光電効果で箔検電器が閉じるのは重力?〜遊のミニサークル2020.9.19その2 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 【かがくのひろば遊】で、電磁気実験の検討会をしたのは、前回述べた通りですが、そのとき、林ヒロさんから、不思議な話を聞きました。

 

 光電効果の箔検電器を使った実験で、箔が閉じるのに、重力の補助がある、という噂話です。

 

 ???・・・ぼくもスギさんも、目がテンになりました。

 

 その話をする前に、光電効果実験について書いておきます。より詳しくお知りになりたい方はは、物理ネコ教室271と272をご覧ください。

 

 箔検電器と呼ばれる、電荷が溜まるとビンの中の箔が開く装置があります。

 この箔はビンの外に出ている金属のお皿とつながっています。

 このお皿に、よく磨いた亜鉛版を乗せて負に帯電させ、それに短波長の紫外線を当てると、亜鉛版から電子が飛びだしてくるという実験です。

 

 この実験はドイツのフィリップ・レナルトが行い、アルバート・アインシュタインが1905年の論文でその原因が光の粒子性であることを明らかにしました。(アインシュタインは特殊相対性理論ではなく、この論文でノーベル賞を受賞しています)

 

 

 この実験自体は、高校でもカンタンに行えます。電子が亜鉛板から飛び出すためには、仕事関数と呼ばれる最小限のエネルギーが必要です。紫外線の光子のエネルギーはこの仕事関数より大きいので、紫外線を当てたとたんに電子が飛び出して来ます。電子が抜けるのにしたがって、箔が閉じていきます。(この飛び出して来た電子を便宜上【光電子】と呼びますが、光電子という特別な電子が存在するわけではありません)

 

 ところで、この光電効果の実験、真空中で行うと、亜鉛板を負に帯電させておかなくても電子が飛びだしてくるのですが、空気中で行うと、最初に書いたように亜鉛板をあらかじめ負に帯電させておかないと、電子が飛び出して来ません。

 

 それは、飛びだした負電荷の電子が空気中の分子を負に帯電させ、亜鉛板のすぐそばに負の雲のようなものを作るからです。電子はその負の雲にじゃまされて、亜鉛板から飛び出せなくなります。

 

 負の雲の電気力に対抗するため、亜鉛板をあらかじめ負に帯電させておけば、電子同士の反発力が増しますし、負の雲が亜鉛板から少し遠ざかることで電子の飛び出しをじゃましにくくなります。

 おそらく、後半の効果の方が重要ではないでしょうか。

 亜鉛板を負に帯電させなくても、亜鉛板の近くに正の帯電体を近づければ、やはり電子が飛び出してきます。正の帯電体が負の雲を引き寄せ、中和してしまうからです。

 また、帯電体の正電荷が負の電子を引き寄せてくれるので、より飛び出しやすくなるのでしょう。

 

 さて、最初の【不思議な話】に戻りますが、ぼくたちが林ヒロさんから聞いた話は次のような話題でした。

 

 手作りの静電メーター(静電気の正負やその帯電量を量る装置)を箔検電器のかわりにして、その上に亜鉛板を乗せ、やはり負に帯電させておいて短波長の紫外線を当てた実験をした人たちによると、この場合は電子が飛びだしてこなかった、というのです。

 

 箔検電器と同じように帯電させたのに、静電メーターで実験すると光電効果が起こらない。

 

 この実験結果自体は、実験した人たちの顔ぶれを見れば、大いに信頼できるものでしょう。

 

 実験を行った人たちは、箔検電器での実験では、電子が飛び出すのに、箔検電器独自の要因があるのでは、という推論に至ったそうです。

 

 そこで、箔検電器の箔が重力で閉じようとしていることが、そのプラスアルファの要因ではないかと考えた、とのこと。

 

 この重力影響説は、以前もどこかで箔検電器の光電効果について、ささやかれたことがあるそうです。

 

 ・・・ん?

 

 重力で箔が閉じることで、電子が箔から皿へ向かって押しだされた?

