なぜ最初の相対性理論タイトルが「電気力学」なのか? | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 6月30日は、アインシュタインが相対性理論(特殊相対性理論)最初の論文「動いている物体の電気力学について」を学会誌に発表した日。それで「アインシュタイン記念日」となっているそうな・・・(この記念日、いったい、誰が決めるんだろう???)

 

 アインシュタインの日なら、彼の没年日である4月18日(1955年)の方がふさわしいと思うのですが・・・

 

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 まあ、それはともかく、上のかわいいスタンプがほしくて、記事を書くことにしました。少し、日付がずれこんでいますが・・・

 

 さて、有名な相対性理論の最初の論文のテーマが、なぜ「特殊相対性理論」でなく、「動いている物体の電気力学」となっているか、おわかりでしょうか?

 

 それは、相対性理論が、もともと、電気と磁気の謎を解明するために生まれた理論だからです。

 

 そもそも、フレミングの力(電流が磁場から受ける力)や、ローレンツ力(動く電荷が磁場から受ける力)がなぜ生じるか、その原因は、アインシュタインの相対性理論によらないと理解できないのです。

 

 相対性理論を習わない高校物理のレベル(それは、アインシュタイン以前の物理学に相当します)では、これらの力は「そういうものだ」として覚えるしかありません。

 

 アインシュタインの論文「動いている物体の電気力学」の序文を読むと、アインシュタインの問題意識がはっきりと書かれています。すごくオモシロイので、要約(抄訳です、あしからず)しておきます。原典は岩波文庫『相対性理論』内山龍雄訳・解説によりますが、細かい言い回しや用語も、読みやすいように変更してあります。興味をお持ちの方は、ぜひ、この本をお読みください。

 

 ***   ***   ***

 

 動いている物体の関与する電磁現象をマクスウェルの電気力学を用いて説明する場合、現象が本質的に同じものだと考えられるにもかかわらず、電気力学的説明には大きな違いが生じる場合がある。

 磁石と導体のうちの一方が静止しており他が動いている場合と、これら両者の状態を逆にした場合とでは、電流発生に関する説明はまったく異なったものとなる。

 磁石が動き、導体が静止している場合、磁石の周囲にあるエネルギーをもった電場が発生し、導体内の各点においてこの電場が電流を生み出す。これと逆に、磁石が静止し、導体が動いているときは、磁石の周囲には電場は発生しないが、導体の内部には電流を引き起こす起電力が生まれる。

 この2つの例で、導体と磁石の相対運動が同じであると仮定すると、初めの例で二次的に発生した電場の生み出す電流と、第二の例で起電力が生み出す電流とは、その量も向きもまったく同じである。

 

***   ***   ***

 

 この後、序文では、光を伝える媒質エーテルを検出しようとする実験がことごとく失敗に終わったことを指摘し、力学や電気力学において、絶対静止という概念に対応する現象はまったく存在しないという推論を記述しています。

 

 つまり、相対性理論は、そもそもの出発点において、力学的な疑問から生じたのではなく、電磁気現象の謎が出発点になっており、それが最終的に、時空が観測者によって異なり、絶対的に静止した世界を考えることはできないという「相対性理論」として結実したのです。

 

 とはいえ、この序文だけでは抽象的すぎるので、ぼくの体験談をちょっとだけ紹介しておきます。

 

 ぼくが特殊相対性理論の本質に気がついたのは、教員になってからのことでした。

 

 まだ経験の浅い頃、ある生徒の素朴な質問を受けたとき、古典的な電磁気学の本質的な問題点に気がつきました。

 

 その生徒は、こういったのです。

 

生徒「先生、先日の授業で、同じ向きの電流は引っ張り合うという話がありましたよね」

ぼく「うん、授業中に見せた実験の通りだよ」(実際に、2本の導線に電流を流して、それらが引き合う様子をビデオカメラで拡大して見せました)

生徒「で、思ったんですけど・・・(おもむろに胸ポケットに突っ込んでいたペンを2本取り出して)このペン2本が、どちらもプラスに帯電していたとしますよね」

ぼく「うん、それで?」

生徒「当然、このペン同士は、正電荷同士だから、斥けあいます」

ぼく「ああ」

生徒「この2本を前向きに飛ばしたと思ってください。正電荷を帯びたペンが動くんだから、これは電流とみなしていいですよね?」

ぼく「まあ、そうだね」

生徒「先日の授業では、電流同士が及ぼし合う力は、引力になるって話でした。ということは、この2本のペンは引っ張り合うことになります。でも、ペンといっしょに動く人から見たら、2本のペンは止まっているんだから、正電荷同士で退けあいますよね。見る人によって、引っ張り合うか押しあうか、結果が異なるって、ヘンじゃないですか?」

 

 どうでしょう?

