謹賀新年と暦 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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干支ひつじ


とっぴ「やほ、あけおめ~!」
あかね「もっとちゃんと挨拶しなさいよ。明けまして、おめでとうございます。本年もどうぞよろしくお願いします」
ひろじ「こちらこそ、どうぞよろしく。今年の干支(えと)は・・・未(ひつじ)だったね。年賀状の代わりに、こちらのイラストをどうぞ」
あかね「あ、かわいい。でも、干支って、なんだか不思議ね。日本だけのものかしら」
むんく「中国・・・」
あかね「え、そうなの」
ひろじ「そうだよ。干支すなわち十干十二支(じっかんじゅうにし)はもともと中国の暦から。諸説あって本当のところはわからないけど、殷の時代にはもう使われていたというよ。十干の方は中国の「説文」という本によれば、植物の生長する様子を順番に漢字で表したものだそうだ。それが、後の世、戦国時代に陰陽五行説(おんようごぎょうせつ)と結びつけられて解釈されるようになった。漢字学者の白川静は十干の最初の「甲と乙」はともに占いに使うカメの甲羅と獣骨が原型の文字だといっていて、ぼくにはこっちの方がしっくりくるけどね」
とっぴ「おんようごぎょう・・・って、何なの」
ひろじ「おんようは陰陽、つまり、陰(いん)と陽(よう)だよ。現代風にいえば、マイナスとプラス」
とっぴ「へえ、日にちにプラスとマイナスがあるの」
ひろじ「後付けの発想だから、もともとそういう意味があったわけじゃない。中国では世界は陰と陽の二面があり、すべては木火土金水の五元素の組み合わせでできているという思想があった。占いから始まった考えだろうけど、古代においては、占いが現代の科学の代わりをしていたから、バカにはできない」
 

あかね「ええと、十干というと・・・甲乙丙丁戊己庚申壬癸(こうおつへいていぼきこうしんじんき)だっけ・・・」
ひろじ「すごいね、あかねちゃん、全部いえるんだ・・・」
とっぴ「あかねはなんでも覚えたがるんだ」
あかね「いいでしょ、わたしの勝手よ」
ろだん「でも十干って、最初の甲乙くらいしか知らないな。十二支なら毎年年賀状で見てるから知ってるけど」
ひろじ「カレンダーによっては、「きのえ」とか「きのと」とか書いてあるのがある。ほら、こっちのやつ」
ろだん「ほんとだ・・・みずのえ、みずのと・・・こっちは、ひのえ、ひのと・・・」
ひろじ「さきほどの戦国時代の本『呂氏春秋』によれば、甲乙が木の陽と陰、丙丁が火の陽と陰、戊己が土の陽と陰、庚申が金の陽と陰、壬癸が水の陽と陰になる。日本では陽と陰に和語の兄(え)と弟(と)を当てて、きのえ、きのと、ひのえ、ひのと・・・などと呼んだわけだ」
とっぴ「え、と、え、と・・・あ、『え』と『と』ばっかりで、『えと』かあ」
ひろじ「たぶんそうだろうね。中国では十干の10日で暦を一区切りして、月つまり太陰の周期29日に合わせて、10日×3で一月を構成させた。それを上旬、中旬、下旬と呼んだのさ。日本でも使っている言葉だろう」
とっぴ「十二支の方は? こっちは動物だけど、いわれはあるの」
ひろじ「十二支は方角や時刻にも使われているだろ。こちらも起源ははっきりしないけど、木星が天球を一周するのに十二年かかるから、そこから生まれたという説がある。また、西洋の黄道十二星座と似たような成り立ちだという人もいる。ちなみに、十二支も陰陽五行にふりわけられているけど、こちらはちょっと無理があるかな」
 

むんく「2個あまる」
ひろじ「こういう無理は暦のあっちこっちに現れるよ。たとえば、一年を90日×4にわけて春夏秋冬を割り振るんだけど、これに木火金水の四つを当てはめる。それだと土があまるから、土は一年すべての基礎だと考えて、立春、立夏、立秋、立冬前の各18日間をそれぞれの季節の土用と考えた。例えば、立春の前の18日は、冬の土用となる。いまでは夏の土用だけが残っているけどね」
あかね「土用の丑の日にはうなぎを食べるってアレね」
ひろじ「本当かどうかわからないけど、それは江戸時代の博物学者平賀源内がつくったキャッチコピーだそうだね」
ろだん「本当かどうかわからない話が多いな」
ひろじ「歴史の話はどうしてもそうなるね。ただ、十二支も十二星座も、もともとは実際の生活に役立てるように考えられたものだ。科学的な根拠がないわけでもない。牡羊座や雄牛座などは、もともとそれぞれの生き物の繁殖期を示していたんだしね。今は地軸の歳差運動のために、星座が一月分ずれちゃっているけど」
あかね「あ、ずれっていえば・・・気になることがあるんだけど」
とっぴ「何?」
あかね「ほら、10月のこと、英語でオクトーバーっていうでしょ。オクトって、オクトパスのオクトでしょ。つまり、タコの8本足。数字、ずれてない?」
とっぴ「あかね、へんなこと気がつくね。じゃあ、11月は・・・英語でなんていうんだっけ?」
 

