炊飯器の内蓋
カーテンを開け顔を洗う。歯磨きは今日こそはいつもの8割くらいの力で済ませると決めるが、今日もそうはいかず朝からもうそんながんばってどうするんというほど磨いてしまう。飲みすぎて瞼を腫らせた関白さんに弁当を渡し、これが最後になっても後悔のないように笑顔で送り出す。スケジュールを確認する。何もない。そうか仕事がないか。収入もない。そろそろ仕事を探さなきゃな。洗濯して簡単に掃除して、小さく『よっしゃ』と言う。何に対して、誰に対してのよっしゃなのか言ってる自分もわからない(笑)カーテンを洗うのは秋になって空気がカラッとなってからよ、と自分に言い聞かす。特にほしくもないインスタントコーヒーを淹れ、消費期限が今日のもらいもののお菓子を仕方なく口に放り込む。空を飛ぶカラスを仰ぎ見て膝の上の猫を自分の体の一部にしてネットフリックスでドラマでも?と思うけど見始めたら際限ないことと、自分が終わるんじゃないかと怖くなる感覚と、それで日が暮れたあの無力感とを思い出して、おもむろにずいぶん前に買ったジム用のウェアに着替え、日焼け止めを塗りたくり歩きに出かける。最低限の筋肉を維持したい。孤独が好きな私が、それでも時々ネット記事を読んで、世間とつながった気になる(気のせい)そしてスマホを置いて再度孤独になる。ずっと仕事をしていた時間に用事がないということはこういうことになるのだな。派遣に数社登録をした。オファーの電話が来る。そんなもうガッツリフルじゃ働けないよー。断る。また来る。そうしていたら失業保険が入って喜ぶ。藤井風を聴いて自然に頭や体が揺れる。一人でこんな揺らしてノリノリの人いるんかなーと怖くなる。そろそろ働こうかと思う。たぶん私、お金にそんな余裕がない(笑)あると思ってたけど、仕事辞めていろいろ整理してエンディングノート的なものを作ったら、現実が見えた。やばい。でも、急に歳をとってしまった桃子との時間を力いっぱい作りたいのも事実。彼女との時間はそんなに長くはないんだと、毎日一心同体的に生きているとわかる。わかってしまう。このもどかしい日々よ。桃子を含む時空ごと胸に抱えて飛んでいけたりしないか。大切な人やペットと出逢い、別れる。それが人生なんだなと、静かに暮らしているとわかる。わかってしまう。専業主婦というものは思っていたよりも過酷な職業だ。炊飯器の内蓋の裏が、そんな構造でそんな悲惨なことになってるなんてしらなかった。吐きそうだ。よし、今日は内蓋を掃除するよ(なんの報告)