 

 こういうことに気づくのって、すごくないですか?

 

 ぼくはこのとき、特殊相対性理論の話をして、運動する人から見た電場磁場が静止した人から見た電場磁場と異なることを話し、結局、どちらから見てもペン同士に働く力が引力になることを説明しました・・・

 

 が・・・

 

 説明しながら・・・「そもそも、ローレンツ力ってなんだ?」という疑問に首をかしげたのです。学生時代は(本当に恥ずかしながら)考えたこともないことでした。

 

 『バークレー物理学』というバークレー大学の物理学教科書があります。ぼくも学生時代に買って持っていましたが、きちんと読んだことがありませんでした。(まあ、ぼくは当時の日本の標準的な大学生でしたから、そういう不勉強な学生だったんですよね。お恥ずかしい話です)

 

 その「電磁気」の教科書に、ぼくの求める答が、学生向けの形で書いてありました。ぼくが生徒に話した話より、よっぽどわかりやすく、しかも、相対性理論をきちんと使った答でした。

 

 ぼくはそのエッセンスを高校生向けに書き直したメモを作り、この件の後、似たような質問を持ってくる生徒があると、それを説明するようになりました。

 

 アインシュタインの特殊相対性理論は、ニュートン力学を根本から覆す新しい力学として登場したように思われていますが、そもそもの起点は、最初の論文のタイトルにあるように、電磁気学の謎を解くための理論だったのです。

 

 電磁誘導はなぜ起こるのか、ローレンツ力はなぜ生じるのか・・・

 

 それに答える理論が、相対性理論なのです。

 

 相対性理論をちゃんとつかって説明をするなら、最初の2本ペンの問題では、そもそも電流とペン2本の進行を同一視すること自体が間違っています。

 

 電流同士が引き合う理由は、高校物理(つまり、相対性理論以前の古典物理学)では次のように説明されます。

 

(1)1本目の電流のまわりを取り巻くように、渦状の磁場が「右ねじの法則」に基づいて生じる。

(2)2本目の電流は、1本目の電流が作る磁場から「フレミングの左手法則」に基づいて力を受ける。

 

 この2段階です。

 

 でも、これは、特殊相対性理論を使えば、磁場抜きで答を考えられるんですね。

 

 今日はさわりだけにしておきますが、動いている人から見た世界は相対性理論では、運動方向に縮みます(ローレンツ短縮)。

 

 地面から見て止まっている導線内の金属イオンと、動いている自由電子を、動いている電荷から見ると、相対速度がかわります。そのため、金属イオンのローレンツ短縮と自由電子のローレンツ短縮に差ができ、プラスとマイナスの電荷分布に差ができます。動く電荷からみると、本来中性で電場を作ることがなかった導線が、電荷の密度分布の差による電場をつくるんですね。

 

 この相対性理論による空間の歪みに起因する「電場」から、動く電荷が受ける力が、ちょうど古典理論のローレンツ力(qvB)に当たることが、相対性理論のローレンツ短縮の式から示せます。(要望があれば、この場所でまた紹介しますが、お急ぎの方は『バークレー物理学コース2電磁気』下巻をご覧ください)

 

 電流の周りの磁場が、じつは相対論的なローレンツ圧縮による効果と考えることができること、その相対論的な効果の結果に密度分布の差で生まれた電場からうける力がローレンツ力qvBになることが、わかりやすく解説してあります。(少し、説明が長いですが笑)

 

 高校生向けに書いたメモもありますので、要望があれば、別の機会に記したいと思います。

 

 では、今日はこのへんで・・・

 

 

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