分子運動論はクラウジウス(プロシア)、マクスウェル(スコットランド)が研究し、それをボルツマン(オーストリア・ドイツ)が統計力学にまで高め、エントロピーの正体を見抜くところまで進みます。
高校物理では、分子運動論により絶対温度の正体が分子の熱運動エネルギーの大小を示す物理量であることまでを、高校生に使える数学を駆使して説明する内容になっています。
したがって、このプリントは説明として聞いて、それをノートに写しているだけでは、まったく理解できません。いくつかの考えにくいポイントでヒントさえあれば、高校生が自力で最終地点まで到達できる内容になっていますので、むしろ自力で導出できるようにした方が、圧倒的に定着率が高くなります。
プリントも、その目的に合わせて、小問を順次解いていく形にしてあります。
内容的には、ほとんど運動量と力積の復習ですから、それを忘れていなければ、自力でやれます。
(問1)は、重要な問題なので、必ず考えてもらっています。(教科書ではスルーされている内容ですが)
教科書には「分子と壁との衝突は弾性衝突とする」という前提から始まっていますが、ミクロ世界の衝突はすべて弾性衝突であることを知ることは非常に重要です。
(問1)の答がわかると、たしかに気がつかないだけで、弾性衝突はミクロレベルで日常的に起きていることがわかります。
前半はこんな感じ。まるっきり、運動量と力積の基本事項の復習ですね。
逆に言えば、運動量と力積の知識が消えている生徒は、ここの内容はさっぱりわからないことになります。
後半は・・・
(問6)は物理ではなく、数学の統計記号を用いた内容ですから、物理というより、数学のΣと平均値に関する復習になります。
(問7)は物理基礎の圧力の定義の復習。
・・・というわけで、(問8)以外は全部昔習ったことの復習とその応用ばかりです。むしろ、できない方がおかしい、ということになりますね。(お互い相談しながらやってみると、案外多くの生徒が問7まで辿り着きます)
(問8)は、新しい知識ですので、アドバイスが必要ですが、ぼくはいつも、未知への挑戦の一つとして、これも自分で見つけてもらっています。まったく新しい発想で考えるので、当然、一部の人しか、正解は出せませんが、それでいいと思っています。
(10)は分子運動の「でたらめさ」を数式でどう表現するかという、根源的な問題です。多くの生徒が三つの平均値を足して0、みたいな式を書きます。残念。その場合、すべての平均値が0という結果になってしまいますね。
正解は、三つの平均値が等しいという式。クラスに1人2人は、正解を見つけることのできる人がいます。いい発想ですね。コロンブスの卵的な発想なので、答を聞くと「なあんだ」と思います。運動が「でたらめ」ということは、方向による差異がない、ということですから、どこか一つの方向だけ平均値が違う値になることはない、ということですね。
(11)は(10)より簡単です。ベクトルの成分についての三平方の定理の関係が、平均値についても成り立つだろうことは、難しい証明抜きで想像がつきます。(平均値の式を用いて証明もできますが、意味がないのでやりません)
(12)は(10)と(11)から導かれる結論です。さらに、(9)の結論をそれによって書き直すことで、気体の圧力をミクロの分子運動で表すことができます。これが(a)の式です。ここまでが、クラウジウスが導いた内容です。
最後に2(問9)で、絶対温度との関係を調べます。といっても、モル数の定義を用い、気体の状態方程式と比較するだけで、簡単に導くことができます。
ここで重要なのは、(a)でマクロレベルの気体の圧力をミクロレベルの分子の運動と関連づけているので、マクロな関係である気体の状態方程式と比較することで、マクロな物理量である絶対温度を、分子の運動と関連づけて調べることができる、という点です。
このイメージを大切にしないと、ただややこしい計算をしているだけで、何のためにやっているのかがわからなくなります。
このへんは、プリントに書くと七面倒くさくなるので、口頭で説明しています。
教科書的にいうと、プリントの最後に書いたように「分子の熱運動エネルギーの平均値は絶対温度に比例する」という表現になりますが、本来の物理的な意味は、「絶対温度とは、ミクロな世界の分子の熱運動が大きいか小さいかをマクロな世界で教えてくれる物理量だ」ということです。
「温度とは何か」というのは、マクロな世界で考える限り、答のでない難問ですが、こうしてミクロな世界の物理現象を見ることで、初めて答がでるんですね。
このプリントの意味は、そこにこそ、あります。
なお、R/NA=kBはボルツマンの名を記念して、ボルツマン定数と呼ばれています。ミクロとマクロ、熱と他のエネルギーをつなぐ、重要な値ですね。
では、また。
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