こんにちは
奇恒(きこう)の腑は、形態は腑に似ていながら、生理機能が臓に似ている器官で、胆、脳、脈、骨、髄、女子胞の六つ。 胆はすでに取り扱いましたので、今回は残りの五つについてお届けします。
実は、女子胞以外、すでに五臓の関連領域として登場しています。 骨と髄は腎の体(腎が主る身体組織)、脈は心の体(心が主る身体組織)で、脳は髄の一部でもありますからね。 もっとも、脈についてはサラ~っと流してますし、もう一度まとめておきましょう。
それぞれの奇恒の腑の名称に並べて、関連の深い臓腑を表示しておきますね。
脳 … 腎・心・肝
脳は、頭蓋腔内にあり、脊髄とつながっていて、髄海あるいは頭髄とも呼ばれます。 腎の生理と病理にあるように、髄は腎精から化生される身体組織ですから、その髄が集まった骨髄・脊髄・脳の器官としての発生には、腎が深く関わっていることになります。
『黄帝内経』においては、「髄はみな脳に属す(素問 五臓生成篇)」とし、「脳は髄海(霊枢 海論篇)」であるとしています。 つまり、脳が髄海であり、他の骨髄や脊髄を従えるということですね。
また、「頭は精明の府(素問 脈要精微論篇)」であり、神の状態が現れることから、脳が生命活動と精神活動に関わっていることを間接的に述べています。 ここから、明代の李時珍は「脳は元神の府」であるとし、清代の汪昂は「人の記憶はみな脳中にある」として、神の機能が脳にあると考えられるようになりました。
神の機能って、現代の解剖生理学における中枢神経系の機能ですけど、心の主神志の機能じゃなかったっけ? ですよねぇ…。 心の生理と病理にあるとおり、主神志は、生命活動を維持し、精神活動を統率する機能ですから。
とはいえ、脳の存在も無視できない。 ということで、『新版 東洋医学概論』では、「脳は、生命活動を主宰し、精神活動および感覚や運動を主る。 これらは、心の神志を主るという機能に包括される。」としています。 なので、機能的には、脳は心と深い関係にあるということになります。
肝との関係は、情志です。 肝の生理と病理に書いたように、肝の疏泄は情志の調節をしています。 情志は、七情と五志ですから、精神活動全般を指しますね。 脳は精神活動を主るので、肝との関係も深いってことになります。
それを言ったら、情志は五臓に配当されてるんだから、肺や脾も関係するんじゃないの? はい、ごもっともなご指摘です。 でも、情志の失調は、真っ先に肝の疏泄に影響しますから、肺や脾に比べると、やっぱり肝ですよね。
脳の生理作用をまとめると、心の主神志とも重なりますが、↓下記のようになります。
・ 生命活動を主る
・ 精神活動を主る
・ 感覚と運動を主る
脳の機能失調では、それが発達に関わるものであれば腎の病証(腎精不足)ですが、それ以外の精神・感覚・運動などの障害では、心の病証と短絡的に結び付けずに、他臓との関係も考える必要があることは言うまでもありませんね。
脈 … 心
脈は血脈のことで、心の主る身体組織でもありますが、全身に分布し、臓腑と直接連絡する生理物質の運行通路として、奇恒の腑とされます。
脈の中を通るのは血ですが、血は営気・津液・精から成ります。 その生成と運行には、心の主血のみならず、脾胃の運化、肺の宣降、肝の疏泄、腎の蔵精などなど、五臓六腑がさまざまな形で関わっていることは、これまで見てきたとおりです。
ということは、脈中を流れる血の状態は、五臓六腑の状態を反映していることになりますね。 それが脈拍として現れる。 脈診によって、臓腑の機能失調と病態を推察できるのは、そのためです。
脈の生理作用は、↓以下のとおりとなります。
・ 気血を主として、生理物質を運行する。
・ 生理物質の運行によって、臓腑の機能や病態などの情報伝達に関与する。
骨と髄 … 腎
骨は、骨髄を貯蔵するので、髄の府とも呼ばれます。 全身の骨格であり、肢体を支える役割を担いますが、腎精から化生される髄で満たされ、その髄によって滋養されることで、強度を維持できます。 髄は、前述のとおり、脳や脊髄、骨髄となります。
