熱力学第一法則が終わると、次は熱力学第二法則なのですが、このプリントは全部復習で、新しい内容がありません。
物理基礎の発展として扱った内容です。全部復習なので、飛ばすこともできるのですが、熱力学の最初のところで書いたように、物理基礎で学習した知識がほとんど消えている人もいるので、気体の熱力学のまとめとして、もう一度扱っています。
まったく同じプリントで再授業するのも何なので、全部、新しく書き直し、永久機関の例を一部変更してあります。
以前、熱力学第二法則のことが、物理1の教科書には書かれているのに、物理2の教科書には書かれていないということがあり、すごくびっくりしたことがあります。「お上」の都合で物理学を勝手に分断すると、ろくなことはありません。現場ではいろいろと工夫して、矛盾のない教え方をしています。
ところで、高校の教科書だと、熱力学第二法則は不可逆変化との関係で扱われていて、それはそれでいいのですが、本当はエントロピー増大則として、その重要な物理概念を理解しないと、何の法則なのか、さっぱりわかりません。
エントロピー増大則は、要するに「宇宙のでたらめさは増えていく」という、なんとも収集のつかない法則です。が、エネルギー保存則と並んで、宇宙を支配する大法則ですから、よく理解しておく必要があります。
復習のプリントということもあり、ここでは詳しく論じることはやめておきます。が、授業でよく見せる実験と、そのときに紹介するお話については、以下に書いておきます。プリントには載っていませんが、この授業で必ず触れる内容です。
ぼくはいつも、白黒の碁石を左右に複数個ずついれた透明なプラスチックケースを振って、白黒が混ざる様子を見るという実験をしています。簡単だし、何度振っても元の状態に戻らない様子を見るだけで、でたらめの法則のイメージがつかめるからです。
それから、100円ショップに売っているオレンジとブルーの小さな球が鉄アレイ型の透明プラスチック容器に入った子供向けおもちゃもよく利用します。オレンジとブルーの小さな球を工夫して鉄アレイのそれぞれの球に分けて入れるおもちゃです。自然に振れば2種類の球はどんどん混ざってしまいますが、人間が関わると2種の球を分けることができ、容器内のエントロピーが減少します。
生物を物理学的に表す場合、「生物はエントロピーを食べる」存在といういい方をします。マクスウェルの悪魔みたいな存在ですね。
ただし、この作業で人間の体内のエントロピーが増大しますから、おもちゃと人間の両方を合わせたエントロピーはやはり増加します。
わかりやすい例として、授業で紹介するのが、家を建てる例です。各地に散らばっている材料を集めて加工し、さらに一か所に集めて組み立て、一件の家としてせいぜんとした状態を作り上げる工程は、まさにエントロピーが減少する典型例です。でも、家を作る過程で次々に生み出される不要物(木材の切り屑、輸送で巻き散らかされる排気ガス、作業に関わった人間たちが出す膨大なゴミ・・・数え上げるとキリがありません)も含めれば、エントロピーの総量は増大していることになります。
生物がエントロピーを減少させるという定義は、非常に狭い範囲を想定したもので、決して物理法則に反するものではありません。
マクスウェルの悪魔が働いて、限定された範囲内のエントロピーが減少したように見えても、マクスウェルの悪魔自体がこうむるエントロピー増大がその減少以上の値になり、全体としてエントロピーの総量は増大します。このことは、20世紀初頭に、ドイツからアメリカに亡命した物理学者レオ・シラードが理論計算をしています。(シラードはアメリカでの原爆製造の立役者ですが、その話はまた、別の記事として書きましょうか)
物理基礎の授業では、これに加えて、水とお湯を入れた大きなペットボトルを教室へ持っていき、そこに濃い食紅液をスポイトで垂らして、食紅液が拡散するのが温度(つまり水分子の熱運動)により異なるという実験も見せています。物体の拡散もまた、でたらめの法則の表れですね。この実験のあらましはマンガ「熱ってなあに?」(下記リンク参照)に描いてありますので、ご覧ください。
また、ボルツマンが見抜いた熱力学第二法則の内容に興味がおありの方は、ぼくのマンガ「でたらめの国のミオくん」(下記リンク参照)をご覧ください。
それに、世界のエネルギー不足を考える上で、もっとも重要なポイントになるのが、この第二法則なのです。今後の地球環境を考える上で、是非知っておいて欲しい知識ですね。
