物理ネコ教室250電磁誘導の原因 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 今日も質問を受けたのですが、ファラデーの電磁誘導の法則の原因は、高校物理のレベルではなかなか理解しづらいようです。

 

 ファラデーは、精密な実験をくり返して、電磁誘導の法則を発見しました。

 

 実験結果をできるだけ完結にまとめるのには、いろいろな表現法があるのですが、ファラデーは誘導起電力の向きについては、擬人的な表現を選びました。

 

 コイルに生じる誘導起電力は、コイルを貫く外部の磁束(磁力線)の変化に逆らうように生じると。まるで、コイルが妖怪アマノジャクのようにひねくれた行動をとるのだ、と。

 

 さらに、ファラデーは誘導起電力の大きさが、磁束の時間変化の割合に比例することを指摘しました。

 

 これらを数式にまとめたのが、V=ーN・(dΦ/dt)です。(Vは誘導起電力。Φは磁束。tは時間)

 

 マイナス記号が法則の前半、dΦ/dtが法則の後半を示す式です。

 

 しかし、前の記事でも書いたように、この法則は「電磁誘導現象がどのように起こるか」をまとめたもので、現象の原因をつきとめた法則ではありません。

 

 では、その原因を突き止めてみましょう。

 

 1に書いてあるように、電磁誘導現象をコイルの導線と磁力線の相対的な運動で見直してみると、より本質的な関係が見えてきます。

 

 コイルに磁石を近づけるときも、磁場の中にコイルが突入するときも、よく見ると、導線が磁力線を切るようにして横切っているのがわかります。

 

 そこで、電磁誘導現象には、コイルが不可欠ではなく、導体の棒が磁力線を横切ることが重要なのかもしれないことが予想できます。

 

 2のように、金属棒を磁力線に対して垂直にして、磁力線を切るようにして動かすと、金属棒の中の自由電子が磁場から力を受けることに気がつきます。金属棒とともに動く電子は、ローレンツ力を受け、金属棒中を移動します。

 

 移動した電子は、金属棒の片側に溜まり、そこがマイナスに帯電します。

 

 一方、金属棒の反対側は自由電子が足りなくなるので、プラスに耐電します。

 

 両端がプラスとマイナスに帯電した棒は、コンデンサと同様に電池のようにふるまいます。この金属棒に回路をつなげば、金属棒が電池の役割をして、回路に電流が流れます。

 

 このときの起電力の向きは、フレミングの「右手の法則」として理解することもできますが、現代の物理学ではほとんど顧みられません。

 

 むしろ、フレミングの「左手の法則」をむりやり当てはめることで起電力の向きを理解する方法の方が、高校物理では普通に行われます。あとで、描き込みを見て下さい。

 

 ローレンツ力によって金属棒の両端が帯電し、それにともなって金属棒中にコンデンサーの電場と同様な電場を考えることができるようになります。

 

 この電場EはvBに等しくなります。ここでも、相対性理論で登場するE=vBという式が登場します。

 

 3の例題は、ファラデーの電磁誘導の法則とローレンツ力による起電力をつなぐ、典型的な例題です。

 

 金属棒が動くことで、コイルの面積が増加し、コイルを貫く磁束もまた増加します。したがって、ファラデーの法則を用いて誘導起電力の向きと大きさを計算することができます。が、この場合、コイル全体に誘導起電力が生じていると考えるのはムリがあります。コイルの中で磁場中でなんらかの変化を生じているのは、動いている金属棒だけだからです。

 

 そこで、うごく金属棒に誘導起電力が生じていると発想できます。

 

 ローレンツ力による誘導起電力は、この例題から推測するとわかりやすくなります。

 

 さらに、前のプリントでは理解不能だった電位に関する謎も、ローレンツ力による起電力を用いれば簡単に解けます。

 

 磁力線を横切る金属棒(図では、(1)の右側の棒、(2)の左側・右側の棒、(3)の左側の棒)には、すべて同じ向きに起電力が生じます。これらの棒を一時的な電池と考えることで、単純な回路の問題として、誘導電流の流れ方を理解することができます。

