トヨタのダイハツ完全子会社化 ~ 会計・税務上の取扱いと買収プレミアムの怪 | Accounting, Tax and M&A

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会計、税務、M&A等の話題についての分析、雑感、というか趣味の備忘録です。もちろんインサイダーではありませんので、全て開示情報と報道に基づくもので、推測を含みます。暇なときに更新しますので、頻度は低いです。ご了承下さい。

トヨタ自動車(トヨタ)がダイハツ工業(ダイハツ)を完全子会社化するそうですね。

けっこうなビッグディールということで、久しぶりに会計・税務の取扱いを分析してみました。

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1. 再編の概要

ストラクチャーは非常にシンプルで、トヨタがダイハツを株式交換で100%子会社化するのみです。トヨタは既にダイハツの株式51.3%を保有する親会社ですが、残りの非支配持分を取得して完全子会社化することになります。

対価はトヨタ株式のみで、ダイハツ株との交換比率はトヨタ株1:ダイハツ株0.26です。

ダイハツの発行済株式総数(自己株除く)は426百万株で、その内トヨタが保有する219百万株を除く208百万株に対し、トヨタ株54百万株が交付されることになります。

日経朝刊のリーク記事が出た1/27の前日である1/26終値ベースで、ダイハツ株価は1,481円、時価総額6,316億円、非支配株主持分相当で3,078億円分になりますが、再編後の旧ダイハツ株主のトヨタ持分は僅か1.7%にしかなりません。

そうですよね、トヨタは同じ1/26終値で時価総額20兆円超ですから。


2. 買収プレミアムの怪

上述の通り、トヨタ株とダイハツ株の交換比率は0.26です。

一方、日経報道前日の1/26終値ベースでの両社の株価の割合は0.223でした(トヨタ株6,629円、ダイハツ株1,481円)。つまり、今回の株式交換はダイハツ株に16.4%のプレミアムを乗せた形になります(0.26÷0.223)。

買収プレミアムとしてはあまり高い水準ではありませんが、元々支配権を有している子会社ですから、そこまで多額のプレミアムを払う必要もないでしょうし、株式交換というディールの特性からも、あまりプレミアムを乗せなくても目立たないのかも知れません。

ただ、謎なのは、その後の株価推移です。

1/27の日経朝刊のリーク記事では、トヨタが株式交換によりダイハツを完全子会社化、3000億円規模と報じられたわけですが、株式交換比率については記載がありませんでした。

ところが、その後の両社の株価推移と株価比率を見ると、こんな感じです。

1/27:6,881円/1,724円=0.251
1/28:6,883円/1,797円=0.261
1/29:7,200円/1,860円=0.258

株式交換比率0.26が公表されたのは1/29なのですが、その前から、何故かほぼ0.26に張り付いています。

投資家は色んな思惑でダイハツ株を買ったのでしょうけど、こんなにうまく比率が合うのは偶然でしょうか?ちょっと変な感じがしますねぇ。


3. トヨタの連結会計処理

トヨタは米国会計基準を採用していますが、既存子会社の持分の追加取得は資本取引として処理されます。

ダイハツは日本基準採用なので、トヨタ連結決算上の簿価とは一致しない可能性はありますが、ダイハツの株主資本は2015/12末で6,082億円なので、トヨタ連結BSにおける非支配持分は2,964億円(6,082億円×48.7%)です。(米国基準は非支配持分も含めた全部暖簾方式ですが、過去からの子会社についてはおそらく非支配持分に係る暖簾は認識していないと思われます(そのような経過措置もなし))

取得対価はトヨタ株式54百万株で、2/1時点の株価7,339円ベースだと3,966億円相当になので、実質1,000億円程度の暖簾を付けた買収ではありますが、資本取引なので暖簾は認識されません。

また、このトヨタ株式は新株発行ではなく自己株式の処分になります。2015/8以降、トヨタはかなりの自己株取得を進めており、正確には計算できませんが、ざっくり自己株式の取得単価は加重平均で5,500円くらいと思われます。すると、株式交換で処分する自己株式の簿価は2,972億円程度となります。

この前提だと、連結仕訳はこんな感じですかね。

(借)非支配持分 2,964億円
   資本剰余金   8億円
(貸)自己株式  2,972億円

まさに資本取引です。


4. 自己株式の取得とCF上の取扱い


上述の通りトヨタは2015/8から自己株取得を進めていますが、もう少し詳しく見てみます。

2015/8~2015/10にかけては、例のAA種類株式発行に伴う普通株の希薄化を抑える目的で、合計47.1百万株を3,482億円で取得しました。

また、その後、株主還元と機動的な資本政策を目的とし、2016/3末までに63百万株を取得する計画で、この内、2015/11~12でに26.1百万株を2,000億円で取得済みです。

ちなみに、トヨタの記者会見によると、この買収話を持ちかけたのは昨年(=2015年)秋とのことで、また、ダイハツの第三者委員会の第一回会合が開催されたのは2015年11月でした。

おそらく、トヨタの2015/11以降の自己株取得は、多分にダイハツとの株式交換を意識したものであると思われ、2015/11~2016/3に取得する自己株式でダイハツ株主に交付する株数を丁度賄う規模になります。もちろん、トヨタはこの自己株取得を行わなくても、株式交換をするのに十分な自己株式を元々保有してはいますが、equity financeによる買収と見られるのを避けたいとの思いもあるのでしょうかね。

そういう意味では、この自己株取得による支出はCF計算書上、財務活動によるCash outですが、実質的には、投資活動によるCash outに近い性質ですね。



5. 税務上の取扱い

さて、最後に税務上の取扱いです。

この株式交換は支配関係のあるグループ内の株式交換ですので、①株式対価、②支配関係継続見込み、③従業者引継ぎ見込み、④主要事業継続見込みを満たせば適格になります。

おそらくいずれも問題なさそうなので、適格株式交換でしょう。


ちなみに、1/27の日経リーク記事では、完全子会社化後、ダイハツ株の一部を外部に保有してもらう可能性もあるとの記載がありました(プレスリリースには記載なし)。しかし、グループ内株式交換の場合、「完全」支配関係の継続は適格要件にはありませんので、仮に一部売却を予定したとしても適格要件には抵触しないものと思われます。

また、この株式交換によりダイハツはトヨタの連結納税グループに加入することになります。

但し、適格株式交換による連結加入なので、ダイハツにおける時価評価課税はありません。また、トヨタの取得するダイハツ株式は、ダイハツの純資産簿価引継ぎになるものと思われます。

ちなみに平成28年度の税制改正で、適格株式交換で旧株主が50人以上の場合の純資産による投資簿価引継ぎの規定の改正が予定されています。これまでは株式交換直前の純資産とされていましたが、期中の純資産を把握する実務負担を考慮し、前期末純資産(±資本取引)に変更されるものです。

これは本件の株式交換を意識した改正なのか?とも思いましたが、いずれにせよ連結納税加入の為に株式交換の前日でみなし事業年度が区切られますので、どうやら関係なさそうです。(連結加入させないかも?とも思いましたが、トヨタ自身の保有株以外にはトヨタ株を割り当てる模様、且つ、株式交換被が8/1なので7月末に即連結加入、ということで、そういうわけでもなさそうです)

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ということで、今回はここまでです。