のらねこ、海を渡る インド編その1 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 2005年にインドのニューデリーで開催されたICPE2005(物理教育国際会議2005)、例によって右往左往しながらののらねこ行脚でありました。

 

 インドについては、とにかく、水に当たると大変という前評判を聞き、みんな戦々恐々。

 結局、日々入れ替わりのように次々に「当たり」が出て、一人ずつ倒れていきました。

 中でも、ぼくはかなり最初の方で「当たり」を引いてしまい、高熱を出して下痢をして、もうさんざんでした。スギさんが持参した抗生物質をもらって、なんとかなりましたが・・・

 

 一行の中で最後の最後まで平気だったのはHさん。すげえなあと、みんなで感心しきりだったのですが、シンガポールでの空港乗り換え待ちホテルで、トイレの手洗水をつい口にしてしまい、「大当たり」・・・Hさんもやはり当たるのだと妙な納得をしたのであります。

 

 海外旅行に不慣れなクセ、わりとツアコンなしに海外へ行ってしまうことのある、のらねこ一行なんですが、インドは現地のガイドさんをつけてもらいました。

 その人が冒頭のイラストのS氏。

 インドでは学歴がある教養人はなぜかベジタリアンが多いのですが、このS氏もベジタリアンでした。ターバンを巻いてなかったから、たぶんヒンズー教徒なんでしょう。

 

 インドは、主にヒンドゥー(ヒンズー)教徒、シーク教徒、イスラム教徒がいて、住んでいるところもある程度分かれているようです(自由時間にニューデリーの町を歩いた実感ですので、本当は違うかもしれません)

 

 S氏はなんどもぼくたちのことを「王様」と表現していました。日本人はお金を持っている王様。インドでは金持ちが貧乏人に施すことで徳を積むことができるといわれている(から、たくさん施せという意味でしょう)云々・・・

 

 町には救貧院のような施設があり、だいたい金持ちのシーク教徒が施しているという話でした。S氏はニューデリーのスラム街に通りかかると、バスのカーテンをさっと閉め、ぼくたちが窓外の景色を写真に撮れないようにしていました。

 

 理由は聞きませんでしたが、複雑な思いがあるのだろうと、聞くのはやめました。

 

 最初に泊まったホテルにはなんと日本人の女性従業員の人がいました。

 「最初の頃は、それはもう、なにからなにまで大変でした」とのお話。でも、だいたい慣れてきたとか。住めば都、なんでしょうか。

 

 

 これは、大会参加者に配られた書類入れのロゴ。アインシュタイン没後50周年の年でもあるので、それを記念してか、大会のロゴマークは特殊相対性理論の時空光円錐です。光円錐の内側がタイムライク、外側がスペースライクと呼ばれる領域です。(*1)

 

(*1)タイムライク領域ではある一点から別の一点への移動速度が光速より遅いので通常の因果関係が成り立ち、スペースライク領域では移動速度が光速を超えてしまうので、因果関係が成り立ちません。

 

 こちらが、その書類入れ。

 

 

 わりと適当な作りのバッグなのですが、そこそこ便利な大きさなので、仕事用の鞄として愛用しています。さすがにくたびれてきて、そろそろお別れの時が迫っていますが・・・

 

 

 さて、ガイドのS氏、空き時間にぼくたちをいろいろなところへ観光に連れて行ってくれました。

 上の図は、『いきいき物理わくわく実験3』のイラストです。

 工事中のムスリム寺院の一角に無造作に置かれていたレンガの前で、S氏がいきなりクイズを始めたんですね。クイズはイラストを見てください。

 

 「解けたら100ルピー上げます」てのは「万事金」というヒンズー教徒さんの価値観でしょうか。(あくまでもぼくの主観です)

 

 こちらの解答については、また別の実験記事として書きますので、それまでお考えくださいませ。ちなみに、このとき、おしいところまではいきましたが、正答はならず・・・

 

 S氏、にんまり、という一幕でした。

 

 さてさて、大会のお話です。

 

 初日に、参加者は一同、迎賓館みたいなところに招かれました。

 

 「なんだか、めんどくさいなあ」と、のらねこ一行は例によってウニャウニャいいながら、そこへ到着。

 

 いきなり、小銃をもった兵隊さんの出迎えを受けました。

 ボディチェックです。

 

