科学と魔法 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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マンガ・イラスト&科学の世界へようこそ。

 

 「博覧強記」という言葉が似合うのは、やはりアイザック・アシモフ大先生。

 

 彼はSF小説(ロボット三原則で有名なロボット小説)で高名ですが、実際に彼が書いた本の大多数は科学エッセイ。これがまた、ユーモアとウイット、そして独創性に富んだエッセイです。

 

 アシモフはたいてい、物化生地の話題を基本にエッセイを書くことが多いのですが、ときどき、その博覧強記ぶりを別の方面に向けることがあります。

 

 魔法の世界や、疑似科学の世界です。

 

 ハヤカワ文庫の『アシモフの科学エッセイ10』の「邪悪な魔女は死に絶えた」には、魔法世界の基本的な知識が、その博覧強記で記しています。

 

 ぼくも、科学と魔法の接点には昔から興味があったので、今日はちょっと、そんな世界を。

 

 アメブロスタッフからのわけのわかんない警告文も、方針が変わったのか、最近は届いていないので、気兼ねなく自由に書けそうです(*1)。

 

 冒頭のイラストは以前作った科学者タロットのナンバー1「マジシャン(魔術師)」。マジシャンの図に、物理学の開祖ニュートンを配しました。

 

 なぜ、ニュートンなんだろう、と思われた方もいると思います。ニュートンの死後、かなりたってから、ニュートンの遺品から「錬金術」に関わる膨大な実験結果が見つかったのです。ニュートンの、ときとして理不尽なくらい激しい言動は、それ以来、水銀中毒症状だったのではないかと推測されています。

 

 われらがアシモフ大先生はさすがです。

 

 英語の魔術関係の言葉の語源から、考察を始めていますね。このへんは、ぼくたちにはちょっと手の出せない世界です。

 

 簡単にまとめると、こんな感じ。

 

 われわれの世界(キリスト教的世界)【G】:彼らの世界(異教徒的世界)【D】

 どちらともいえないもの【M】

 

 ・・・と、便宜的にわけておきます。

 

 GとDは、ぼくが簡易的につけた記号です。もちろん、GOD(神)とDEVIL(悪魔)の略です。キリスト教徒にとっては、自分たちの信奉するものは「神側」の存在で、異教徒の信奉するものは「悪魔側」の存在ですから。2つの世界の中間的な概念であるMは、「ミドル」でも「マン」でも、すきなように解釈してください。

 

 アシモフによれば、以下の言葉はアングロサクソン語では、「=」の後の意味になるそうです。

 

魔法使い

 【G】WIZARD(ウィザード)=賢人:【D】WARLOCK(ウォーロック)=詐欺師

 【M】SORCERER(ソーサラー)=籤(クジ)を扱うもの

魔女

 【G】PRIESTESS(プリーステス)=聖女(女司祭):【D】WITCH(ウィッチ)=魔女=犠牲(WICCA)の儀式を行うもの

 

 当然と言えば当然ですが、異教徒側の存在は、全部、悪いやつ(悪魔的概念)にされていますね。

 

 なお、魔術を表すMAGIC(マジック)は、古代ペルシャのゾロアスター教で神官を意味する言葉マグに由来するそうです。つまり、本来は聖職者の業を指し示す言葉だったようです。

 

 

 

 

 錬金術は、現代の化学を生み出した「魔法」です。

 

 賢者の石により、黄金を作り出すという「魔法」を求めて、錬金術師が様々な化学実験をくり返し、その積み重ねが、現代の化学実験の基礎となりました。

 

 魔法と科学は、その発想、考え方においては、まったく相容れませんが、こと実験に関する限り、かなり共通点があるのです。

 

 ちょっと話が外れますが、アシモフは、さらにこのエッセイで、なぜ魔女のイメージがあのイラスト(老女の姿)になるのか、という謎解きもしています。

 

 魔女のイメージ図は、歯の抜けた老女のそれである、と。

 

 19世紀まで、人間の平均寿命は25〜30才。

 

 特に、女性は出産による感染症のため、男性以上に寿命が短かった。

 

 長生きした老女はどの村でも、薬草などの知識を生業としたのだけれど、歯が抜け、しわしわの顔は畏怖を呼んだ、と。だから、ヘンゼルとグレーテルなどに登場する魔女は、その姿をしている、と。

 

 男性の老人がそういう畏怖の対象にならなかったのは、たぶんにヒゲのおかげだろうという話。ヒゲが老人の歯抜け+しわを隠すので、ビジュアル的に老女とは違う印象になっただろう、との慧眼。

