スズキと独フォルクスワーゲンの資本・業務提携の解消に係る両社の会計・税務インパクト | Accounting, Tax and M&A

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スズキと独フォルクスワーゲン(VW)の資本・業務提携の解消について、国際仲裁裁判所の判断が出たようです。

ということで、スズキとVWの会計・税務インパクトを簡単に見ておきましょう。

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1.VW

まずはVW側から見ていきます。

仲裁判断の結果、VWとの資本・業務提携の解消が確認され、VWの保有するスズキ株式はスズキが自己株取得するそうですね。

VWはスズキ株式を112百万株(19.9%)保有していますが、2010年1月に108百万株、2010年7月に4百万株取得しています。

当時の取得価額はそれぞれ2225億円(1株2061円)、64億円(1株1755円)で、合計2289億円相当です。当時の為替レートで換算するとざっくり17.7億ユーロになります。

これが、現状の株価4130円(8/31時点)だと4609億円(33.9億ユーロ)となり、VWの売却益が16.2億ユーロという計算になります。

株式投資としてみれば十分な成果でしょうか。

VWはIFRSを適用していますが、スズキ株は持分法ではなく、IAS39号に基づく売却可能有価証券として処理されており(IFRS9号は未適用)、売却時点でPL認識されるものと思われます。

また、株式譲渡益について、日本での源泉課税はなし(事業譲渡類似の株式譲渡には該当せず、また日独租税条約上もキャピタルゲインは免税)、ドイツにおいても株式譲渡益は95%非課税という扱いですので、VWにはほとんど課税は生じないものと思われます。

尚、スズキによる自己株取得はToSTtNeT3によって行われるとのことで、税務上、みなし配当も認識されないことになります。


2.スズキ

次にスズキを見てみます。

スズキはVWから自己株を取得するわけですが、現在の時価ベースで4609億円相当です。

スズキの単体BS(15/3末)を見ると、株主資本9375億円(資本金1380億円、資本準備金1444億円、利益剰余金5041億円)という状況で、4609億円の自己株を取得すると単体株主資本は半減、また、分配可能額はほとんど食いつぶされてしまう計算になります。

おそらく、自己株取得する前(正確にはその後期末を迎える前)に、資本金・資本準備金の資本剰余金への振替えを行い、可能な限り自己株式の償却は可能な限り資本剰余金に充当するのではないかと思われます。(当面、自己株式として保有することも考えられますが)

一方、連結BS(15/3末)を見ると、株主資本は1兆4821億円あり、自己株取得後も1兆円残ることになります。

ついでにnet Debtの状況を見てみると、長短の借入が5547億円程度ある一方、手元の現預金が4575億円、換金可能と思われる短期の有価証券が6856億円あり、5885億円の現金超過の状況です。

資金繰り的には手持ちの現金等で十分に賄えそうな印象ですね。

ちなみにスズキは時価総額2兆3165億円で、これに非支配持分2190億円を加え、現金超過を差し引いた事業価値で1兆9471億円。EBITDA約3000億円での倍率は6.4倍程度になります。

あまり市場の評価が高いとは言えない感じがしますし、手元の余剰キャッシュをこれで吐き出せば、株価にプラスなのかな?という気もしました。

尚、資本提携の解消という話ですが、実はスズキもVW株を保有しています。

13/3末時点で4.4百万株で、おそらく取得原価は500億円程度ではないかと想像します。(過去の有報から、株数や期末時価は確認できるものの、正確な取得原価は不明)

14/3期、15/3期でも投資有価証券を売却した形跡がほとんどなく、現在もそのまま保有しているものと思われます。

現在、VWの株価は169ユーロなので、円貨ベースで総額1011億円になります。

とすると、こちらも取得原価の約2倍になっており、もし売却すればかなりの売却益になりますね。課税されますが。

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ということで、今回はここまでです。