 デジカメなどの電子機器は一時預かりといわれ、みんな泣く泣く兵隊に渡しました。

 ぼくとオクサンは携帯式の蚊避け装置(電池・モーターで扇風機のように蚊取り線香の煙を飛ばすタイプ)を腰にぶら下げていて、それが兵隊さんの目に止まってしまいました。

 

 「それはなんだ?」というので、「モスキートバスターだ」と答えたら、大笑い。場が和みました。

 蚊避け装置は、結局、取り上げられずに済みました。緊張の続くボディチェックで、列に並んでいた参加者もニヤニヤ。

 それにしても、この警戒態勢のすごさはただ事じゃないですね。

 

 「これはよほど重要な人物が来てるんじゃないか?」とノラネコの一人が見抜きましたが、その通りでした。

 

 大会参加者への歓迎の挨拶のため、壇上に上がったのは、なんと、インドの大統領でした。

 

 うっひゃあーっ!

 

 インドで国際会議が開かれるのって、そんなに珍しいのかな・・・

 

 そういえば、ハンガリーの研究会に参加したときは、ハンガリーの大臣が出てきました。

 「オレたち、そんなに重要人物だっけ・・・」ふだん、日の目をみない場所にいて、ゴミばかりあさっているのらねこたちは、大いに首をかしげるばかり・・・

 

 でも、この大統領も、じつはもと物理学者。インドで原爆の研究をした人だそうです。

 かのS氏は「インドが核兵器をもつことによって、パキスタンなどの侵略を防ぐことができている。核兵器をインドにもたらした功績は大きい。だから、大統領はそれをなしとげた人なんだ」といっていました。

 核兵器に敏感なのらねこ一行は、そのときは核兵器の危険性についてかなりS氏と議論しましたが、このときだけは、S氏は一歩も譲りません。

 国際会議に行くと、往々にしてこういう話もできるのがありがたいですね。 

 

 

 午前から午後にかけての正式な分科会は、テーマにそって並行して行われたので、ぼくたちのらねこ一行も参加先はバラバラ。

 もちろん、共通語は英語なので、発言も全部英語。

 でも、やはり「物理は共通語」・・・だいたい、内容がわかります。

 

 ぼくの参加した分科会では、タイの教授ジュンチャイさんの発表が特に印象に残っています。彼が持ってきた小物の実験装置が、まさにのらねこ的だったからです。

 

 彼はパワーポイントを駆使して、埋め込んだ動画や静止画を見せながら、ガウス分布が物理現象としてどんなところに登場するかを説明していました。(だれもが知っている話題もありましたが、意外なところにガウス分布が現れる例も紹介して、びっくりしました。いずれ、別記事に書く予定です)

 

 その動画の中に、見覚えのあるものが。「伊東家の食卓」でしたっけ、生活の中のいろんな知恵を読者投稿をもとに紹介するやつ。その1つで、Tシャツを最小限の手数できれいに折りたたむ動画が、登場していました。

 

 この番組、タイでも放送されたんだろうか・・・(今なら、ユーチューブなどの動画配信で、いろんな国で放映された番組の一シーンが手に入りますが、当時はまだそこまで進んでいなかったですよね)

 

 分科会の様子を写真に撮るというのはちょっと失礼かなと思って控えていたので、記録がありません。

 でも、びっくりしたのは、その会に出席していたインドの大学教授(たぶん)が、分科会中にかかってきた自分の携帯に、そのまま出て、大声で会話し始めたことです。その間、うるさくて、発表者も参加者も苦笑いをして休憩せざるをえませんでした。日本だったら、司会者が部屋から追い出すところです。

 

 大学教授がこんな簡単なマナーもわかっていないんじゃ、インドで国際会議をやるのは、不可能じゃないかな・・・

 

 その分科会に参加していた他国の参加者は、みんなこう思ったと思います。

 でも、インドにはカースト制度が依然として残っており、大学教授より身分の低い司会者が、その蛮行を止めることができません。

 

 この教授、じつはこの後も問題を起こしています。

 

 当時はのらねこから離れ、香川の大学にいたK氏(自分の研究室の面々とともに「レディースキャット」の名称で会に参加していた)は、この人と同じ部屋で、この人の後に発表する予定でした。

 ところが、このインド教授が、時間を守らず、予定の2倍以上の時間発表し続けたため、会の進行が大幅に遅れてしまったのです。

 K氏もさんざんな目に遭いましたが、もっと被害にあったのは、ぼくたちです。

 

 じつは、この日の夜、別の会場でSTRAY CATSの物理実験ショーが企画されていて、ぼくたちも早々に会場入りして準備していたのですが・・・

 

