万株程度となっています)

進学会の売却総額は96億円になります(全株が買い取られる前提)。

連結会計上の簿価は、14/3期時点で47億円のようです(有報より、時価のある関連会社株式の簿価ということで確認できます)。その後の期中の異動を勘案すると、15/3期末で51億円程度でしょうか。

ですので、税前の売却益は44億円程度と思われます(プレスリリースでは精査中として非開示でしたが)。

税務上はどうでしょうか。

まず進学会の取得原価ですが、この㈲進学会ホールディングスは随分昔からこの株を保有しているようで、また上場会社である進学会の単体財務諸表にも表れないことから、把握が難しいところです。

なので、栄光HDの開示しているもっとも古い2002年時点の単体BSにおける払い込み資本(資本金・資本準備金の合計)54億円と同単価と仮定し、単価245円、取得価額16億円と仮定します。

一方で、栄光HDの税務上の資本金等の額ですが、同社は2011年10月に単独株式移転で設立された会社で、おそらく当該時点の純資産簿価が資本金等の額になっているものと考えられます。単体会計上の資本金・資本剰余金と同額と仮定すると117億円になります。

すると、単価は533円、進学会持株相当で35億円になります。従い、株式譲渡益は19億円と試算されます。

進学会からすると、この株式移転によって出資先の税務上の資本金等の額が増加したため、株式譲渡益が発生してしまうことになったわけです。

また、自己株取得対価の残り60億円はみなし配当になります。

ここで更に問題なのは、2015年税制改正により、関連会社配当として全額非課税となる出資比率のハードルが25%以上から1/3超に引き上げられています。従い、進学会はこのみなし配当について、50%しか益金不算入を享受できないわけです。

開示資料によれば、2014年に一度増進会の提案を拒否し、2015年に入って受け入れることにしたようで、もっと早く決断しておけばもっと税務メリットがあったのに、という感じですね。

ということで、配当の半分と株式譲渡益で課税所得49億円、法人税等で16億円くらいでしょうか。なので、進学会の手元に残るキャッシュは80億円程度と思われます。

ちなみに、1,550円の増進会のTOBに応募していた場合は、譲渡価額が7億円増加する一方、課税も12億円増加し、netでは5億円程度のマイナスになる計算です。自己株TOBへの応募を優先したのは納得ですが、栄光の株式移転がなく、また税制改正前なら、16億円プラスだったわけですから、ちょっと勿体無かったですね。


(2)増進会によるTOB/スクイーズアウト

次に2ndステップです。

増進会SPCによるTOB単価は1,550円、進学会及び増進会以外の株主が全員こちらで応募すると仮定すると、TOB総額は130億円程度になります。

そして興味深いのはスクイーズアウト手法です。

従前よく用いられていた全部取得条項付種類株式を活用するスキームではなく、2015年の会社法改正を踏まえ、TOBにより議決権90%以上を確保した場合は特別支配株主の売渡請求(いわゆるキャッシュアウト)により、また、議決権比率が90%未満となる場合は(少数株主保護の制度が導入された)株式併合によりスクイーズアウトするとのことです。

こうやって実務は変わっていくんですねぇ。

増進会は非上場ですので、あまり分析できない(&しても仕方ない)ですが、一応見てみます。

増進会の保有する栄光HD株式は、取得価額ベースで26億円(単価410円程度)のようです。昔から保有している進学会より、やや高めです。

これが時価(1,550円ベース)で100億円、単体簿価比較ですが、子会社化による評価益が74億円になります。

またTOBによる取得価額130億円と併せて、取得価額総額は230億円になります。

一方、栄光HDの純資産は、15/3末簿価純資産156億円からBS上の暖簾9億円、自己株TOB対価の96億円を控除すると51億円になりますので、今回の買収に係る暖簾は179億円です。

また、株式の取得価額総額230億円にnet有利子負債▲30億円と自己株TOBによる借入増96億円を合計すると、事業価値ベースで296億円。EBITDA 47億円とのマルチプルで6.3倍くらいの評価になります。

暖簾をみるとかなりの金額ですが、さほど高値買いという感じはしませんね。

・・・

ということで、今回はここまでです。


(5/25追記)

増進会と栄光の簡単な業績比較と買収による連結財務諸表への影響を整理しました(実際には増進会は非上場ですし、連結財務諸表とは無縁かもですが)

簡単に表に纏めました。
(単位:億円)


増進会については15/3期の業績は公表されていませんが、同社HP掲載の14/3期実績(売上高、経常利益のみ)及び13/3期実績(TACとの業務提携に係るプレスリリースに多少細かい開示がありました)をベースに予想値として記載しています。

両社の総資産や純資産の規模は同じくらいですが、売上高、経常利益はともに増進会は栄光HDに半分程度になります。その結果、経常利益率は同程度ながら、ROAは栄光HDの方がかなり高い水準になっています。

こう見ると、華麗なる一族ではありませんが、「小が大を呑む買収」という感じかも知れません。

また、増進会のTOBに係る資金調達方法は不明ですが、非上場ということで増資は困難で借入にて調達すると仮定した上で、買収処理の影響を想定してみました。

総資産は両社の合算に加えて暖簾分の増加、負債は買収資金の借入による増加、純資産は買収によっては増加しませんので栄光HD分のマイナス(但し、NCI部分を除く)としています。また、経常利益のマイナスは暖簾の償却(20年前提)になります。

すると、仕上りとしてはかなり負債の重たいBSになります。

Net有利子負債については、元々の増進会の数値がわかりませんが、負債の規模感からしておそらく実質無借金ではないかと想像します。これが、今回の買収によって300億円程度の有利子負債を抱えることになるわけです。

EBITDAは経常利益に暖簾償却/減価償却費を足し戻してざっくり75億円程度でしょうか。それでもnet Debt/EBITDAで4倍ということで、けっこうな規模と言えそうです。

以上、追記でした。