IBM租税回避事件シリーズの続きです。
高裁判決でも国側が敗訴したわけですが(詳細は前回エントリー)、その判決の分析を踏まえ、思い切って私自身が本事案を132条によって否認するロジックを構築してみましたので、披露してみます。
ポイントは、自己株取得による株式譲渡損失の計上ではなく、日本再編プロジェクトによる日本IBM株式簿価のステップアップを否認する、というものです。
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1.132条の解釈について
【主張ポイント】
■132条の「不当」とは経済合理性を欠く場合であり、租税回避の意図は要件ではない。
■同条は、経済合理性を欠く行為又は計算の結果として直ちに法人税が減少している場合のみならず、経済合理性を欠く行為又は計算の結果に直接的に起因して、将来に法人税の減少を招く場合にも適用されると解するべき。
(解説)
後者が重要です。
つまり、経済合理性を欠く行為によって資産の簿価が非課税でステップアップし、将来、その資産を売却した際の譲渡益が減少することになる場合に、資産の売却ではなく、当初の行為を132条による否認対象にしようということです。
同条は同族会社である内国法人の「行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」に税務署長に行為計算の否認を認めると規定しています。同条の文理上、法人税の負担を不当に減少させる「結果」となることが求められるのであって、その行為計算によって「直ちに」法人税が減少することまでは要件とされておらず、また、そのように解しないと、将来に不当な法人税の減少を招くこととなる、現在の経済合理性を欠く行為又は計算を容認することとなり不合理と言えるのではないでしょうか。
もちろん、徒に132条の適用範囲を拡大することには慎重になる必要はありますが。
2.日本再編プロジェクトの経済合理性の有無
【主張ポイント】
■日本再編プロジェクト(中間持株会社APHの買収、APHへの融資・増資、日本IBM株式のAPHへの譲渡)は、日本における源泉税圧縮を主たる目的とした一連の行為であり、その主目的及び敢えて複雑なステップを採用している点に照らし、一体として経済合理性を欠く。
■更に、当該一連の行為は、有限会社というハイブリッドエンティティを利用することで、日本及び米国の双方において非課税となる形で、本邦における日本IBM株式の簿価のみをステップアップさせる結果となっている。
(解説)
日本再編プロジェクトの目的については、IBM側は4点挙げており、いずれが主目的というのは客観的に立証するのは難しいかも知れませんが、金額的インパクトやそもそも中間持株会社設置だけならよりシンプルなトランザクションも可能だったはず(日本IBM株式の現物出資等)という当りを主張し、源泉税圧縮が主目的であり不当(経済合理性を欠く)と言いたいところです。もちろん、132条の適用上、必ずしも租税回避目的は要件ではありませんが、経済合理性を欠くことを説明する上での重要な要素ではあるでしょう。
その上で、源泉税自体を否認するか、というのはまた別問題ですが。
3.自己株取得による株式譲渡損の計上について
【主張ポイント】
■日本再編プロジェクトとその後の自己株取得は、必ずしも一連/一体の行為ではないという点は認める。
■株主還元策として経済合理性を有する自己株取得ではあるが、これによる株式譲渡損失の計上は、経済合理性を欠く日本再編プロジェクトによって日米において税負担を伴わずに株式簿価がステップアップしたことに直接的に起因するものであることから、法人税の負担が減少しており、且つ、当該減少は不当であると認められる。
■従い、当該日本再編プロジェクトによるIBM株式簿価のステップアップを132条により否認する。
(解説)
自己株取得による譲渡損計上まで当初から狙った/仕組んだ一連の租税回避行為という主張は、地裁判決でも見た通り税制改正の経緯からしても難しいですし、おそらく事実とも異なると思われ、控訴審においては国側も主張を取り下げたところです。
なので、今回の否認対象の行為は、自己株取得ではなく、あくまで日本再編プロジェクトです。
もちろん、経済合理性を欠く日本再編プロジェクトであっても、課税を伴って簿価がステップアップしていたのであれば、その後の株式譲渡損失の計上で法人税が減少しているとは言えません。ですので、経済合理性を欠くという点(=不当)と、非課税でのステップアップであったという点(=法人税の減少)、両方の指摘が必要かと思います。
ちなみにこう否認した場合、課税当局の実際の否認内容とは異なり、一時差異(期間損益否認)ではなく永久差異(流出否認)になります。
・・・
ということで、今回はここまでです。
まあ、突っ込みどころ満載かも知れませんが、頭の体操としては面白いかな?
(追記)
文章だと分かりにくいので、高裁判決と否認ロジック案の比較を図解してみました。
■高裁判決

■否認ロジック案

さてさて。