骨と髄は、腎が主る身体組織であり、腎と密接な関係にあります。 生理作用として重要なのは、骨は髄の貯蔵、髄は脳や脊髄、骨の滋養です。 腎精不足によって髄の化生が減少すると、骨の滋養不足による発育不全や腰膝酸軟、易骨折など、脳の滋養不足による眩暈や耳鳴り、健忘などが起こります。
女子胞 … 肝・腎・心・脾
女子胞は、女性の生殖器官のことであり、胞宮(ほうきゅう)とも呼ばれます。 月経と妊娠・出産を主るため、肝と腎、衝脈・任脈・督脈と関係が深く、精と血の状態が影響します。
衝脈・任脈・督脈は、いずれも女子胞に起始する経脈で、奇経八脈に属します。 衝脈は十二経脈の血が集まるところで血海(けっかい)、任脈は陰経の経脈が集まるところで陰脈の海、督脈は陽経の集まるところで陽脈の海と呼ばれます。
(1) 月経を主る
女性の腎精が充実して、天癸(てんき)を化生できるようになると、天癸の作用によって月経が始まり、妊娠できるようになります。 天癸は、精の生理と病理にあるように、生殖機能を促進する物質であり、性ホルモンに相当します。
月経は、衝脈と任脈に流れる血が、徐々に女子胞に集まり、一定の周期で一定量が排泄される生理現象です。 衝脈と任脈の血は、十二経脈からあふれた血でもあり、肝の疏泄によって供給・調節・推動されますので、肝の蔵血にも一役買っていることになります。
血は、精血同源で、精からも化生しますから、天癸の化生と合わせて、月経への腎の関与は大きいものがあります。 そもそも月経は妊娠のためにあるもので、生殖を主るのは腎ですし、女子胞を温煦するのも腎陽ですからね。
月経は、血の状態が直接影響します。 血虚があれば、月経血が少なくなったり、薄くなったりします。 流れが悪くて、瘀血(おけつ)があれば、月経血は濃くなったり、塊が混じったりします。 こうした点から考えると、心の主血や脾の統血も無視できません。
したがって、腎精不足や肝の疏泄失調だけでなく、肝の蔵血失調、心の主血失調、脾の統血失調はもとより、脾の気血生化(運化)失調も、月経血の状態や月経周期に影響を及ぼします。 そう考えていくと、肺の宣降や主気も、決して無関係とは言えませんけどね。
月経について、「月経痛を東洋医学でみると」と「月経不順を東洋医学でみると その1 その2」を書いています。 読んでみたら、記事をコンパクトにするためか、細かな説明を省いているので、何だかわかりにく~い。 いずれ書き直したいと思います。
(2) 妊娠を主る
女子胞は、妊娠していない間は月経を主っていますが、妊娠した後は胎児の発育と保護に働きます。
胎児への栄養補給は、女子胞を通じて、衝脈と任脈によって行われます。 衝脈と任脈の状態は、肝の疏泄が調節していることは前述のとおり。 女子胞をあるべき場所にとどめるのは脾の昇清ですが、胎児を女子胞内に維持するのは腎の固摂です。
したがって、特に肝と腎の機能が失調すると、妊娠の維持と胎児の発育に影響して、流産や早産が起こりやすくなるので、要注意です。
妊娠中、母体は胎児へ精血を供給し続けますから、母体のほうに精血の不足が起こりやすくなります。 女性が妊娠で貧血になりやすいのは、このためですね。
また、胎児は、発育のために陽気が活発で、陽盛ですから、母体もその影響で陽に傾きやすい傾向にあります。 つまり、母体も生理的に陽盛気味なはずで、逆に陰盛で冷えが強い場合は、それが胎児の発育に影響しそうなことは、想像がつきますね。 だから、妊婦は冷やしちゃいけないんです。
出産は、正常な分娩であっても、母体にとっては大仕事であり、生理物質を少なからず消耗します。 なので、多産や堕胎、産後の養生不足は、母体の生理物質の不足を招きます。
番外付録: 精室
男性の生殖器官は、精室あるいは精宮と呼ばれ、精液の貯蔵と排出に関与します。 奇恒の腑には分類されませんが、衝脈・任脈・督脈と密接な関係にあることは、女子胞の場合と同様です。 精液を貯蔵するということは、男性の生殖の精を蔵すことであり、精室は腎に属すとされています。 精室は睾丸にあるので、睾丸は外腎とも呼ばれます。
一天一笑、今日も笑顔でいい一日にしましょう。
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