ろだん「おれ、それどこかで聞いたことがあるぞ。ローマ皇帝が自分の名前を月の名前に割り込ませて、それで月がずれちゃったって」
あかね「え、そうなの?」
ろだん「7月のジュライって、たしか、ジュリアス・シーザーだ。それから、8月が・・・なんだったかな」
ひろじ「ローマ読みすれば、ユリウス・カエサルだね。8月はその後の皇帝で、アウグストゥス。そこからオーガストとなった」
ろだん「ほら!」
ひろじ「でも、それで月が2ヶ月分ずれたというのは、俗説で間違いだよ」
ろだん「そうなのか?」
ひろじ「もっとも古いローマの暦、ロムルス暦には11月と12月がなかった」
とっぴ「え、なぜ?」
ひろじ「その時期は寒くて何もできないから、暦が必要とされなかった。ロムルスの次の皇帝ヌマが、11月にヤヌアリス、12月にフェブルアリウスを定めて、1年355日すべての月に名前をつけた」
あかね「でも、1月や2月の方が寒いわよ。なんかヘンね」
ひろじ「1年の始まりの1月マルティウスは、この頃は今の3月なんだ。2月のアプリリスは今の4月、エープリルにあたる。春になって、ようやく人間の生活が始まるんだから、春を1年の最初に置くのは、当時としてはすごく当然だったんだろう」
 

あかね「どこでずれちゃったのかしら」
ひろじ「600年くらいはヌマ暦をそのまま使っていたんだけど、たぶん政治的な理由で、1年の最初を今の1月つまりヤヌアリスに、2ヶ月分スライドさせた。ローマの門神にして、始まりの神であるヤヌスが、1年の始まり月にふさわしいとされたんだろう」
あかね「そのとき、暦が2ヶ月分ずれたの?」
ひろじ「そうだよ。本来の月名は5月から10月まではラテン語の数字がそのまま使われていた。5月から順に、クインティリス、セクスティリス、セプテンバー、オクトーバー、ノーベンバー、ディッセンバー。5、6、7、8、9、10の数字だ。あかねちゃんがいったように、オクトーバーのオクトはまさに8なんだよ」
ろだん「シーザーの話は?」
ひろじ「1年が355日の暦だから、太陽暦の365日とは季節がずれてくる。それを修正するのに、閏月を入れていた。これは複雑だから、間違いも生じる。カエサルが皇帝になった頃には、月と季節がずれていた。皇帝としての一大行事として、カエサルは暦を大改革した。今の太陽暦に切り替えたんだ。そのとき、ついでに、自分の生まれつきのクインティリス、つまり今の7月をユリウスに改名した。これが今のジュライだよ」
 

ろだん「そのとき、2月から1日もってきて、自分の月に付け加えたんだろ?」
ひろじ「それも俗説で間違っているね。ユリウス暦では太陽暦にしたのでそれぞれの月の日数を増やして、1年を365日にする必要があった。そこでそれまで28日だった2月にも、1日加えて29日にしている。もともと2月、つまりもともとの12月は日数が28日しかなく、一番少ない日数の月だったんだ」
ろだん「そうか・・・やっぱ、人から聞いた話を鵜呑みにするもんじゃないな」
ひろじ「アウグストゥスは、ろだんくんが聞いたとおりのことをした。30日だった自分の生まれ月の8月セクスティリスに2月から1日引っ張ってきて31日にして、アウグストゥスに改名している。たぶん、ろだんくんの聞いた話はそれを混同したものだろうね。いつだったか、新聞の記事にもそういう内容の記事が書かれていたから、かなり根強く広まっている誤解なのかな。アウグストゥスから見れば、もともと28日だったのに戻しただけなんだからいいだろう、ということだろうね」
とっぴ「月の名前を変えたのは、その二人だけなの」
ひろじ「いや、悪名高いネロも、生まれつきの4月をネロネウスに改名したんだけど、ネロの死後すぐに戻されたそうだよ。でも、分別のある皇帝もいた。アウグストゥスの養子のティベリウスも生まれ月を改名するように進められたが、皇帝が13人になったらどうするつもりだといって、改名しなかったと伝えられている」
とっぴ「ぼくが皇帝だったら、ぜったい改名するけどな」
あかね「トッピーなんて月名、絶対にやだ!」
ひろじ「さ、さ、ケンカしてないで、みなさんにも新年の挨拶をしよう」


一同「みなさま、明けましておめでとうございます。本年もどうぞよろしくおねがいします」

 
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