 いくら待っても、会場にだれもこない・・・

 

 やがて、分科会がすごく遅れていて、こちらへ向かうバスの出発が遅れているという連絡が入りました。

 

 会場に別ルートで来ていた参加者もいたのですが、その中で、なかなか始まらないので怒り出した参加者がいました。

 本大会が送れていて、こちらに向かうバスが遅れているので、それを待つしかありませんと答えました。ぼくたちが贈らせているわけじゃありませんから、こういうのがやっとです。

 他の参加者は「しょうがない」という表情で待ってくれるのですが、その人は「時間になったら始めるべきだ!」と怒るんですね。

 なんと、インドの参加者でした。

 

 ぼくは「自分の時間は守らない、人には時間を守らせようとする」インドの人の感覚に、呆れ果てました。

 

 口の悪いぼくは、のらねこのみんなに「インドは国際会議をするのには、百年早かったんじゃないか」とぼやいてしまいました。

 

 もちろん、その状況の中、国際会議の成立に向けて頑張った女性代表は、本当に大変だったと思います。

 当時の日本の物理教育で国際交流の中心にいたRさんも女性ですが、インドの大会責任者も女性。Rさんいわく「いろいろトラブルが続いているが、他の人が当てにならないので、彼女一人が奮闘している」とのことでした。

 

 いかんせん、旧態依然のインド男どもがバカすぎる。。。(いや、これはあくまでも、ぼくの個人的な見解です。たまたま出会った「偉くなった」インドの教授たちがバカすぎただけでしょう、たぶん。他で出会ったインドの男子はちゃんとしていましたから)

 

 

 

 会場の舞台の垂れ幕がこちら。

 「ポピュラーサイエンス講座」と書かれています。初日は「STRAY CATS」の科学デモンストレーション講座。

 

 かなり遅れて始まりましたが、内容には満足いただけて、喝采がなんどもありました。

 

 

 この写真は演示者がぼくなので、かわりにオクサンに撮ってもらったのですが、舞台がちょっと暗かったのでピンぼけしています。

 雑誌を2冊、交互に重ねた「摩擦ジョイント」で、人をぶら下げる実験です。(*2)

 ぼくの姿がないのは、この後ぶらさがるところだからです。

 

(*2)こちらは、本ブログ記事(関連記事にリンク有)や、より詳しい『さりと12のひみつ』の「まさつのひみつ」をご覧ください。

 

 この実験、最終的にはうまくいったんですが、途中で思わぬハプニングが。

 このまさつジョイントにぶら下がったとたんに、ぼくはドスンと、落下してしまいました。

 

 「えっ!」と思って見てみると、本に結びつけたロープがほどけていました。本体の頁はなんともなっていません。

 

 ロープを結びなおして実験再開したら、見事宙づり成功。

 ふだんは鉄棒のようにぶらさがることのできる構造物を使うのですが、この会場の舞台にはそれらしきものが無かったので、二人が棒を肩で支える方法にしました。これはうまく行きましたね。

 

 

 

 こちらは、たしか伊藤政夫さんの発表した渦巻きです。

 竜巻がきれいに見えますね。(*3)

 

(*3)これは『いきいき物理わくわく実験3』に記事があります。

 

 

 これは飯田さんが目立っていますが、しゃべっているのはぼく。光っていてよく見えませんが、「電球乗り」の実験です。(*4)

 電球が本物であることを示すため、光らせています。たしか、ぼくがいつも使っているコード付きの電球乗り実験装置を持っていったものだったと思います。

 

(*4)これは、『いきいき物理わくわく実験1』に記事がありますし、本ブログの記事にもあります。(関連記事にリンクを貼っておきます)

 

 長くなりそうなので、今回はこのくらいで。

 

 なお、のらねこ一行のインド紀行の番外編は、ずいぶん前に書いたことがありますので、そちらも関連記事のリンク先でご覧ください。

 

 

関連記事

 

ムスリムの教え(のらねこ海を渡るインド編〜番外編)

のらねこ、海を渡る インド編その1

のらねこ、海を渡る インド編その2

のらねこ、海を渡る インド編その3〜レンガパズル問答と天文台

 

のらねこ(STRAY CATS) 海を渡る/物理教育国際交流〜ミオくんと科探隊セレクション

 

まさつジョイント

摩擦とファインマン〜さりと12のひみつ第4話より

もしも摩擦がなくなったら?

 

電球乗り

卵乗り

 

 

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