今まで述べてきた記事でだいたいおわかりのように、熱力学第一法則をまとめてエネルギー保存の概念をはっきりさせたのがアイルランドのウィリアム・トムソン(のちのケルヴィン卿)、熱力学第二法則の本質がでたらめさの増大にあると見抜いたのがオーストリア・ドイツのボルツマンです。
トムソンの方は、絶対温度の単位としてしか名前が残っていません。その業績は、古典物理学から現代物理学へ移り変わる時代の流れの中で「色あせてしまった」といわれますが、決してそんなことはないと思います。また、自殺してしまったボルツマンも、その直前に発表されたボルツマンの主張を証明する(つまり分子の熱運動によりブラウン運動が起こることを理論的に示した)アインシュタインの論文を読んでいたら、悲劇は避けられたかもしれません。
でたらめなタイプのエネルギーである熱エネルギーがせいぜんとした他のエネルギーに100%戻ることはできない、というのが、熱力学第二法則の象徴的な表現です。(プリントの2(d)です)
そのため、熱効率が1になることはできないわけですね。
熱力学の第一法則(エネルギー保存即)は熱効率が1を超えることはないこと(つまり、もとのエネルギーより大きな仕事をすることはできないということ)を決定し、熱力学の第二法則(エントロピー増大則)が熱効率が1になることさえないこと(熱がすべて仕事にかわることはないため)を決定します。
この熱力学第二法則のため、エネルギー不足という事態が、本質的に現れます。
よく、地下資源に限りがあるからエネルギー不足になると、誤解されますが、エネルギー不足はかならず起きる物理現象です。なぜなら、エネルギーを使うたびに、使い勝手の悪い(利用価値の低い)熱エネルギーばかりが増えていき、使い勝手のいい(利用価値の高い)他のエネルギーが減っていくからです。
でたらめな熱エネルギーが、せいぜんとした仕事に100%もどることは、エントロピー増大則に反することなのですね。
永久機関は、よく永久運動と混同されます。永久機関はエネルギーを使わずに仕事を次々に生み出す装置です。これを、専門的には、第一種の永久機関といいます。打ち出の小槌みたいなものですね。もちろん、この世には存在しません。
第一種の永久機関が存在しないことは、エネルギー保存則の発見により、はっきりしましたが、歴史的に見て行くと、エネルギー保存則どころか、エネルギーの概念すら存在しなかった中世で、レオナルド・ダ・ヴィンチは永久機関が不可能であることを直観的に理解していたといわれます。
エネルギー保存則は、トムソンに至るまで、じつにたくさんの人が関わって、少しずつヴェールがはがされてきた法則です。これほど多数の人が発見に関わった例は、むしろ珍しいのではないでしょうか。
ところで、永久運動は、外への仕事をしませんので、エネルギー保存則には矛盾しません。摩擦などの妨害がなければ、実現可能です。
ん・・・ん・・・??
書き込みプリントが大きく表示された理由は・・・わかりません???
おなじようにスキャンした画像なんですが・・・ま、いいや。
・・・大きい方が見やすいでしょうね。
第一種も第二種も、永久機関は作れませんが、それを個別の永久機関についていちいち説明するのは、結構大変です。
物理学のよい練習になるので、挑戦してみて下さい。
第二種永久機関の2つめの図は、ファインマン物理学に載っているファインマン考案の装置です。でたらめな分子運動からエネルギーを取り出して仕事をさせるという謎の装置ですね。
では、そろそろ、熱の世界とも、お別れです。
【追記】熱力学第二法則の授業で見せる実験のことと、授業でいつも触れる生物とエントロピーの関係の話を、追記しました。
関連記事
気体と熱<物理ネコ教室3年>
〜ミオくんと科探隊 サイトマップ〜
このサイト「ミオくんとなんでも科学探究隊」のサイトマップ一覧です。
*** お知らせ ***
日本評論社のウェブサイトで連載した『さりと12のひみつ』電子本(Kindle版)
Amazonへのリンクは下のバナーで。
『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・理論編』紙本と電子本
Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。
『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・実験編』紙本と電子本
Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。









