火星人パニック!?〜チコちゃん、それはちがいます | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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火星人02

 

 今日のNHK「チコちゃん」で、火星人の話題があったと、小五の娘にせかされて、いっしょに録画を見ました。なぜ火星人はタコみたいな姿なのか、という話題でした。

 娘によると、そこで語られている話、ぼくから聞いた話と同じところと違うとことがあるとのこと。確かめてほしいといわれ、いっしょに観ました。

 冒頭のイラストは、バローズの「火星シリーズ」をイメージして描いた火星人。こちらは、ぜんぜんタコではありませんね。

 

 番組では、アメリカのラジオドラマでパニックが起きた逸話が紹介され、それがアメリカでタコ形火星人像が広まる原因となったとまとめていました。

 

 それはそれでよいのですが、途中、解説の人が、ドラマを聞いて火星人がせめてきたと思った人たちがパニックを起こした、というような話をされていました。それは、事実誤認なので、ちょっと書いておこうと思います。

 

 火星人や宇宙人の話は今までも何回か書いていましたが、いい機会なので、火星人のことをまとめておきましょう。

 

火星人01

 

 

 火星人の姿を克明に描写したイギリスのSF作家HGウェルズの『宇宙戦争』では、上の図のように描写されています。ぼくが小説の説明文から起こした絵です。

 つりあがった黒い目、おおきなくちばしのような口、文明の進歩で体が退化し、ほとんど脳だけで、胃や腸がなく、心臓や肺がつまった頭部。弱い重力で頭部を支える2対8組、16本の触手。

 

 いわれるほどタコには見えないなあ・・・というのが、ぼくの印象です。

 

 大きなくちばし、というのは、タコに詳しい人ならわかりますが、タコもくちばしに近い形態の口を持っているんですね。もちろん、絵のような場所にはありません。頭足類なので、足の付け根に口があります。

 

 ほとんど脳と心臓、肺だけで、胃や腸がないというのは、生物学的にはかなり問題がある設定です。脳が発達する代わりに、生物的に重要な器官が退化する、という発想で、ウェルズが構想した姿です。栄養分は機器によって直接血液に取り込むので、消化器官はいらなくなっている、というような設定なのでしょう。(そのへんの詳細は忘れました。気になる方は原作をお読みください)

 

 でも、16本の触手が2本ずつ8対になっている、というのは、いまや忘れられた設定でしょう。タコから連想する8本足が、一般の火星人像になってしまっています。

 

 そもそも、火星人という発想が生まれたのは、有名な誤訳のためなのですが、その話もいまや知られなくなっているのかなあ・・・

 

 

 イタリアのスキアパレリが描いた火星表面のスケッチ図が上手右。その場所を別の天文学者がスケッチした図が上図左です。

 

 どうでしょう・・・

 スキアパレリは、水路らしい溝を記録していますが、他の観測者のスケッチに、その溝はありません。

 

 さらに、スキアパレリは、この溝を「水路」カナーリと記述したのですが、それが翻訳されたとき、音の似たカナル(英語読みではキャナル)、つまり「運河」と訳されてしまいました。この誤訳により、火星には運河を建設できる知的生命体つまり火星人がいる、という誤解につながっていきます。

 

 さらに、これに拍車をかけたのが、アメリカのパーシバル・ローウェル。資産家で、趣味で天文学をやっていたローウェルは、火星表面の克明(?)なスケッチを残しています。

 

 

 いやいやいや・・・

 

 このスケッチを見ると、ローウェルが天文学者ではないことがよくわかります。そんざいしない運河を描きこみ、それぞれに名前までつけています。「見たい物を記録する」というのは、科学者の態度ではありません。

 

 これらの騒ぎに目をつけたのが、イギリスの作家、HGウェルズ。SF作家ということになっていますが、ウェルズはSF小説以外に、人類の歴史を体系的に描いた「世界文化史大系」という大著もあります。広い視野でさまざまな情報を分析できる人です。ちなみに、六画マスのシミュレーションウォーゲームの発案者でもあります。もっとも、本人はゲームのために考えたわけではないようですが。

 

 なお、ウェルズと言えば「タイムマシンの生みの親」。ドラえもんなど、ありとあらゆるタイムパラドックス物語のルーツでもあります。

 

 この小説が一般に有名になったのは、アメリカでのパニック騒ぎがきっかけ、というのは、「チコちゃん」で紹介された通りです。

 

