ニコロ・パガニーニ(1782~1840)はヴァイオリンの歴史上、最高のヴァイオリニストと言われ、「魂を悪魔に売った」とまで言われた誰もが知る演奏家である。そんな彼は自らの技巧に見合った作品が少ないことから、自らも曲を書き、演奏している。
ヴァイオリン協奏曲も全部で6曲書いており、生前に出版された数少ない作品の一つと言われている。曲は、此れ見よがしにヴァイオリンの超絶技巧のオンパレードとなっている。冒頭の力強い管弦楽で始まり、ソロのヴァイオリンが始まる。自らの超絶技巧のための作品だけあり、ヴァイオリンの見せ場には事欠かないものの、オーケストラ・パートは実に稚拙で面白くはない。6曲書いている協奏曲の中では第1番が比較的「まとも」なオーケストレーションとなっている。そんな状況からか、名演はアッカルド/デュトワ盤以来、登場していなかったが、ここ数年で面白い2枚がリリースされている。
庄司紗矢香とヒラリー・ハーンの録音だ。庄司の録音はドイツ・グラモフォンからのデビュー盤だ。パガニーニ国際コンクールに史上最年少で優勝した翌年に、名匠ズービン・メータのサポートで実現した録音は、若くして技術的成熟に達した庄司の音楽的成熟の第一歩となる記念碑的な名盤といえる。とにかく17歳にして繰り広げる、説得力と洞察力に感嘆する演奏だ。
ハーンの録音もまた凄い。この演奏には音楽的成熟の過程にあるハーンの「余裕」に満ち溢れた録音で、彼女の録音当時にできうる限りのパフォーマンスを存分に披露してくれている。ただ、この録音の難点はオーケストラにある。推進力のあまり感じられない重厚な演奏となってしまっており、ソロとのアンバランスさに耳を覆いたくなり事がしばしば・・・。旧き良きドイツ的な響きをこよなく愛する方には、こちらの演奏をお薦めするが、個人的には残念でならない。
【推奨盤】

ズービン・メータ/庄司紗矢香(Vn)/イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団[2000年7月録音]
【DG:UCCG-1020】
【推奨盤】

大植英次/ヒラリー・ハーン(Vn)/スウェーデン放送交響楽団[2006年2月録音]
【DG:00289 477 6232(輸)】