 

 スギさん「それじゃまるで、マヨネーズだ! ・・・ある意味、重力が電気力に変換していて、大統一理論みたいでオモシロイけど」(この表現は、いたくツボにはまりました。ただし、このマヨネーズ、ボトルの底を押すと、口元からマヨネーズじゃなく、電荷が飛び出して来ますが・・・)

 ぼく「いや、それはないでしょ? じゃあ、重力より強い力で・・・例えば、開いている箔をむりやり絶縁体の箸かなんかではさんでぎゅっと閉じれば、そこに帯電していた電荷が、お皿の方に上っていくわけ?」

 ヒロ「まさか! だから、二人に聞いてもらいたかったわけ! ぼくはどうしてもこの不思議な話が納得できなかったから」

 

 ぼくは、そもそも実験に使ったという静電メーターの内部構造を知らなかったので、ヒロさんが用意したプリントを読みながら、レクチャーをうけました。

 

 まあいろいろと難しい電子部品が使われているのですが、内部に大きな容量のコンデンサーが使われていることは理解しました。

 

 ヒロさんの考えは以下に紹介する内容ですが、ぼくなりに(ぼく自身がわかるように)アレンジしてあります。

 

 自分なりのまとめなので、ヒロさんやスギさんの理解とはちがうところがあると思います。

 

 ヒロさん、スギさん、ご意見等ありましたら、教えてください。

 

 では、まず、箔検電器の場合。

 帯電している各部の電荷と、電気力線を模式的に描いてあります。

 

 

 ヒロさんのまとめたプリントには、亜鉛板と皿が導体として一体化しているので、コンデンサーを形成しないと描かれていましたが、金属一つが帯電しているときも、理論上は無限遠との間でコンデンサーが作られているので、そのようにしてあります。

 

 箔と地面の間にもコンデンサーが形成されていますが、これも2枚板の平行辺板コンデンサーと考えるよりは、はくと地面の間の距離がかなり大きいので、箔単体のコンデンサーと考えた方がよさそうです。

 

 箔検電器をコンデンサーとして理解する方法は、特に難しいケースを扱うときに有効です。

 この考えを使って、もう少し詳しく、調べていきましょう。

 

 亜鉛板のコンデンサーC1と箔のコンデンサーC2は、どちらも似たようなオーダーの小さなコンデンサーですが、表面積が亜鉛板の方が大きいので、C1の方がC2より大きいでしょう。

 

 亜鉛板を負に帯電させると、連動して箔も負に帯電するのですが、コンデンサーの容量がC1の方が大きいので、電荷の多くは亜鉛板にたまります。

 

 次に、静電メーターの場合。

 

 

 静電メーターでは大容量のコンデンサーを使っているので、C2が箔検電器の場合とは比べものにならないくらい大きくなります。もちろん、C2はC1に比べてもとんでもなく大きな値になっています。

 

 そのため、ほとんどの電荷はC2の方に行ってしまい、C1にはごく少量の負電荷がある(というより、ほとんどない)状態になるでしょう。

 

 これだと、亜鉛板を負に帯電させた状態の実験にはならず、むしろ、亜鉛板を帯電させていないときの実験に近いはずです。

 

 というわけで、この場合、帯電させていない亜鉛板に空気中で紫外線を当てた場合の光電効果実験になるため、飛びだした電子がすぐに空気を負に帯電させて負の雲を作り、電子が飛び出さなくなります。

 

 つまり、静電メーターの場合に亜鉛板を負に帯電させても光電子が飛びだしてこない理由は、負に帯電させたつもりだったが、亜鉛板がほとんど負に帯電していなかったから・・・

 

 ぼくは、こんな理解をしました。

 

 なお、この装置はどちらも亜鉛板のコンデンサーC1と箔のコンデンサーC2の並列接続の合成コンデンサーと考えることができます。これでコンデンサーの電位差を考えても、以下の様な理屈で、やはり静電メーターの場合、亜鉛板の電荷が非常に少なくなることがわかります。

 

 静電メーターではC2の電気容量がすごく大きいので、C1とC2の並列合成容量もすごく大きくなります。それに対し、箔検電器の並列合成容量は非常に小さい。

 

 コンデンサーの式Q=CV(Qは電気量、Cは電気容量、Vは極板間の電位差)から、明らかなように、同じ電気量を与えた場合、合成容量の非常に小さい箔検電器では電位差Vが非常に大きくなり、何千ボルトにもなりますが、合成容量の非常に大きい静電メーターでは電位差Vが非常に小さくなります。

 この小さな電位差では、亜鉛板のコンデンサーC1にたまる電気量は微々たるものになります。

 

 いかがでしょうか。

 

 他の電磁気実験に関する検討会は、まだ途中で、ここに書けることはあまりありません。

 

 使いやすい手作り磁針(磁石でつくるもの)の改良をぼくが、タピオカ用のストローを芯にしたコイルをヒロさんが、次回までに用意できるようがんばる・・・ということで、終わりました。

 

 では、また。

 

【PS】コンデンサーの合成容量と電位差についての議論を追加しました。

 

 

<遊のミニサークル>

 

 

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