ブラジル音楽を愛好されている方であればご存知の方も多いかもしれないリオデジャネイロで活躍した作曲家でありギターの名手、ジョアン・ペルナンブーコ(1885~1947)の作品を紹介する。
『鐘のひびき』と題された2分ばかしの小品だが、タイトルの通り鐘のひびきをショーロのリズムに乗せて表現している。今では、コンサートのアンコール・ピースとしても耳にする機会もあり、短いながらも楽しい気分にさせてくれる佳品である。
録音は村治佳織が17歳の時に録音した今は懐かしい8mm盤のシングルCDがお薦めだ。まだ幼さが残る彼女の音色ではあるが、若さに溢れた溌剌とした雰囲気が音楽に表出している気がする。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
村治佳織(G)[1996年1月録音]
【Victor:VIDC-1】
ショパンが作曲した『子守歌』は、彼の作品の中でも際立って霊妙な作品といえるのが特徴である。主題を転調することなく、装飾音等を用いて16回の変奏を繰り返すもので、霊感に満ち溢れている。
円熟味を増したピリスの録音は、アンニュイに揺蕩う、まさに揺り籠がゆっくりと揺れ動くような自然な音楽進行が耳に心地良い。流石の演奏である。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
マリア・ジョアン・ピリス(Pf)[1998年7月録音]
【DG:457 585-2(輸)】
十数年前、イレーナ・グラフェナウアーが演奏するモーツァルトのフルート協奏曲をデュトワが指揮するNHK交響楽団の定期公演で聞いた。安定した技巧と、艶やかで温もりに溢れた音色がとても印象的でだったが、今日紹介する録音でもそのスタイルは健在だ。指揮者こそデュトワとマリナー・・・、タイプこそ違うが、共にグラフェナウアーを上手くエスコートしているといえる。
グラフェナウアーのフルートは表情豊かな中にも常に女性的な安堵感を漂わせた癒しの作用があるといってもいい位に、その音色は優美でかつ落ち着いた佇まいに終始している。若々しい溌剌とした作風の第1番の協奏曲では、彼女の演奏は一際冴え渡っているように感じる。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
ネヴィル・マリナー/イレーナ・グラフェナウアー(Fl)/アカデミー・オヴ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ[1988年1月録音]
【PHILIPS:PHCP-10598】
日本の吹奏楽界におけるポップス・サウンドの大御所、岩井直溥が書いた軽快なマーチ『明日に向かって』を紹介する。彼はもともと、ジャズの世界でトランペットを吹いていたこともあり、このマーチではエイト・ビートで刻まれたジャズの雰囲気を感じることができ、従来の日本のマーチが持つイメージからは大きく飛躍した新しい感覚を覚えさせてくれる。シンコペーションによる独特のリズムもまた、この作品の大きな特徴といえる。

「明るく、楽しい」このマーチは、吹奏楽の定番として広く寵愛され続けている名作といえ、数多の作品を手がける彼の最も代表的な作品として、これからも演奏され続けるだろう。 ここで紹介する録音は一風変わった軍楽隊による録音だ。聴き慣れたサウンドも彼らの手にかかると、少し新鮮に聞こえてくるのが不思議である。

【推奨盤】
乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床
古荘浩四郎/陸上自衛隊東部方面音楽隊[2004年1月録音]
【UNIVERSAL:UCCS-1058】

20年以上前、フジテレビ系のスポーツ番組のテーマ曲として使われていた懐かしいマッコイの『消燈(ライツ・アウト)』を紹介する。まだ「夏木ゆたか」と「鈴木淑子」が司会を務めていた某番組で馴染みが深い人も多いだろう。
曲そのものは20世紀初頭にアメリカのアール・エレソン・マッコイが海軍の訓練所のために書いた作品だが、演奏効果に優れ、華麗にして親しみやすい曲調から、スポーツシーンに幾度と登場している。カリフォルニア大学の応援歌としても流用されている曲だ。
ちなみに、吹奏楽ファンや高校野球ファンに馴染みが深い、『アフリカン・シンフォニー』を作曲したマッコイとは全くの別人である。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
進藤潤/航空自衛隊航空中央音楽隊

【KING RECORDS:KICW 3013】

『武満徹の宇宙』と題されたこのアルバム。東京オペラシティコンサートホールでの開館10周年を記念した公演を収録したもの。今までに数多くの武満の作品が録音され、リリースされてきたが、この録音は実に聴き応え充分。