 

 さすが、アシモフ大先生。

 

 長生きする老女が薬草の知識を誇大的に示すことで村社会での場を得る一方で、畏怖される対象になっていったというんですね。

 

 もっというと、19世紀まで(科学界でも)あった女性差別も、この背景にあったと思われます。(もちろん、20世紀以降も残っていますが・・・)魔女狩りの犠牲者は、圧倒的に老女が多いのですから。

 

 魔女として告発されて生還したケプラーの母親もまた、薬草で生計を立てていた「村の薬剤師」でした。これは「魔女狩り」の歴史の中でも希有な出来事であったといわれています。

 

 ケプラーの母親は、傍若無人な人で、村人とトラブルが絶えなかったそうです。それで、魔女として密告されたらしいのですが、たいていは拷問にあうと「魔女だ」と自白し、すぐ処刑されてしまうのですが、ケプラーの母親は自白せず、拷問に耐えたらしいのですね。さらに、ケプラーが面と裏から母親救出のために尽力し、牢獄から救い出しています。

 

 セリグマンの有名な本『魔法』によれば、錬金術の始祖ともいわれる伝説の人ヘルメス・トリスメギストスは、ギリシャの神話の冥界の神ハデスへの道を案内する神ヘルメスと、当時ギリシャに支配されたエジプトの神トートを複合させた存在。

 トートは、エジプトでは、呪術と筆写と話し言を発明した神という位置付けです。冥府の書記官で、オシリスの判定記録を書き留める役割です。

 

 

 

 ギリシャ時代の有名なプラトン(哲学者で、ソクラテスの師)、ガレノス(医学の祖であります)らが、「ヘルメス・トリスメギストスは実在する」といったため、かなり早い時期に伝説の存在が実在の人物として定着したらしい。

 

 セリグマンの本には書かれてませんが、中世は、現代風に言えば「かっこいい」ためにエジプト文化がヨーロッパで流行し、ギリシャ・ローマ神話の神とエジプト土着の神が融合しています。

 

 おそらく、それが中世ヨーロッパの錬金術師たちの精神的な支柱となったのでしょうね。

 

 錬金術や魔法の詳細は、多数の本が存在するにもかかわらず、曖昧です。それは、見つかった法則を共有する「科学」とは、そもそもの方法論が違うからでしょうね。

 

 錬金術で象徴的なウロボロスのヘビ(シッポを加えるヘビ)は、もともとギリシャ神話がもとですが、3世紀の錬金術の書物に記載されているようです。10世紀くらいに書写された自称「クレオパトラ」という名の女性錬金術師の著作には、明らかにウロボロスのヘビとわかる図が書かれています。

 

 なお、アシモフのエッセイ「邪悪な魔女は死に絶えた」のタイトルの落ちは、このエッセイの最後に記されています。(*2)

 

 現代の歯科技術の向上で、歯の抜けた老女の顔は消滅し、それとともに、象徴的だった魔女のビジュアルが消え去ったというお話。

 

 アシモフ大先生の文章は、最後まで隙がありません。こういうウィットを見習いたいものですね。

 

 

(*1)スマホに少し前まで「公式ジャンルにあった記事を書いてください。公式ジャンルから外れる記事が5回連続した場合、公式ジャンルから外します」(内容はこんな感じですが、文章はこの通りではありません。記憶にしたがって書いていますので)という警告文が送られるようになりました。どうやって記事の内容が「公式ジャンルにあっているかどうか」判定しているのか、その判定をしているのは誰なのかなど、本質的な疑問は多々ありましたが、こちらはアメブロの「軒下」を借りている身なので、それなりに対応してきました。ぼくのブログを勝手に「ヨーロッパからよろしく」に分類しておいて、よくいうなあ、というのが本音ですが(笑)・・・

 

(*2)初出の文章に、主にアシモフエッセイのネタを、いくつか追加しました。このテーマは面白いのですが、意外にもあまりちゃんと書いたことがなかったことに気がつきました。科学者タロット関係の記事を書くときに少しずつ書いたので、自分の中ではかなり書いたという錯覚をしていました。いずれ、このテーマの記事も増やしていくつもりです。

 

 

参考文献:

 

『アシモフの科学エッセイ10存在しなかった惑星』アイザック・アシモフ著、山高昭訳(早川書房)

『魔法ーその歴史と正体ー』K・セリグマン著、平田寛訳(平凡社)

『魔女狩り』森島恒雄著(岩波新書)

 

 

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