物理ネコ教室249電磁誘導 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 電磁誘導といえば、イギリスのマイケル・ファラデー。

 

 ファラデーの生い立ちは、このブログでも何度か書いてきました。貧しい環境に生まれ育ち、製本屋の丁稚をしながら、科学の道への憧れを実現させた人です。当時としては非常に珍しいケースです。化学者デイヴィーとの出合いがおりなすその複雑な物語は、10月に出る『いきいき物理マンガで冒険』第6話「電気文明危機一髪」に描きましたので、ぜひ、ご覧ください。

 

 ファラデーは電磁気の実験をとんでもなくたくさんやっていますが、どの実験も非常に注意深く行われています。後にアイルランドのマクスウェルが、その実験の精密さに驚嘆したほどです。

 

 電磁誘導の法則は、高校の授業で教えていると、利発な生徒ほど困惑します。授業後、「今日の授業、本当に集中して聞いていたんですけど、どうしても電磁誘導がなぜ起こるのか、わかりませんでした」と訴えてくる生徒が、よくいます。

 

 当然ですね。

 

 教科書に載っている「ファラデーの電磁誘導の法則」は、電磁誘導現象がどのように起こるかというルールをまとめたものですが、この法則は電磁誘導がどのような原因で起こるのかについては、一切答えていません。ファラデー自身もわからなかったはずです。

 

 その原因らしき物がはっきりするのは、もう少しあとのことで、高校レベルでも登場します。

 

 したがって、最初に「電磁誘導の法則」を教えるときには、法則の意味するところを、まず話しておく必要があります。

 

 入試でも、電磁気の分野のトップスターといえる、電磁誘導現象。じっくり、見て行きましょう。

 

 1は、ファラデーの電磁誘導の法則をまとめたものです。ファラデーは電気力線と磁力線により、空間つまり電場・磁場を想定して電磁気の理論を打ち立てていますから、この法則を説明するのに「コイルを貫く磁束(磁力線の束)の変化」を用いています。

 

 磁束の変化を妨げる向きにコイルに起電力が生じるという発想は、今述べたように「場」を想定した発想なので、「場」の扱いに慣れていない習い始めの人には、難しく感じる内容です。自分が何をしているのか、よくわからない、という感じの戸惑いですね。

 

 そのためでしょう。中学校では、電気力線の増減を使わず、磁石の動きを妨げる向きにコイルが電磁石になるという感じで教えています。

 

 これでも、誘導電流の方向はわかりますから、次善の策としてはよいと思います。

 

 が、電磁誘導現象がどんな法則なのかというイメージを得るには、やはりファラデーが最初にまとめた磁力線(磁束)を用いた説明の方が優れています。

 

 慣れてしまえば、それほど難しいとは感じなくなります。ある意味、ファラデーの電磁誘導の法則に馴染むことが、「場」の概念に本当に慣れてきたということに当たるでしょう。

 

 一時的に生じる誘導起電力は電池の起電力と同等なので、+極が高電位、−極が低電位とみなすことができます。(あくまでも、電池との類推でそうみなしているだけで、本質的には、電磁誘導現象では「電位」という概念が成立しません。しかし、高校物理でも、また大学の物理でもある段階までは、これを便宜的に「電位」と考える方法をとっています)

 

 ファラデーの電磁誘導現象は、起電力の生じる原因について語っていないため、特に、誘導起電力の+極、−極がどこにあり、起電力の向きがどちら向きになるか、という点では、困難に陥ります。

 

 とくに、4の(4)〜(6)の例では、ファラデーの法則では、図のaとbがどちらが高電位なのかを、正しく判断することができません。(よほどの思考力があれば、なんとか見つけ出すことができますが、例年、それを自力で見つけ出せる生徒は、ほとんどいませんね。高校で物理を教えている先生でも、正しく判断できない方がいらっしゃいますから)

 

 ファラデーの法則でいうなら、(5)の場合、電磁誘導現象が起きず、誘導電流が流れないので、誘導起電力は0で、aとbは等電位という結論になりますが、それでは、つじつまが合わなくなります。後ほど、書き込みのプリントをご覧ください。

 

 

 電磁誘導の法則は、擬人的に表現されています。

 

 コイルを貫く磁場の変化に逆らうように起電力が生じる、というのは、まるでコイルがアマノジャクのようになんでも相手のいうことと逆のことをするように感じます。

 

 もちろん、これは、ファラデーがそう考えることで電磁誘導の起こる仕組みが理解しやすくなるとしたものであって、物理現象はただ淡々と生じるだけです。やがて、電磁誘導の背景にあるものが何かを学びますので、それがわかると、この擬人的な説明が必要なくなります。

 

 さて、この電磁誘導の法則は、ファラデーの表現通りに考えると混乱して間違う生徒が多いので、ぼくは2段階にわけて考えるように教えています。

 

【第1段階:外部の変化】

 コイルを貫く磁束Φの向きと、それが増えつつあるのか、減りつつあるのかという変化を確認します。

【第2段階】

 その磁束の変化を妨げる向きに新しい磁束Φ’の向きを判断して図に描き込み、さらにそのΦ’を生む誘導電流iを描き込みます。必要なら、その電流を見て、コイルの両端に+極、−極のマークを描き込みます。

 

 2段階に分けると、初めてこの法則を学ぶ生徒にとっては、とっつきやすくなりますね。

 

 

 

 

 生徒が最初にひっかかるのは、やはり、電位の問題ですね。

 

 1の2つの例でも、コイルを流れる誘導電流の向きにごまかされ、起電力の向きを逆向きに誤解する生徒が続出します。

 

 一時的な電池になっているのがコイルであり、その外につないだ回路に流れる電流の向きから、コイルの両端のどちらが電池の+極なのかを判断しなくてはいけません。

 

 化学電池でも電池の内部では電池の−極から+極に向かって電流が流れている(実際には電流が流れるわけではありませんが、モデル的にはそれでいいでしょう)ことを指摘すると、たいていの生徒の誤解が解けます。

 

 化学電池では化学反応のエネルギーを利用して起電力が生じていますが、電磁流動現象では、コイルと磁場の相互作用から得られる電磁エネルギーを利用して起電力が生じています。電位に関する最初の混乱は、このような類推により、乗り切るとよいでしょう。

 

 簡単にまとめると、コイルの外に回路を置いて、回路に電流が流れ出す端子が電池の+極に当たり、回路から電流が流れ込む端子が電池の−極に当たります。

 

 4の渦電流の実験は、2つとも演示実験として見せています。余裕があれば、生徒実験にもできます。

 

 アルミパイプを落下するネオジム磁石の実験は、見ているだけでも不思議です。

 

 プリントでは、渦電流による電磁石とネオジム磁石の力の及ぼし合いで説明していますが、渦電流による発熱分だけネオジム磁石の力学エネルギーが失われ、落下の速度が減ると考えることもできます。(『いきいき物理マンガで実験』の解説では、一般の方にもわかりやすいエネルギーによる説明しています)

 

 5の例題は、電磁誘導の典型的な例を並べてあります。

 

 先に述べたように、この例題の(4)〜(6)は、ファラデーの電磁誘導の法則では、電位について正しい判断ができません。

 

 ファラデーの法則はコイル全体が電磁誘導を起こす前提で作られていますが、実際問題として、この(4)〜(6)の例では、コイルのパーツが電磁誘導を起こしているからです。

 

 それは、次のプリントで解説します。

 

 

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