録音はライブならではの熱気と臨場感に包まれているが、『ジェモー』では一際、その熱気が溢れんばかりに躍動している。録音でこれだけの熱気なのだから、実際のライブでは大変なことになっていたに違いない。フランス近現代をも感じさせる独特の武満のハーモニーを30分の大作『ジェモー』で体感していただけるはずだ。晩年のあまり多くない若杉の録音でもあり、一度は聴く価値のある録音といえる。


【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
若杉弘(第1オーケストラ指揮)/高関健(第2オーケストラ指揮)/古部賢一(Ob)/クリスチャン・リンドベルイ(Tb)/東京フィルハーモニー交響楽団[2006年5月録音]

【東京オペラシティ文化財団:TOCCF-10】

メンデルスゾーンが弱冠14歳で書き上げた『ヴァイオリンとピアノのための協奏曲』を紹介する。同じ時期に書かれていた弦楽のための交響曲と似たような空気を感じる若き迸る才能を体感できる作品といえる。作曲当時、自宅ではサロンコンサートが幾度と開催されており、そこで演奏されるために書いた作品ともいわれている。

作品は、なかなか技巧的にして粒の細かいピアノの腕を要求される作品で、アルゲリッチが見事なまでに華麗に弾き熟している。クレーメルのヴァイオリンももちろん冴えわたっており、聴く機会の少ない神童の作品を極上のメンバーで聞ける喜びを感じる自分である。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
ギドン・クレーメル(Vn)/マルタ・アルゲリッチ(Pf)/オルフェウス室内管弦楽団[1988年5月録音]
【DG:UCCG-4332】
リヒャルト・シュトラウスがウィーン・フィルのために1924年に作曲した2分ばかしのファンファーレ。ウィーン・フィルの金管メンバーによる、絶妙な「まろみ」を帯びたその音色が特徴的で、それは実に美しい。短いながらも、そこには充実した響きが存在する。カップリングのアルプス交響曲もドラマティックでかつドライブ感溢れる演奏だが、個人的にはこのファンファーレの録音が極めて秀逸に感じる。なかなか聞くことのできないこの曲を、小澤とウィーン・フィルのコンビで聴けるとは、なんとも贅沢である。

【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床
小澤征爾/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団[1996年3月録音]
【PHILIPS:454 448-2(輸)】
モダン・スタイルのオーケストラでモーツァルトを聞くのが最近の趣味となっている自分。そのオーケストラが本来持つ美しさや力強さ、表現力を如実に感受できるのではないかと思うからである。ここで紹介するモーツァルトも然り、オーケストラの技量を存分に味わえる録音だ。

ヴァイオリニストとしての名声を確立し、最近は円熟味が増してきたイツァーク・パールマンが、ベルリン・フィルを指揮した録音であるが、ピリオド的な雰囲気はどこにもない。全てをオーケストラに身を任せたかのような、パールマンの音楽は、一昔前のジュピターを聴いているかのような古臭さに溢れているといえる。さながらベームが指揮するモーツァルトといっても過言ではない位である。ただ、それを否定的に捉えるつもりもなく、ベルリン・フィルの卓越した弦楽器のアンサンブルと解き放たれた瑞々しいサウンドを体感できる、「自由」な空気に溢れた録音だと感じる。



【推奨盤】

乾日出雄の揺蕩うクラシック音楽の臥床


イツァーク・パールマン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団[2002年2月&3月録音]

【EMI:TOCE-55519】

どの国にも必ずといっていいほどに「マーチ王」と呼ばれる作曲家がいる。そこで今日はイギリスのマーチ王を紹介する。

日本では行進曲『ボギー大佐』で馴染みが深い、ケネス・アルフォード(1881~1945)である。日本ではその『ボギー大佐』でしか接することがない作曲家ともいえる。ただ、「マーチ王」と称されてはいるものの、オリジナルの行進曲は18曲しか作曲をしていない軍楽隊長なのである。しかし彼の残した数少ない作品はどれも聴き応えのある名作ばかり。今日紹介する『シン・レッド・ライン』はラジオ日本の某スポーツ番組で使用されており、一部のファンだけには馴染みが深い作品かもしれない。ゆったりとした伸びのあるフレーズが特徴といえるアルフォードのマーチの真骨頂といえる作品だ。


【推奨盤】
乾日出雄とクラシック音楽の臥床

吉永雅弘/陸上自衛隊第1音楽隊[2002年8月録音]

【UNIVERSAL:UCCS-1022】