 これを仕掛けたのは、『第三の男』『市民ケーン』などで有名な、役者兼映画監督のオーソン・ウェルズ(奇しくも、HGウェルズと同じ名字です)です。

 アメリカのラジオ番組で、舞台をイギリスからアメリカに移し、ドキュメンタリータッチの「宇宙戦争」を放送したところ、全米を巻き込むパニック騒動が起きたのです。ウェルズのことですから、びっくりするような設定のドラマをつくって話題を作ろうと考えたに違いありません。しかし、実際にパニック騒動が大事になってきたため、ラジオ番組の途中で何度も「ラジオドラマをお送りしています」とのアナウンスを繰り返しています。

 そういえば、「チコちゃん」では、ラジオドラマをしかけたのが、オーソン・ウェルズだということも触れていなかったですね・・・残念。

 

 こちらが、それを記録した、珍しい本。

 

 

 

 パニックからけっこう時間が経った後ですが、たくさんの人にアンケートやインタビューを行い、それを心理学的な側面も含めてまとめた本です。

 

 NHK「チコちゃん」で解説の先生が、火星人がやってきたというのを信じてパニックが起きた、という話をされていましたが、これは違います。

 

 この本のリサーチによれば、パニックを起こした人のほとんどは、ラジオドラマを途中から聴いた人たちで、毒ガスが広がっているという描写を聴いて、当時緊張状態にあったヒトラー・ドイツが攻めてきた、と勘違いしてパニックを起こしたのです。

 

 さらに、勘違いした人たちの多くはラジオドラマを最後まで聞かず、番組の途中でクルマで移動し始めたのです。

 

 HGウェルズの『宇宙船戦争』のエンディングは、劇的。

 科学力で圧倒する火星人に対して無力な地球人側は、なすすべもなく・・・という展開ですが、まさに科学的な決着がつきます。

 ネタバレになるので、ここには書きませんが、『宇宙戦争』は今でも文庫版で手に入ると思いますので、ぜひご覧ください。

 まさに、これしかない、という結末の付け方です。

 

 また、UFO騒ぎとの関連で有名になった「宇宙人による誘拐」騒ぎは、『宇宙戦争』ではなく、アダムスキーの書いた本がきっかけになっています。

 

 アダムスキーの場合は誘拐ではなく、招待っぽい話になっています。アダムスキーのUFO本は、美しい「金星人」の社会を記述することで、アダムスキーなりの理想的な社会像を描く意図があったといわれています。

 

 男女ともに美しい宇宙人像は、アダムスキーから始まったものといえるでしょう。

 

 フライング・ソーサー、つまり空飛ぶ円盤騒ぎは、最初、アメリカ独自のローカル都市伝説として広まりました。

 それがじょじょに世界的な流行となっていったのです。

 そもそもUFOは「未確認飛行物体」を意味する専門用語で、べつに「宇宙人の乗り物」を示す言葉ではありません。このことは、もう一般にも知れ渡っているのではないでしょうか。

 

 アメリカではUFOの目撃談がいっぱいあるのに、政府が公表しないのは、何かの理由で隠蔽しているのではないかという「陰謀論」が広まりました。

 

 アメリカ空軍による「UFO映像の公開」と一連のUFO騒ぎがどう関連するのか、ぼく自身は非常に興味深く思っているのですが、あの映像公開は日経サイエンスに特集が組まれた以外、あまり表だった変化がないように思えます。

 

 陰謀論が大好きなアメリカのUFO信仰グループが、どんな動きを見せているのか、非常に興味があるのですが・・・

 

 なお、これとは別に、ずいぶん前に日本版「サイエンス」だけに掲載された、レーダーだけに映った謎の飛行体の記録は、科学雑誌に載ったということですごく話題になりました。これについては、別に記事を書いたことがありますので、そちらをご覧ください。

 

 さて、現実的な火星人存在の可能性については、探査機がデータを積み重ねてきた今日では、かぎりなくゼロに近いといえます。環境が地球とはかなり違うからです。

 

 でも、金星がとんでもない大気圧と気温になっていることを考えると、太陽系の惑星の中では、地球にもっとも近い環境といえるのが火星です。なんとか地球人が移住できるとするなら、火星は他の惑星よりは適しているといえるでしょう。(木星の衛星など、もっと適した環境の星がある可能性はありますが・・・)

 

 では、今回はこのへんで。

 

 

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