 

 では、描き込みを見て行きましょう。

 

 

 2の描き込みを見て下さい。

 

 ローレンツ力を受けた自由電子がC側に移動し、C側がマイナスに帯電、反対側のD側がプラスに帯電します。棒の両端の電荷がコンデンサの極板の電荷と同様に、棒内部にDからCに向かう電場を作ります。電場Eから受ける力eEと、磁場Bから受けるローレンツ力evBがつりあう状態になると、自由電子の移動は止まり、金属棒CDは安定した一時的な電池になります。

 

 起電力の向きは、通常の電池の場合は、マイナス極からプラス極に向かう矢印で示しますから、この金属棒の場合も同じです。マイナス極のC側から、プラス側のD側に向かう矢印が、この金属棒の誘導起電力を示す矢印に鳴ります。(上図)

 

 自由電子が受けるローレンツ力で、金属棒に生じる誘導起電力Vを説明するのは、だいたい今述べた説明になりますが、非常にややこしい説明になります。

 

 そこで、原理は少し置いておいて、結果だけを簡単にまとめる方法がいくつか考えられています。(そもそも、フレミングの左手の法則や右手の法則は、学生が覚えやすいように工夫された物理教育上の法則なのです)

 

 起電力(electromotive force)は、日本語でも英語でも、「力force」という言葉を使います。そこで、フレミングの左手の法則(中指、人さし指、親指の順に「電磁力」と覚える=アメリカではこの逆に「FBI」のゴロ遊びで覚えます)をむりやり拡張し、中指を「電」線が進む向き、人さし指を「磁」力線の向き、親指を誘導起電「力」の向きとして、やはり「電磁力」で覚えることができます。(描き込みプリントの赤い描き込みの図を見て下さい)

 

 これは、まったく物理学的ではありませんが、物理教育としては、有効な覚え方です。

 

 

 3の例題は、描き込みを見れば明らかです。

 

 (1)の「ローレンツ力による起電力」V=vblを用いても、

 (2)の「ファラデーの電磁誘導による起電力」V=ーN・(dΦ/dt)を用いても、

 

 どちらでも解決できます。

 

 なお、本質的にはローレンツ力による起電力が電磁誘導現象の原因なので、ローレンツ力による起電力を使えば、ほとんどすべてのケースの起電力を計算できます。しかし、コイルに生じる起電力を計算するには、複雑な積分計算が必要になりますので、実用的ではありません。

 

 したがって、コイルが登場するときは「ファラデーの電磁誘導」、金属棒が動く場合には「ローレンツ力による起電力」を用いるのが、実用的です。

 

 4のケースは磁場を横切るCD、PQを電池と考えることで、電位の高低を理解することができるようになります。例えば、(2)のケースでは、P、Dが高電位なのですが、回路に逆向きの電池があるときと同じで、電流は流れません。でも、電流が流れないからといって、誘導起電力が生じていないということではありません。ファラデーの電磁誘導の法則では、この問題に答えることができないのです。

 

 ところで、もっと本質的なことをちょっとだけ触れておくと、誘導起電力により生まれる「電位」は本来の「電位」つまり、位置エネルギーに直結した「電位(ポテンシャル)」ではありません。

 

 変動する磁場中にループ上に生じる起電力による「電位」は、ループに沿って何周かするとどんどん増えていきます。本来の電位は、一周すると上り下りが0にならなければなりません。そうでないと、位置によってエネルギーが一意的に決まらなくなり、位置エネルギーという概念が成立しなくなるからです。

 

 このへんの話は、大学に行って、電磁気を専門的に学ぶときに、じっくりと考えてみて下さい。

 

 では、今日はこのへんで。

 

 

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電磁気<物理ネコ教室3年>

241磁気

242電流のつくる磁場

243電流が磁場から受ける力

244ローレンツ力

245ローレンツ力・フレミングの力の応用

249電磁誘導

250電磁誘導の原因

252自己誘導

253コイルとコンデンサーのエネルギー

254電磁振動と電磁波

 

 

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